【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
特別分科会 夕張からわがまちの財政を考える

網走市における財政危機と財政健全化法


北海道本部/網走市役所労働組合・自治研推進部

1. はじめに

 2006年の「夕張ショック」を機に、国は地方自治体への関与・統制強化を図る目的で2007年6月15日に「財政健全化法」を成立させました。財政健全化法は、従来の「自治体再建法」(普通会計においてその赤字幅が標準財政規模(税収+地方交付税額)の20%(市区町村)を超えると赤字再建団体に転落するとされるもの)とは異なり、健全化判断比率として4つの指標、①「実質赤字比率」、②「連結実質赤字比率」、③「実質公債費比率」、④「将来負担比率」を導入して、そのうち一つが一定の基準を上回れば「早期是正団体」となり、財政健全化計画の策定や報告義務、国の勧告など国の強い関与が行われるものです。
 そのため財政健全化法は、施行までの2年間の猶予期間はあるものの、自治体の「自主的リストラ」を一層促進する圧力となることが予想され、とりわけ自主財源の乏しい北海道内の市町村においては、厳しい財政運営のもと合理化提案が強まるものと考えられます。


2. 網走市財政の現状分析

 網走市の普通会計は財政危機の中、2006年度決算ベースで実質収支額44百万円の黒字となり4年連続の黒字決算となりました【表1】。従来の指標なら当面の危機は脱したと言えましたが、財政健全化法による連結決算となると2006年度決算ベースで△3,212百万円の赤字となります。とりわけ赤字を生んでいる要因としては、「港湾整備特別会計(△329百万円)」、「臨海土地造成事業会計(△3,309百万円)」(それぞれ利息を含む)といった「土地造成事業」に係る特別会計があります【表2】


表1 一般会計及び特別会計の財政状況(主として普通会計に係るもの)

(百万円)
  歳入 歳出 形式収支 実質収支

地方債現在高

他会計繰入金
一般会計20,906 20,828 78 44 46,598
私有財産整備特別会計241 241 0 0
普通会計21,137 21,059 78 44 46,598
(網走市企画総務部財政課「2006年度決算報告」より)

(百万円)
  歳入 歳出 形式収支 実質収支 不足額 地方債現在高 他会計繰入金
上水道事業会計507 113 349 394 7,454 6
国保事業会計3,986 3,982 4 4 311
介護保険事業会計3,854 3,904 △50 △50 320
老人保険事業会計2,041 1,963 79 79 328
下水道事業会計1,937 1,880 19 19 19 9,271 582
特定環境保全下水道会計475 498 △37 △37 △37 4,110 245
個別排水処理事業会計73 73 0 0 0 380 6
港湾整備事業会計(網走港)42 96 △329 △329 △329 18
臨海土地造成事業会計(能取漁港)58 39 △3,309 △3,309 △3,309 21
観光施設事業会計185 168 6 6 6 169
駐車場整備事業会計7 7 0 0 0  
簡易水道事業会計183 183 0 0 0 1,055 54
(網走市企画総務部財政課「2006年度決算報告」より)

 網走市はかねてより「公債比率」が高いことで有名な自治体です。「平成の大合併」が叫ばれた2000年、網走市はいち早く自治体合併を標榜しましたが、周辺自治体より網走市の「公債比率の高さ」、「将来負担比率の高さ」などが懸念され合併には至りませんでした。
 2006年度決算に見る網走市の公債費率は35.0%であり、実質公債費比率においては20.5%で全国平均の15.1%、北海道市町村平均の16.9%を大きく上回っています【表3】
 これほどまでに公債比率が高まった要因としては、1970年代初頭より国の景気誘導策のもとで道路・港湾事業を積極的に進めてきたという事実やバブル崩壊後の1990年代に小学校の統廃合による新校舎の建設、多目的教育施設(オホーツク文化交流施設)の建設、ごみ処理施設の建設など地域産業、とりわけ建設業の活性化と合い待った積極的な政策を実施したことが市債残高を引上げ公債費率を高めた要因として考えられます【表5】
 また、小泉政権下の「三位一体改革」によってその財源の一部を占める交付税が大きく削減されたことも少なからず関係しているものと思われます。
 さらに、網走市の住民一人当たりの地方債残高は2006年度決算ベースで、1,158,846円であり、全国平均の456,703円、北海道市町村平均の666,050円を大きく上回っていること【表4】から、将来負担比率も極めて悪い状況です。

