【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
特別分科会 夕張からわがまちの財政を考える

三重地方税管理回収機構の設立の背景から
今後の課題・展望について

三重県本部/三重県職員労働組合・税務職員協議会

1. 機構設立の背景

 三重県の市町村税の徴収率は、2001年度実績で90.5%(全国平均92.0%)と全国38位であり、滞納額は265億円にのぼっていました。この額は、7年前(1994年度)の2倍、10年前(1991年度)の3倍にも増加していました。また、県内市町村の滞納整理においては、過去3年間に差押処分を実施していない団体が31団体もありました。
 このような状況を放置していると、納税者の地方税に対する不公平感は増大し、地方行政への信頼を著しく損ねることが懸念されていました。
 これらの背景としては、市町村では、徴収専門職員の不足(不在)、人事異動等により徴収の専門知識・ノウハウが蓄積されない、滞納者との距離が近く差押処分がやりづらい、行政への不満等による滞納事由から差押処分がやりづらい、などの理由があげられました。
 そこで、これらの状況の解決を目指す取り組みとして「県内全市町村がスクラムを組み広域的な徴収体制づくり」を進めることになりました。

2. 設立までの取り組み内容

 2002年2月に、三重県地方税収確保対策会議(地方税収の確保に関する諸問題について協議するため市町村代表と県で構成)において、2002年度に市町村と県が協働して広域的な徴収体制づくりを検討していくことを決定し、2002年5月、県内8地区の代表市町村と県からなる「三重県地方税広域滞納整理検討会」を立ち上げ、広域滞納整理組織のあり方の検討を進め、2004年4月に機構を設立する方向が合意されました。
 2003年4月、市町村との協働、調整及び具体的な設立準備等を行っていくために、市町村職員と県職員からなる広域滞納整理機構設立の準備室を設置しました。
 準備室では、組織体制案・規約案・予算案等を作成し、市町村との協働、調整を進め、機構設立までに県内各地区において、助役が出席する会議を延べ6回、税務徴収担当課長が出席する会議を延べ64回、担当者の説明会等を延べ9回行いました。
 2003年8月に開催された三重県地方税収確保対策会議で、県域での合意形成を図り、組織の概要をまとめ、10月には、県内全市町村長から機構への加入の承諾を得ました。12月から1月にかけて、全市町村議会での設立議案の可決を経て、県知事あてに設立許可の申請を行い、2004年3月に知事より設立が許可され、2004年4月に「三重地方税管理回収機構」が発足しました。
 機構が設立される前の2004年2月から3月には、市町村が、機構へ滞納事案を引継ぐ前に滞納者に対して「移管最終催告書」を送付し、納付期限を指定のうえ、自主納付を促しました。

3. 取り組みのポイント

 この取り組みは、市町村と県が協働して進めるもので、地方分権時代における地域の自立を念頭においた、協働の実践であります。
 市町村税の賦課徴収は市町村固有の業務であり、その業務を補完する組織として、市町村税徴収の技術的・精神的なバックアップ機関と位置づけました。
 県域を対象として取り組むにあたり、各県税事務所とも連携し、県税事務所の所管区域の各地区での協議・調整を図りました。また協議においては、組織体制、規約、負担金、派遣職員等の各案について、検討案の段階から市町村に説明し、市町村から出された意見は全市町村にフィードバックし調整を重ねました。
 機構の設立を広く県民に周知するため、取り組みの各節目でのマスコミへの資料提供、ホームページの開設、講演会の開催、市町村・県広報誌への掲載、ラジオ・新聞広報、ケーブルテレビCM等の広報活動を積極的に行いました。
 市町村が機構へ滞納事案を引き継ぐ前に行った移管最終催告書の送付を2月最終週に「集中送付期間」として設定し、県域で取り組みました。

4. 設立効果の手応え

 移管最終催告書は、全市町村で約8,000件を送付し、3月末までに、納付のあった徴収金額は、3億2千万円にのぼり、納付約束の金額を合わせた移管予告効果は、12億3千万円となりました。
 機構設立にあたっては、次のような効果を目指しました。
① 移管事案の直接徴収による滞納額の縮減
② 派遣職員を通じての徴収実務の知識・ノウハウのフィードバック
③ 実務研修や個別相談の実施による徴収技術の向上
④ 滞納処分を行う専門組織を立ち上げることによるアナウンス効果
⑤ 滞納整理の最終処理機関の存在による、精神的なバックアップ
⑥ 機構の活動を通じての市町村、県、機構との徴収体制の連携強化

5. 機構の概要


 組 織 名 称: 三重地方税管理回収機構
 設 立 年 月 日: 2004年4月1日
 性     格: 地方自治法第284条第2項に基づく一部事務組合
 構 成 団 体: 県内全市町(設立時66市町村、市町村合併により現在29市町)・県(支援)
 処 理 業 務: 市町村税・個人県民税の滞納整理(国民健康保険税を除く)、不動産公売、滞納処分の執行停止・不納欠損処分の適否判断、滞納整理に係る実務研修、滞納整理に係る個別相談
 組 織 体 制: 管理者1人(市・町長会からの推薦)、県からの派遣職員3人、市町からの派遣職員10人(2006年度から11人、業務補助職員4人(2005年度から5人)、顧問3人(弁護士・国税OB・警察OB)
 所  在  地: 三重県津市桜橋3丁目446-34(三重県津庁舎2F)
 負  担  金: 機構の運営に必要な経費を構成団体である市町が原則として応益負担(均等割額:10万円・処理件数割:20万円(2006年度から17万円)・徴収実績割額:徴収額の10%(2006年度から適用))

