2. 練馬区の学校用務職員配置
練馬区立の学校数は、小学校65校(2010年4月に8校が4校に統合された)、中学校34校である。
学校用務職員は当初、学級数が算定基礎となる東京都基準により最大4人が配置されていたものの、退職不補充の影響で、配置人数が減員となり、各校正規(定年前)職員2人体制が続いていた。2012年4月現在、練馬区立の小学校11校、中学校11校の計22校で学校用務業務の全面委託が実施されている。また区立幼稚園は再任用職員の単独配置職場となっている。この間の学校用務業務の委託化進行の経過をふりかえっておく。
2007年度の団体交渉前の事務折衝で、区当局は学校用務業務の全面委託提案を練馬区職労に打診してきた。精力的な折衝を重ねた結果、団体交渉では、「新たな定数を正規(定年前)職員1人に再任用または再雇用職員1人を加えた2人体制とし、部分委託を拡大(廊下のワックス清掃・U字溝清掃・調理職員の検体搬送)、業務の全面委託は行わない。この体制を概ね5年継続する」ことで妥結した。
しかし、2009年度になって、区当局は「概ね5年、新体制を維持する」とした2007年度交渉の妥結内容を反故にし、学校用務業務の全面委託提案を行うに至った。唐突な提案に、区職労・当該学校分会・現評、は当局を強く批判するとともに、攻勢を強め委託の導入を1年延期させる到達点を得た。翌2010年度交渉では、区当局が再度12校の全面委託化を提案、区職労は条件を提示し、委託校を6校に圧縮する大綱妥結をした。
2011年度になると、区当局は、既委託校6校に加え、新たに16校の全面委託を提案。区職労・当該学校分会は、毎年の交渉でなし崩し的に全校を委託しようとする当局の姿勢を強く批判、「学校用務の将来像」を区当局が示さない以上、今後の委託交渉には一切応じられないことを通告したのである。交渉の結果、当局提案の16校委託を受け入れるものの、労使双方による「学校用務のあり方に関する検討協議会」を設置し、年度内に一定の結論を出すことが確認され、大綱妥結をみた。
このような労使確認が行われたにもかかわらず、当局側は協議に誠実に応じることはなく“サボタージュ”状態となったため、年度末に団体交渉を申し入れ、当局の不誠実対応を厳しく追及、区職労委員長と教育長とのトップ会談を経て、直営の存続を確認、検討協議を継続することとなった。検討協議会では、学校用務職員の役割について ①委託管理 ②障がい者雇用における職業指導 ③学校防災拠点要員 の3点とすることで合意をみた。これらの合意結果を踏まえ、本年(2012年)6月1日、最終団体交渉がもたれ、学校用務の直営を存続する学校数を確認し、妥結したのである。
3. 学校用務現場に障がい者雇用を実現(2011年4月 2校・2012年4月 3校)
(1) なぜ障がい者雇用なのか
① 経 過
すでにふれてきたように、練馬区当局は学校用務業務の民間委託を区内小・中学校全校に拡大する方針を打ち出し、2010年度交渉で、委託提案が出されるに至った。多数の現職が存在する用務職の全校委託方針は、あまりにも横暴であり、労働組合として到底受け入れることはできない内容であったが、他区においても委託化の流れは急ピッチであり、民間委託では絶対にできない学校用務職のあり方を構築する必要に迫られたことも事実である。労使交渉を進めていく中で、区職労は学校用務現場への知的障がい者雇用の導入を逆提案した。もちろんこれまで現業職場での知的障がい者の就労実績はゼロである。もし仮に実現すれば、従来、区の福祉部が進める障がい者施策と教育委員会との間でかけ離れていた縦割り行政の壁を打ち破る画期的な実験となる。このような構想は労働組合でなければできない大胆なものであった。区職労では委員長が先頭に立ち、教育長に障がい者雇用の必要性と学校現場で実現可能な具体的な作業予定内容の提案・説明を行い、教育長がこれを受け止め、了解する中で実現をみたのである。交渉の妥結後、教育委員会は採用に向け、職員課・障害者施策推進課と協議の上、一般公募による募集に入る。受け入れ校については教育委員会が校長会に打診し、特別支援学級が設けられている区立小学校2校の校長が受け入れを了承した。
知的障がい者採用にあたっては、練馬区の業務協力員制度(註1)を適用し、一般公募による選考(4日間の研修結果と面接・作文)を経て、2011年4月より区立小学校2校に各1人が配置された。さらに本年2012年4月には配置校を1校拡大、現在、3校に計3人の業務協力員が配置されている。
② 直営だからこそできる仕事
練馬区職労では、現業活性化を考える中で、以前から「練馬区の公立学校に障がい者雇用を実現する」という構想について、論議を重ねてきた。もっとも大きな理由は「けっして民間企業にはできないこと」だからに他ならない。障がい者が働く職場選定にあたっては、特別支援学級を設けている区立小学校を第一条件とした。特別支援学級で日常的に障がい児と接していることで、児童・生徒・職員の理解を得やすいこと、また特別支援学級へ児童・生徒を通学させている保護者への大きなアピールとなることも考慮した。「官から民へ」をスローガンとする現業合理化攻撃に対し、「官だからできる」現業職員のあり方を模索していた現業評議会にとっても、現業活性化の大きな一歩と評価できる課題であった。皮肉なことであるが、学校用務業務の全面委託提案がきっかけとなり、実現につながった。どんな取り組みでもそうなのだが“転んでもただでは起きない”ことが大切なのだ。
③ 技能長(技能業務系人事任用制度)の活用
東京都23特別区では2005年4月より現業職に4層制の人事任用制度(1級―主事・2級―技能主任・3級―技能長・4級―統括技能長)が導入されている。また、2007年の賃金確定闘争で業務職給料表が最大10.8%引き下げられたこともあり、昇給のためには昇任する必要性が大きくなった。練馬区職労、現評は、大きな発想転換をはかり、昇任率が各区協議事項(1~3回選考の昇任率は全区統一)となった4回目の技能主任選考から行政系の主任主事選考と同様の5枝択一筆記選考を導入、現業労働者のチャレンジぶりを示し、当局に存在価値を認めさせ、さらに高い昇任率を実現させている。
一方、3級職以上について、現業評議会は区職労とともにあり方を検討し、配置基準の緩和、拡大をてこに任用される数の拡大を図ってきた。その結果、学校用務職にあっては、業務協力員の指導を技能長の職責のひとつとして位置づけ、指導員として配置することとなった。
2012年4月現在、学校用務職の技能長は全部で5人である。このうち3人が学校現場配置で日常業務と業務協力員の指導、2人は教育総務課学校業務係次席として、委託管理業務を中心に行っている。
(2) 教育委員会の障がい者雇用率
練馬区の障がい者雇用率は、2000年度2.61%~2012年度2.28%で、区全体では毎年法定雇用率を達成している。部ごとの統計は出ていないものの、教育委員会単独では法定雇用率(註2)を達成できていない状況にあった。そうした点では、学校用務職現場における業務協力員制度の導入は、教育委員会としても大きな成果につながったのである。団体交渉の中で区職労委員長は「障がい者雇用に積極的に取り組んだ組合を適正に評価するとともに、その取り組みに教育委員会は感謝すべき」と強く述べた。 |