3. 基地に伴う財政 基地交付金と調整交付金
市内の基地はいずれも国有地である。戦前日本陸軍が住民の土地を強制的に買い上げ、(現金の代わりに軍票で払われたりしている。登記簿だけはしっかり国のものにした。)現在も国有地として扱われている。したがって固定資産税などは一切自治体に入ってこない。固定資産税の代りに国が自治体に払うのが基地交付金である。
基地交付金は正式には国有提供施設等所在市町村助成交付金という。「固定資産税の代替的性格を基本としながら、使途の制限のない一般財源として毎年度交付されるもの」としている。配分の方法は基地交付金予算総額の7/10に相当する額を対象資産の価格であん分し、3/10に相当する額を市町村の財政状況等を考慮して配分する。となっている。
調整交付金は正式には施設等所在市町村調整交付金という。基地交付金の対象となる国有資産と対象外である米軍資産との均衡や非課税措置による影響などを考慮して毎年度交付される。これも予算総額の2/3を米軍資産の価格を基礎として配分し、1/3は市町村が受ける財政上の影響を考慮して配分、となっている。
相模原市では、2005年度交付された基地交付金は10億9,772万円。調整交付金が8,000万円。これに対し相模原市が市内基地の固定資産税相当額を算出すると45億8,557万円。したがって基地であるが為固定資産税が入らず、代わりにくる基地交付金との差額は約35億円。毎年、基地により税収が上がらず、その差額は過去25年で475億円にもなると算出している。
国が出す基地交付金は2005年度で、総額2,514億円。310団体に交付され調整交付金は640億円、60団体に交付されている。総額3,154億円の交付金を、基地をかかえる自治体で分け合っているのである。
4. 基地交付金による市財政の損失
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相模原市の面積の5%を占める基地、もし基地でなければ、当然、固定資産税やそこに住む住民の個人住民税、都市計画税、事業が行われていれば法人市民税なども入ってくる。市の歳入、税収の5%を占めるのが当然である。しかし基地交付金、調整交付金として入ってきたのは、市税収入の0.2%でしかない。固定資産税の評価額でいえば35億円損失と市ははじくが、実際はそんな少ない額ではない。もっとたくさんの税収が上がるのである。
相模原市が財政シミュレーションを行った結果が発表されている。それによれば、市内3か所の米軍基地を、基地以外の用途で公園や緑地なども入れて使用した場合、総額29億円の市歳入の増額が見込まれるとしている。
しかし、実際はそんな少ない額ではない。相模原市の基地ですでに返還され、街づくりが行われたところと比較したらどうであろうか。
私は相模大野駅近くの旧米軍医療センターの跡地を比較してみた。現在は住都公団の開発により、高層マンション2,400戸やデパート、市民文化ホール、図書館、市立公園や外務省の研修施設などになっている地域である。その地区の税収を固定資産税、事業所税、市民税など幅広く計算すると、基地である場合の交付金収入に比べて、およそ14倍の税収があることが分かった。
また、市の面積の5%を占める基地面積を基本に、基地で働く米軍人、軍属、日本人従業員の数字を、相模原市民の消費支出額、統計資料からの市内総生産額を算出、基地関係の収入を総生産額から引くとしない民間純生産額が出る。これに基地面積をかけて計算、基地による損益・損失が717億円とはじき出された。
つまり、基地が返還され、そこに人が住み、事業が行われ、経済が活性化すれば、ものすごい貢献をすることが見えるのである。この計算式は沖縄県浦添市の市会議員が始めたもので、沖縄でも、基地に依存する経済よりも、基地を返還した方が、どれほど貢献するかの実証になっている。
市の歳入の損失はイコール市民の損失である。基地があるために市民が被る不利益の最大のものである。基地があることが自治体にも住民にも全く貢献していない。そのことが基地交付金の分析から見えてくる。
しかし、政府は基地により自治体は潤っているという。世論操作を進めている。マスコミもこの基地交付金と自治体財政の分析をすることなく、単に交付金が出ているという事実だけを取り上げて、自治体が潤っているように思いこんでいる。その金が総額3,100億円余り。固定資産税にも相当しない少ない額であることも理解しない。これでは基地のある自治体はたまったものではない。あたかも基地によって利益を得ているかのように他の自治体から、市民から思われているのだから。
5. もう一つのアメ 再編交付金のまやかし
