【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
特別分科会 夕張からわがまちの財政を考える

日出町の公共下水道事業会計について


大分県本部/日出町職員労働組合

1. 下水道の役割と日出町における整備状況

 戦後の急激な経済成長や生活様式の変化の結果、川や海の水質汚染問題がクローズアップされ、水質保全の重要な対策として下水道が位置づけられた。また現在では、水質汚濁の防止のほか、(1)悪臭や蚊・ハエなどの発生の防止、(2)伝染病の予防及び大雨による浸水被害の防止、(3)資源の有効活用などその役割は大きなものとなっている。現在では、欠くことのできない都市基盤整備の一つであり、時代の変化とともに多様な役割を果たしていると言える。
 日出町においても、住宅団地の造成や大分市や別府市のベッドタウン化により人口が増加するなか、公共下水道事業(1977年3月事業開始、1986年4月供用開始)、漁業集落排水事業(1988年4月事業開始、1994年3月供用開始)、農業集落排水事業(1992年4月事業開始、1997年3月供用開始)を行ってきた。漁業集落排水事業及び農業集落排水事業については、計画面積の事業を終了していることから、今後事業拡張することはなく、下水道接続率を向上させるための啓発活動、また施設の維持管理が主になるが、公共下水道事業については、計画面積の約55%しか供用されておらず、事業はまだ道半ばといった状況であるといえる。

下水道整備状況(2006年度末)
 
農業集落排水事業
漁業集落排水事業
公共下水道事業
事業開始年度
1992年4月1日
1988年4月1日
1977年3月8日
供用開始年度
1997年3月31日
1994年3月31日
1986年4月1日
全体計画面積
25ha

12ha

774ha

全体計画人口
1,110人
1,000人
22,680人
処理区域面積
25ha
12ha
428.4ha
処理区域人口
889人
909人
11,369人
設置済人口
706人
801人
9,214人
世帯数
249世帯
264世帯
3,564世帯
水洗化率
79.42%
88.12%
81.04%

2. 元利償還金の返済と繰上償還

 下水道整備事業における財源は、国からの補助金、起債(借入金)及び一般財源である。1980年代後半から1990年代前半頃に行った整備事業の財源とした起債の借入利率が年利5%台から7%台と高かったために、その後の元利償還金の支払が重くのしかかっている。借入金残高についても、漁業集落排水事業及び農業集落排水事業については、整備事業が完了しているため毎年度着実に減少しているが、公共下水道事業については、平成のバブル景気が終わり、その後の景気対策として、国が地方に対し積極的な公共投資を推し進めたことなどから、整備工事を積極的に進め、2003年度末には45億円にまで膨らんだ。しかし、ここ数年は町の財政が厳しいことを踏まえ、整備事業費を抑えていることからやや減っている。



