【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅴ-②分科会 温暖化防止とクリーンエネルギー

市民への環境保全活動拡大の取り組み
~緑のカーテンが地域と地球を救う~

新潟県本部/上越市職員労働組合・副執行委員長 柄澤 幸一
財政部長 水澤 弘光

1. 概 要

 当市では、地球温暖化対策と都市緑化の推進の観点から2007年度にプレハブ庁舎において壁面緑化を試行した。一定の効果があったため、2年目である2008年度に活動を職場及び市民に拡大しようと市の施設への苗配布及び市民への種の配布を行った。

2. 上越市の概況

(1) 位 置
 新潟県の南西部に日本海に面して位置し、北は柏崎市、南は妙高市、長野県飯山市、東は十日町市、西は糸魚川市に隣接している。

(2) 面積・広がり
 東西44.6km、南北44.2km、面積973.32km2の地域である。
 市の中央部には、関川、保倉川等が流れ、この流域に広がる高田平野を取り囲むように、米山山地、東頸城丘陵、関田山脈、南葉山地、西頸城山地などの山々が連なっている。また、海岸線には砂丘が続き、砂丘と平野の間には天然の池沼群が点在している。
 中山間地域や田園地域のほか、市街地にも神社や公園の緑が散在している。このような「みどり」や水辺は動植物の生息・生育環境であるとともに、市民の暮らしの中にうるおいとやすらぎを与えるためにも重要なものであり、人と自然が共生する地域環境を形成する上で不可欠な要素となっている。

(3) 交 通
 古くから交通の要衝として栄え、現在も重要港湾である直江津港や北陸自動車道、上信越自動車道のほか、JR北陸本線、JR信越本線、ほくほく線などがある。さらに、北陸新幹線や上越魚沼地域振興快速道路などのプロジェクトが進行するなど、陸・海の交通ネットワークが整う有数の地方都市である。

(4) 沿 革
 1971年:高田市と直江津市が合併
 2005年:周辺の13町村(安塚町、浦川原村、大島村、牧村、柿崎町、大潟町、頸城村、吉川町、中郷村、板倉町、清里村、三和村、名立町)と合併
 2007年:特例市に移行

(5) 気 象
 気候は、海岸平野部と内陸山間部では多少異なるが、四季の変化がはっきりしており、冬期に降水量が多く快晴日数が少ない典型的な日本海型である。
 冬期は日本海を渡ってくる大陸からの季節風の影響による大量の降雪のため、海岸部を除いた地域は国内有数の豪雪地帯となっている。
 春は晴天の日が多く、夏は8月を中心に暑さが厳しくなる。
 年平均気温は14℃前後であるが、1月から2月の積雪時には氷点下になることもある。過去5年の年間平均降水量は、およそ2,883mm、湿度は76%前後である(いずれも高田観測所(標高13m)観測値による)。


表1 上越市の気象
(注)降雪量、最深積雪は寒候年(前年8月から当年7月の1年間)の観測値

3. 背 景

(1) 上越市における環境行政の展開
 当市は、1996年8月に「みどりの生活快適都市・上越」を将来都市像とした『のびやかJプラン』を市民参加のもと策定した。また、本プランを環境面から実現するため、『環境基本条例』の制定や『省エネ・リサイクル型都市基本構想』を策定するとともに、環境基本条例の理念に基づき、「望ましい環境像」を長期的な視点から設定し、各種の環境施策を市民・事業者・市が一体となって推進するための指針である『環境基本計画』を1998年1月に策定した。
 上越市は、これらの条例・計画などを基に、1998年を『環境行動元年』と位置付けるとともに、1998年2月にISO14001の認証を取得し、環境の保全・改善に関する各般の施策を積極的に推進している。2007年12月に『第5次総合計画』が改定されたことに伴い、基本方針、基本目標を見直し、2008年3月に『第2次環境基本計画』を策定した。


