【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第1分科会 「新しい公共」と自治体職員の働き方

 地方自治体を取り巻く環境の変化や地方自治法改正による地域主権により、市議会においても改革が必要な状況となっている。例年、地方議会の改革の動きは、全国的に広がってきており、全国の議会を対象とした調査が行われている。それらの調査で上位にランキングされている県内20市の市議会はどの点が評価されたのか、独自調査などにより検証する。



新潟県自治体市議会の議会改革の取り組み
(議会比較による実態調査)

新潟県本部/自治研推進委員会・第3小委員会

1. はじめに

 地方自治体を取り巻く環境の変化や地方自治法改正による地域主権により、市議会においても改革が必要な状況となっている。現在、議会基本条例の制定など先進的な取り組みが行われており、地方議会にも改革の動きが広がっている。こうした地方議会改革の取り組みを調査するため、これまでに日経グローカルの「全国市区議会の“議会改革度”ランキング」、早稲田大学マニフェスト研究所の「議会改革度調査2011ランキング」などのほか、全国の議会を対象とした「全国自治体議会の運営に関する実態調査」(以下「全国調査」という。)が行われている。県内20市の市議会でも、全国で上位にランキングされている自治体があるが、どこが評価されているのかを、全国で行われた調査や独自調査を行い議会改革の取り組みを評価した。

2. 議会改革度調査

(1) 全国市区議会の「議会改革度」ランキング(日経グローカル)
① 調査方法及び概要
  全国810市区(787市、23区)の議会議長を対象に日経リサーチを通じて実施された調査。議会の情報公開、議会への住民参加、議会の運営方法等について、4月1日現在の制度や過去の実績を設問とし、その回答を数値化してランキングとしている。県内20市の自治体では、上越市、新発田市、新潟市、阿賀野市、十日町市が上位にランクされている。
② 全国市議会で上位の県内20市自治体ランキング(2012年5月21日発行の「日経グローカル」196号から一部抜粋)
自治体
総得点
順  位
偏   差   値
今回
前回
総 合
公開度
住民参加度
運営改善度
上 越 市
56.2
108
84.95
77.06
77.38
78.78
新発田市
44.6
23
13
72.57
61.49
67.55
75.06
新 潟 市
40.8
44
40
68.51
63.36
67.55
63.89
阿賀野市
39.2
60
251
66.81
62.74
52.02
77.39
十日町市
31.2
145
607
58.27
55.26
54.09
62.50

(2) 議会改革度調査2011ランキング(早稲田大学マニフェスト研究所)
① 調査の目的・概要
  早稲田大学マニフェスト研究所では、地方自治体を取り巻く環境の急激な変化や地方自治法改正による地域主権の推進により、地方議会においても改革が必須な状況ととらえ「議会改革度調査2011」を行った。調査は、2011年8月に全地方議会あてに送付して行い、1,356議会からの回答を基にランク付けが行われている。
  ランクに係る数値は、「情報公開」「住民参加」「議会機能強化」に分類し、それぞれに点数を算出し上位100議会を公開している。県内20市の自治体では、上越市、新潟市が上位にランクされている。
② 早稲田大学マニフェスト研究所調査の県内20市自治体ランキング
順位
議会名
個別順位
情報公開
住民参加
機能強化
上越市議会
24
16
26
新潟市議会
39
86
35

3. 独自調査

 2011年11月から12月にかけて、県内20の市議会の事務局に対して「議会運営について」「市民参加について」「情報公開について」「議員提案条例について」の4項目の調査を行った。
 本調査と全国調査などを活用し、比較分析を次項にて行う。

4. 県内20市の議会独自調査と全国調査等との比較状況について

(1) 議会運営について
① 議員間の討議(自由討議)を実施しているか
  議会規則や条例という明文化されたルールで議員間の自由討議により合意形成に努めている議会は、全国調査では、全体で1,692議会中182議会が何らかの明文化されたルールで自由討議を規定している。全国調査では、764市中95市が、要綱や規則、条例でその旨を定めている。県内20市では2市が該当し、上越市が「委員会等の場において、特定のテーマについて討議している。」とし、新発田市では「委員会での議案審議などの際、討議を行っている。」としている。
② 市長など執行部の反問権を認めているか
  首長等による「反問(逆質問)権」のルール化は、全国調査では、2010年調査では137議会(9.0%)だったものが244議会(15.8%)となり、1.5倍に拡大するという結果となった。過去4年間の調査結果からも3倍以上の増加となっている状況。県内20市で実施しているのは、新発田市、村上市、上越市、南魚沼市の4市のみである。
③ 委員会の行政視察の結果を報告しているか
  県内20市すべての市議会で報告が行われているが、その方法については、議会報や委員会内での報告のみは16自治体と多く、HP等での公開による幅広い市民公開を行っているところは、新潟市、長岡市、上越市、加茂市の4自治体と少ない。

