1. 原子力偏重の京都議定書目標達成計画
京都議定書の約束期間(2008~2012年)が始まり、地球温暖化対策は待ったなしである。わが国は1990年比マイナス6%の削減が義務付けられているが、石炭火力の増設や自然エネルギーの伸び悩みなどの結果、逆に6.2%の増加(2006年度)となっている。本年3月には、2005年4月に閣議決定された「京都議定書目標達成計画」が全部改定された。
閣議決定に先立ちまとめられた産業構造審議会・中央環境審議会合同会合の最終報告では、現行対策のみでは2,200~3,600万tCO2の不足が見込まれるものの、今後、各部門において、各主体が、現行対策に加え、追加された対策・施策に全力で取り組むことにより、京都議定書の6%目標は達成し得るとしている。
しかし、目標達成計画は、各省庁の既存施策の寄せ集めの感が強く、炭素税や後に福田ビジョン(6月5日公表)で試行が打ち出された排出権取引についても「総合的に検討していくべき課題」とされているのみで、強力な削減のための政策は何も打ち出されていない。産業界の自主行動計画に依存している点は、全部改定によっても変わらなかった。このため、削減の内訳は、国内での温室効果ガスの排出削減はわずか-1.8~-0.8%にとどまり、残りは森林吸収や京都メカニズム(国外からの調達)に依存している(表1)。京都議定書の議長国である日本は、多量排出国としての責務を果たそうとしていない。
目標達成計画では、我が国の温室効果ガスの排出量の9割程度を占めるエネルギー起源二酸化炭素の対策の基本的考え方の一つに「エネルギー転換部門における二酸化炭素排出原単位の改善を図るため、原子力発電の推進や新エネルギーの導入等を着実に進める。」と記載されている。また、エネルギーごとの対策の項では「原子力発電の一層の活用を図るとともに、基幹電源として官民相協力して着実に推進する。その推進に当たっては、供給安定性等に優れているという原子力発電の特性を一層改善する観点から、国内における核燃料サイクルの確立を国の基本的な考え方として着実に進めていく」と、相も変らぬ原子力偏重である。
目標達成計画は、電気事業連合会の自主行動計画である「環境行動計画」の目標(2008~2012年度における使用端二酸化炭素排出原単位を1990年度実績から平均で20%程度低減)を引き写しているに過ぎないので、排出原単位削減には原発の設備利用率83%が前提となっている。しかし、柏崎刈羽原発の中越沖地震被災により設備利用率は2007年度に60.7%まで落ち込んでおり、83%もの高稼働率が実現不可能であることは実績(図1)から見て明らかである。目標達成計画はその前提が既に崩れていることになる。
国は稼働率向上のため、13ヶ月以内に義務付けられている定期検査の間隔を最長24ヶ月まで延長し長期運転を可能にする新制度の導入を狙っている。年内にも電気事業法の省令が改正される見通しで、最初の5年間は最長18ヶ月とされている。国内の原発は老朽炉が多くなっており、配管の減肉が見過ごされ作業員11人が死傷した美浜3号炉事故のような重大事故の再発を招く恐れがある。
原子力偏重の国の政策は、エネルギー開発予算の過半を原子力が占めるなど(図2)温暖化対策に影を落としている。そもそもウラン採掘、精練、転換、濃縮、輸送、原発建設、廃棄物の処理・管理などライフサイクル全体で考えたときに本当に原発のCO2排出は少ないのかという疑問は解消されていない。また、目標達成計画では原子力を安定供給性に優れているとしているが、実際は事故や不祥事によるいっせい停止の危険性をはらんでいる。また、原発は出力調整ができないためベースロードの電源にしかならないため、原発を1基増設すれば火力発電所も2~3基必要となる。原発と共に火力発電所も増設され、CO2排出は増えると予想される。将来の低炭素社会の実現のためには、総エネルギー消費の削減が不可欠であるが、大規模・集中型で出力調整の効かない原子力の推進はエネルギー浪費構造の延命につながるだけである。
気候変動枠組み条約第13回締約国会議(COP13バリ会議)などの場で、日本は、中国等への原発輸出を念頭において「クリーン開発メカニズム(CDM)」に原子力を加えるよう主張している。2001年の締約国会議で採択された「マラケシュ合意」で、現約束期間(2008~2012年)については原発を認めないことで各国が一致しているが、「ポスト京都」をめぐる議論で日本の不当な主張が通ることのないように監視が必要である。
2. 自然エネルギーを促進する電力調達を!