政府はなかなか進まない米軍再編、自治体の抵抗を抑えるために、2007年10月31日米軍再編特別措置法に基づき、相模原市を再編関連特定周辺市町村に指定し、交付金の交付対象自治体として発表した。そして11月22日、この年の相模原市への再編交付金の金額を15,600万円と発表した。
再編交付金は米軍再編で負担が増大する自治体に対して、国が認めた事業に対する補助金として出されるもの。国の言う基地負担に対する事業、国が例示しているメニューでは、米軍再編用の広報パンフレットの作成や地元説明会の費用、などがあげられている。何のことはない、国がやるべき事業を自治体に肩代わりさせ、それの費用を交付金として支給するというひどい内容だ。
交付金という言葉だけが一人歩きして、自治体にお金が入ってくるように宣伝されているが、実態は国が使い道に縛りをかけ、そして額的にも微々たるもの。ひどい交付金である。
相模原市が毎年、本来基地交付金で交付されなければならないと主張する35億円の損失、その1年分の金額に相当する37億円を、今後10年間で再編に協力したとして再編交付金として少しずつ払うという。
米軍再編を受け入れた自治体にのみ交付する、米軍再編を容認するかどうかで、交付が決まるという、極めて不当な法律であり、こうした国のやり方は、地方自治の本旨を侵すものといえる。
相模原市はこの再編交付金を受け取るとして予算に組み入れた。市内の基地強化には反対しているが、今回の米軍再編で、相模総合補給廠の一部を国に返還し、地元自治体には有償で払い下げすると報告された。例え少しの面積でも、有償でも、基地の返還には賛成せざるを得ない。したがって市民の悲願である補給廠の一部返還が米軍再編の過程で決まったとすれば、そのことを優先せざるを得ない。代わりにキャンプ座間が強化されて、その負担強化に対し、再編交付金が交付されるとしても、基地強化反対を言いつつ、再編交付金をもらわざるをえない、という立場に追い込まれている。国のアメとムチを使い分けたずるいやり方に乗らざるをえないのである。
6. 再編交付金の考え方及び支給方式
再編交付金は2006年5月に日米で合意した在日米軍再編計画の着実な実施を後押しする法律、米軍再編特別措置法に基づいて作られた交付金。米軍再編事案の進捗状況に応じて「再編交付金」を段階的に支給する。
まず、「再編関連特定周辺市町村」を指定し、航空機騒音等度合いに応じて交付する。但し、再編受け入れを表明した市町村を対象とするとなっている。
[額の算定] ①防衛施設面積の変化 ②施設整備状況 ③航空機や艦船の数、種類の変化 ④人員数の変化 ⑤防衛施設の使用態様変化 を基礎として点数化する。再編事業の進捗率に応じて、原則10年に分けて交付 遅延すれば減額
[助成対象事業] 施設整備とソフト事業の双方を念頭に置いて幅広く規定、但し、基本的に県や市町村単独の新規事業に限られる。といった内容だ。
7. 再編交付金の問題点
① 米軍再編交付金は米軍再編を推進するためであり、再編事案をいったん受け入れ表明した自治体や地域は、再編の進捗状況や地元の協力度合いによって再編交付金を支給するというやり方によって、否応なしに基地を受け入れざるをえなくなり、基地負担を背負い続けなければならなくなる。
② 自治体に対する交付金や補助金などは本来、国の政策を押し付けるために支給されるものではなく、財源が乏しい、財政力の弱い自治体に対し、住民に必要なサービスを行うことができるよう措置されるものである。したがって再編交付金のようなやり方は、地方財政制度を無視し、破壊するものである。
③ 米軍再編交付金を受け入れることによって、基地負担を半永久的に背負うことになるとともに、自治体財政における国の支配力を強め、財政が硬直化しかねない。
8. まとめ
政府は自治体に本来払うべき固定資産税を国有地であれば払っていない。特に基地に対しては基地交付金として3,000億円余を配分し、自治体間で獲得競争をさせている。毎年全国市長会や全国市議会議長会などの基地部会が政府への陳情を繰り返している。国は少ない交付金を自治体間の競争に使わせ、自治体いじめにも使う。米軍艦載機の移駐に反対していた岩国市では約束していた市庁舎の建設補助金を途中でストップし、無理やり基地強化反対派の井原勝介市長を追い落とし、推進派の市長を当選させるという暴挙を行った。その過程では基地による「経済効果」のデマを流し続けた。マスコミも基地と財政を検証せずに政府の一方的な宣伝に乗ってしまった。
いま、全国の基地を抱える自治体で基地は財政的に寄与するかが問題になりはじめた。基地と財政をきちんと分析し、基地でないほうが自治体財政はうるおう、そのための町おこしを進めようとの声を揚げる時ではないか。
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