【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
特別分科会 夕張からわがまちの財政を考える

「岡山県自治体財政白書 2001-2006」作成の取り組み


岡山県本部/自治研究センターおかやま

1. はじめに

 2006年の「夕張ショック」によって財政危機が一気に注目を集め、2007年は「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」が制定され、多くの自治体が財政対策に頭を悩ませることになった。
 岡山では、市町村合併によって県内78市町村が27となり、合併後の財政問題が発生した。その上、岡山県知事は2008年6月、突然「財政危機宣言」を発表し混乱した。県民は、県財政が一体どうなっているのか、行政サービスがどうなるのか、安易な人件費カットを許すのではなく、これまで以上に監視を強めていかなければならない。
 そこで「健全化法」の対策前に、県を含む28自治体の財政の姿を誰でもがわかるように公表する必要があった。
 財政情報を議員や自治体職員ばかりでなく市民が理解し、自らの自治体財政の状況に向き合うことでしか、この「危機」を乗り切ることはできないと考えた。そのために、できるだけグラフ化しわかりやすくした。
 そして、従来の財政分析とあわせて政策選択の妥当性等を財政面で見るために、地方交付税の算定基礎となる基準財政需要額と決算額(歳出)の乖離について分析を行った。
 このレポートは、「岡山県自治体財政白書 2001-2006」作成にあたり、ある自治体をモデルとして試作した(2008年8月現在)。

2. 分析の方法

(1) 2001年度から2006年度の財政の動向を分析(動向分析)
 6年間の財政の動向を分析する。特にこの期間は「市町村合併」があり、また「三位一体改革」に伴う税源移譲・国庫支出金の一般財源化、「骨太方針2006」の歳出・歳入一体改革で公共事業の削減が行われている。その上で合併した自治体は合算処理して動向を見ている。

(2) 単年度の類似団体との比較分析(比較分析)
 2005年度の決算ベースで類似団体との比較(「白書」では2006年度で比較)をすることによって、自治体の特徴や問題点などをレーダーチャート化し分析する。

(3) 基準財政需要額と決算額の乖離分析(比較動向分析)
  各年度の基準財政需要額と決算額の乖離を見た。そして2001年度から2006年度の6年間の動向を分析した。
 「白書」では、今回の大項目(7)の乖離だけでなく小項目の乖離(54)を算出し、財政政策の分析を行う予定。

3. 分析の例~T市の場合

(1) T市の概要
 T市は人口6万7千人、人口密度は651人で、造船業で栄えている都市。産業構造は、一次10%、二次30%、三次が60%。財政力指数は、0.57(2006年)、経常収支比率は95.6%(2006年)となっている。
 平成の合併では近隣の市町との合併が計画されたが、市民の意向もあり非合併自治体となっている。2004年に台風の高潮被害が甚大であった。またその頃より財政も逼迫したが、基金(積立金)の取り崩し等によって、財政危機(実質収支の赤字)を回避し、「繰上充用」に至っていない。


図表1 人口動態

図表2 高齢化率の傾向
■人口はこの6年間で3千人減少した。エクセルで線形近似曲線を数式化すると毎年614人ずつ減少している傾向がわかる。
 高齢化率は4%上昇し、毎年平均して0.77%上昇し続けている。

(2) 6年間の動向分析(2001(平成13)年~2006(平成18)年)

① 歳入・歳出総額と標準財政規模の動向
図表3 歳入・歳出と標準財政規模の動向

■歳入は、平成13年に対して平成18年が18%減、歳出も同様に減少している。
■標準財政規模は11%減少しているがあまり変化がない。
※「標準財政規模」は標準税収入額に普通交付税を合算した額
※金額単位は千円


② 歳入構造の動向
図表4 主な歳入の動向

■歳入の各項目を見ると、平成18年で地方税(37%)と地方交付税(25%)が大部分を占めている。地方税のうち固定資産税が47%(平成18年)を占めている。
■平成16年より起債を抑え(平成13年比55%減)、繰入金が平成16年にピークを迎え、諸収入も緩やかに減少している。繰入金は、主に基金の取り崩しによる。
■税源移譲によって地方譲与税が増え(250%増)、一方で臨時財政対策債を除いた地方交付税が10億円(20%)減少している。地方交付税については、4)「基準財政需要額と決算の乖離分析」で内容をみる。
※地方交付税は臨時財政対策債発行可能額を含んでいない。


③ 目的別歳出の動向
図表5 目的別歳出の動向

■目的別歳出でみると、民生費が多く(平成18年、31%)変動も激しい。土木費はこの6年間で45%(34億→19億)と大きく減少している。
■商工費は、平成13年から14年にかけて大幅に減らし、教育費も平成15年をピークに減少している。
■総務費は、減少傾向にある。
■平成16年の高潮災害のため災害復旧費が発生している。歳出全体として10数%規模が縮小し、緊縮財政の方向にある。
※「民生費」のスケールは右側の軸


④ 性質別歳出の動向
図表6 性質別歳出の動向

■普通建設事業を三分の一に減らしているのが目立つ。
■扶助費は、徐々に増加している。
■補助費が平成15年に2倍以上増加している。
■平成13年から14年にかけて貸付金が大幅に減っている。
■平成16年、災害により維持補修費、物件費、貸付金は急増した。
■「財政危機」によって、平成16年と17年は積立(基金)ができなかった。
※右軸は「人件費」


