【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
特別分科会 夕張からわがまちの財政を考える

佐伯市集中改革プランの検証


大分県本部/佐伯市職員労働組合

1. はじめに

 佐伯市行財政改革推進プラン(佐伯市集中改革プラン)は、総務省の「地方公共団体における行政改革のために新たな指針の策定について」を受けて、2005年度末に策定された。ちょうど1年前の2004年度末に9市町村合併により発足した佐伯市であるが、合併前の「三位一体改革」に続く合併後の「歳出・歳入一体改革」の追い打ちで、合併前の財政優遇措置等への期待はどこへやら、合併はしたが、思い描いたバラ色の新市とは遠くかけ離れた行財政運営を強いられる状況でのスタートとなった。合併から3年、集中改革プランスタートから2年が経過した現在、課題と今後の見通しを検証してみる。

2. 佐伯市行財政改革集中プランの概要

 行財政改革に取り組むにあたり、2004年度の決算統計をベースに、2005年度から2009年度までを対象期間として「国や県の制度が現行のままと仮定して、佐伯市がこのままの財政運営を続けていけばどのような状況になるか」という「中期的な財政収支の試算」を行ったところ以下のような試算となり、2006年度以降には歳入赤字となり、基金の取り崩しによる赤字補填を続けていった場合、2009年度には、基金が枯渇してなお、30億円以上の財源不足が生じるというショッキングな見通し結果となった。


単位:百万円
 
2004
2005
2006
2007
2008
2009
歳入計
51,960
48,434
45,278
42,386
42,078
41,916
歳出計
50,860
47,726
46,116
44,587
45,437
46,428
差引き
1,100
708
▲ 838
▲ 2,201
▲ 3,359
▲ 4,512

単位:百万円
 
2004
2005
2006
2007
2008
2009
基金残高
6,763
7,125
6,995
4,794
1,435
▲ 3,077

 これを受けて、次の大きな2つを柱とした以下の具体的項目の行財政改革に取り組むこととなった。
(1) 2009年度末の取り崩し型の基金残高を20億円以上保有する。
   予想された毎年度の財源不足を圧縮するため、歳入の確保、人件費の抑制、投資的経費の抑制、あらゆる施策の選択見直しを行う。
(2) 2009年度末の職員数を1,100人以下とする。
   市町村合併の大きな目的であった職員の削減による行政のスリム化を実現し、8万都市として適正な人員配置と効果的行政執行可能な組織機構のあり方について見直しを図る。
① 定員管理
  佐伯市の職員数については、合併協議の中で「2004年度から2013年度までの10年間で309人削減する」との定員適正化10カ年計画が作成されており、その趣旨を引き継いだうえで、①59歳を退職対象年齢と仮定したうえで、さらに毎年度5人の前倒し退職 ②新規職員採用数は退職者数の20%に抑制 という設定で次のような年次定員管理計画で職員数削減を行う。


単位:人
 
2005
2006
2007
2008
2009
2010
年度当初職員数
1,233
1,194
1,169
1,144
1,117
1,081
年度末退職数
39
31
31
34
45
 
次年度当初採用数
0
6
6
7
9
 

② 組織機構
  合併後の佐伯市の行政組織は「部」を単位とする組織と「振興局」を単位とする組織が曖昧なままに併存し、権限の所在がわかりにくく、一つの市としての機能が十分に果たせていない状況があり、本庁舎と振興局の組織を次のように改変する。
 ア 管理部門の見直しとして総務部を行政管理と人事管理の「総務部」と財政、税制、財産管理の「財務部」に分割
 イ 町作りと産業振興、観光振興を一体的に進めるため企画部と商工労働観光部を「企画商工観光部」に統合
 ウ 8振興局の事業系業務(建設、農林水産、上下水道、福祉保健)を4つのブロックに分け技術系職員の集積を図る
 エ 生涯学習とスポーツ振興業務を除いた教育委員会業務を本庁に集約
 オ 8振興局の部署を総務課、市民サービス課、地域振興教育課の3課に集約 等々
③ 財政運営の健全化
  人件費の抑制……年間5億円削減目標
  ・職員数削減と民間委託
   先述の職員数削減に加え、学校主事、学校給食職員等の臨時職員化、保育所、清掃収集業務等の民間委託等を進める。
  ・給与手当の見直し(カット)
   特別職給与10%カット、議会議員報酬5.5%カット、一般職員5%カット、時間外手当17時~18時支給対象外、管理職手当20%カット、通勤手当2km未満月額1,000円の廃止、福祉手当・税務手当の廃止、旅費日当の廃止、県外出張旅費のパック料金適用、退職時の1号特別昇給廃止 等々
  ・投資的経費の抑制……年間3億円削減目標
   普通建設費等の投資的経費を過去5年間平均155億円から年90億円以内に抑制することにより、充当一般財源の節減を図る。
  ・歳入の確保……年間1億円増収目標
   各種使用料や税の徴収率の向上を図り財源を確保する。
  ・各種施策(事務事業)の見直し……年間3.5億円削減目標
   各会計の使用料や各種補助金や単独事業の見直しや廃止、民間委託の推進

