1. はじめに
~50年間続く自治研集会~
北上市職員労働組合の地方自治研究集会は、「地方自治を住民の手に」をスローガンに、市職員と市民による真の地方自治確立をめざして、行政や地域の垣根を越えた率直な意見交換の場として、1957年から毎年開催してきました。
昨年度(2007)は、北上市が「家庭ごみ手数料化等に係る基本方針」を策定したことから、自治研推進委員会内でワークショップを開いて議論を重ねるなどの新たな試みを取り入れ、この基本方針を市民にとってより良いものとするために積極的な活動を行い、一定の成果を出すことができたのでここに報告します(資料1行動日誌参照)。
2. 北上市「家庭ごみ手数料化等に係る基本方針」策定を受けて
~市当局の唐突な提案~
家庭ごみの有料化は全国的な流れとなっており、すでに導入している自治体も多いですが、岩手県内ではまだ未実施となっています。その先陣を切って北上市が2007年7月に「家庭ごみ手数料化等に係る基本方針(資料2参照)」を策定しました。唐突な発表に市民も驚き、10月末には実施計画案を庁議決定し12月の市議会で提案、2008年7月から実施という、市民との十分な合意形成のための時間を考慮しないスケジュールや、ごみの減量化よりも先に有料化ありきという市当局の姿勢などに、多くの市民が反発しました。
北上市職労ではこの問題について早急に検証し、より良いごみ減量化のための施策とするため、第53回地方自治研究集会を開催し参加者からの意見を取り入れながら、最終的に提言書として市当局に提出することを目指しました。
3. 自治研推進委員会内でワークショップを開催
ワークショップでの議論の様子
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~はじめて取り組んだワークショップからパブ・コメ提出~
ここ数年の自治研活動は、自治研集会を開催して議論し、結果をまとめる程度で終わってしまうことが多かったのですが、今回は新たな試みとして、自治研推進委員を3グループに分けたワークショップを2回開催しました。
その中で、①市当局方針の良い点・悪い点を挙げる、②悪い点の改善案を考える、③改善案を「提言」に作り上げる、④提言に優先順位を付ける、⑤提言を自治研集会で発表できるようにまとめる、等の作業を行いました。
ワークショップでは初めての委員も多かったのですが、それぞれの委員が主体的に参加し、様々な意見が出され議論を重ねたことにより、「提言」という形にまとめることができました。
この提言を市当局に自治研推進委員会からのパブリック・コメントとして提出しました。
4. 第53回自治研集会への市民の関心・期待の大きさ
~ごみ有料化案に市民の反発~
市当局でも、住民説明会を開催し市民に理解を求めましたが、市の「方針の一方的な策定や実施期日の決定」、指定ごみ袋の「大幅な料金値上げ」(大:1枚当たり約12円→73円)、コスト増につながる「戸別収集の導入」、低所得者や介護世帯への「配慮のなさ」、そして何よりも、ごみの有料化より前に減量化のためにできることを最大限やらずに、初めから「財源確保のための有料化ありき」という姿勢に、市民からは大きな反発がありました。
北上市職労では、基本方針を市民にとってより良いものとするために一緒に議論しましょうと、新聞に折り込みチラシ入れて第53回自治研集会への参加を積極的に市民にも呼びかけました。
チラシの配布後には、家族の介護で住民説明会にも参加できず、紙おむつのごみが毎日たくさん出るので大きな負担になり不安だという方や、住民説明会に参加しても自分の気持ちを言えなかった方などから、第53回自治研集会開催のチラシを見て直接北上市職労に電話をいただき、苦しい胸のうちを話された方もいました。
第53回自治研集会の様子
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5. 多くの市民が参加した第53回自治研集会と集会後のアンケート
~ごみ有料化の賛否両論を提起~
10月6日に開催された第53回自治研集会では、予想を上回る160人を超える参加者があり、多くの市民や報道関係者からの関心も高いことがうかがえました。
集会の内容は別紙(資料3)の通りですが、基調講演では立正大学社会福祉学部の 田口正己教授に、『ごみ、ちょっとまって有料化~ごみ有料制の現状と政策争点』という演題で有料化の現状と課題、ごみ問題解決のありかた等をお話いただきました。北上市の担当課からも、北上市によるごみの手数料化についての説明がありました。その後、自治研推進委員会でのワークショップでまとめた改善案の提言発表や、参加者からの賛成・反対・別の視点からの各意見を交えながら、市民にとってより良い基本方針をとするための議論を交わしました。
