【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第1分科会 「新しい公共」と自治体職員の働き方

 ラオスでは、絵本の出版環境が脆弱でラオス政府の子どもたちへの読書支援活動も不十分である。このような中、2008年に西東京市職員労働組合内にラオス等国際交流委員会を設置し、絵本「ウータンのまほう」をラオス語で出版する活動を始めた。本レポートでは活動経緯から絵本をラオスで出版し、ラオスの子どもたちに届けるまでについて報告する。



絵本「ウータンのまほう」をラオスで出版


東京都本部/自治労西東京市職員労働組合 下田 美穂
執行委員長 後藤 紀行

1. 活動の経緯

 2006年自治労東京都本部の国際連帯活動のひとつである「ラオス読書推進活動支援ツアー」に参加したのを契機に、2008年にラオス等国際交流委員会を西東京市職員労働組合内に設置し、国際交流事業の活動を展開してきた。
 活動当初は日本の絵本にラオス語に翻訳されたシールを貼る作業を行った。しかし絵本の寄贈先のひとつであるヴィエンチャン市立図書館を見学した際に気づいたこととして、本棚には空きスペースが多くあり、また同じタイトルのものがたくさんある状態であった。ラオス国内では図書の発行部数だけでなく、出版されるタイトル数自体が少ないため、子どもたちが読むことのできる絵本の選択肢も限られていた。そのため決まった絵本にラオス語のシールを貼った絵本を届ける活動のほかに、「ウータンのまほう」という絵本をラオス語に翻訳し、ラオスで印刷製本、出版する活動を開始した。
 活動にかかわる費用は、三多摩メーデーでの物品販売やカンパ等で確保に努めた。


   
絵本のラオス語シール貼り作業  
 
三多摩メーデー物販の様子

2. 絵本「ウータンのまほう」

(1) 絵本について
 今回、出版した絵本は下記のとおりである。
① タイトル:ウータンのまほう
② 著者:保泉温子(組合員の配偶者)
③ 著作権:自費出版のため、著者が所持
④ 内容:努力をすれば夢はかなう
⑤ サイズ:B5版26ページ
⑥ 出版部数:3,000部
⑦ 出版費用:352,000円
「ウータンのまほう」
ラオス語版 
     
 


(2) 翻訳・印刷製本・出版まで
① 翻訳について
  翻訳作業はNGOの「ラオスのこども(ALC)」に依頼した。また自治労が社会貢献事業として1994年に開始したアジアの子どもの家事業を引き継いだNGOの「エファジャパン」に添削作業の協力をいただいた。その際ラオス語にはない日本の言葉や擬音語の箇所があり、訳者による違いが生じ判断が難しかった。
② 印刷製本について
  ラオスで出版される絵本の特徴として、原色を多く使用したはっきりとした色使いがあげられる。「ウータンのまほう」はどちらかというとぼんやりした絵のタッチであるため色の出方が懸念されたが、日本のものと変わりなく出来上がった。
③ 出版について
  社会主義国のラオスでは、図書の出版には政府の許可が必要であるため、現地で多数出版実績のあるALCにあわせて依頼し、3,000冊を出版した。


3. 絵本を現地の子どもたちへ

(1) 図書の配布について
 3,000冊の絵本が効果的に活用される寄贈先等ニーズの把握と現地との調整については、エファジャパン、ALC、SVA(シャンティ国際ボランティア会)に協力いただき、ラオス全土の図書館や小学校、子ども文化センターなど合計335ヵ所の施設に配布した。1ヵ所につき4~5冊の配布とした。
① エファジャパン配布先
 