⑤人件費・職員給と職員数の動向
図表7 人件費・職員給と職員数の動向

■性質別歳出で30%を占める人件費と内訳の職員給をみると、減少傾向にある。職員数の動向を併せてみると、職員数の減少(107人)が、人件費約10億円の減少に反映していることがわかる。
 行政サービスが低下していないか検証が必要。
※右軸は「一般職員数」


⑥負債(借金)残高と基金(貯金)の動向
図表8 地方債残高・債務負担行為と積立金(基金)の動向

■地方債残高、債務負担行為は減少傾向にある。積立金(基金)残高は急激に減少し、平成16年には特定目的基金を1億円残してほとんどなくなり、17年は財政調整基金も枯渇し、18年に少し戻した。平成15年から急激な資金繰りの悪化が顕著に表れている。
※線グラフの「積立金残高」は財政調整基金を含んだ額(右軸)


(3) 類似団体との比較分析(平成17年度決算ベース)

財政規模と財政指標の比較

図表9 財政規模

図表10 財政指標

■平成17年決算を同規模の自治体(類似団体)と比較すると、歳入・歳出は同レベルだが基準財政収入額が少なく、基準財政需要額が多いことがわかる。
■財政指標でみると、財政力指数が他より低いが、公債費(借金返済)関係の指標で起債制限比率・公債費負担比率を除き、問題はない。また新たな指標となる実質公債費比率も他団体並みとなっている。


(4) 基準財政需要額と決算額の乖離分析(平成13年~平成18年)
 基準財政需要額の大項目と対応する決算額を棒グラフで比較し、その差額を乖離として表し、6年間の動向を折れ線グラフにより示した。決算額は、当該年度の決算額に対応する公債費の元利償還額を加算している。


① 総額の動向-1基準財政需要額合計と決算額合計の乖離および基準財政収入額の動向
図表11 基準財政需要額と決算、基準財政収入額の動向

■基準財政需要額合計と決算額合計の乖離は縮小しつつある。原因は、基準財政需要額は大きな変動がないが、平成18年は平成13年に比べて、決算額を17%減少させたことによって、乖離が30%縮小した。
■基準財政収入額は、景気変動により平成15年が底になり、その後持ち直しつつある。
※差額(乖離)=決算額-基準財政需要額


①-2 経常経費計と投資的経費計の乖離
図表12 経常経費計・投資的経費計の動向

■基準財政需要額を経常経費と投資的経費にわけてみると、経常経費は増加傾向にあるが、投資的経費は半分に激減している。
■投資的経費と決算の乖離は、平成13年に対して平成18年は60%となり、基準財政需要額に対する決算額は118%と大幅に縮小した。
※「経常」は経常経費、「需要」は基準財政需要額、「投資」は投資的経費、「差額」は決算額から基準財政需要額を差引した額(乖離額)


②-1 消防費の乖離
図表13 消防費

■消防費は、一般的な自治体と違い、決算額が基準財政需要額上回っており留保財源など自主財源等からの持ち出しとなっている。
 しかし、傾向として乖離は縮小しつつある。


②-2 土木費の乖離
図表14 土木費

■土木費の乖離は、経常・投資的経費ともに縮小している。
■平成17年投資的経費の決算額は、基準財政需要額を下回っている。
これは他の歳出でも見られるように、公共事業削減によって財政危機を回避しようとしたことがわかる。


②-3 教育費の乖離
図表15 教育費

■教育費の投資的経費の乖離が広がった時期もあったが、平成18年にはマイナスとなっている。
■経常経費の乖離は平成17年がピークとなっている。


②-4 厚生労働費の乖離
図表16 厚生労働費

■厚生労働費の経常経費は、基準財政需要額が増加しているものの、平成17年から決算額は減少しているので、乖離は縮小傾向となっている。
■投資的経費の乖離は、平成13年に基準財政需要額に対して6倍以上あった決算額が、平成18年には2倍近くとなり、大幅に縮小している。


②-5 産業経済費の乖離
図表17 産業経済費

■産業経済費の経常経費の乖離は、平成14年に商工費を46%激減させて、その後も縮小傾向にある。
■投資的経費は緩やかに乖離が縮小していったが、平成17年から再び広がりつつある。


②-6 その他の経費の乖離
図表18 その他の経費

■その他の経費の投資的経費の乖離はマイナス基調となっている。
■経常経費の乖離も縮小しつつある


②-7公債費(交付税措置)の乖離

図表19 基準財政需要額の公債費

図表20 基準財政需要額に占める公債費の比率

■基準財政需要額に算定された公債費は、地方交付税に算入されている。傾向として決算との乖離は広がりつつあり、自主財源等で公債費(借金返済)に充てられている。
■基準財政需要額に占める公債費も平成15年以降減少傾向にあり、公債費が自主財源を圧迫している傾向を見ることができる。


T市の費目別基準財政需要額と歳出一般財源決算の比較


3. 最後に

 T市は、災害等による急な財政需要等による「資金繰り」の悪化を起点として、公共事業を大幅に減少させ、経常経費も削減、一方で起債を抑制し、財政規模を縮小させながら危機を脱出しようとしていることがわかる。
 一方、基準財政需要額と決算額の乖離で見ると、この自治体の特性によるものであるのか、財政運営・政策の失敗の結果であるのか、それとも政府による構造的なものか、再検討すべきところが随所で見えた。
 各自治体のデータの収集・入力については、岡山県本部単組・自治体議員ネットと共同して行った。並行して自治総研の高木健二研究員を講師に基準財政需要額との乖離をテーマに「財政分析講座」を3回開催した。

【主な参考資料:資料地方財政状況調査票(決算統計)、地方交付税算定台帳、自治総研の財政書籍】