【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
第Ⅴ統合分科会 環境と調和する地域

利根川流域に於ける都県境を越えた
水源環境税のあり方について


群馬県本部/群馬県職員労働組合・平成19年度 河川・水路の環境を考える会 
小林 幹雄・小林 清人・篠原 敏洋

1. 序 論

 群馬県は、ほとんどが利根川水系に位置し、山間地より下流部に渓流や水田・用水路を通して水が運ばれ、更に下流の銚子の方面と途中の利根大堰より埼玉県を経由して東京へ導水されています。つまり東京の水は、群馬県に非常に密接に関係しており、安全安心な水こそ、下流住民の求めている一大関心物であり、又洪水制御等一大関心事であります。そのため河川、水路の保全や農地の保全・森林の維持管理を行うことが、住民の生活に密接な施策として必要性があり急務でもあります。
 これらの整備にあたっては、環境についての配慮について生物多様性の条約の締結を踏まえ河川法、土地改良法、森林法等関係法律に規定されたにもかかわらず予算の環境配慮充填割合が不明確なため一部では実施されているが、すべての公共事業に及んでいないのが現状である。通常の公共事業では、最小の費用により、最大の効果を発揮するよう安価な資材の使用や国庫補助事業に付いては、会計検査の対象になるため環境配慮工事の考慮に慎重になる傾向が有り、そのため環境配慮に欠けた公共事業となりがちである。また水路の汚水の原因である下水道の整備が進んでいないのが現状である。単独の県レベルでの整備だけでは、財源不足や近県との環境保護体勢の確立・連携が不十分であり、利根川流域を考慮した広域的な流域に対して独自の水源環境税(注1)を財源とする税制を徴収する制度の創設の模索を検討し、その財源を基に森林の保護・生物多様性に富む美しい河川環境の整備や保護、また用水路の整備、又立ち後れている下水道整備事業に拍車を掛けるべく重点的対策を講じるための自治研究を行いました。
 21世紀は、水の世紀と言われており、この水をいかに利用し、制御するか、環境問題から水政策を捉え、県や国の省庁の障壁を越え問題を解決する事が、地球環境を保全する意味で急務となっています。

