【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅴ統合分科会 環境と調和する地域

環境自治体としての斜里町の取り組み


北海道本部/斜里町職員労働組合連合会

1. はじめに

 今日、地球上における環境問題が取りざたされ特に地球温暖化については、相当以前からも問題になっていましたが、近年、その影響は著しいものとなっています。
 私たちの住むこの北海道はすばらしい自然環境に恵まれていますが、環境に関わる問題は生活に密接な関わりをもち、生活の基盤となる産業や経済の発展のためとはいえ、森林伐採、大気汚染、水質汚濁といった環境への負荷を与えているのが現実です。
 斜里町は1963年に知床国立公園の指定を受け、1972年に自然保護条例を制定、1977年には国内のナショナルトラスト運動の先駆けとして「しれとこ100平方メートル運動」に取り組み、自然保護を町づくりの根幹として、1979年の第二次斜里町総合計画から「みどりと人間の調和を求めて」を基本理念として町政を執行してきました。
 その後、自然保護中心の環境保全施策だけではなく、日常生活を取り巻く環境問題にも着目し、身近な生活環境に関する施策との両立を図るべく、1994年、当時としては先駆的な事業として、一般ごみを8品目に細分化したリサイクル事業を開始するなど、環境に配慮した施策に取り組み、2001年には「町」がISO14001の認証を取得して「環境自治体」としての礎を築いてきたところです。

2. 環境基本条例制定にむけて

 1993年に国は「環境基本法」を公布し、地域的な環境問題を全国的な環境問題への転換として捉え、次世代への配慮、社会の持続性発展を新しい基本理念として示し、そして1996年には北海道でも「環境基本条例」が制定され、こうした動きのなかで斜里町においても21世紀を展望した環境施策の指針となるべき基本的な条例の制定を目指して、2001年に取り組みが始まりました。策定には町内検討組織での素案作成、そして専門知識を持つ7人の委員による検討委員会の設置、また公募による委員によりワークショップを開催し、条例の骨子案を作成して町民に示したうえで意見を求めると同時に、自然保護審議会や公害対策審議会などでも検討を行いました。その後、策定委員会では、それらを基に条例の基本的な「在り方」を内容とした一時答申を行い、さらに、その内容に具体的な内容を肉付けして、条例文整理の作業を進め、最終答申までにワークショップを4回、策定委員会11回を開催し2002年12月の定例議会で条例制定を可決、2003年4月から施行されました。

3. 「斜里らしさ」の創出

 同様の条例はすでに各地で制定されていたことから、いかに「斜里らしさ」を創出していくかということに苦労しましたが、この条例は環境施策の基礎的な考えにたつと同時に斜里町の環境に対する最上位条例として位置づけするということが基本的な考えであることから、前文に「みどりと人間の調和を求めて」という町づくりの基本理念を明記のうえ、さらに知床の価値を踏まえて、これまでの自然保護施策を基盤とした生活環境を含めた環境行政全般もバランスよく発展させていくこと、さまざまな施策の展開や環境学習の重要性を明確にしていくことなども取り入れられた内容としたものとしました。
 各条文には環境の保全及び創造について、環境を享受する全ての町民の権利の実現を図るため、誰もがよりよい環境を享受できる「環境権」について明記されており、また、知床国立公園やその他の地域へ流入する観光客を中心に、斜里町に滞在するすべての「滞在者」の責務も明確にして、行政についても町政執行にあたっては環境への配慮を優先して行うことを明らかにしたことで「環境自治体」としての姿勢を明確にした内容となっています。

4. 条例が対象とする環境の保全・創造について

 ひとくちに環境と言っても様々な要因が含まれていると考えられます。水質、土壌、生態系など、人が健康で文化的な生活を営むうえで欠かすことのできないものですが、万が一損なわれた場合には、復元して将来の世代に引き継ぐことも現在の私たちの責務として認識しなければなりません。さらに、保全にとどまることなく、新たな環境の創出について重要な課題として条例では以下のとおりとしています。

(1) 公害の防止
 ・大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、騒音、振動、悪臭、地盤沈下

(2) 人の健康及び生活環境に関わる被害
 ・廃棄物の不法投棄、地下水汚染、動物の不適正飼育、野生動物被害、電磁波障害、人工被害、風害など

(3) 自然環境の保全・再生
 ・原生的な自然環境を有する地域の保全、身近な自然環境を有する地域の保全、自然環境の再生、自然生態系の復元など

(4) 快適な生活・地域循環創造
 ・循環型社会に配慮した生活習慣の確立、緑化推進など生活空間の創造、歴史的・文化的資源の保存と活用など

(5) 循環型・環境保全型の社会構築
 ・資源・エネルギーの消費抑制と循環型利用、未利用エネルギーの開発、環境保全型の観光及び農、漁業などの経済活動への転換、廃棄物減量やリサイクルの推進など

