【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
特別分科会 夕張からわがまちの財政を考える

豊後大野市の財政分析


大分県本部/豊後大野市職員連合労働組合・自治研部・行財政研究部会

1. はじめに

 国の進める三位一体の改革により、地方自治体が大きく依存している地方交付税は年々減少してきています。さらに、地方の長引く景気低迷や過疎化・少子高齢化の進行による生産年齢層の減少からも地方税は伸び悩んでおり、地方自治体は極めて厳しい財政運営を強いられている状況にあります。一方、行政に対する住民のニーズの多様化・高度化は、今後ますます増加していくものと思われ、歳入の減少行政需要の増大という相反する事象への対応のあり方が問われています。
 厳しい財政状況を立て直すために、豊後大野市は2006年3月に「豊後大野市行政改革集中改革プラン」を策定しました。このプランに沿って給与引下げなど様々な改革が行われています。
 本市の財政状況を細かく見ていきながら、現状と集中改革プランの目標と現時点での効果について検証したいと思います。

2. 歳入の状況

 本市の普通会計の歳入総額は2004年度28,997百万円、2005年度、29,530百万円、2006年度28,986百万円と29,000百万円前後で推移しています。歳入の大きな比率を占める、地方交付税、地方税、国県支出金、地方債について見ていきたいと思います。


【図表1】歳入の状況

(1) 地方交付税
 歳入の中で最も大きな割合を占めているのが地方交付税です。2006年度では、歳入全体の41.8%を占めています。「合併算定換え」や基準財政需要額に算入された公債費の増加により、三位一体改革等による影響を相殺しているように思われます。
 しかし、本市の交付税が「一本算定」となる2020年度には公債費や人口減少を加味し約4,300百万円の減額が予想されています。
 また、2007年度より導入された「新型交付税」にも注目する必要があります。これまで基準財政需要の算定には人口や学校数、高齢者数等、様々な測定単位が設定されていましたが、この基準財政需要額の項目の投資的経費について、その大部分が「包括算定経費(新型交付税)」に置き換えられました。この包括算定経費は人口と面積の要素が大きく反映されるため、人口の少ない自治体や面積の小さい自治体ほど影響が大きくなる可能性があります。
 現在、基準財政需要額に占める新型交付税は10%程度とされていますが、将来的には30%程度まで比率が高められるとしていますが、具体的な影響額の試算が困難なため、今後の交付税の動向について注意が必要です。

(2) 地方税
 次に、地方自治体の歳入の基幹となる地方税ですが、2004~2006年度は2,950百万円~2,960百万円台で推移し、歳入全体の約10%を占めています。このうち市民税については、2006年度において1,124百万円、固定資産税においては1,469百万円の収入実績で、固定資産税の比率がやや高くなっています。市民税は、人口の増減や景気状況に左右されることが多く、人口が減少している本市の状況や昨今の景気から判断すると大きな増加は見込めません。
 一方、固定資産税は、自治体内にある個人・法人所有の資産に対し課税されるものであり、市民税ほど外的な要因に左右されないため、将来的にも安定した財源として捉えることができます。固定資産税の収入が住民税の収入を上回ることは、安定した税収入を確保する観点からは好ましいと思われます。
 しかしながら、定住促進、企業誘致等の政策を展開すると同時に、近年増加傾向にある地方税等の滞納問題に対しても積極的に取り組み、自主財源である市民税の確保への努力を怠ってはなりません。

(3) 国県支出金
 続いて、国県支出金についてですが、2004年度から2005年度にかけて625百万円増加しています。これは旧町村時代にはなかった生活保護事務に対しての国県の負担金608百万円の増加が影響しているものと思われます。
 国県支出金の中では児童手当や生活保護などの民生費の財源としての負担金・補助金や道路新設などの普通建設事業費の財源となる補助金が大きな割合を占めています。民生費などの社会保障の事業に対する収入については、大きな制度改正がない限り、毎年度、同水準または若干の増加で推移しますが、この国県支出金が乱高下する場合は、災害復旧事業や普通建設事業に対する収入が大きく影響しているものと考えられます。災害復旧事業については別として、このような状況が見受けられる場合は普通建設事業が計画的に実施されているか詳細を確認する必要があると思われます。

