【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
特別分科会 夕張からわがまちの財政を考える

富良野市の財政分析


北海道本部/自治労富良野市労働組合連合会・自治研推進委員会

1. はじめに

 三位一体の改革、夕張問題、財政健全化法……この間の自治体財政を取り巻く情勢はめまぐるしく変化し、財政危機の中で自治体がこれまで通り存続していけるのかが大きな課題となっています。富良野市においても「厳しい財政事情」という言葉は、今や交渉時における当局のスローガンとなっています。富良野市では財政難を理由として現業部門を中心とした民間委託や指定管理者の導入を進め、新規職員採用抑制による人員削減や昇給延伸、基本賃金の削減などの合理化が行われています。
 このような現状をいつまでも許すわけにはいきません。しかし、私たちは財政状況が悪いと言われ続けていながらも、一体どれくらい悪いのか。そして、その原因は何なのかと問われてもよく分からないのが正直な感覚ではないでしょうか。
 財政問題は、私たちの賃金や労働条件に大きな影響をもたらします。組合側としても市の財政に関する分析を行い、組合なりの財政に対する独自の認識を持たなければなりません。財政状況を知らずして、もはや政策もまちづくりも語ることはできません。

2. 検証1 富良野市は赤字団体か? それとも黒字団体か?

 実質収支は、収支が実質的に赤字か黒字かを見る指標です。図-1から富良野市は黒字決算を維持し続けていることがわかります。2006年度決算では、1億6,576万円、2.2%の黒字決算となっています。
 実質単年度収支は、赤字を避けるためにどう「やりくり」を行ったのか、単年度収支+積立金+繰上償還金-積立金取崩額で表します。図-2は積立金取崩額の推移であり、2005年度は3.8億円、2006年度は2.6億円取崩しています。しかし、実質単年度収支は2005年度△2.6億円、2006年度は△2.4億円図-3の赤字となっています。このことから富良野市は、近年貯金を切り崩して、なんとか黒字決算を維持していることがわかります。


図-1

図-2
図-3

3. 検証2 歳入はどのくらい減少しているのか?

 富良野市の実質単年度収支が、近年、赤字となった原因は何でしょうか。
 まずは歳入から見てみます。図-4は富良野市の歳入の4割を占める地方交付税の推移です。1999年度の63億円をピークに減少しています。2001年度からは、国の地方財政対策において、普通交付税の財源の不足分を「臨時財政対策債」を発行することで補っています。しかし、2004年度の地方交付税は対前年比△9%、△5.4億円の大幅な削減となっています。2006年度の臨時財政対策債と地方交付税の合計額51億円は、1999年度に比べ12億円も減少しています。
 なぜ、これほどまでに地方交付税が落ち込んだのでしょうか。地方交付税は、地方税収入が乏しい過疎地域など「どの地域においても一定の行政サービスを提供できる」財源を保障するものです。普通交付税の算定式は、基準財政需要額と基準財政収入額の差であり、図-5はこの両者の推移を示しています。この図からは、地方税を中心とする収入がそれほど落ち込んでいないにも関わらず、基準財政需要額が激減しているために地方交付税が減少したといえます。これは、「地方交付税」の削減を掲げた「三位一体の改革」の結果であり、国が基準財政需要額を意図的に削減することで進められました。基準財政需要額の算定はナショナルミニマムを保障するために、実際の行政サービスに必要な経費を忠実に反映するのではなく、それぞれの行政経費の算定を低く見積もらせることで、基準財政需要額を抑えたため、落ち込む結果となっています。
 また、財政力指数(3年間の基準財政収入額の合計を3年間の基準財政需要額で割ったもの)は1999年の0.285から年々上昇しています。これは、収入アップによる上昇ではなく、基準財政需要額が削減されたことにより、分母が小さくなって財政力指数が上昇したにすぎません。

図-4
図-5

4. 検証3 富良野市は何にお金を使ってきたか?