表5 網走市における地方債残高の推移

3. 網走市における能取工業団地造成事業特別会計と財政健全化法対策

表6 能取工業団地造成事業の経過

1973年   能取工業団地造成開始(約66ha)
1976年   能取工業団地造成完了→土地売却開始
1991年   特例価格9,400円/m2に設定
1995年6月 能取漁港地区活性化特別委員会設置
1998年   団地会計 56億4,966万円の赤字
1999年2月 漁港法による用途指定解除(一線用地および公園用地の一部を除く)
2000年3月 第1次健全化計画(1999年~2013年まで)承認
2000年度  団地会計の赤字27億8,393万円まで圧縮
2002年6月 レイクサイドパークのとろ開園
2003年3月 能取漁港地区活性化特別委員会解散
2006年11月 特例価格3,500円/m2に設定
 網走市の財政分析を行った結果、現状の財政危機を招いた要因は、過去の過大な建設投資による地方債の増大とその計画的な返済が国の財政事情による政策変更により次々と狂わされていったということが理解できました。今回、財政健全化法が成立したことにより、それまで国からの関与は受けない特別会計までもが指標に加えられるようになることもしかりです。
 財政健全化法成立によって、その対策が急務となった土地造成事業、とりわけ連結決算ベースで最大の負債を占める「能取工業団地造成事業(668,685m2)」は、総事業費約78億9,000万円(上下水道工事及び利息等を含む総額)を掛け1973年に開始され、1976年造成を完了し土地売却が開始されました。当初は高度経済成長下で国の水産政策により、漁港の近代化、水産加工場等の集約化が急がれていた時期でもあり、網走市においても他の水産都市同様、国の制度資金を活用した中で、市場、水産加工場、物流センター、汚水処理施設等の集約化を計画し事業を始めています。
 しかしながら、1977年「排他的経済水域(200海里問題)」が設定され、漁業・水産加工業を取り巻く環境が一変し、当初そのほとんどを売却する予定で造成した土地668,685m2(売却可能面積493,630m2(73.9%)、その他共同用地・緑地帯・道路175,055m2(26.1%))の13%程度(87,213m2)しか売却できないという事態が発生しました。
 市は1990年に売却単価を見直し、それまでの1m2当たり13,713円から9,400円に引下げ、1990年から2000年までの10年間に178,749m2、合計265,962m2(39.8%)を売却し、さらに2007年赤字額を少しでも減額させるため売却単価を9,400円から鑑定評価額の3,500円にまで落とし、5,400m2、合計271,362m2(40.6%)を売却しましたが、残り222,268m2(33.2%)が未だ未売却となっています。
 能取工業団地造成事業特別会計の赤字額は、1998年度末で56億4,966万円でしたが、第1次健全化計画(1999年~2013年)によって一般会計からの繰入れを行い2000年度末で27億8,393万円にまで圧縮しましたが、高金利時代の借入れのため、2006年度末時点で利息を含め約33億900万円となっています。市は2007年度末、財政健全化法の成立を見越し基金を取り崩して能取工業団地造成事業特別会計へ繰入れを行い、赤字額を12億1,800万円まで圧縮しました。これによって仮に財政健全化法が施行されても連結決算ベースで早期是正団体に陥ることはなくなったと当局は判断しています。
 また、この能取漁港問題については、網走市労連自治研推進部として歴史的観点、財政的観点から今後さらに研究を進めていかなければならない課題と認識しています。

4. 財政健全化法と今後の情勢

 財政健全化法は、まだまだ不透明な要素をもっていることも事実です。網走市の財政担当職員へのインタビューでは、「未だ明確な指標が示されていない状況で、情報を良く理解すれば当面の危機は脱したと言えるが、厳しく判断すればイエローカードとなる可能性も残されている」とのことです。まだまだ予断は許されない状況で当局の判断は確実なものではないと言わざるをえません。特に網走市の財政分析において「連結実質赤字比率」(連結決算ベース)同様、懸念される「将来負担比率」は、特別会計の赤字額を圧縮しても住民一人あたり110万円を超える高い水準には変わりはないのです。この面で果たして財政健全化法をクリアできるのかどうかの判断が未だ曖昧のままです。
 ひとたび新聞に目を向ければ、福田内閣は小泉・安倍政権の基本政策を引継ぎ「基本方針2008」の中で引続き「歳出・歳入一体改革をさらに進めます」と明言しています。例え財政健全化法をクリアしても、これまでの給与関係費と投資的経費を中心とする財政支出の圧縮政策の流れは変わらないことは明白であると判断せざるをえません。つまり、当面は地方自治体において歳出削減策として「人件費」、「建設事業費」の圧縮がさらに進められるものと予想できます。事実、網走市においてもその成果が顕著に表れてきています【表7】。この点において財政健全化法もやはり自治体の「自主的リストラ」を一層促進するための道具であると言わざるをえないのです。


表7 網走市における人件費及び普通建設事業費の推移


5. おわりに

 私たちは自治体の財政分析を通じて、その背景にある政策を見抜き、真に住民生活のための施策かどうかを住民に直接、接する者の責任として見極めなければならない立場に置かれています。そのためにも自治研活動は重要な意味を持っています。
 今回の「財政健全化法」についても結果的に『手をつけやすい』私たち職員の「人件費」と市民生活に関わるインフラたる投資的経費(建設事業費)を国の制度によって強制的に削減させるための施策であることが分析結果より明らかとなりました。
 今回のレポート作成にあたり、「財政分析」を恒常的に進め、時には組織内議員とも連携をとりながら、現場に立つ職員として住民サービスの低下を招かぬよう、私たちは将来の自治体運営に責任を持っていかなければなりません。そのためにも自治研活動を通じて正しい分析力、判断力を養っていくことが今後は重要であるように感じました。