【自主レポート】

第32回北海道自治研集会
特別分科会 夕張からわがまちの財政を考える

中津市公共下水道事業の問題点
―― PartⅢ ――

大分県本部/中津市自治研究センター

はじめに

 本レポートは1995年8月、「自治研おおいた」No.102に発表した「中津市公共下水道事業の問題点」、および2006年7月の大分県自治研集会に報告したレポート「中津市公共下水道事業の問題点」に続くPartⅢである。中津市公共下水道事業(以下、下水道事業)は1978年の事業開始以来すでに30年が経過、1986年の供用開始以来22年を経ている。下水道事業は2005年3月の市町村合併により、中津処理区、三光処理区、山国処理区の三事業となった。
 三光及び山国処理区はいずれも特定環境保全公共下水道事業であるが、三光処理区はすでに事業完了となっている。特定環境保全公共下水道事業とは、公共下水道のうち市街化区域以外の区域において設置されるもので、①自然公園法第2条に規定されている自然公園の区域内の水域の水質を保全するために施行されるもの、②公共下水道の整備により生活環境の改善を図る必要がある区域において施行されるもの、③処理人口が概ね1,000人未満で水質保全上特に必要な地区において施行されるもの、となっている。

1. 下水道事業の現状

 下水道事業三処理区の現状は概ね次の通りである。

(1) 中津処理区
 中津処理区の現在の全体計画は【表1】の通りで、5期計画に向け事業を進めている。
 2008年度の下水道事業特別会計予算は、予算額約30億5,000万円。主な歳入では使用料が約4億2,000万円、国庫補助金約2億4,000万円、一般会計繰入金約11億円、そして市債が約11億9,000万円である。対する歳出では管理費が約3億2,000万円、整備事業費約8億2,000万円、そして公債費が約19億1,000万円となっている。下水道事業特別会計の現状は整備投資と起債償還が中心である。


【表1】

 また、2008年3月31日現在の供用状況は【表2】の通りとなっている。全体計画の目標年次(2023年)まであと15年の段階だが、計画処理区域の目標2,588haに対し、達成面積は672haで達成率は26%、計画処理人口69,600人に対し達成人口は25,000人、達成率は36%となっている。
今後の整備事業は市街地周辺部へと広がっていくので、投資効率は下がっていくことになろう。

【表2】

 レポートPartⅠで整理した問題点は、
① 下水道事業特別会計の市債残高は事業拡大にともなって増えつづけ、建設投資先行段階とはいえ、慎重な事業展開を心掛けるべきだ。
② 一般会計から下水道事業特別会計への繰出金も増え続けており、一般会計を圧迫しはじめている。
③ 供用開始後の水洗化率が上がらず、事業経営上問題である。
④ 下水道整備だけでなく合併浄化槽の普及に力を入れるべきだ。
等である。
 2004年4月、機構改革で下水道は上水道と統一、上下水道となった。会計方式は、下水道は特別会計、上水道は企業会計の両立てとなっているが、レポートPartⅡで指摘したように今後水洗化率の向上を図るなど経営重視と財政の健全性を把握する観点から、下水道事業会計の企業会計化も検討されるべきであろう。

(2) 三光処理区
 旧三光村の下水道事業は1995年から2002年にかけて行われた。総事業費は39億2,700万円(財源内訳、国費16億8,220万円、県費1,950万円、起債20億2,250万円、一般財源1億2,120万円、分担金8,120万円)を要した。処理区域内世帯数は936世帯、その人口数は2,568人となっている。

(3) 山国処理区
 旧山国町の下水道事業は、計画目標年次を2006年度から2014年度までとし、事業費は26億4,500万円、財源のうち約10億円は起債である。計画面積は56ha、計画世帯数は489世帯、その人口は1,460人である。

2. 下水道事業(中津処理区)特別会計の問題点

 従来の公共下水道事業特別会計は、合併に伴い中津処理区の公共下水道事業特別会計と、三光処理区と山国処理区をあわせた特定環境保全公共下水道事業の二特別会計となった。本項では、中津処理区にかかわる下水道事業特別会計の問題点についてレポートPartⅡに続き整理することとする。