 公債費の負担が大きいのは日出町だけではなく、全国的な問題であるといえる。そこで、国は公債費負担の軽減対策として、2007年度に「公的資金補償金免除繰上償還等実施要綱」を作成し、地方公共団体を対象に2007年度から3年間で5兆円規模の公的資金の補償金免除繰上償還を行うこととした。「公的資金」とは、旧運用部資金(財政融資資金)、旧簡易生命保険資金、公営企業金融公庫資金のことを指す。本来、繰上償還する場合は、償還期限までの利子相当額を「補償金」として支払うことになっているが、今回3ヵ年の期間限定でその「補償金」を支払うことなく繰上償還することができるようになった。
 しかし、これは全自治体を対象にしたものではなく、下水道事業については、資本費(注1)や経常収支比率などが国の定めた基準を満たし、その上で徹底した総人件費の削減等を内容とする財政健全化計画または公営企業健全化計画を策定し、その内容が行財政改革・経営改革に相当程度資するものであることが条件となっている。
 日出町においても、普通会計(注2)をはじめ、上水道会計、公共下水道会計、漁業集落排水会計が今回対象になった。公共下水道会計では今回の繰上償還実施に伴い、年利5%以上の元利償還金について該当し、まず年利7%以上のものを2007年度末に償還し(公営企業金融公庫分については、一部年利5%以上を償還)、2008年度末に年利6%以上7%未満、そして2009年度に年利5%以上6%未満の元利償還金を繰上償還していくことになっている。繰上償還の財源としては、借り換えで対応することになっており、2007年度借り換え分については、その大半を銀行など民間の金融機関に利率を照会し、年利1%台前半で借り換えを行うことができた。予定通り2009年度までに繰上償還を行った場合、その効果額つまり繰上償還しなかった場合の残りの期間の利息分から、借り換えを行った場合の利息分を差し引くと、公共下水道会計だけで約3億円弱にもなる。(2008度以降借り換え分については今後行うのであくまで見込みの金額ではある。)
 このように財政面においては非常に効果が大きいことは言うまでもないが、ここで問題なのが、先ほども述べた繰上償還実施の条件である財政健全化計画・公営企業健全化計画の策定である。この健全化計画は総務省から示された様式に沿って、健全化の基本方針、繰上希望額、財務状況の分析、今後の経営見通し、健全化に向けた施策、繰上償還実施に伴う経営改革促進効果など多岐にわたる項目の作成を要する。今回繰上償還の実施については、総務省からの通知が県を通じて2007年8月にあり、同月17日に県の説明会、9月下旬に健全化計画書の提出、10月下旬に県及び大分財務事務所(財務省の出先機関)による合同ヒアリングがあり、12月下旬に総務省および財務省の承認があった。地方自治体の担当者にとってはタイトなスケジュールであったといえる。また、計画の実施状況を確認するため、毎年度合同ヒアリングが実施される予定であり、計画が実施されていない場合は、繰上償還の減額または中止、延期もありうるとし、計画の確実な実行が求められている。
 なお、今回日出町が作成した健全化計画には、「行政改革(経営健全化)に関する施策」に関する項目があり、その中の「職員数の純減や人件費の総額の削減」について、「2006年4月の給与構造見直しの際、国と若干異なった切り替えを行い、国よりも早いペースで平均給料が上がる結果となり、2009年度までに昇給昇格の運用を変更するなどの方策で給与水準の上昇を抑え、人件費の削減を行っていく。」との具体的内容が記述されている。人件費の削減という合理化についての記載がホームページにそのまま公表されることは、「町民への公表」を盾に、当局側による一方的な合理化・人件費抑制へとつながる恐れがある。日出町は職員一人当たりの人口数が約130人と県下で最も多く、2004年度当初236人いた職員は、日出町行財政改革プランに基づき、2007年度当初は214人にまで削減され、2005年4月から2009年3月まで職員給料を月額5%カットしている。ちなみに、繰上償還の承認については、健全化計画の住民への公表が前提であり、2008年3月19日ホームページに公表している。

3. 下水道使用料の引き上げと繰入金の削減

 公共下水道会計については、使用料の引き上げも大きな問題である。現在日出町の使用料単価(注3)は、2006年度で129円/m3であり普通交付税算定の目安となる150円/m3を下回っており、2008年度以降この基準を超えていない場合は、下水道高資本費対策にかかる交付税措置(注4)に該当しなくなる。そうなると、町の税金からの繰入金が増えることになる。一般会計からの繰入金が多くなると、本来の行政サービスに財源がまわらなくなる恐れがあり、下水道の使用できる住民と使用できない住民との負担の不公平を生むことになる。また、使用料回収率(注5)が低く(2006年度で31%)、全国平均(約62%)の半分である。つまり、使用料でまかなうべき維持管理費や資本費(元利償還金)の割合がかなり低いといえる。また、国(総務省)は一定の要件を満たす場合にのみ資本費の一部について一般会計からの繰入を認めており、その基準も2008年度より「月20m3使用した場合の下水道使用料が3,000円以上」(150円/m3)と通知している。
 そのため、日出町においても2009年4月をめどに使用料の改定を予定しているようである。日出町は2005年度から行財政改革プランの沿った財政再建を行い、特別会計への繰出の抑制も大きなテーマとなっている。繰出を減らすには、公共下水道会計からみれば、歳出の削減とともに歳入の確保・増収が求められる。つまりは下水道使用料の見直しへとつながるのである。下水道事業は公営企業と呼ばれ、地方財政法の規定に独立採算制の原則が適用されている。経営は独立採算を義務付けられているが、雨水の排除に要する費用など一般会計で負担すべき費用を除いた維持管理費や減価償却費などは、下水道使用料で賄うこととされている。このようなことから、一般会計からの繰入金が完全に無くなるわけではないが、独立採算の原則に少しでも近づく必要はある。2002年から日本の景気は拡大し、戦後最長を更新しているといわれているが、その恩恵にあずかっているのは大企業とその一部の人であり、地方においてその実感はまったくない。パート労働者また派遣社員の増加などで給与水準は抑えられ、生活は厳しくなるばかりである。また昨年からの石油や生活用品等の値上げは消費者である我々には家計を直撃するものである。そのような状況のなか今回、下水道使用料の値上げは、町民にとっては認めがたいことではある。しかし、町の財政も厳しい状況であり、下水道使用料は県下でも別府市、大分市についで低いという状況もある。住民への情報提供や丁寧な説明を行うことが、理解を得ることにつながることは間違いない。(ちなみに現在の下水道使用料は、基本料金10m3までが900円(税別)、11m3以上20m3までが1m3あたり110円(税別)、21m3以上50m3までが1m3あたり150円(税別)、それ以上は1m3当たり165円(税別)。)



