【要請レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅴ-②分科会 温暖化防止とクリーンエネルギー

北広島町のエコプロジェクト


広島県本部/北広島町職員労働組合 沼田 真路

1. はじめに

 温暖化に伴い世界各地で多様な災害が多発する昨今において、温室効果ガス削減に向けた対策は活発化している反面、とりわけ自動車燃料の環境負荷低減の諸策は、新たな問題を引き起こしています。それは、バイオエタノール生産の急増によってもたらされる食料価格の高騰です。周知のようにバイオエタノールの原料は主にトウモロコシです。近年では価格が急騰しており、大豆や小麦の生産者が収益性の高いトウモロコシ栽培に転換し、その結果大豆、小麦の供給不足が深刻化し我々の生活にも大きな悪影響を与えています。その他にも畜産飼料向けに栽培されていたトウモロコシもバイオエタノール向けに栽培される傾向にあり、畜産系農産物の高騰もやがて間違いなく訪れることは想像に難くありません。つまり、現代における我々の生活は、中国やインドの人口大国の経済成長に伴う原油価格の高騰と温暖化抑止の取り組みがもたらすダブルショックの真っ直中にいるのです。
 ところで、バイオエタノールはガソリン系で用いられ、バイオディーゼルは軽油の代替燃料として位置付けられています。わが国におけるバイオディーゼルの生産方法の特徴は、欧米と異なり廃食油を用いて生産されるのが一般的であるため、一度食料として用いられている点にあります。このことは、資源の乏しいわが国のエネルギー事情からも極めて有用であると言え、各地で市民レベルでの廃食油回収活動からバイオディーゼルの生産が実施されています。
 本町においては、NPOが主体となってバイオディーゼルの生産を行っています。すでに、市民活動によるバイオディーゼル生産については幾多の事例報告がなされているため、本稿では割愛しますが、最近では全国的にその活動が停滞傾向にあると言って良いと思います。それはバイオディーゼルが普遍化したのではなく、逆に利用が促進されないことにあります。そこで、本稿ではその停滞傾向を打開するために努力を続ける北広島町の住民活動の実態を事例として取り上げ、住民主体によるバイオディーゼル生産の課題に対する次のステップについて報告します。

地域住民の寄付により購入された装置

2. 実施主体の概要と活動における課題

(1) 実施主体の概要
 北広島町におけるバイオディーゼルの生産・販売主体はNPO法人いーねおおあさ(INE OASA)が2000年から展開しています。設立の目的は地域の活性化が基幹にあり、過疎化・高齢化に伴い、ガソリンスタンドの閉鎖を危惧し、特に広範囲の移動が困難な農業機械の燃料を地元で確保する方法を模索することに端を発しています。
 この団体に属する会員は24人、その内行政職員も4人参画し、他にも多様な職種から構成されているのが特徴です。主な業務は廃食油の回収活動とバイオディーゼルの生産・販売の他に、食用油の原料となる菜種栽培を設立当初から一貫して継続させています。燃料の転換装置は住民に寄付を募り購入した経緯があり、多くのBDF取り組み団体が自治体主導により精製装置を整備していますが、この手法は全国的にも珍しい事例となっています。