6. マネジメント方針

① 機構の目指すもの(ビジョン)
  市町税の徴収体制を強化するため、県内全市町が県域を対象とする広域的組織を設立し、税の公平性の確保と滞納額の縮減を図る。
  機構の活動をとおして、地方税の徴収体制における市町・県・機構の連携を強化し、納税秩序の確立と県民が自主納税する社会の実現を目指す。
② 機構の使命(ミッション)
  市町税の徴収の技術的、精神的なバックアップ組織と位置づけ、市町での整理困難事案を引き受け、専門的徴収手法を駆使し、滞納処分を前提に、迅速に滞納整理を行う。
  機構において蓄積された徴収実務の知識・ノウハウ・技術は、市町にフィードバックし、県内全域で市町の徴収業務の向上を図る。
③ 機構の基本姿勢
  「公平負担の原則」に立ち、きちんとまじめに納税している大多数の納税者との公平性を確保するために、徹底した滞納整理を行う。
  税を納付する能力がありながら納付しない滞納者からは、一歩も引かない、攻めの滞納整理を行う。
  滞納が増加している現実にきちんと向き合い、私たちも逃げない、そして悪質な滞納者は逃がさない。
④ 機構の活動指針
  使いやすい組織として市町ニーズの把握と反映に努め、頼られる組織として、引き受けた事案は、1年間で責任をもって、スピードある滞納整理を行う。
  市町と目的を共有し、効果的な情報連携に努め、一体感をもって活動し、滞納額の縮減と県域での徴収業務のレベルアップを図る。
  法律に基づいた基本どおりの滞納整理、情報管理の徹底と透明性の高い業務運営、まじめな納税者の声を反映した組織運営により信頼関係を強めていく。
⑤ 2008年度目標

  徴  収  額: 6億5千万円(滞納額縮減への貢献度の成果目標)
  完  納  率: 30%(事案の整理促進の成果目標、引受事案に対する完納処理した件数の割合)
  引 受 件 数: 740件(市町の機構活用状況を表す活動目標)
  差 押 件 数: 1,100件(滞納処分を前提とした滞納整理を行うにあたっての活動目標)
  不 動 産 公 売: 30件(滞納整理の最終処理機関としての活動目標)

7. 今後の課題と展望

 2007年度の活動報告がまだ出ておりませんので、2006年度までの実績を報告しますと、2004年度に設立してからの3年間の徴収総額は22億7千万円で、機構設立効果も69億2千万円となっています。
 これからも機構は、「公平は税の原則」・「悪質な滞納は絶対に許さない」・「真正面から滞納対策に取り組む」の基本姿勢で、滞納処分を前提に、迅速に滞納整理を実行していくため、毎年度年間目標を設定し、過去3年度とも目標値に近い実績を残すことが出来ています。
 新たな取り組みとして、2006年度よりインターネット公売を導入し、捜索により差押えた動産の換価も積極的に進めており、また2007年度には過払金債権(不当利得返還請求権)の差押(現在係争中)を行うなど、日々徴税技術のスキルアップを目指していくとのことです。
 機構は滞納額の縮減に加えて、市町からの派遣職員のスキルアップを図るという人材育成もその大きな柱としています。機構において派遣職員に2年間で蓄積された徴収実務の知識・ノウハウ・技術を、派遣元の市町にフィードバックし、県内全域で市町の徴収業務のレベルアップを図っていくこととしていますが、機構で得たノウハウが派遣元の市町に戻ってから十分に活かしきれていない状況(人事異動等)もあるようです。さらに、派遣職員を通じてフィードバックする以外に、今後は蓄積されたノウハウ等をいかに形式値化して県下全域に展開するかが重要な課題としてあるようです。
 また三重県では、市町併任職員制度を2000年度より導入し、数ヶ月単位で市町の職員として滞納処分等の業務にあたっている職員が現在4人います。2006年度からは、地方への税源移譲に伴い今後滞納額の増加が予想されている個人住民税対策として、地方税法第48条を活用すべく、本庁税務政策室納税支援グループ内に48条担当として現在3人が市町と協働して業務にあたっています。これら県の直接関与する業務と支援をする機構との業務の整理も今後検討していかなければならない課題となっているようです。
 派遣職員の勤務状況についてですが、差押・捜索等は県内全域・県外もあり、異議申立・公売(準備期間を含む)等検討を要する事案が多く、時間外勤務が必然的に多くなり(1人あたり500時間超/年)、精神的・肉体的に相当負荷がかかっています。年休の取得もままならない状況にありますので、今後勤務状況についても検討を行わなければならない課題となっているようです。
 今後これらの課題はありますが、機構の設立・活動を通じて成果をあげ続けていくことが、地方税の納税秩序の確立に貢献できるものと考え、「市町に活用される機構」「市町と連携する機構」として使いやすく頼れる組織、市町と目的を共有し、一体感をもって滞納額の縮減を果たす組織として活動していくとのことです。
 法律に基づいた基本どおりの滞納整理、透明性の高い業務運営、まじめな納税者の声を反映した組織運営により「納税者に信頼される機構」を今後も目指し、市町と県と機構が、地方税の枠組みで活動し、連携強化することを通じて「分権社会に対応した地方税の徴収体制」を確立し、県民が自主納税をする社会を実現していくよう今後も活動していくとのことです。


(参考文献)
三重地方税管理回収機構編「三重地方税管理回収機構の概要と設立経緯」
三重地方税管理回収機構ホームページ http://www.zei-kikou.jp/index.html