表2 上越市の環境行政の展開(抜粋)
期 間
内     容
1998.1 上越市環境基本計画策定
1998.2 環境ISO14001の認証取得
1998.3 上越市都市景観形成基本計画策定
1998.6 地球環境都市宣言
1998.6~ 「上越市環境大賞」開始
1999.2 「上越市環境行動計画」の策定
1999.4 「上越市緑の少年団」の結成
1999.4~ 「上越市みどりの日フェスティバル」開始
1999~2000 地球環境大使の養成
1999.6 上越市環境情報センターを開設
1999.7 「地球環境学校中ノ俣学習施設」を開校
1999.11 廃食用油をディーゼル車の燃料として使用※H16.10から家畜飼料としてリサイクル
2000.3 「上越市民ごみ憲章」の制定
2000.3 上越市食料・農業・農村基本条例制定
2000.3 上越市緑の基本計画策定
2000.3 上越地域広域行政組合 汚泥リサイクルパーク設置
2000.3~2003.2 風力発電施設の導入(1~3号基)
2000 道路緑化基本計画の策定
2000~ 市民版ISO(エコライフ家庭)の実施
2000 上越市森林整備計画策定
2001.3 上越市緑のネットワーク基本計画(上越市道路緑化基本計画)
2001.3 上越市食料・農業・農村基本計画策定
2001.3 「上越市民みどりの憲章」の制定
2001~ みどりのアドバイザー派遣
2002.4 くわどり市民の森グランドオープン
2003.3 農村環境計画策定(合併前の上越市)
2004.5~ 剪定枝特別収集の実施
2004.7 新市建設計画策定
2004.10~ 上越市環境市民会議の設置
2005.1 周辺13町村と合併
2005.1~ 『あなたの家を地域の木で』推進協議会設立
2005.4 ESCO事業を市役所第1庁舎に導入
2005.7~ 「夏季の軽装運動」、「冬の省エネルギーの取組」の開始
2006.3 「上越市地球温暖化防止実行計画」策定
2006.12~2007.3 「上越市地球温暖化地域環境リーダー」講座の実施
2007.3 上越市総合交通計画策定
2007.4 特例市に移行
2007.4~ 「上越市地球温暖化地域環境リーダー」活動開始
2007.12 上越市第5次総合計画(改定版)策定
2008.3 上越市第2次環境基本計画策定
【出典:上越市第2次環境基本計画(2008.3)】

(2) 職場環境
 私たちの職場は、2005年1月の市町村合併に伴いリースされたプレハブ2階建てである。プレハブはその構造上、外部からの熱を一般の建物に比べ影響を受けやすいとともに、人が歩くことにより振動する。
 振動については、中越地震・中越沖地震直後は余震と勘違し、揺れるたびに不安感を抱いた。
 また、夏の暑さ、冬の寒さは、冷暖房なしには耐えがたいものであった。

第2庁舎外観(壁面緑化前)

(3) その他
 たまたま、組合を通じて知り合った二人が、環境セクションと庁舎管理セクションにいたため、今回取り組めた。お互いに環境を危惧する気持ちは一緒だった。

4. 現 状

(1) 第2庁舎の冷暖房
 第2庁舎はプレハブで6年間のリースのため初期投資額が少ない電気によるエアコンが各階6機、計12機稼動している。

(2) 電気使用量
○電気による空調のため、夏期の冷房及び冬期の暖房に利用される電気使用量は多い。


図1 第2庁舎電気使用量

5. 課 題

(1) 環境行政
① 合併後の市域へのISO14001及び環境に配慮したまちづくりの浸透
② 経年によるマンネリ化
③ 財政難を理由に緑化予算の削減
④ 財政難を理由に市民への補助金削減・廃止し、市民啓発事業への転換
⑤ 環境に関心の高い人の活動は活発になったが、環境に関心のない人の意識が高まらない
⑥ 1990年比市民一人当たりの電気使用量は、1.5倍になっている

(2) 執務環境
① ISO14001及び夏の軽装運動により、室温28℃設定の冷房を行っているが、かなり暑い
② 特に、西日が差し込む2階はさらに劣悪な条件である

6. 解決策

(1) 環境行政
① 職員の環境保全意識を高めるために、実践的な取り組みを行う
② 直接環境のみを目的にせずに、楽しみながら環境保全に取り組む仕組を提供する
③ 夏の軽装運動を市民に浸透させ、市内の夏の冷房使用電気量を削減する

(2) 執務環境
① 遮光スクリーンを設置して西日を防ぐ
② 壁面を緑化し、日差しを遮るとともに緑と青で気分的に涼しくする
③ 屋根の焼付けを防止するため、屋根に雨水をポンプアップして冷やす


7. 実施準備

(1) 事前調査
① 遮光スクリーン
  まずは、暑さのピークをカットするため2階西側の窓に遮光スクリーンを一部設置し、部分的な日射量を削減した。しかし、全体の室温の低下にまで至らなかったので、全体的な取り組みを進めることとなった。
② 壁面緑化
  インターネットホームページで他市町村で実施している壁面緑化の取り組みについて調査、実施上の課題を明らかにする。

(2) 実施に当たっての課題及び対策
① 課題:お金がない→対策:お金を持ち寄る・最初植えてタネを収穫して拡大
② 課題:労力がない→対策:職員がボランティアで実施する