(2) 活動における課題
① 組織的課題
 この活動の類は、資金的に非常に厳しく、現在でも会員からの会費(2,000円/月)が貴重な収入源となっています。活動全体を見渡しても、収益性の乏しい菜種栽培と価格面で軽油に劣るバイオディーゼルの生産に限られており、目立った収入はこれといってないのが現状でした。
 そして、動ける人材が少なく、現在でもごく一部の会員が自らの業務の合間を縫って活動を実施していのが現状です。また、近年ではその人材の固定化が顕著となり、一部の会員に負担が偏っています。このことは活動の発展性に欠け、持続的な展開がなされているとは言えない状況にあると言えます。
② バイオディーゼルの生産課題
・バイオディーゼル生産活動の阻害条件
 バイオディーゼルの利活用が促進されない原因を整理すると、①バイオディーゼルは先にも述べたように廃食油を原料とするケースが多いことです。つまり原料の収集とバイオディーゼルの生産・販売がその活動の主となり、住民活動レベルでは手に負えないほど多岐にわたっています。②軽油引取税により販売価格が軽油より割高になります。③原料が廃食油という点から、各所で異なる使用方法によって出されるため原料の品質が異なり、それは精製したBDFにも影響し、この燃料を使用した車両のトラブルにもつながっています。もっともこのトラブルの原因は使用者が誤った方法で使用したケースもありましたが、第三者的には「燃料が粗悪」というイメージがつき、風評被害によってますますその販売量は減少してしまっているのです。いずれにしてもトラブルのない高品質な燃料の供給は欠かせません。そのためには設備の充実が求められますが、その資金が確保できず導入は見送られたままとなっています。そして、最後に④導入後7年が経過した燃料転換装置の寿命が迫ってきていることから、何らかの措置を施さなければならない状況にあります。
 このように、この活動は満身創痍の状況にあり、会員の弛まぬ努力と熱意によって継続が図られています。しかし、上述のように「想い」だけではクリアできない多くの課題を抱えているため、課題解消に向けた対応は早急になされなければならなりません。では、次にこれらの課題に対しての取り組みの経緯を説明します。

有価資源回収の様子

3. 課題に対する取り組み

(1) 廃食油回収方法の改善
 廃食油の回収方法はこれまで、集落の集会所に設置した回収タンクに各自がそれに移し、それを会員が1か月に1回、ほとんどの集落を巡回して回収していました。この活動の知名度が高まるに連れて回収箇所も増加し、早朝から日が暮れても尚作業が続くようになり、これ以上の回収活動は人材及び費用面で限界に来ていました。そこで、回収方法を改善し住民に指定した一箇所に持ち寄ってもらうという方法が模索されました。しかし、廃食油のみをわざわざ住民が輸送するとは考え難く、その方法の実施は暗礁に乗り上げていました。そのなかで、継続的に多方面との協議を重ね、産業廃棄物処理業者の提案から一筋の光が差し込みました。それは、様々な新聞紙や雑誌、不要になった家電製品などの有価資源を回収し、一緒に廃食油も運ぶ方法です。しかし、これだけでは期待するほどの回収は見込まれませんが、この方法の最大の特徴は、回収した有価資源の対価が集落に還元されるところにあります。これが功を奏し、現在では集落を巡回する回収は行われていません。大朝地域では、毎月第1日曜日を一斉清掃日として定め、地域住民が道路や河川の清掃を行っています。その日を月1度の資源回収日として定め、会員の業務は、持ち込まれる資源の受付を行う程度となり、作業時間も12時間から4時間程度にまで減少しました。その有価資源の回収場所及びストックヤードは、町が県から払い下げを受けた施設で、町とNPOとの間で無償貸借契約を締結し活用されています。
 この有価資源回収の試みによって、独り暮らしの高齢者の家などには同集落の住民伺い回収を手伝うようになり、住民間のコミュニケーションも増加したように感じられます。それまでは、独り暮らしの高齢者たちは、事業者などに連絡し、廃品として引き取りを依頼していましたが、現在では資源として活用されるだけでなく、コミュニティ機能が強化されたことは特筆すべき点であるといえます。