2. 水源環境税の地域住民と下流住民のコンセンサスと適用について

 利根川は、幹川流域延長322km、流域面積16,840km2の国内有数の河川であり、直接流域が東京都、埼玉県、千葉県、茨城県、栃木県及び群馬県の1都5県にわたり、首都圏にあり流域内人口は、総人口の約十分の一にあたる約1,214万人に及んでいる。関東の人口は、3,234万人である。(人口 2006年3月31日 住民基本台帳 国勢調査より)
 近年地球温暖化対策や水環境の保全等社会的要請や世論の高まりがあり、その対策が急務となっており関係の省庁や関係都県事業による森林を守る植林や間伐治山などの森林事業・堤防や堆積土除去などの河川事業・下水道の整備を行う下水道事業・農地の区画整理や用水路整備などの農村整備事業など多岐にわたりその所管で事業が実施されている。基本的には、こうした各事業で事業計画に基づいた事業が効果的に迅速に行うことが基本原則であり求められている。しかしながら予算規模や従事者等が背景にあり現状の対策だけでは、不十分な状態である。
 森林事業については、群馬県の森林面積が424,464haで内国有林等が197,030ha、民有林が227,434haで2002年度から2005年度の民有林の間伐面積3,994haで民有林面積227,434ha/3,993=63年となり単純計算でも長期間間伐がかかり不十分な状態である。また国立社会保障人口問題研究所の資料によれば2035年度には、群馬県の人口が2005年度に対して△16%程度減少するデータがでており少子高齢化社会の到来により維持管理するための従事者不足による十分な植林など維持管理が出来ない状況に陥る可能性がある。二酸化炭素の排出源対策として森林の維持管理の抜本的対策が急務となっている。
 河川事業については、基本的には、一級河川は、国土交通省であり、その内県管理の一級河川や県単独の流域から海域に直接流れ込む二級河川、その他準用河川、市町村管理の河川と分類されるが、河川のごみの不法投棄による水質汚濁や森林の荒廃・台風や豪雨に伴う土砂の流出による河川水の汚濁や河川の緩流カ所に堆積し河川の通水断面減少が堤防の決壊となり堆積土の除去等の必要性があり基本的には、国直轄管理区間は、国の負担であるが、県管理区間は、補助事業と県の単独事業により実施されている。限られた予算の中で膨大な事業量の対処が課題となっている。
 下水道事業であるが、群馬県は、全国で36番目で整備率は、43.6%である。水源県でありながら水質の浄化としては、対策が非常に遅れている状況にありアンバランスとなっている。
 つぎに農村整備事業であるが県内の基幹水利施設は、約340カ所で、その延長は700kmあり、そのうち耐用年数を超えている施設は約170kmにも及ぶため漏水や破損などの用排水機能の低下が懸念されている。又台風時や豪雨時に耕地や林地等から土砂が流失し土壌浸食と河川の汚濁や堆積が河川水環境からみて甚だしい状況にある。
 こうした局面を打開すべく検討しているのが、利根川の流域における都県境を越えた水源環境税の適用であるが現段階では、地方分権一括法の改正に伴い課税自主権の尊重による地方税の充実確保が可能となっただけで一都道府県以外の範囲で適用出来ないのが現状である。
 しかしながら個別の関係所管の事業で対応しきれない状態もあり、さりとて個別に各都県で単独で環境税を課税していては、水質汚濁防止法の上乗せ基準等の都県独自の基準では、同一流域内に地域間の格差が生じる事や環境配慮地域の濃淡が生じてしまい生物多様性や温暖化ガス排出対策で不均衡からの弊害も生じかねない事が危惧される。都市と農山村との不均衡の是正、都市と農山村との共生・共存の必要性、都市部にも協力していただくシステム構築が必要な状況である。
 森林は、二酸化炭素を吸収し地上部及び地下に貯蔵し、地球温暖化防止の役割を果している。また水源涵養機能もあり緑のダムにたとえられるように水の貯蔵機能もある。そのためただ単純には、森林関係の森林環境税が直接的に対策と考えられるが、水源県を担う群馬県民への課税ばかりとなり首都圏に水を供給する水源県でありながら、下流の都県に水として便益を与えていながら県民のみの負担となり税の公平性に欠ける結果となる。群馬県は、首都圏の水の供給源であるから応益負担を求めるべきであり「鶏口となるとも牛後となるなかれ」ではないが単に他県が環境税を導入しているから我が県でも実施するのではなく、利根川という巨大流域圏での(注2)流域マネージメントを行うなど本質を見極め真に現状を把握した対策システムづくりが必要不可欠で急務である。
 今後の課題として、いかに水源環境税を捉えるか、現行の地方分権一括法に基づく都県税課税か或いは水道税に課税等の検討、そして課税の長短所の把握や、さらに水源環境税について下流県との意見交換やアンケ-ト調査や下流県民のコンセンサスを得るか、こうした対応で強力なイニシアティブが必要となり都市と農山村との共生や格差社会の是正をキャッチフレーズにいかにPRや下流民の心を捉えられるかにかかってくると思われる。

 水に関する環境政策として国或は、県レベルにより個々の事業により、様々な展開が行われている。しかしながら予算不足や労力等などの問題があり個々の事業で本来力を入れて対応すれば対策効果や整備進度が進んでいる状態であるはずの事業に遅れが目立つ状況にある。また生物多様性や温暖化排出対策等の今後の主要対策事業との関係で単独事業実施で相互連携が図られておらず一体的連携的進度が必要なところに立ち後れが目立つ状況にある。