(4) 地方債
 最後に地方債ですが、2004年度末の市債現在高は38,301百万円となっています。旧町村時代に積極的に公共事業を行ってきた結果として、合併後の新市として多額の債務を背負うこととなりました。
 2004年度~2006年度の地方債収入は約3,300百万円~4,000百万円で推移しています。2006年度の内訳は、合併特例事業債1,513百万円、過疎対策事業債488百万円、臨時財政対策債841百万円が主なものです。
 年度末地方債現在高は、2004年度末~2006年度末で1,433百万円減少しています【図表2】。将来の負担を考慮し、繰上償還の実施や公共事業を控え地方債発行を抑えた結果が反映されているものと思われます。また、集中改革プランにおいて起債シーリングを設定し、2006年度~2009年度の各年度における起債上限額を3,000百万円、2010年度以降は同じく2,500百万円とすることとなったため、今後も地方債残高は減少していくものと予想されます。
 地方債は将来の財政負担を伴うため、地方債発行については長期な収支のバランスを考慮して慎重に対応していかなければなりません。

【図表2】年度末地方債現在高

3. 歳出の状況

 本市の普通会計の歳出総額は、2004年度27,623百万円、2005年度28,306百万円、2006年度27,497百万円と28,300百万円前後で推移しています。2006年度の歳出総額における性質別構成比【図表3】を見ると、人件費22.5%、投資的経費19.2%、公債費18.5%と突出しています。その中でも義務的経費の人件費と公債費、また、集中改革プランで縮減が明記されている物件費・補助費等、特別会計と関係の深い繰出金に着目してみます。


【図表3】2006年度 歳出の性質別構成比

(1) 人件費
 人件費が高い構成比を示す要因としては、小規模7町村が合併したことにより合併当初の職員数が723人(普通会計支弁職員)となったことがあげられます。類似団体と比較してもほぼ2倍となっています。【図表4】のとおり、2004年度と2005年度で支出額が451百万円増加しているのは、制度改定による増加が主な要因です。2005年度と2006年度で支出額が6,474百万円から6,190百万円と284百万円減少していますが、これは退職者が29人と多かったことと、集中改革プランに沿い2006年4月~2009年3月までの期間、特別職については給料の10%~7%、一般職については給与の5%を引下げることになり、その影響が現れているものです。
 しかし、今後数年間は団塊世代の退職が控えており、退職手当組合負担金の動向を注視していく必要があると思われます。

【図表4】人件費の推移

(2) 公債費
 次に公債費が高い構成比を示す要因としては、合併前の町村時代、景気対策や地域振興策として積極的に実施してきた公共事業があげられます。2004年度~2006年度における公債費は5,000百万円を超え【図表5】、類似団体と比較しても約2倍の額となっており、本市の財政を大きく圧迫しています。また、集中改革プランにおいて過去の起債の繰上償還を行うこととしており、このことも短期的に公債費を増加させる要因であると思われます。

【図表5】公債費の推移

 しかし、【図表2】のとおり、毎年度、地方債残高は減少してきていること、起債シーリングを設定していることもあり、中長期的には公債費を圧縮することができるのではないかと思われます。
 また、起債シーリングを設定することにより、公共事業の選択が図られるようになります。計画的に公共事業を実施していかなければならなくなり、結果として普通建設事業費の過剰な支出を抑制することとなります。

(3) 物件費・補助費等
 また、物件費・補助費等も合わせると16.1%と、上記に続き大きな構成比を占めるものとなっていますが、これも合併により旧町村ごとに整備された庁舎、教育・文化施設、体育施設、保健福祉施設等をそのまま引き継ぎ、1つの自治体で7つの自治体に相当する公共施設を保有する状況となったことが要因です。老朽化した施設の維持にかかる経費等が増大し、本市の財政状況に少なからず影響を与えています。また、補助団体等についても、上記の施設同様に合併前の補助団体等を引き継いでおり、補助費等が増大する要因となっています。
 集中改革プランでは、前年度比△20百万円~△30百万円で削減することとなっています。


【図表6】物件費・補助費等の推移

(4) 繰出金(公営企業への出資金等を含む)
【図表7】繰出金の状況
  本市には公営企業会計(上水道事業、病院事業)を含む特別会計が9会計あります。一般会計からこの特別会計への繰出金の状況ですが、2004年度1,940百万円、2005年度2,202百万円、2006年度2,220百万円と年々増加する傾向にあり【図表7】、歳出全体に占める割合については2006年度において8.1%となっています。内訳では、介護保険、老人保健、国民健康保険の占める割合が大きく、2006年度において3会計が占める割合は82.6%となっています。国民健康保険、老人保健、介護保険などの事業に対する繰出金ついては法律で繰出を義務付けている経費があり、会計の健全度とは関係ないものです。
 上水道事業、下水道事業などへの繰出は整備費や公債費を補てんする目的で支出されています。病院事業への繰出は、公債費や救急医療の確保、高度医療に要する経費の補てん分などです。これらの会計は独立採算ではありますが、公共性という観点から、一般会計と同様に住民のある程度の負担は必要であると考えられ、一般会計からの繰出基準が総務省から示されています。
 繰出基準を超えた繰出金は、一般会計を大きく圧迫することになるため、一般会計の財政負担を軽減するためには、特別会計の健全度に注視し、一層の健全化にも積極的に取り組まなければなりません。
 病院事業を例にすると【図表8】、一般会計からの繰入金は、2005年度167,550千円、2006年度167,968千円であり、普通交付税の基準財政需要額への算入額がそれぞれ、171,451千円、166,152千円となっており、おおむね操出基準に則った繰出がされているといえます。また、資金収支差額がある程度の金額を保持しているため、安定した事業継続が可能であり、赤字補てんのための繰出は必要ないことがいえます。
 また、病院事業、上水道事業等の公営企業についても集中改革プランを策定し、事業の効率化、より充実したサービスの提供に向け取り組んでいるところです。