4. 下水道事業の今後について

 汚水処理を行う浄化センターについても、供用開始後20年以上経過し、耐用年数15年と言われている処理系列(水槽)の老朽化や下水道接続世帯増加に伴う処理能力の限界等から、施設の増改築が必要かつ急務となっている。これを2008年度から4、5年で実施する予定であり(2008年度に調査設計委託、2009年度から増築、2011年度から改築予定)、事業費も毎年1億円から2億円必要となる。国庫補助金に加え起債を財源とするため、起債残高及び元利償還金も増加することが予想される。
 先ほども述べたが、日出町は大分市や別府市のベッドタウンとして人口が伸びていることもあり、今後も宅地開発による住宅建設が進むことが考えられる。その際、下水道整備の有無も住宅を建設する上での判断材料になるであろう。また、計画区域ながら未整備の区域や計画外区域の住民からの要望あり、下水道整備の拡張工事を中止することは考えにくい。先日も由布市が旧挟間町で計画していた公共下水道計画を供用前に中止する方針が発表された。下水道は、将来にわたり利用できる処理場等を最初に建設するため、先行投資型の事業であり、長期間にわたり返済できる資金(起債)を借り入れ、その返済については、将来下水道を使用する住民にも「使用料」という形で負担する仕組みとなっているため、初期投資が大きいといえる。また、整備をしてもその対象世帯がすべて加入するとは限らない。宅内排水設備工事の費用は自己負担であり、既に個別に浄化槽を設置している世帯には、支障はないため未接続の世帯もある。
 北海道夕張市が財政再建団体に指定され、国では2007年6月いわゆる「財政健全化法」が成立し、4つの健全化比率(実質赤字比率、連結実質赤字比率、実質公債費比率、将来負担比率)を指標に、地方自治体の早期健全化基準と財政再生基準が定義されている。4つの比率の算出には、公営企業会計やその他の特別会計などすべての会計の収支や後年度の財政負担も関係する。1つでも基準を超えれば、健全化計画または再生計画を作成し、議会の議決、住民への公表、県や国への報告などが求められる。そのため下水道会計についても、町の財政状況が厳しいなか事業費を抑えつつも、計画的かつ効率的な整備を行い、住民の要望に応えることも重要である。場合によっては、合併処理浄化槽も選択肢の一つであろう。節水意識の高まり、将来的な人口減少など下水道事業を取り巻く環境は厳しいが、今後は戸別訪問など加入率向上のための普及啓発活動を推進し、使用者である住民に適正な負担を求めながら経営の安定化、健全化に努めることが一般会計からの繰入金の削減につながり、本来の望ましい下水道事業の経営つながり、ひいては将来にわたって持続可能な地方自治体の財政運営を確立することにつながることになるであろう。




注.
(注1)資本費……下水道等を整備するための資金として借り入れた起債の元利償還の返済に使われる費用の年間有収水量に占める割合。
(注2)普通会計……地方財政統計上、統一的に用いられる仮想(バーチャル)会計。 一般会計とは、地方公共団体の会計の基本的なもので、行政運営の基本的な経費を網羅した会計。ちなみに日出町における普通会計は、一般会計及び土地区画整理事業の一部。
(注3)使用料単価……使用料収入/有収水量。有収水量1m3あたりの使用料収入で、使用料の水準を表すものである。有収水量とは、配水量のうち下水道を接続している世帯が使用した料金収入として有益となる水量。
(注4)下水道高資本費対策にかかる交付税措置……下水道を促進するという理由などから使用料金を低く設定している地方自治体もある。しかし、国は維持管理費や資本費に対して使用料が低すぎる団体に対して、2008年度より高資本費対策分の交付税措置を廃止する方針を打ち出した。つまり、本来使用者から回収すべき経費を繰入金や繰入金の財源となる地方交付税に頼りすぎず自主的に回収しなさい、使用料を一定以上に上げなさいという方針である。交付税措置がなくなれば、税金から繰入することになり、自治体財政を圧迫することになる。
(注5)使用料回収率……汚水処理に要した費用に対する使用料による回収程度を表すもので、経営の効率性を示す指標の一つであり、下水道事業の経営を最も端的に表している指標と言われている。回収率が高いほど、使用料で費用(維持管理費や資本費)がまかなえているといえる。