【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅴ-②分科会 温暖化防止とクリーンエネルギー

公営企業の意義、企業理念、行動指針から
松江市ガス事業の役割を再考する

島根県本部/松江市職員ユニオン・ガス支部

1. はじめに

 松江市における都市ガス事業の歴史は、1912年に関西ガス㈱が創業したことに始まる。しかし、当時のガス原料として使われていた石炭の原料高騰などの理由により、同社が1918年にガス事業から撤退したことから、「市民が都市ガスを利用ができない時期」もあった。
 その後、市民から薪に変る燃料としてガス需要の高まりを受け、松江市は「市民の日常に関係ある事業は市営を持ってするのが最も妥当」との判断から、1930年に公営ガス事業として都市ガスの供給が再開されている。
※ 1930年創業時のガス供給件数は、1,447件

 これ以降は、上下水道などの都市基盤整備事業にあわせてガス導管の敷設が進んだことで、急速に都市ガスは普及した。また、1960年には付帯事業として液化石油ガス(LPガス)事業も開始された。そして、2004年には都市ガス原料の切り替え作業が全ての供給区域で完了したことで、それまでの石油系の原料から、化石燃料で最も地球環境にやさしいクリーンエネルギーである天然ガスが供給されている。
 松江市で公営ガス事業が開始されて78年が経過した今では、2008年3月現在で市街地を中心に都市ガスは15,098件、液化石油ガス(LPガス)は2,856件のお客さまにガスの供給がされており、ガスエネルギーは市民生活に欠かせないライフラインとして、地域住民の生活向上に大きく寄与していると言えるだろう。
 しかしながら、現在の松江市のガス事業を取り巻く経営環境は、規制緩和の影響によるエネルギー間競争の激化や原料の高騰などの理由から年々厳しさを増している。
 日々変化する経営環境に適切に対応していき、健全な経営状態にしていくためには、事業管理者による経営的な判断もさることながら、公営ガス事業に携わる私たち職員の一人ひとりの意志が一定の方向に向かうことが基本であり、これが今後の公営ガス事業の経営改善にとって最も重要なことであると考える。
 そこで、基本に立ち返って今一度この方向性について考えるにあたり、「公営企業の存在意義」、また、松江市ガス事業を経営する松江市ガス局の存在価値を示すであろう「企業理念」、そして、これに基づく「行動指針」について再考することで、松江市における公営ガス事業が果たさなければならない役割を再認識するきっかけとしたいと思う。

2. 公営企業とは……

 公営企業とは、地方公共団体が住民の福祉の増進を目的として経営する企業である。そして、これに適用される法律は「地方公営企業法」であり、この中において事業規模の大小に関係なく、全部が適用される公営企業として以下の7事業が定められている。

【法定公営事業】
 水道事業(簡易水道を除く)/工業用水事業/軌道事業/自動車輸送事業/鉄道事業/電気事業/ガス事業

 これらから分かるように、事業内容は非常に公益性が高いものであると同時に、資本を投下した後、経済取引を継続して行う企業性も持ち合わせている。
 また、この「地方公営企業法」の中において、公営企業の経営の基本原則が以下のとおり規定されている。

【経営の基本原則】 ※ 地方公営企業法 第3条
 地方公営企業は、常に企業の経済性を発揮するとともに、その本来の目的である公共の福祉を増進するように運営されなければならない。

 これらのことから、松江市ガス事業は地方公共団体である松江市が経営する企業であること、そして、地方公共団体が経営することから営利を追求するだけの事業ではなく、公共の福祉を増進することが本来の目的となっていることが分かる。
 しかし、一方では都市ガス事業を行うためには多額の設備投資などを必要とするため、ガスの供給を安定して継続するためには、企業の経済性を十分に発揮して健全な経営を行い、独立採算性を維持しなければならない事は言うまででもなく、公営企業を経営する上で基本となる経営原則には、一見すると相反するように思われる経済性の発揮公共の福祉が謳われている。
  しかしながら、企業経営に伴う租税が免除される公営事業により、合理的かつ能率的な経営がされ経済性が十分に発揮できれば、経営努力の成果を料金原価主義による料金設定に反映することが可能である。そして、市民に低廉な料金でガスを提供できれば、公共の福祉に十分に値するであろう。