3. 経過と今後の課題

 集中改革プランスタートから2年が経過し、取り組みは着実に成果を上げている。特に「人件費の削減」については、職員定員管理の面で、2年間ともに早期退職者が見込みより多く出たため、計画を上回る数値で職員数の削減が進んでいるほか、各種の給与や各種手当のカットも引き続き継続されており、2006・2007年度は退職職員の不補充により別途3.5億円、11億円の削減効果があった。また、業務の民間委託等も2006年度には、特別養護老人ホーム豊寿苑の指定管理への移行が決定し、2007年度から社会福祉協議会に運営が移されたほか、2008年度からは、一部直営となっていた家庭ごみの収集業務、佐伯・長島の両保育所、佐伯市図書館がそれぞれ民間委託、指定管理化された。また、事務事業の見直しについても、合併時の未調整事項として市内各区域で統一がなされていなかった水道料金やケーブルテレビ使用料が統一化され、周辺部の小規模小学校の統廃合と学校給食センターの統廃合から民間委託への流れが具体化してきている。歳入確保の点についても、施設使用料免除の原則廃止、各種団体へ補助金見直し、市税等の口座引き落としの推進運動や滞納整理に連日連夜管理職が個別訪問を行うなど、行政総掛かりでの取り組みで、プラン作成当初には、2009年度取り崩し型基金が枯渇するという予測に対し、約52億円の基金保有できるところまで財政収支の見通しが改善されてきた。

基金残高の見込み
単位:百万円
 
2005
2006
2007
2008
2009
2005年9月試算
7,125
6,995
4,794
1,435
▲ 3,077
2006年2月試算
6,811
6,361
4,949
2,813
25
2007年11月試算
7,113
7,378
8,442
7,039
5,188

 しかし、今後残された懸案や課題もまた山積している。財政収支のみについて考えれば主に次のようなことが挙げられる。
① この改善見込みについては、2007年度までの普通交付税が予測より多く、その後2009年度まで横ばいで推移することを前提としているため、交付税の動向によっては下方修正もありうる。
② 国保、介護、老人の各特別会計において国の給付抑制策により繰出金が抑制されたこと、また簡易水道や国保の特別会計においては、各会計の財政調整基金の取り崩しによって普通会計からの繰出金が抑制されており、各会計の基金の枯渇を避けるため、一定の料金改定が必至となっている。
③ 基金の保持という一方、起債残高が非常に多く、2006年度決算では公債費負担比率が14市で最も高くなっており、公債費の負担が将来的な財政運営の重荷になることが予想される。
 また、ソフト面での課題として、急激に職員数の削減と組織の統廃合が進んだことにより、本庁と振興局、市内中心部と周辺部においていろいろな面で格差やひずみが生じてきている。本庁には駐車場に事欠くくらい職員の集約が行われた反面、振興局は20~30人と職員が減少したことから、情報や財源、行政的な意志決定能力が合併前に比べて著しく減少及び低下しており、合併前の旧町村の感覚が残る住民からは「振興局に頼んでも決定できんから本庁に行くしかない」という声も多く聞かれる。さらにこれは合併後の旧郡部地域全部に言えることかも知れないが、消防や防災の面で大きな役割を果たしてきた旧役場の職員が減少したことから、地域の防災体制が弱体化しているというのも大きな問題である。
 佐伯市は903km2という九州で最大の面積であり、なおかつ深い山間部とリアス式海岸の海岸部という立地条件のため、効率よく行政運営を行っていくための組織機構の確立を未だ模索している最中と言える。現在は本庁と8つの振興局という形を採っているが、8振興局の中にも旧佐伯市と隣接した、比較的市内に近い地域の振興局と市内まで1時間程度かかる遠い地域の振興局とでは、組織・職員体制や業務も一律では対応できないと考えられる。限られた財源でできうる最高の行政サービスを提供するためには、詳細な行政需要の分析とそれに対応した組織機構の改革を財政面での改革と併行して、それ以上のスピードで行う必要がある。佐伯市集中改革プランは2009年度までの計画であるが、その先に来る合併10年目からの2015年度以降の交付税一本算定時期へ、行政サービスを低下することなく軟着陸するためには、まだまだ多くの変革を要するものと思われる。