4. 資金的課題の解消に向けた地域経済に直結する取り組み

(1) 農産物のブランド化への試み
 前節まで述べた、バイオディーゼルに関連する幾つかの取り組みにおいては、生産コストの削減と普及啓発が中心となっていました。この努力により生産量は増加傾向にあるものの、実質的な地域経済、つまり住民が経済的に豊かになるという、そのきっかけ作りまでには至っていません。冒頭でも述べたように、この活動は地域の活性化を主たる目的に位置付けたものであり、この目的の達成は困難であろうとも、それに近づけるための努力はなされなければなりません。
菜の花を鋤き込み緑肥としてし、減化学肥料・減農薬により、安全・安心・おいしいお米づくりを推進
 そこで、この取り組みでは一度原点に立ち返り地域の基幹産業である農業の底上げを図るための策を講じました。元来から農業機械にバイオディーゼルを普及させるべく宣伝活動は実施していましたが、これだけでは農業所得の向上に直接寄与するとは言い難く、その先の「何か」を模索しました。そこで、注目した新たな一手は菜種を種子の採取にこだわらず、緑肥として用いる手法でした。菜種とイネを交互に栽培するこの方法を考案し、3年間の試行錯誤の末にようやく一定の成果が現れるようになりました。その間には、緑肥となるあらゆる菜種の品種を栽培し、地域に適した品種を見つけ出したことや、販売面でも農家自らが販売する資質を学ぶなど、一般農家にはまず見られない努力を重ね、ようやく辿り着いた折り返し地点です。
 その成果として、2007年11月山形県庄内町で開催された米の全国の品評会において、第3位に相当する順位を獲得することができました。その他にも菜の花の緑肥を用いることで減化学肥料、そして土壌の質が変化し減農薬にもつながっています。菜の花の作付けにより作業工程は増えたものの作業コストが削減されました。消費者に対しても、菜の花の緑肥を使用した安心・安全、そしておいしいコメとして、農家は自信を持って販売しています。
 菜の花の緑肥を使用し、農耕用機械にはバイオディーゼル燃料を使用するなど一定の作付け方法・基準を決め栽培されたコメをブランド名「ぴゅあ菜米」としてNPO法人が商標登録し、インターネットや産直施設で販売しています。徐々にではありますが、コンスタントに販売できるまでに成長を遂げています。
 この「ぴゅあ菜米」というブランド名を明記するためには、コメの栽培と共に収穫用菜種も合わせて栽培することを条件としています。農家の所得を向上させるためにはコンセプトに固執せず、農家に気持ちよく仕事をしてもらい、そのついでにコンセプトに付き合ってもらう方法が持続面から見ても望ましい姿であるといえます。
 この優良事例は、元々実践していた地域活動を応用しまちづくりのキーワードを代えることなく、上手くそれを活用した事に起因します。

商標登録されたロゴと名称

(2) ブランドの保護
 ブランド力は知名度が全てです。ちょっとした何かのきっかけで爆発的に商品が売れるのはよく耳にする話です。この「ぴゅあ菜米」も当然その要素を多分に含んだ商品であり、その理由として、品質が良いことは品評会の成績が示した通りですが、その他にも菜の花というきれいなイメージが商品名と一致し、そして、栽培方法が独創的で注目を浴びやすい点にあります。
 このような商品はとかく類似品が発生しやすく、多分に漏れずぴゅあ菜米も類似品が早くも発生しています。この対応には、知的財産の保護の観点から、まず「ぴゅあ菜米」を商標登録し、その商品価値を損なわないように未然に対応しています。

(3) 多様な参画による目的の達成
 農村の限られたコミュニティの中では、このような一定の成果が出せることは希薄です。この優良事例の陰には今後、農村振興のトレンドとなるであろう外部からの多様な主体の参画があったことも重要な要素でした。
 営農指導を行いことのできる研究員やマーケティングに明るい方等との交流から参画という一つの流れが大きな要因でした。つまりは、今後活発に展開されると予想される国の施策を、すでに3年前からこの地域で実践していたことになります。地域振興の分野において使い古された感のある「交流」という言葉は、これまでとは異なる衣を纏って地域経済に貢献する真意の「交流」がもたらした結果であるといえます。

5. 地域経済の発展のためのキーワード

 これまで述べた事例を元に、実質的な成果を見出す地域振興手法について考察を咥えると、1点目にコンセプトを大切に保持し、それを活用した方法で実践してきたこと。2点目にコンセプトの応用を図るため、その性格を広い視点で捉え実施主体が寛容な態度を示したこと。3点目にその生産活動に関心を寄せる多様な主体を受け入れたこと。最後に4点目として住民が主体性を発揮し継続する熱意をもち、またそれを支える住民が将来を悲観的に捉えず明るい表情でいることです。
 過疎高齢化による地域の衰退を危惧し、その地域振興の手法を地域で資源を賄おうとするローカルエネルギーの発想は、わが国の小さな農村で展開する小さな活動かもしれませんが、その矛先は温暖化に起因する世界的に深刻さを増す極めて大きな問題に直結しています。バイオディーゼルの生産活動は注目度が減る中で持続させ、常に改良を加えながら実践する住民の活力は大いに評価されるべきであると考えます。