(1) 事業費の推移
 1978年の事業開始以来2007年度まで30年間に投じられた事業費の累計額は、【表3】に見る通り374億8,581万円となっている。事業費の財源は主として補助金と起債であり、特別会計としてみれば一般会計からの繰入金を含めて事業費が構成されるかたちとなっている。年平均でみれば約12億円の事業ペースである。
 単純計算で、事業費累計額374億円8,581万円(2007年度決算額)を処理区域内世帯数11,650戸(2008.3.31現在)で割れば一世帯当り約322万円のコストである。水洗化率を勘案すれば約400万円以上のコストとなる。ちなみに同様の計算でみると三光処理区の一世帯当りコストは約420万円、山国処理区のそれは約540万円となる。下水道事業がいかに高コストであるか、一例として秋田県二ツ井町(合併で現能代市)が公共下水道事業計画を全面的に見直した事例を紹介する。二ツ井町では1993年度に公共下水道計画を策定し、1994年度に事業認可を受ける予定だったが、町中心部2,120戸の下水道整備に約118億円の巨費(一戸当り約557万円)を要することが分かり、町は生活排水処理計画の見直し検討を行った結果、合併処理浄化槽であれば約20億円(一戸当り約94万円)と1/6で済む試算を得た。町長はそれにもとづき計画の見直しを提起、全町を合併処理浄化槽で整備する方針とし、1995年度から合併処理浄化槽設置整備事業に取り組んでいる。(「住民のための下水道政策」〈自治労〉参照)

【表3】

(2) 市債残高の増嵩
 下水道事業に伴う市債の発行額、償還額、そして市債現在高の推移は【表4】の通りである。2006年度末の市債現在高(元金のみ)は約163億円に達している。2004年度からは償還額に対し市債発行額が少なくなっており、市債残高の伸びが止まっている。これは三位一体改革による事業費抑制の影響とみられる。レポートPartⅠ、Ⅱでも市債残高の増嵩についてはつとに注意を喚起してきたところであるが、今後新財政健全化法による財政指標として、特別会計や企業会計の財政数値を入れ込んだ連結実質赤字比率が導入されることになった。つまり一般会計、特別会計の連結収支が重視されることになったのである。下水道事業特別会計には一般会計からの繰入金が多額に上り、相互の関連性が高いことから当然のことと言えよう。

【表4】

(3) 一般会計からの繰入金の状況
 下水道事業特別会計に対する一般会計の繰入金の状況は【表5】の通りである。一般会計からの繰出金は国が定める繰出し基準(総務省通知)によることとなっているが、大部分をしめる公債費(償還金)については元利償還金に相当する額となっており、いわば公債費を一般会計で担保するかたちになっている。しかし、2006年度における起債償還額11億3,654万円(【表4】参照)に対し、一般会計からの繰入金のうち公債費充当分は9億9,989万円(【表5】参照)であり、その差額分は他の財源で穴埋めされていることになる。その傾向は1993年度から顕著になっている。また一般会計からの繰入金全額をもってしても償還額に不足する状況が2000年度から続いており、下水道事業特別会計における起債償還が一般会計にも重圧となってきていることをうかがわせる。

【表5】

(4) 水洗化率の向上、合併浄化槽設置推進を
 中津処理区における2007年度の下水道水洗化率は【表6】でみるように世帯比で71.5%、人口比で76.2%となっている。2005年度と比較すると水洗化率が落ちているが、これは下水道管の伸びに対する減少比である。ただ、高齢者世帯の多い旧市街地では水洗化率の伸びは頭打ちとなっている。下水道事業特別会計の健全化を図るためにも水洗化率の向上対策を進めるべきであろう。
 なお、未水洗化世帯の屎尿は従来型の収集と処理を余儀なくされる。したがってこれからも長期にわたり、屎尿処理は下水道と収集の二重行政が続くことになる。中津市では旧下毛4ヶ町村との合併に伴い約42億円を投じて新屎尿処理施設を建設、2007年4月から稼動している。
 また今後の下水道整備事業は、周辺部の非市街地へ伸びるにつれ投資効率は悪くなってくる。したがって合併処理浄化槽の積極的推進も図る必要があろう。なお、2007年度の合併処理浄化槽設置数は【表7】の通りであるが、全体で191基にとどまっている。

【表6】

【表7】
 

おわりに

 本稿では旧中津市(現中津処理区)の公共下水道事業を中心に、合併で新たに加わった特定環境保全公共下水道事業を含めて整理、分析を試みた。中津市にはこのほか下水道の類型として農業集落排水事業と小規模集合排水事業があるが、今回のレポートではそれらは省いた。
 資料の出所はいずれも中津市下水道課である。感謝の意を表したい。
 なお、由布市は旧挟間町が着工していた公共下水道事業を合併で継承したが、このほど全面中止する方針を固めた(2008.6.1新聞報道)。財政難がその理由だが、この中止により国・県補助金の返還、起債の償還など5~6億円の支出が見込まれるという。自治体財政が窮迫している折、息の長い下水道事業には慎重にならざるを得ない実態が表面化した事例である。