(3) 初年度(2007)実施計画
① 実施方針
 ア 壁面緑化が電気使用量の削減及び地球温暖化対策になることを伝える
 イ 楽しみながら行う
 ウ 参加者全員で情報を共有する
 エ 課題に直面したときはみんなで協力する
 オ 経費がないことと壁面緑化が成功する自信がなかったため、初年度(2007)は試行とし、成功したら他の施設及び市民に拡大する
② 実施内容
 ア 涼しげな空色アサガオと収穫祭を行うためにがうり(ゴーヤー)を植える
 イ 苗を職員ボランティアで植える
 ウ 職員がボランティアで水遣りをする
 エ 収穫したものはみんなで分ける
 オ 反省会を実施する
③ スケジュール


実施内容
6月
網の設置、苗植え、水遣り
7月
水遣り
8月
水遣り
9月
水遣り
10月
撤去、反省会

8. 実施結果

(1) 苗植え
 2007年6月20日(水)ノー残業デーの17時20分から苗植えを実施。予想に反して44人も来てしまったので、一人一苗しか植えられず、あっという間に終ってしまい、気が抜けた。
 参加した職員は概ね楽しんでいただいたようだ。

苗植えの様子

(2) 水遣り
 当番制をとったが、土、日はなかなか苗植えのように集まらずに苦労した。幸い庁舎管理セクションに近所の職員がいたため、ご尽力をいただいた。
 当初、ジョウロで水遣りをしていたが、時間短縮とボランティアからの苦情により、ホースを借用した。しかし、夕方の水遣りではホースに貯まった水がお湯になり、抜くのに大量の水を利用してしまった。

水遣りの様子

(3) 収穫祭
 植えたのが遅かったため、ようやく9月になり、にがうり(ゴーヤー)が結実してきた。この運動を市民に知ってもらうため総合案内で市民に配布した。収穫量が少ないせいもあり市民からお持ち帰りいただいたのは1本であったが、効果は十分あったと感じた。にがうり(ゴーヤー)の収穫も終わりに近づく2007年10月18日に水遣りの労をねぎらうため、収穫祭及び反省会を実施した。市役所の食堂の厨房を借り、ゴーヤーチャンプルーを調理し、試食した。
 それまでの苦労のため、微妙の味であったが美味しかった。

第2庁舎の外観(壁面緑化後)

(4) 撤 去
 にがうり(ゴーヤー)は枯れ始めたが、アサガオは一向に衰える様子がなく、11月に入っても花を咲かせている。
 しかし、当市は降雪地であるため、12月を前に撤去した。

壁面緑化撤去の様子

9. 実施結果及び新たな課題、反省点

(1) 実施結果
 イベント的な苗植えには多くの職員参加が得られたが、日々の水遣りは一部の人間に限定された。
 たまたま入手したヒョウタンは、葉がおいしいようで全て虫に食べられてしまった。
 電気使用量は、下図にあるように、6~9月まで4ヵ月間で一般家庭の13.2ヵ月分(4,400kWh/世帯・年として)、4,841kWhを削減した。
 壁面緑化の結果、室温が低く抑えられたほか、青い花が視覚的な効果により気分的に涼しく感じた。
① 苗植えボランティア参加者数: 44人
② 水遣りボランティア参加者数:約20人
③ にがうり(ゴーヤー)の収穫:約20本
④ タネの採取数
 ア ヘブンリー・ブルー  500粒
 イ スカーレット・オハラ 300粒


表3 高田観測所の気温2006-2007比較表
 
6月
7月
8月
2006平均
21.0
23.4
27.3
2007平均
20.9
22.7
27.2
対前年比
-0.1
-0.7
-0.1
2006最高
31.1
33.1
37.4
2007最高
28.9
30.9
38.0
対前年比
-2.2
-2.2
0.6
2006最低
13.1
16.6
19.8
2007最低
11.5
16.9
17.0
対前年比
-1.6
0.3
-2.8

図2 第2庁舎電気使用量

(2) 新たな課題
① 水遣り当番の苦悩
  水遣りは、暑い夏非常にきつい作業であることを実感した。職員からも何とか水遣りを自動にできないか相談されたが、費用がないのと植物の成長を目の当たりにしながら水をあげる必要性を感じたため、初年度(2007)は、人による水遣りを完遂した。
② 近所の職員の異動
  こうした事業は、属人的な取り組みになりがちである。土日積極的に水遣りをしていただいた職員が2008年春に異動してしまった。
③ ツルの有効活用
  壁面緑化を撤去後、ネットに絡んだツルは焼却処分した。二酸化炭素を固定して、焼却時に二酸化炭素を排出させてしまった。少しでも温室効果ガスの排出量を抑制するため、ツルを使った工作など有効活用ができないか検討したい。