(6) 地球環境の保全
 ・地球温暖化、二酸化炭素排出量の抑制、森林の減少や海洋汚染、有害廃棄物の越境移動地球環境の保全に関する問題意識の啓蒙と取り組み

(7)環境教育の推進と環境学習
 ・環境の保全、環境の創造、社会的ニーズや意識の変化への対応、将来への展望など

 考え方や捉え方は随時変還していくと認識し、常に見直しを行っていくものと整理しています。

5. 条例に盛り込まれた内容

 斜里町にはこれまで環境施策として自然の保護と利用に関し、さまざまな独自施策を展開してきましたが、今日の環境問題は私たち自身が引き起こす都市型・生活型公害、廃棄物問題などに代表されるように身近な生活に密着しているということを改めて認識すると同時に環境に関する最上位に位置づけることを前提とした「前文」を配置し、その趣旨はつぎのとおりとしています。

(1) 前文の趣旨
 先人が培ってきた環境の営みに感謝と同時に敬意をはらい、知床の自然保護という取り組みを契機に、斜里町の環境問題が認識されたことを明らかにして、新たな視点に立ち、これからの進むべき道を明記しています。
① 日本唯一の原始境「知床」の豊かな自然環境やその恵みは先人から受け継がれてきたものである。
② 「みどりと人間の調和を求めて」を基本理念に自然環境を保全し、未来へ継承していくため「100平方メートル運動の森・トラスト」などの推進する。
③ 日常生活において日々発生する大量生産、大量消費、大量廃棄型の社会構造の中での利便性の追求により地球規模の環境問題への拡大になることへの警鐘。
④ 良好な環境を損なうことなく次世代へ引き継ぐことの責務。
⑤ 町民一人一人が環境に配慮することにより環境負荷の軽減の重要性。
 条例本文では全体を4章で組み立て、条文は第1条から第39条までとして、附則で構成しています。

(2) 目的や理念
 第1条から第3条では「環境の保全及び創造」「良好で快適な環境を将来に継承すること」そして第4条以下では町・事業者・町民及び滞在者の責務を明らかにし、具体的な「斜里らしさ」として第3条で「環境権」を位置づけ、さらに第9条で「環境配慮」の考え方を示し、環境自治体としての姿勢をこれまで以上に明確にしました。


斜里町環境基本条例

前文
第1章 総則
第1条 目的
第2条 定義
第3条 基本理念
第4条 町の責務
第5条 事業者の責務
第6条 町民の責務
第7条 滞在者の責務
第8条 年次報告
第2章 環境の保全及び創造に関する基本的施策等
第9条 施策の基本方針
第10条 環境基本計画
第3章 環境の保全及び創造を推進するための施策等
第11条 環境影響評価等の措置
第12条 規制等の措置
第13条 事業者との協定の締結
第14条 経済的措置等
第15条 施設の整備等
第16条 廃棄物の減量及び資源リサイクルの推進
第17条 緑の確保と快適な生活環境の保全
第18条 水環境の保全
第19条 身近な緑や水環境との触れ合い
第20条 野生生物の保護管理
第21条 環境学習の推進
第22条 自発的活動の推進
第23条 事業者の環境管理の促進
第24条 町民等の参加機会の確保
第25条 町民等の意見の反映
第26条 情報の収集及び提供
第27条 調査及び研究の推進
第28条 監視等の体制の整備
第29条 国及び他の公共団体との協力
第30条 施策の推進体制の整備
第31条 財政上の措置
第32条 地球環境保全等の推進
第33条 環境監査
第4章 斜里町環境審議会
第34条 環境審議会
第35条 組織等
第36条 会長及び副会長
第37条 会議
第38条 部会
第39条 専門委員
附 則

 

6. 条例制定によって

 斜里町は大自然の恵みに生かされた中で住民生活が営まれ、その中で生産と生活、文化が維持され、そしてその調和を求め続けることで町の個性を創造していこうとしています。
 今日の環境問題は、これまでの経済活動や日常の生活に起因しているものであり、これらの影響が地球規模の問題に発展しているとも考え、条例の一部では「斜里町民」だけにとどまらず、ひろく「全人類」としての意味も含めた内容としている部分もあります。
 条例の施行から5年を経過しましたが、その間、知床が「世界自然遺産」に登録されたことにより全国的な知名度となり、環境への関心も高まりも見せるなか、斜里町は環境自治体として注目されているとも考えられます。
 しかし、本当の意味で環境自治体としての行政執行には自ら取り組むという姿勢が大事であり、環境保全のためには押しつけであってはならないものです。

7. おわりに

 今年、この北海道で「洞爺湖サミット」が開催され、世界中で注目される中、各国首脳は豪華夕食会や昼食会で何を論議したのでしょうか。いま、本当に私たち人類が何を、どうしていこうとするのかを真剣に考える時代と考えます。
 斜里町は環境自治体としての自治を永続していくことにより、他の自治体にあまり見られない自然・環境保全と安定した生産基盤の確立を目指していくものです。