(2) 市民参加について
① 議会の議決内容など市民に説明する議会報告会や、市民との意見交換会を議会で実施しているか
  本設問は議員個人・会派でなく、議会・委員会主催により、意見交換会・議会報告会など、市民との対話の場を設けたかどうかを問う内容である。全国調査でも2007年調査から比較すると2011年調査の130議会(8.6%)から421議会(24.9%)と大幅な増加となっている。県内20市では、新発田市、村上市、阿賀野市、魚沼市の4市で報告会をしている。このことからも市議会側の報告活動は今後の開かれた議会には必要となる項目と思われる。
  上越市:年3回、合計7会場で開催している。
  新発田市:約2時間、市内8会場で行っている。27人の議員を4つの班に分け、各班2会場担当。決算や予算が中心の内容。議会からの報告を短めにし、意見交換の時間を長く設けている。
  村上市:各地区の嘱託員(区長)会議等に出向き、報告等を行っている。
  魚沼市:11月21、22、24日に初の試みとして市内3箇所で実施。議会だより、市報、市のホームページで周知。

(3) 情報公開について
① 政務調査費を支給しているか
  県内20市議会で政務調査費を支給している。領収書の添付はすべての議会で「1円」まで義務付けてはいるが、議会報とHPで公開している市議会が新潟市、長岡市、三条市、柏崎市、十日町市、糸魚川市、妙高市、佐渡市、南魚沼市の9市、議会報で公開している市議会が胎内市の1市、HPで公開している市議会が見附市、上越市の2市である。一方、政務調査費を公開していない市議会が新発田市、小千谷市、加茂市、村上市、燕市、五泉市、阿賀野市、魚沼市と8市ある状況であり、公開の内実は乏しい状況。
② 議案に対する賛否を公開しているか
  議員の政策判断として議案に対する賛否の公開も「開かれた議会」への要素である。全国調査では、「議員個人の賛否を公開」は1,692議会中、239議会(14.1%)、「重要議案のみ公開」は58議会(3.4%)が行っていることからも、議員個人の賛否公開は確実に拡大している状況。会派単位でも行われ議会運営が会派単位で行われることが多い現状であることからも、会派単位の公開についても必要な項目である。
  県内20市では、新潟市、長岡市、三条市、柏崎市、新発田市、見附市、上越市、阿賀野市、魚沼市、南魚沼市の半数10市議会が、議案に対する賛否を公開しており、各議員個別の賛否を公開している市議会は長岡市、柏崎市、新発田市、上越市、阿賀野市、魚沼市、南魚沼市の7市となっている。会派単位の賛否を公開している市議会は、新潟市、三条市、見附市の3市である。新潟市はインターネットでも賛否を公開している。議会報やインターネットで賛否を公開している市議会は、長岡市、三条市、柏崎市、新発田市、見附市、上越市、阿賀野市、魚沼市、南魚沼市である。

(4) 議員提案条例について
① 2008年から2010年までの間で、議員あるいは委員会が提案し、制定した条例はあるか
  議会による政策決定あるいは政策への議会意思の代表的な反映方法の代表として、執行部側から提出された議案を審議過程の中で修正をはかる方法と、議員提案・議員立法による方法がある。県内20市議会では、設問の期間内に新発田市と阿賀野市の2市が制定しているだけである。県内20市の市議会での議員提案条例の制定は、さらに少ない状況であり、当局側の提案を審議・修正するだけで、当局側のチェック機能でしかない状況。政策立案機能の充実が求められる。

(県内20市で議員提案により制定された主な条例)
 新発田市 (条例名)新発田市中小企業活性化推進基本条例
 阿賀野市 (条例名)阿賀野市経済産業振興条例

5. まとめ

 ランキングを上げる要素として、議会運営の項目では、議員間の討議(自由討議)を実施し、執行部の反問権を認めている自治体が上位にランキングされている。
 行政視察の結果報告についても、議会や議会の委員会内だけで済ませるのではなく、議会報やインターネットなどの幅広い手段で市民に公開、報告していることが大きく影響しているようである。
 市民参加という点では、議会・委員会の主催による意見交換会・議会報告会など市議会側からのアプローチによる報告活動を行っている自治体がランキングされている。
 情報公開の点については、政務調査費の使途を議会報やHPで公開している市議会が上位にランキングされており、また、議案に対する賛否の公開についても、議会報やインターネットで賛否を公開している市議会が上位となっている。
 以上の点から総合すると、様々な議会情報は、議会報やHPなどのインターネットを活用し、広く市民に情報公開する方法が配点に大きく影響するようだ。
 議員提案条例の制定も大きく配点に影響しており、制定した阿賀野市が、前回251位から60位となったのも、この項目による配点が大きかったのではと考える。
 なお、5位である上越市が総得点56.2であり、60位の阿賀野市が、総得点39.2であることからも、各自治体の総得点は低く、わずかな点数の差で自治体ランキングが上下している。各自治体においてランキングを上昇させるには、HPによる情報公開や議員提案条例などの加点ポイントを絞った取り組みにより、比較的容易にランキングを上位にすることが可能となるのではないかと考える。
 仮に議会ランキング上位をめざす自治体があった場合、加点となる項目に重点をおいて議会改革を行いさえすれば上位にランキングされる。このような状況では、議会ランキングが上位であるからといっても、市民が求める市議会でない可能性も出てくることも懸念されるのではないか。
 議会改革を行うだけではなく、真に市民が求める議会となることこそ、本当の議会改革となるのではないだろうか。