一方の自然エネルギーが伸び悩んでいる理由も、政策の問題である。電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法(通称「RPS法」)は、電力会社に自然エネルギー発電枠を割当てているが、その目標は2010年で全電力供給量の1.35%と低すぎるものとなっている。このため自然エネルギー発電に伴って発行されるグリーン電力証書もこれまでは低価格で推移し、効果は十分ではない。自然エネルギーの固定価格での買い取りを電力会社に義務付ける方式で成功を収めたドイツを見習い、制度を根本的に見直すべきである。
筆者が全国自治研沖縄集会に提出したレポート「脱原発社会実現のために自治労運動のできることとは」において、電力小売自由化を利用した庁舎の電力購入の入札の際に価格のみで落札業者を決めるのではなく、環境配慮の条件を付すよう対当局要求を行った自治労大阪府職の取り組みを紹介した。東京都は2004年10月公表という早い時期から「購入する電力の5%をグリーン電力で供給すること」という条件をつけていた。レポートでは「同様の取り組みを目指すことは全国的な運動になりうる」と問題提起をしている。
ところが、この分野でも水を差す法律ができてしまった。2007年通常国会で自公民3党の共同議員提案で成立した「国等における温室効果ガス等の排出の削減に配慮した契約の推進に関する法律」(環境配慮契約法)である。環境配慮契約法は国などが契約方法の工夫で温室効果ガス等の排出削減に配慮した契約を推進するとし、基本方針で電力調達、自動車購入、ESCO事業、建築設計の4分野で取り組むとされている。ところが、電力調達では、単位発電量当たりのCO2排出量が一定以下であることを事業者の入札資格とし、その中で価格の安い事業者が落札する「すそ切り方式」を「当分の間」採用するとされてしまった。地球温暖化対策推進法に基づき環境省と経済産業省から公表されているCO2排出原単位は、石炭火力発電の比率が高い中国電力や沖縄電力が0.555kg/kWを超えているのに対し、原発の比率が高い関西電力は0.338 kg/kW になっている。ちなみに「特定規模電気事業者」(PPS事業者)は、0.289~0.507kg/kWであった。(2006年度の結果)原単位「すそ切り方式」は原発推進に加担するだけであり、グリーン電力証書の普及促進効果は期待できない。グリーン電力調達量など環境面の得点と価格の両面から評価する「総合評価方式」に早期に移行することが必要である。
ちなみに私たちの要求を受けた大阪府は、環境配慮契約法の施行も踏まえ2008年度の電力調達から環境配慮契約の制度を取り入れた。大阪府の方式は「すそきり方式」ではあるが、CO2排出原単位だけでなく、未利用エネルギーの活用やグリーン電力証書の購入にも評価点を与えている。(表2、3)
3. 市町村の財政問題としての核廃棄物処分場
地球環境の将来を考えるときに、CO2だけでなく、原発の永久に管理しなければならない核廃棄物の問題は避けて通れない。原子力立国計画(2006年8月)では、高レベル処分場の立地に関し「今後1、2年間が正念場」と書かれ、交付金の増額などの措置が取られた結果、高知県東洋町長が民意を無視して公募に応じたが、町民の反対運動で辞職、出直し選挙での惨敗という経過をたどり撤回された。
これまで誘致の動きがあった他の地域も財政危機を理由とした交付金目当てであった。象徴的な事例としては、財政破綻をした夕張市の商工会議所が、本年6月、市と議会に高レベル処分場を含む6施設の誘致を検討するよう求める提言書を提出している。処分場については、幸い市長が拒否したことから大事には至っていない。
映画「六ヶ所村ラプソディー」では、原子力委員を務める班目春樹東大教授が「処分場は金を5倍、10倍と積めばどこかが落ちる」との発言をしている。吉野恭司資源エネルギー庁放射性廃棄物等対策室長(当時)も、韓国で中低レベル放射性廃棄物の処分場の立地が3,000億ウォン(約380億円)という法外な地域支援金によって慶州市に決定したことを例に挙げ「ぜひ見習っていかなくてはいけない。」と2006年10月の「放射性廃棄物シンポジウム」で発言している。
