【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
特別分科会 夕張からわがまちの財政を考える

宇佐市における集中改革プランの内容と財政収支試算


大分県本部/宇佐市職員労働組合・自治研推進委員会

1. はじめに

 2005年3月31日、新宇佐市が誕生してから3年、骨太の方針の一環である「三位一体改革」(2004~2006年度)により、地方交付税の削減が大きく打ち出される中での財政運営は極めて厳しいものがありました。
 総務省より2005年3月新地方行革指針(地方公共団体における行政改革の推進のための新たな指針)が示され、「行政改革大綱の見直し」と「集中改革プラン」の策定及び公表を求める通知が出されました。
 宇佐市においては、2005年7月行財政改革推進課を立ち上げ、改革に向けてのスタートが切られました。そして、健全な財政運営を確保しつつ、地方分権型社会にふさわしい市政を構築するとして「宇佐市行財政改革プラン」が策定されました。
  「宇佐市行財政改革プラン」の推進基本項目としては、次のとおりです。
 ① 健全な財政運営の確保
 ② 事務事業の整理合理化及び業務執行方式の見直し
 ③ 定員管理の適正化及び給与等の見直し
 ④ 時代に即応した行政組織機構の整備
 ⑤ 職員の意識改革と資質の整備
 ⑥ 情報化の推進による市民サービスの向上
 ⑦ 透明性の向上と市民との協働による市政の確立
  今回「集中改革プラン」における財政収支試算を検証するにあたり、最も重要な事は財政の持続可能性が保持できるかという事です。基金を取り崩しながらの綱渡り的な財政運営では、行き詰まるのは目に見えています。
 行革が自己目的化し、行政機能の低下をきたすような事にならないよう注視していく事が重要です。

2. 当初の財政収支試算

 初めに当初の財政収支試算について、2005年度・2006年度と年度ごとの検証をしてみます。

5ヶ年の財政収支試算(改革を行った場合)

3. 財政収支試算と決算との比較(2005年度及び2006年度)

 プラン策定時に行革を行った場合の財政収支試算と決算の比較がどのように表れているかを比較してみます。

※2005:2005年度
※+△:対前年度比

歳 入

2005改革試算(千円)

2005決算額(千円)

決算内容

地方税

5,555,935

5,620,204

市民税△1.30%、固定資産税+2.98%その他全体では+0.88%

地方交付税 

9,250,324

9,321,325

普通・特別交付税で+3.53%

国庫支出金 

3,193,712

2,982,532

合併推進体制整備費補助金や生活保護費負担金は増加したものの、学校施設費補助金・老人ホーム等保護費負担金が減で、全体では△4.81%

県支出金

2,258,470

2,408,446

災害復旧費の増加、電算統合事業、合併推進交付金等の減により、全体では△6.99%

市債

2,972,800

2,891,900

葬祭場建設、北部中学校改築事業費等で増、臨時財政対策債の減等により全体では△11.23%

その他

3,917,980

4,912,627

地方譲与税が+25.27%と大幅に増加したものの、繰入金等の△37.65%により全体では△17.04%

合計

27,149,221

28,137,034

△4.55%


歳出

2005改革試算(千円)

2005決算額(千円)

決算内容

義務的経費

15,015,119

14,719,735

 

うち人件費

7,020,100

6,840,101

退職手当組合負担金、特別職給与等の減少により△7.43%

うち扶助費

4,277,482

4,155,813

合併事由による生活保護費や保育所措置費の増で+4.84%

うち公債費

3,717,537

3,723,821

元金償還金は増、利子償還金は減で全体では△0.14%

投資的経費

4,480,809

4,642,190

普通建設事業費の減で△18.06%災害復旧費+101.53%全体では△9.05%

その他経費

8,294,728

7,706,107

 

うち物件費

3,390,116

2,806,949

新電算統合事業費等の減、戸籍電算化事業等の増で、全体では△14.00%

うち補助費等

1,333,686

1,267,289

中山間地直接支払交付金等の減により△12.70%

うち繰出金

3,009,695

2,914,237

老人医療、国保等の増、公共下水道、農排会計の減、全体では+1.39%

うちその他

561,231

717,632

貸付金、維持補修費の減、積立金等の増により全体では+33.53%

合計

27,790,656

27,068,032

△4.40%

形式収支
(歳入―歳出)