3. 松江市ガス局の企業理念とその意義について

 はじめに述べたように、企業理念はその企業体の基本的な考え方であり、企業の存在価値を示すものであると同時に、職員や取引先など内外に対して企業活動の方向性や姿勢を示す指針でもある。しかし、いくら理念を掲げたとしても単なるお題目になっては意味がなく、大切なことは明文化されたこの企業理念に込められた、価値観や思想、考え方をより多くの職員の共有認識事項にして、企業風土として定着させることであるだろう。
 松江市のガス事業を継続していく上で進むべき方向性が示された企業理念は、都市ガス原料を変更した後の変革期にあたる2005年に制定され、以来、職員への意識の浸透を目的に全員参加の朝礼において唱和されている。
 この理念(目標)の実現のためには、松江市におけるガスエネルギー事業者として、私たちがお客さま(市民)に提供できうるサービスを充実させ、快適な暮らしづくりを積極的に提案すること、そして、クリーンエネルギーである天然ガスを普及促進させることが基本になると考える。



4. 松江市ガス局の行動指針とその意義について

 この企業理念に基づき、私たちはどのような考えで、職務に取り組むべきであるのか。それを定めたものが、企業理念と共に定められた7つの行動指針である。



 現在のガスエネルギーは調理や給湯、暖房、また、発電などにも使用されており、市民生活において欠かすことのできないエネルギーとなっている。
 私たちは、このことを十分に認識すると共に、水道事業や電気事業などと同様の公益事業であるガス事業に携わる者としての社会的責任の大きさを常に意識していなければならない。
 そして、ガスをお客さまに安心してご利用いただくこと、また、ガスを安定してお届けすることが、公営ガス事業の根幹であることを常に自覚し、一層の保安レベルの向上に努めることで、お客さまの安全・安心を追求し続けなければならない。


 ガス事業として供給している都市ガスは、一般的にガスの供給区域が定められており、お客さまは都市ガス会社を自由に選ぶことができない。だからこそ、他のいかなる業種にも増して、私たちは地域やお客さまに感謝と誠意をこめて対応し、お客さまの都市ガス事業に対する信頼を深めることが重要となる。その為に全ての業務の遂行にあたっては、お客さま第一主義であること。そして、お客さまのニーズを的確に把握すると共に、できる限り迅速に対応しなければならない。


 お客さまの信頼を得るためには、いつでもお客さまに喜んで都市ガスを選択して頂けるよう、常に基本に忠実な仕事に心がけると共に、お客さまに誠意をもって対応することが大切である。
 そのために私たちは、お客さまの問題解決のお手伝いができ、お客さまの良きパートナーになれるよう、日頃からこれらに関する知識の習得や技術訓練にたいして、努力を惜しんではならない。


 ガスに関する事故は、決してあってはならないことであるが、万が一、事故が発生した場合は、ガスを供給するものの基本的な責任として原因を徹底的に追究すると共に再び同様の事故が起こらないように、できうる限りの改善や対策を取らなければならない。
 そして、お客さまの苦情については、貴重な情報源であることを十分に認識し、その情報を職員で共有化して業務改善に活かしていくことがお客さまサービスの基本となる。
 苦情が発生した際は、一切の先入観を捨ててお客さまの声を真摯に受け止め、第一に素直かつ丁重にお詫びすることが大切である。そして、苦情が即座に解決されることで、お客さまの信頼を回復できたとするならば、好感を持っていただける絶好の機会となるはずである。


 ガス事業に伴う業務の遂行にあたっては、ガス事業法および関連する施行規則、技術基準、特監法ならびに、供給約款、保安規程等を遵守することはもとより、その他の法律を遵守しなければならない。
 しかし、単に法令を遵守していれば十分というわけではなく、法令に明確に示されていなくても、公営ガス事業に携わる私たちの立場を踏まえ、公正かつ適切に業務を遂行する必要がある。


 私たちは、お互いの立場を理解し尊重し合い、「生き生きと」「明るく」そして「充実感」を感じられる魅力ある職場を築けるよう、一人一人が常に心がけて快適に働ける職場づくりに努めなければならない。


 関係先、取引先との交際については、公営ガス事業に携わる者であることを常に意識すると共に、法令に従い節度をもって社会的良識から逸脱しないよう心掛けなければならない。

5. 「公営だからできるガス事業」を目指して

 全国の都市ガス事業者213事業者の内、松江市と同様の経営形態を取る公営ガス事業者は全体の約15%の33事業者ある(※2007年3月現在)。
 これらの事業者の特徴としては、地方の中小都市で営まれている割合が高いこと、事業規模も比較的小さいことが上げられ、公営ガス事業として経営されている経過は、それぞれの地域においても異なる。また、近年は規制緩和による他燃料とのエネルギー競争などから経営環境は益々厳しさを増しており、公営ガス事業者が民間譲渡される事例が多く見られ、結果として全国の公営ガス事業者数は減少傾向にある。そして、現存する公営ガス事業者においても、経営改善策なども含めて今後の経営のあり方について論議がされている。
 松江市においても、過去にガス事業のあり方などについて外部委員による審議会(松江市ガス事業経営検討委員会)が開催されており、2002年は「ガス事業のあり方・方向性、経営の健全化について」、また、2005、2006年にかけては「民営化に向けた時期・手法・財務のあり方について」が審議された経過がある。
 そして、2006年11月には松江市ガス事業の民営化について、一定の方針がガス事業管理者へ答申されており、この中で事業を民営化する場合の目的・理念が次の様に述べられている。