3. 結論

 今後の施策として、都或いは、5県が個々の環境税を導入して乱立させるのでなく、利根川の流域圏(注3)を視野に入れ流域圏プランニングを策定し、そのなかで仮称「関東一円水源総合組合」と言った組織を立ち上げ一括した管理体制のもと流域の水源管理・給配水・維持管理体勢の樹立等も必要かと思われる。
 そのためには、水源環境税を視野に入れた地域住民や下流住民のコンセンサスやただ単にダムを造れば水が入ると言う安易な認識から水源林の水源涵養機能や水源林の維持保全、各種施設整備がなされて水が配水されている事を再認識する必要がある。また下水道等の整備について群馬県が水源県でありながら整備率が全国36位という状況にあり、格差社会の是正を行い、真に水源県としての責務を果たす必要がある。
 つぎに水利権についてであるが、生物多様性に必要な水利権の確保、位置付けが必要であり生物多様性条約に基づく「環境用水に係わる水利使用権許可の取扱いについて」の要件拡充が必要でなかろうかと思われます。
 諸外国の情勢としては、ヨ-ロッパのにおいて古くから流域圏に於ける水管理組合があり、堤防の維持管理など行っている流域もあります。
 最後に、今日の高度社会での環境対策を捉えた場合「(注4)水源――上・下流域――周辺海域」をも視野に入れ地球循環システムの正常化を果たすことが生物多様性や温暖化排出ガス削減対策の最小の基本単位と言える。近年の異常気象による災害の発生、関東内陸部の最高気温の記録更新、都心の排気ガスの北関東への移動、これらは、まさに流域単位の現象と言える。利根川流域の生成に始まり、江戸時代の利根川の東遷、荒川の西遷、1968年には利根大堰が建設され荒川を経て再び東京湾に水が注ぐなど歴史的変遷があるが、今生物多様性や地球規模の温暖化ガス対策問題など今後や今からの対策が急務となっている。そしてこの事は、人類の生命のサスティナビリティに不可欠な課題であり、この課題の克服の切り札が水源環境税である。今後の対応として世界の中の日本の首都圏の対応としての対応が必要なのでなかろうか。
 水源環境税の検討にあたり、水というライフラインとして日常活動や産業経済活動に不可欠なものであるが、徴税に際しては、弱者への配慮を忘れてはいけない。
 水源環境税の提起にあたり、国内では、まだ流域内の都県府を越えた都府県による水源環境税等の実施事例は、見られないが、今後道州制が取られた場合どの範囲を道州とする議論はあるものの広域的な流域管理に移行されるケ-スも想定される。個人としては、課税については、抵抗感があるものの、いずれにしても現状の打開策が求められる状況にあります。
 最後に労働組合の見地から農山村部の安定した職業の確保や対策費の確保として検討を行いました。




(注1)水源環境税:森林環境税や水源環境税等は、整備保全する事を目的とする事実上目的税である。これに対して環境税は環境に負荷を与える物に対する課徴金制度である。地方一括処理法の改正に伴い県レベルの課税と国税の二種類に分類される。
(注2)『流域マネジメント』 河川環境管理財団編P59~P62
(注3)『流域圏プランニングの時代 「自然共生型流域圏・都市の再生」』
    石川幹子・岸由二・吉川勝秀編 技報堂出版P119~P124
(注4)『水供給 これからの50年』 持続可能な水供給システム研究会P1~P16
    『環境工学03』 放送大学教育振興会 鈴木基之教授

 


引用 東京都水道局「東京の水道」資料等 
 2006年度の利根川水系の取水量=1,198,546,800m3
   前提条件 純粋な5ダムの取水量と異なる。
   取水量≠配水量
   水1t当たりの5ダムの概算給水原価(東京都資料より) 
   2,966,519 ÷ 1,198,546,800m3=2.5円/m3となる。
 2006年度の東京都の5ダムの維持管理費は、1,207,985千円であるので、2,966,519-1,207,985=758,534千円が建設費関係の償還金となる。
 5ダムに係わる東京都の全負担金は、77,607,457千円であるので758,534÷77,607,457=0.98%となる。
 次に、日本水道協会の関東都県の取水量の資料と概略給水原価より利根川全体の年間給水原価を求めた。
   利根川水系の年間上水道の取水量1,124,200,000×2.5円
  =5,055,250,000円
  この総額が5ダム関係の給水調達費となる。

 水源環境税の課徴金シュミレ-ション
水源環境税の課徴金シュミレ-ションとして国立社会保障・人口問題研究所の2005年度の関東近県の生産労働人口及び世帯数並びに関東各都県の取水量より必要な水源環境税額を以下の3タイプに絞り試算した。
(試算A)現時点の水源保全費用 (国庫補助除く)
72.4億円
(試算B)現時点の水源保全費用 (国庫補助除く)
72.4+11.9(水源関係諸事業)=84.3億円