△641,435

1,069,002

 

 2005年度の財政収支試算と決算の概要をみると、大きな改革・改善効果があるように見えます{《形式収支》(歳入)-(歳出)=1,069,002千円}が、改革試算と決算を同一条件で比較するにはいくつかの調整が必要となります。基金残高を含めた比較では次のようになります。
  2005年度試算では     △641,435千円
  2005年度決算調整額では  △397,866千円
 以上のように、実際は243,569千円の赤字縮減の改革・改善効果があったことになります。しかし、2005年度決算の基金残高は、2005年度当初に比べ589,449千円減少しており、厳しい状況にあるのが現実です。

※2006:2006年度
※+△:対前年度比

歳 入

2006改革試算(千円)
(前年度金額)

2006決算額(千円)
(前年度金額)

決算内容

地方税

5,513,389
(5,555,935)

5,545,853
(5,620,204)

市民税+2.1%、固定資産税△4.8% 全体では△1.3%

地方交付税

9,000,566
(9,250,324)

9,083,788
(9,321,325)

交付税改革の影響で、各費目の単位費用や補正係数等の見直しにより△2.5%

国庫支出金

3,074,567
(3,193,712)

2,677,544
(2,982,532)

公立学校施設整備補助金や税源移譲による影響分や各種補助金の減により△10.2%

県支出金

1,670,003
(2,258,470)

2,260,133
(2,408,446)

耕地災害復旧補助金の増や農業費補助金の減で全体では△6.2%

地方債

2,305,100
(2,972,800)

2,383,600
(2,891,900)

義務教育債や臨時財政対策債の減で、△17.6%

その他

3,646,769
(3,917,980)

4,749,703
(4,912,627)

諸収入が+195.7%、地方譲与税が+23.7%と大幅に増加したものの、繰入金の△84.6%により、全体では△3.3%

合計

25,210,394
(27,149,221)

26,700,621
(28,137,034)

△5.1%


歳 出

2006改革試算(千円)
(前年度金額)

2006決算額(千円)
(前年度金額)

決算内容

義務的経費

14,854,849
(15,015,119)

14,580,038
(14,719,735)

△0.9%

うち人件費

6,703,047
(7,020,100)

6,626,151
(6,840,101)

特別職、職員給与、各種手当、退職金の減で、△3.1%

うち扶助費

4,357,210
(4,277,482)

4,153,665
(4,155,813)

障害者自立支援法の改正による支援費の減で△0.1%

うち公債費

1,794,592
(3,717,537)

3,800,222
(3,723,821)

元金償還金は増、利子償還金は減で全体では+2.1%

投資的経費

3,020,066
(4,480,809)

3,404,027
(4,642,190)

普通建設事業費△29.3%、災害復旧費△13.4%、全体では△26.7%

その他経費

7,856,312
(8,294,728)

7,948,492
(7,706,107)

+3.1%

うち物件費

3,259,307
(3,390,116)

2,571,643
(2,806,949)

指定ごみ袋、戸籍電算化導入事業等の減で、△8.4%

うち補助費等

1,36,834
(1,333,686)

1,225,585
(1,267,289)

競争力強化生産対策補助金返還金の増やプラン推進による単独補助金の減で全体では△3.3%

うち繰出金

3,146,619
(3,009,695)

2,900,747
(2,914,237)

老人医療、農業集落排水会計等の増、国保や特定環境下水道会計等の減で全体では△0.5%

うちその他

213,552
(561,231)

1,250,517
(717,632)

貸付金、維持補修費の減、積立金等の増により全体では+74.3%

合計

25,731,227
(27,790,656)

25,932,557
(27,068,032)

△4.2%

形式収支
(歳入-歳出)

△520,833
(△641,435)

768,064
(1,069,002)

 

 2006年度も2005年度と同様に、改革試算と決算の比較を基金残高を含めた同一条件で比較すると
     2006年度試算では     △520,833千円
     2006年度決算調整額では   213,945千円
となり、734,778千円の改革・改善効果があったことになります。
 この改革・改善効果には、経費節減等の財政効果が目標額を上回ったこと、市税・交付税が改革試算を上回ったことが関係していますが、職員の意識改革による財政健全化への取り組みも大きな要因のひとつであると思います。