集会後に記入していただいた多数のアンケートにも、市民からの貴重な意見が多く寄せられました。その多くは、有料化の前にできることを全てやった上での導入ならば納得できるが、そのためにはもっと時間をかけて議論をしてほしい、という意見でした。
第53回自治研集会会場内で展示されたワークショップの成果品に見入る参加者 |
6. 自治研推進委員会からの提言書を提出
~市民合意を求めて提言~
今回の自治研集会で参加者から出された意見や新たな提案を盛り込みながら、「家庭ごみ手数料化等に係る基本方針」への自治研推進委員会からの提言書(資料4参照)としてまとめ、10月16日に市当局(市長)に提出しました。この様子もマスコミ各紙に掲載され、市民からも注目を集めました。タイミング的にも、10月末予定の実施計画案の庁議決定前に間に合わせることができ、市民の想いも届けることができたと思います。また、組織内議員による市議会での質問としても反映されました。
7. 一部見直しされた北上市「家庭ごみ手数料化実施計画(案)」の策定
~基本方針を見直し実施時期延期に~
その後11月に市当局は、市民の意見や要望を一部取り入れ、当初の基本方針を一部見直した「家庭ごみ手数料化実施計画(案)」を策定し、これについての住民説明会も開催されました。
内容は資料5の通りですが、実施期日の延期(2008年7月実施→12月実施)や指定ごみ袋の料金の引き下げ(大:1枚当たり73円→63円)、戸別収集の導入見送り、介護世帯・乳幼児世帯への紙おむつ専用の回収袋の無料配布等、市民からの要望の大きかった部分は一部取り入れられました。しかし、依然としてごみの減量化に最大限取り組むというよりは、初めからごみの有料化実施と財源確保が目的であるという姿勢には変化は感じられませんでした。
8. 自治研推進委員会からのパブリック・コメント再提出
~有料化だけでは解決しないごみ減量~
市当局では、新たな実施計画案に対してパブリック・コメントを再度募集していたので、自治研推進委員会では委員からの意見を募り、当初の基本方針からの変更点・改善点を検証し、自治研推進委員会からの提言書の内容が取り入れられていない部分を挙げる作業を行いました。
これを市民にとってより良い実施計画とするため、自治研推進委員会からのパブリック・コメント(資料6参照)としてまとめて12月に末に再度提出し、昨年度の自治研推進委員会としての活動はここで一度収束しました。
9. 北上市「家庭ごみ手数料化実施計画」の策定へ
~さらなるごみ減量の取り組みへ~
その後2008年4月に市当局から「家庭ごみ手数料化実施計画」が公表され、住民説明会も開催されました。内容としては、昨年11月の実施計画案を一部見直し、資源ごみの常設拠点回収場所の新設、介護世帯・乳幼児世帯の紙おむつ無料回収等が盛り込まれ、市民の要望がさらに一部取り入れられました(資料7参照)。
当初案は2007年12月議会での議決で2008年7月実施の予定でしたが、「ごみ問題こそ市民の理解と協力が必要」という世論を巻き起こし、2008年6月議会まで市民説明会を重ねたことは評価できることです。また、市内四巡(140回)の説明会を行ったのは、はじめての市政運営であり、「市民との協働」の基本スタンスが形成されたものです。
しかし、「住民合意の判断基準」「低所得者への配慮」「リバウンド問題」「不法投棄問題」「分別と減量はトップレベルなのになぜ有料なのか」「企業責任を問わない国の制度問題」など課題は山積しています。また、市当局のごみの減量化への積極的な取り組み姿勢が依然として感じられず、計画の実効性に大きな疑問が残りました。
なお、6月市議会では、反対意見や見直しの議論があったものの、多数決により導入が決議され、2008年12月からの実施が決まりましたが、今後導入に向けた具体策や効果など、市当局の姿勢を注視していく必要があります。
10. 昨年度の活動を振り返って
~市民目線での自治研活動継続へ~
2007年度の自治研活動は、テーマ決定から自治研集会開催までの期間が短かったため(実質1ヶ月程度)、課題の検証・分析作業などが十分ではなかった点もあり、自治研推進委員会からのパブリック・コメントや提言書も、完成度としては不十分な面もありました。
しかし、必要な時期に可能な限り適切な行動をするができ、市民の目線に立った真の地方自治の確立に向けた活動のひとつができたものと思います。
今後も北上市職労の組合活動の大きな柱の一つとして、市民からも信頼を置かれるような活動を継続していくことができるよう、自治研推進委員をはじめ組合員の積極的な行動を続けていきたいと思います。
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