 答申には松江市ガス事業の民営化の方針が示されているものの、「民営化はあくまでも手段であり、目的ではない」とも記載されており、目的・理念が果たせないと判断される民営化はあり得ないであろう。
 今までの経営形態である公営のまま、都市ガス事業が将来にわたり健全に継続され、お客様に不利益を及ぼさず、市民および松江市全体にメリットを生み出すことができるならば、松江市におけるガス事業は民営化する必要性が無くなるとも言える。
 では、逆に公営でしかできない取り組みはないだろうか。公営だからできる事業運営によって市民や松江市へメリットをもたらすことはできないだろうか。
 先に述べたとおり、2004年に松江市内のすべての都市ガスのお客様については、化石燃料で最も地球環境にやさしいクリーンエネルギーである天然ガスへの切替えを完了した。
 また一方で現在、地球温暖化の問題がTV、マスコミに取り上げられ、世界的な規模でこのことについて議論され、数年前には京都議定書も交わされ年次的にCOの削減が求められている。
 私たちは、環境への配慮を第一に以下のとおり取り組みを進めなければならないと考える。

(1) 【環境政策の推進】(地球温暖化防止)
 松江市はISO140001を取得し、環境意識が高まっており、公営企業としては、クリーンで環境にやさしく、COの排出も少ない天然ガスをさらに普及する必要があると考える。『環境にやさしい街づくり』の一環として、「第一に公用車への天然ガス自動車導入促進をはかること。具体的に言えば、福祉車両への導入など」
 「第二に松江市に働く同じ市職員を対象として環境への意識向上を目的に供給区域内に居住される方へ天然ガス利用の推進をはじめ、区域外の方へ松江市プロパンガスの利用普及」も併せ、取り組みが必要ではないだろうか。

(2) 【地域分散型エネルギーの推進】(天然ガスの普及推進)
 私たちの生活は、石油、石炭、「天然ガス」、原子力などを主体としたエネルギー供給システムにより日常生活が成り立っている。
 私たちはエネルギーの享受なしに生きることはできない。有史以前より人類は、衣食住を安定させるため様々なエネルギー供給システムを開発し利用してきた。
 現在、地球は人口増加や産業発展に伴い、過剰なまでにエネルギーを消費し、放出している。この過剰なエネルギーの浪費は、地球温暖化に代表されるように様々な場所や様々な形で、地球環境にひずみを生み出しており、長い間恒常的に保たれてきた地球の物質循環のシステムが急激に変化している。
 また、生活の大半において依存しているエネルギー源である化石燃料は、埋蔵量に限りがあるため近い将来に枯渇することが心配される。
 近年のエネルギー事業は、電力各社の電力自由化をにらんだ「電化攻勢」が激化していますが、原子力など1つのエネルギーに頼らず、風力、水力など地域にあったエネルギー利用を必要しており、私たちはこのような問題を地域で取り組み、島根県、松江市、市民との連携を推進し、天然ガスを「環境商品」と位置づけ、お客さまへのメリットとなるよう普及推進に向け取り組んでいかなければならない。

(3) 【地域住民の信頼の獲得】
 昨今のガス機器メーカーの事故対応不備や、北海道北見市におけるガス中毒死事故に対する業界としてのイメージダウンにより都市ガス需要家離れは数字として顕著に現れてきていることから、原点に立ち返り事業者の顔が見える事業展開に中心軸をおき、公営ガス事業者として、地域住民との密接な関係を築いていく為に、お客さまの目線に立ち出来る事から取り組んでいかなければならない。
 先に述べたとおり松江市ガス事業は地方公共団体である松江市が経営する企業である。であるからこそ、オール松江市として公営という利点を生かし、環境への配慮などお客さま(市民)へ関心を持っていただけるよう、取り組みを進める必要があるのではないだろうか。
  このレポートで、再度、公営企業の意義を明らかにすると共に、企業理念などを通じて、私たち職員が本来あるべき姿を明確にイメージ化した。これらを数多くの職員と共有した認識が持てるように取り組んでいかなければならない。これにより、今まで以上に高い意識が形成され日々の仕事の取り組み方も改善が現れることになるだろう。
 そして、職員のひとり一人が「公営だからできるガス事業」、また、「公営ならではのガス事業」の具体策について常に業務の中で考え、実行することができるよう取り組んでいくことが、松江における地域性を持ったガス事業が存在することになるのではないだろうか。