(3) 反省点
① 遅すぎた苗植え
  盛夏に葉が2階まで達しなかったのは、6月20日という日があまりにも遅すぎたのではないかと思っている。もう少し早く植えれば、暑い夏に涼しげな様子が見られるのではないかと思う。→2年目(2008年度)は6月11日に実施
② 早すぎたタネの収穫
  作業環境を考え、降雪前の作業となり作業環境は快適であったが、開花しているツルを撤去するのは気が引けた。もう少し遅らせれば、更にタネを採取できたのではないかと残念である。
  しかし、念のため青いままのタネを保存したが、未成熟で利用できないことが後から分かった。無駄な作業を行ってしまった。
③ 初年度は何もかもが手探りであった
  何も分からないまま、のりで実施してしまったため、作業効率が悪かった。一歩進んで二歩下がるような感じだったが、仲間と試行錯誤しながら実施することにより仲間意識が高まった。

10. 2年目(2008年度)の計画

 計画の2年目はステップの年である。初年度の反省を生かし、周辺の職員、市民に拡大する。
 初年度(2007)に収穫したタネを市民に配り、初年度(2007)に収穫したタネを苗にし、他の施設に配布する。
 その他、第2庁舎の壁面緑化は以下のような変更を行った。
① 苗数の適正化(1つのプランターに苗を3→2株)
② 2007年度採取タネの有効活用
③ 自動灌水機の設置
④ 市の施設への苗配布
⑤ 市民へのタネの配布
⑥ ニガウリからヘチマへの変更

11. 2年目(2008年度)実施上の課題

(1) 元気な苗が困難に
 初年度(2007)に購入した苗の販売店が昨年同様の苗を入手できなくなり、非常に弱々しい苗を植えることになった。成長はこれからであるが、苗の数を減らしたこともあり、昨年のように成功するか心配である。

(2) 自動灌水機設置と自然への思いの葛藤
 初年度(2007)水遣りに苦労したことから、自動灌水機を設置した。しかし、機器的なトラブルの発生と成長を目の当たりにする機会の減少が顕在化した。今後の推移を見守りつつ、水道使用量などを勘案し、来年度の見直しを検討する。

(3) 予想に反して好反響の施設への苗の配布
 市の施設には苗を配布することとした。当初300株くらい作れば十分かと思ったが、反響が大きく、多くの参加者を得ることができた。

12. 2年目(2008年度)の途中経過

① 市民へのタネの配布:41人、456粒(2008/06/30現在)
② 施設への苗の配布 :39施設、642苗(希望)(2008/06/30現在)
③ 試行錯誤の初年度と異なり、拡大発展が容易

13. 今後の発展方向

(1) 雨水タンクの設置、雨水利用
 上水道を利用し水遣りしていることから、さらに環境に配慮し雨水を確保できる方策を検討し、水の使用も抑えたい。

(2) 苗の増産体制の確立
 2年目(2008年度)に初めて、タネから苗の量産を図ったが、意外に簡単であったので、事前に希望を聞くなどして、タイムリーに苗を提供していきたい。

(3) 各施設で採取したタネの更なる拡大策の検討
 今年度配布した苗からタネを採取し、"命のアサガオ"ならぬ"壁面緑化のアサガオ"を拡大していきたい。
 当市の夏が空色アサガオで埋め尽くされ、電気代を節約し、市民が心身ともに豊かな生活をすごせる日を願っている。

14. まとめ

(1) 職場環境改善
 今回取り組んでみて、多くの職員参加及び取り組みにおける職員間の多くのコミュニケーションがあったことから、現在の職場が精神的に職員を圧迫する状況にあることが分かった。また、2人1組の水遣りパートナー、緑や花という目に見える成果が職員に与えた精神的な効果は高いことが分かった。

(2) プロセス優先の二酸化炭素排出抑制
 今年は、京都議定書約束期間の1年目であり、地球温暖化サミットとも言われる洞爺湖サミットが開催され、地球温暖化対策に注目が集まっている。今回の庁舎壁面緑化の取り組みは莫大な量の二酸化炭素の排出を抑制できないものの、昔から行ってきた自然の力を借りることが有効であることを証明できた取り組みであった。
 ボタン一つで快適な環境を手に入れることに慣れた職員に手間を強いることで、手間が面白く、手間をかけて日々植物の成長を見ることで手間の有用性を実感できたのではないかと思う。これまで快適性・利便性の向上を目指し、手間を省くことでエネルギーの使用量を増大させ、二酸化炭素の排出量を拡大し続けてきた。今回の取り組みを通じて、スローライフなど手間がかかることを楽しみ、手間のかかる低炭素社会も良いと感じるところまで到達し、地方都市にも光が当たるようになるよう取り組みを継続し、全市に拡大していきたい。

本稿を作成するに当たり、壁面緑化へ協力いただいた市民及び組合員に甚大なる感謝の意を述べる