【要請レポート】

第32回北海道自治研集会
特別分科会 夕張からわがまちの財政を考える

さぬき市の財政分析(合併先進地と呼ばれた町の現状)


香川県本部/さぬき市職員労働組合

1. 経 過

 地方自治体における財政の危機的状況は、いくつかの大都市を除き全国的な問題であることは言うまでもない。
 そんな中、あたかも財政難の要因が職員の人件費であるかのごとく、職員の賃金カットが全国的に横行している。当該自治体における財政事情の悪化の原因の精査もなく、責任所在も明確にしないままで財政難のつけを職員に負担させるという横暴である。
 マクロの視点から財政難の要因を挙げるとすれば、政府主導による「平成の大合併」、税財源の再配分が不十分な「三位一体改革」の進行、地方交付税の総額削減による実質的な財源カット等が考えられるが、具体的及び特徴的な要因は様々であり、当該自治体が歩んできた街づくりの歴史・文化に起因したものであるため、単純に一律問題として片付けるわけにはいかない。
 全国に先駆け合併したさぬき市の財政分析をすることで、市町村合併の本質を探り、余儀なく合併を選択させられた地方自治体の将来設計を考察する際に、何らかのヒントが見えてくるかもしれない。
 更には、当局からの財政難を理由とした合理化攻撃に抗するために、労働組合として理論武装することにより、安易な賃金カットはさせないという強固な姿勢(団結)で当局に対し望んでいくことが可能となり、また、財政事情を認識したうえでさぬき市の将来像を見据えた政策提言をしていきたいと考えている。

2. 具体的な財政分析の手法と分析結果

(1) 財政分析の手法
 自治労香川県本部、自治研香川との協議のうえ「さぬき市」にターゲットを絞り、財政分析から見えてくる課題も含めた将来のまちづくりの展望を示す提言書の策定を労働組合として取り組むこととなった。
 先ず、市職労執行委員会において財政分析専門委員会の設置が承認され、市当局に対しても必要な資料等の提供を申し入れした。
 講師である地方自治総合研究所飛田研究員を月一回のペースでさぬき市に招き、財政専門委員会メンバーに対し、財政に関する初歩的な部分からの学習をはじめ、さぬき市の財政について合併前から現在に至るまでの比較検討を進めた。
 自治体職員でありながら、財政に関連した用語等についても縁遠いものがあり、初歩的な用語の学習や類似団体との比較は、専門員会メンバーにとってわかりやすく労働組合として取り組んだことにおける有意義な結果の一つとなった。

(2) 財政分析結果(中間報告として)
 先ずさぬき市の財政現状はというと……。(資料1主要財政指標一覧表参照
 2000年度(合併前々年度)から2005年度(合併後4年目)の間の財政指標を検証すると、合併以降地方債残高比率が顕著に増加していることがわかる。
 これについては、いわゆる合併駆け込み事業と合併後の「アメ」と呼ばれた合併特例債の活用による事業推進の結果である。合併メリットのみを強調するために、事業展開したつけが招いたものといえる。(資料2参照)
 合併前、旧自治体においては「合併前にやれる事業はやってしまえ。借金は、新市の負担となるから。」というまさに住民不在の考え方がまことしやかに横行し、どの自治体もまるで競い合うように駆け込み事業をやってしまった。
 市町村合併の大義名分として「住民サービスの向上」を掲げていたにもかかわらず、当時の首長、議会は自分たちの保身に加え、後先を考えずに箱物等の建設という暴挙に手を染めてしまったわけである。
 次に、経常収支比率のうち人件費の割合は、合併前から現在に至るまで変化はほとんどない。内訳として扶助費や公債費に関しては着実に増加傾向にあるが、職員給については、減少している。
 この結果、人件費は決して財政難の要因ではないということである。
 地方自治体職員の給与については「高すぎる。」等の視点でマスコミが盛んに取り上げているが、財政難を招いた要因は、職員の給与ではなく、決して高すぎることもないということである。
 当局の財政難を理由とする安易な合理化提案に抗する理論武装のひとつとなったことは言うまでもなく、賃金カット等の交渉時において、財政事情の悪化については人件費ではないことを当局にきっちりと認めさせることが肝心である。
 また、歳入面において特筆すべき事項は、地方交付税の推移である。(資料4参照
 普通交付税については、合併以降合併特例債等の地方債借入額に対する交付税措置分として多少増加している。2004年度の台風災害のため年々減少傾向にあった財政調整基金の取崩額が一時的に増大しており「差引不足額」に大きく影響している。
 国は「普通交付税の減少は、三位一体改革による税収配分により措置している。」と説明しているが、三位一体改革の増税分は100%基準財政収入額に算入されているため、交付税額としては1円も増えていない。しかし、交付税総額を圧縮することにより、現状はどこか別項目または別の自治体の交付税額が減少となっているはずである。
 特別交付税についても、2005年度における災害関連に係る伸びを除くと、年々減少傾向にあることから、財政圧迫の要因となっている。
 地方自治体(特に田舎の市町村)にとって、財政面における地方交付税の占める割合は大きく、当該自治体の行政運営に直結するといっても過言ではない。
 合併後のさぬき市において、ばら色の将来像を灰色へと変えた大きな要因は、交付税の減額に他ならない。
 合併前の議論の中で、交付税額は担保されるものとして誰もが信じて疑わなかったことは事実であり、新市建設計画の中で財政予測を掲載しているが、交付税額は合併後10年間同額で推移している。しかもこの新市建設計画は、国・県とも承認しているわけで、合併そのものが如何にいい加減なものかの象徴のひとつである。

3. 今後の課題

 ようやく中間報告として合併前後のさぬき市における財政分析結果が得られたわけであるが、労働組合として如何に活用するか? また、市民に向けた情報発信ということで、具体的にどのような取り組みが可能か? 当局及び市議会に対して、さぬき市の将来ビジョンを労働組合としてどういう形でまとめ上げるか? まだまだ課題は山積みである。
 労働組合として主体的に取り組んだ財政分析を、単に賃金カットに効する理論武装に終わらせることなく、国からの指導によりがんじがらめの当局ではできないまちづくりの手法を提言していく一つの根拠として、また財政再建に向けた当局施策のチェック機能を果たすべく根拠として、労働組合としての尊厳を持って更なる活動を強化していくことが重要である。
 又、今後建設が予定されているさぬき市民病院が約100億円の事業であることから、さぬき市の本当の試金石となることはまちがいない。
 公立病院の存在が問われている昨今、さぬき市においても同様に地域医療サービスの維持が財政問題のハザマで揺れ動いているのが現状である。
 合併後のさぬき市の財政に焦点をあて『合併』そのものの本質を見極める際の手がかりを探ってきたわけではあるが、あくまで市町村合併は、まちづくりの手法の一つに過ぎず、国・県の強権的な指導の下では何の意義も見出せず、財政的にも大きな痛手を被っているのが現状である。
 21世紀のまちづくりは『合併』しかないと過大宣伝をしてきた国・県そして政府自民等に対し、我々合併を余儀なくさせられた自治体職員として「合併メリット」というべきものは地域住民にとっても職員にとっても皆無であることを訴えなくてはならない。
 地域住民に対しては、『合併』しか選択できなかった経緯と、現在の財政事情と今後の見通しを明らかにすることで、今後の新たなまちづくりに対する理解と協力を求めていかなければならない。その役割の一端を労働組合として担うことが、我々に課せられた重要かつ困難な使命である。