 歳入の次に歳出をみてみます。
 1983年度から2006年度までの目的別歳出の充当一般財源の推移を見てみると1990年代後半から総務費、農林業費、教育費が減少しています。しかし、民生費、土木費、公債費は右肩上がりに上昇しています。
  さらに、図-7の性質別歳出の推移を見てみると、人件費は1996年度から既に減少傾向にあります。しかし、投資的経費は年度別にバラツキはあるものの2002年は養護老人ホーム寿光園やハイランドふらの増築事業、2006年度には中心市街地活性化センターや朝日町公営住宅などの箱物の整備で増加しています。近年の地方交付税削減により歳入が落ち込むなかで、ハード事業の整備が富良野市の財政にどのような影響を与えているのでしょうか。

図-6
図-7

5. 検証4 富良野市は体力以上の借金をしているのか?

 富良野市は、近年のハード事業の整備により体力以上の借金をしているのか。関西学院大学小西教授の著書によれば、「財政分析を行うときのポイントのひとつは、「体力以上の起債をしてしまっているかどうか」であり、地方交付税が圧縮されている時期では、体力以上に起債をしてしまうと、自治体運営に大きく影響を与える」ことが記されています。その目安が起債制限比率=財政力指数×30の近似式です。2006年度決算による富良野市の起債制限比率【9.2】は財政力指数【0.342】×30=10.26より小さい結果となりました。よって、富良野市は体力以上の借金をしているとはいえません。

図-8

6. 検証5 富良野市の財政は何が悪いのか?

 財政が悪いといわれる場合、地方交付税の削減による影響の他に、資金繰りという面で悪いのか、償還能力という面で悪いのか峻別しておかなければなりません。図-9の左下の部分に位置する自治体は、償還能力も資金繰りも良く健全財政であるといえます。右下の部分は、償還能力はあるため、人件費のカットや住民サービスの引下げは十分抑制されており、むしろ公共事業を抑制してこれ以上起債をしないことです。左上の部分は、償還能力が悪いため、基金を積むなり、公債費以外の経常費の抑制に努めるなどの強化策が必要となります。右上の部分は、行革による経常経費の抑制と、地方債残高の減少の両方をめざすという厳しい財政運営が必要となります。


図-9

 富良野市の2006年度決算における経常経費比率の公債費分は18.6%、公債費を除く経常経費比率は73.8%であり、図-9では左上の部分に位置します。これは、資金繰りは良いが償還能力は悪いということであり、財政再建策には、公債費を除く経常経費の抑制が必要であることを意味しています。

7. 検証6 経常収支比率の分析

 10は富良野市の経常収支比率の推移を示しています。1989年度から1995年度までは適正値といわれる70%台を維持していましたが、2002年度には90%台に突入し、2005年度には98%にまで上昇しています。経常収支比率が90%以上では弾力性を欠いた財政運営が強いられます。
 なぜ、経常収支比率が上昇したのでしょうか。図-11からわかることは、経常一般財源等合計も経常経費充当一般財源等も1990年代後半まで右肩上がりで上がっていました。しかし、1999年以降、地方交付税の削減により経常一般財源等合計が急激に乱降下し、経常経費充当一般財源がほぼ横ばいであったために経常収支比率が上がったといえます。このグラフの黒い部分が大きいほど投資的経費に充てる余裕が大きいことを意味します。富良野市は、近年この部分が小さくなっているのにも関わらず、投資的経費に充てていたことが、財政を厳しくしているともいえます。

図-10

図-11

 図-12は公債費を除く経常収支比率の経年変化を示しています。人件費は1996年度以降、毎年のように減少しています。しかし、それ以外の物件費、扶助費、補助費、繰出金は上昇しています。特に特別会計への繰出金の増加が顕著になっています。


図-12

 表-1は、2005年度決算における富良野市の経常収支比率を全道180市町村の順位で示したものです。この表から、富良野市は特に人件費、扶助費、繰出金の比率が高くなっています。

表-1

8. 今後の課題

 人件費は新規採用職員の抑制や3年連続賃金カットなどの合理化を受入れ、2006年度のラスパイレス指数は90.4となり、2007年度の人件費比率はさらに減少しているものと想定されます。しかし、類似団体と比較することにより、どの分野にどの程度職員配置され、それが富良野市の政策にどのように位置づけられているのか分析が必要となります。
 また、道内自治体と比較して比較的高い数値である扶助費や繰出金についても、富良野市が他市町村以上のサービスを提供しているのかどうか、また、それはどのような政策的課題から生じていることなのか、さらなる分析が必要となります。