【図表8】

4. 基金の状況

 歳入の状況でも触れましたが、本市において普通交付税が本来の姿となる2020年度には公債費や人口減少を加味し約4,300百万円の減額が予想されています。また、2015年度からは、本来の姿に近づけていくために5年間をかけて交付税を徐々に減らしていく「階段落ち」が始まります。全国的にもこれほど交付税が減少する自治体は少なく、今後の財政運営を考えると基金を積み立て財政基盤を強固にしておく必要があります。
 財政調整基金については、2004年度の合併当初から501百万円の増加、減債基金については200百万円の増加、特定目的基金については1,062百万円の増加となっています。特に特定目的基金については、集中改革プランに沿い「地域振興基金」を造成し、合併特例債を財源として積立を行っています。当然、この合併特例債についても起債シーリングの範囲内で発行しており、地方債残高を増加させないよう配慮されています。


【図表9】基金現在高

5. 財政指標の状況

 自治体の財政状況を判断するために様々な指標がありますが、2006年度における本市の指標をいくつか見てみます。

(1) 財政力指数 0.27
 地方公共団体の財政基盤の強弱を示す指数で、標準的な行政活動に必要な財源をどれくらい自力で調達できるかを表しており、普通交付税の算定基礎となる基準財政収入額を基準財政需要額で除して得た数値で、1に近いほど財政に余裕があることを示します。
 本市においては基幹産業である農業が不振であり、大きな企業の数が少ないことなどから、税収が伸び悩んでおり、県内市町村平均0.42と比較しても、自主財源が乏しく財政基盤が弱いことがうかがえます。

(2) 経常収支比率 97.0%
 税などの一般財源を、人件費や扶助費、公債費など経常的に支出する経費にどれくらい充当しているかをみることで、財政の健全性を判断します。この比率が高くなる程、公共施設の整備など投資的な経費に充当する財源の余裕が少なくなり、財政運営が厳しくなります。
 都市にあっては75%前後であるのが望ましく、80%を超えると財政構造の弾力性が失われつつあるといわれています。
 本市においては、2004年度101.6%、2005年度97.3%と、毎年度、改善は見られますが、県内市町村平均92.5%と比較しても依然高い率であり、特に公債費については27.8%で、財政状況を圧迫する基準となる20%を大きく超えており、公債費削減に特に力を入れなければなりません。当然、その他の経費についても削減に取り組まなければなりません。

(3) 実質収支比率 9.0%
 標準財政規模に対する実質収支(歳入から歳出及び翌年度へ繰り越す財源を引いた額)の割合をいいます。一般的には、3~5%程度が望ましいとされ、マイナスとなった場合は赤字団体ということになります。
 本市は新規の事業等の実施を控えているため、若干、高めの数値となっています。

6. まとめ

 このように、様々な項目を見てきましたが、本市の財政状況は合併前の7町村の財政状況をいまだ引きずり、スケールメリットを生かした財政力強化や行政運営は実現できていません。それどころか、国のさらなる財政制度改革や景気低迷などにより、一層、自治体運営に厳しさが増しているように思われます。
 自治体の財政破綻を未然に防ぐ目的で2007年6月に地方自治体財政健全化法が成立しました。一般会計だけでなく特別会計についても効率的な財政運営が求められます。
 今、地方分権、地方の自立といわれながらも国に依存している地方自治体の体質をいかに早く改善していくかが問われています。
 その取り組みの一つが集中改革プランです。集中改革プランへの取り組みは始まったばかりで、その全体効果を検証するにはもうしばらく時間が必要です。
 豊後大野市職労自治研部行財政研究部会としては、地方自治体が直面するこの難局を乗り越えるためには自治体職員と住民の意識改革が唯一の手段だと考えます。今後も継続的に財政分析や集中改革プランの検証を行い、職員・住民への啓発を行っていきます。