4. 財政指数

 次に、財政構造の根幹をなす主な指標について、2004年度から2006年度決算で比較してみます。

(1) 経常収支比率……経常経費充当一般財源/経常一般財源
(一般的に70~80%が健全財政状況)
  2004年度 100.6%  2005年度 96.0%  2006年度 95.4%
 若干の改善はみられるが、依然高い水準にあり財政の硬直化は否めない状況下にあります。

(2) 公債費比率……公債費についての実質的な自治体財政負担をみる指標
(15%が警戒ライン、18%危険ライン)
  2004年度 16.1%   2005年度 15.5%  2006年度 16.0%
 警戒ラインを超えており、借金返済に多くのお金が割かれ、財政に余裕がないことを示しています。

(3) 公債費負担比率……公債費に充当する一般財源の額をできる限り増加させないようにするための指標
(15%が警戒ライン、20%以上が危険ライン)
  2004年度 17.3%   2005年度 18.0%  2006年度 19.3%
 警戒ラインを超え、危険ラインに近づいています。

 以上、県下市平均並の数値もありますが、県下市・全国平均より高い数値もあり、国や県の方針に左右されない財政体質を築いていく事が必要です。

5. 基 金

 次に「積立金の現在高」ですが、特に重要なのは、財政調整基金と減債基金であるので、これらについて見てみます。

(単位:千円)
 

2004年度中の増減

2004年度末
残高

2005年度中の増減

2005年度末
残高

積立額

取崩額

積立額

取崩額

財政調整基金

480,239

979,176

1,082,912

570,063

570,000

1,082,975

減債基金

59,680

39,342

750,943

 

174,466

576,477

その他の基金

1,137

797,166

3,446,871

348,660

345,683

3,449,848

合計

541,056

1,815,684

5,280,726

918,723

1,090,149

5,109,300


 

2006年度中の増減

2006年度末
残高

積立額

取崩額

財政調整基金

541,389

78,029

1,546,335

減債基金

5,664

39,716

542,425

その他の基金

868,224

12,095

4,305,977

合計

1,415,287

129,840

6,394,737

 

 財政調整基金についてはいくらか増加していますが、積極的に行っていく必要がある繰上償還の財源となる減債基金については取崩額の増により減少しています。

6. 職員退職基金残高と退職予定者数

 職員退職基金と退職予定者数の推移は次の通りです。
(単位:千円)

年度

2004年度積立額

2004年度末残高

2005年度積立額

2005年度末残高

2006年度積立額

2006年度末残高

職員退職基金

50

784,619

337,680

1,122,299

200,788

1,323,087


(今後10年間の定年退職予定者数)

年度

2008

2009

2010

2011

2012

2013

2014

2015

2016

2017

予定者

30

30

53

20

20

27

18

12

16

13

 職員退職手当基金については毎年積み立てているものの、今後10年間に200人以上の退職予定者があるため、積み立てを積極的に行い、財源の年度間調整を行っていかなければなりません。

7. おわりに

 「集中改革プラン」による行政改革は、国の財政政策に大きな問題があることは言うまでもありません。「宇佐市行財政改革プラン」を行財政改革課等の資料を基に検証をしましたが、数字的に見れば行革により赤字縮減の改革・改善効果があったようには見えます。しかし、宇佐市においては、全職員の給料5%カット(2006.4月~2010.3月)をはじめ、出張旅費・特殊勤務手当の見直し等さまざまな合理化をうけました。
 職員数の変化を見てみても、合併時、本庁665人・安心院支所67人・院内支所88人に対し現在では、本庁679人・安心院支所36人・院内支所28人と両支所においては職員数が激減しました。行革の結果もたらされたのは、人件費の抑制・職員数の減であり、住民サービスの低下・職員一人一人にかかる負担の増であることには、間違いありません。
 昨年成立した「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」(財政健全化法)により、一般会計とその他の特別会計を含めた、新たな健全化判断指標の公表が、今年度より求められるようになりました。「集中改革プラン」の5ヶ年間で、改革・改善効果の展望は、不確定なところが多いため見通しがつかず、新たな行革を強いられることも予想されます。わたしたちは今後の動向に注視し、更なる検証を行い、真に住民の幸せに結びつく行財政の姿を求めなければいけません。