しかし、このような金で落とす政策が不当であることは言うまでもない。県内の津野町と東洋町が狙われた橋本大二郎高知県知事(当時)は、自身のブログに「札束で頬を叩くな」と題して次のように書いている。「地方交付税の削減などを通じて、地方を財政的にとことん追いつめた上に、弱り果てた自治体に交付金をばらまいて、地域に大きな溝を作っていくという、この国のやり方を見ていますと、もう少し誇りを持った原子力政策が進められないのかと、哀れさと強い怒りを禁じ得ません。」高レベル処分場の問題は、市町村の財政問題なのである。
4. 10年で漏れ出す処分場の放射能
高レベル処分場の安全性を考える上で大きな制度改正が行われた。TRU廃棄物の併置処分である。TRU廃棄物とは、半減期が長い超ウラン元素(ネプツニウム、プルトニウム、アメリシウム、キュリウムなど)を含む廃棄物で、再処理工程で切断された使用済み燃料のさや管や両端の押さえ金具などが該当する。六ヶ所再処理工場の営業運転入りを目指す国は、条件整備の一つとして高レベル処分法を改正し、再処理工場から排出されるTRU廃棄物を高レベル廃棄物と同じ処分場への併置処分を制度化した。
処分の実施主体である原子力発電環境整備機構は本年4月2日から①高レベル廃棄物のみ、②TRU廃棄物のみ、③高レベル廃棄物とTRU廃棄物両方の3通りの応募を開始し、5月9日に全国の市町村にパンフレットを送付している。ちなみに調査の第1段階である文献調査期間中の交付金は高レベル廃棄物が年間10億円であるのに対し、TRU廃棄物のみであれば年間1億4千万円。併置処分するかどうかはオプションになっているが、TRU廃棄物単独では推進派にメリットはない。彼らは、高レベル廃棄物の受入を許すような地域が出てくれば、検討の過程でTRU廃棄物の併置処分を受け入れてくれるだろうと考えているようだ。
ところが、TRU廃棄物には水溶性で長寿命の放射性ヨウ素129が含まれているため、放射能が地下水により地表に漏れ出して約10年後には人が被曝し始めると、日本原子力研究開発機構と電気事業連合会により評価されている。高レベルガラス固化体の場合、被曝は1万年後とされていたので大きな違いである。TRU廃棄物は、最大被曝予想量も高レベルの約400倍となっている(図3)。繰り返すが、処分を推進している原子力機構等の評価である。私は、この危険性を地域でしっかり訴えれば、交付金に釣られる誘致の動きを必ず止めることができると考える。
市町村を対象とした公募で候補地を決めようとする方式は、国の申し入れを併用することとなったが、いずれにしても自治体のあり方そのものを問うものである。拒否宣言を全自治体から引き出している岡山の運動に学んで、今後とも自治労運動での取り組みが重要である。
5. 脱原発の課題での自治労の役割
脱原発の運動は、原水禁、平和フォーラムに結集して取り組むことになるが、原子力防災の課題など、自治労でないとできない問題提起があると考える。前回自治研集会に提出したレポート「脱原発社会実現のために自治労運動のできることとは」は、そのことを訴えたものであった。
原子力防災については、自治労は、地域住民の生命財産を守る自治体の政策課題としてとらえ、JCO臨界事故の後に原子力防災ハンドブックを発行するなどの取り組みを進めてきた。柏崎刈羽原発を襲った中越沖地震は、地震と原子力事故の重なる原発震災の恐ろしさを改めて示したが、自治労はそこから防災の課題をどれだけ問題提起できているだろうか。私は、自治労脱原発ネットワークの運営委員兼アドバイザーの任を与えられているが、率直に反省せざるを得ない。地域の抱える課題を共有し、議論する場としての脱原発ネットワークの再活性化に向けて努力していきたい。 |