・ヴィエンチャン市立図書館
・ドンコイ子ども発達センター
・ラオス国立図書館
・ラオス図書館協会
・サイポトーン村コミュニティ図書室
・ポンサイ村コミュニティ図書室
・ノンセンチャン村コミュニティ図書室
・ノンソンホン村コミュニティ図書室
・サムゲット村コミュニティ図書室
・ノンブック村コミュニティ図書室
・タトーン村コミュニティ図書室
・ナーハイ村コミュニティ図書室
・ノンウェン村コミュニティ図書室
・ホンスバーブ村コミュニティ図書室
・ハイソーク村コミュニティ図書室
・ソンプーイ村コミュニティ図書室
・プーパマン村コミュニティ図書室
・サムコーン村コミュニティ図書室
・パコム村コミュニティ図書室
・パクモン村コミュニティ図書室
・ポンサワン村コミュニティ図書室
・ムアンゴイカオ村コミュニティ図書室
・サムヌア小学校コミュニティ図書室
・サムヌア高校コミュニティ図書室
・ナトンジョーン村コミュニティ図書室
・ナトーン村コミュニティ図書室
・フアパン県サムヌアCCCコミュニティ図書室
・ヴィエンサイ高校コミュニティ図書室
・アヌサイ村コミュニティ図書室
・ポンベン村コミュニティ図書室
・ナーカム村コミュニティ図書室
・エート中高校コミュニティ図書室
・ムアンワン村コミュニティ図書室
・シェンコール中高校コミュニティ図書室
・ポントーン村コミュニティ図書室
・ソブサイ村コミュニティ図書室
・ソブハオ村コミュニティ図書室
・ソッブバオ村コミュニティ図書室
・ホンサー高校コミュニティ図書室
・タート村コミュニティ図書室
・マイ村コミュニティ図書室
・ドンニャン村コミュニティ図書室
・ポントン中高校コミュニティ図書室
・ファンデーンコミュニティ図書室
・サイサムファン村コミュニティ図書室
・ウドムスックコミュニティ図書室
・ヴィエンサイ村コミュニティ図書室
・ファイニャンカムタイ村コミュニティ図書室
・ナマクア村コミュニティ図書室
・中央子ども文化センター
・ヴィエンチャン都子ども文化センター
・ヴィエンチャン県子ども文化センター
・バンヴィエン郡子ども文化センター
・トファバス郡子ども文化センター
・ケンタオ郡子ども文化センター
・ボーティアン郡子ども文化センター
・パカイ郡子ども文化センター
・ウドムサイ県子ども文化センター
・シェングエン郡子ども文化センター
・ナムバック郡子ども文化センター
・ナン郡子ども文化センター
・ヴィエンカム郡子ども文化センター
・チョムフェット郡子ども文化センター
・ルアンパバン郡子ども文化センター
・パークウ郡子ども文化センター
・パクセーン郡子ども文化センター
・ンゴイ郡子ども文化センター
・ポンサイ郡子ども文化センター
・ナムトアン村子ども文化センター
・コクギエウ村子ども文化センター
・ポウクン郡子ども文化センター
・シェンクワン県子ども文化センター
・シャンパサック県子ども文化センター
・ボーケーオ県子ども文化センター
・サワンナケート県子ども文化センター
・フワパン県子ども文化センター
・カムワン県子ども文化センター
・アッタプー県子ども文化センター
・サーラワン県子ども文化センター
・ルアンナムター県子ども文化センター
・ポンサリー県子ども文化センター
・セコン県子ども文化センター
② ALC配布先  
・サイヤブリ県子ども教育開発センター
・サイヤブリ県子ども文化センター
・ケンタオ郡子ども教育開発センター
・パクライ郡子ども教育開発センター
・ルアンパバン県子ども文化センター
・ボーテン子ども教育開発センター
・ヴィエンチャン都子ども教育開発センター
・シーサタナーク郡子ども文化センター
・ヴィエンチャン都ハックアーン34
・ケオクー郡子ども教育開発センター
・ボリカムサイ県子ども文化センター
・ボリカン郡子ども文化センター
・ALCコミュニティ図書館
・小中高校の学校図書室218ヵ所
・関係省庁 7ヵ所
・教員養成学校 8ヵ所
③ SVA配布先  
・サイヤブリ県立図書館
・ルアンパバン県立図書館
・ウドムサイ県立図書館
・シェンクワン県立図書館
・フアパン県立図書館
・チャンパサック県立図書館
・サワンナケート県立図書館


(2) ラオス訪問
 2011年9月18日~24日の7日間で、ラオス・カンボジア子ども支援ツアーを開催した。うちラオスは22日、23日の2日間で、首都ヴィエンチャン近隣にある図書施設7ヵ所を訪問し、絵本の寄贈を行った。
① ラオス図書館協会(LLA)
  JICAとSVAの共同事業の一環として2007年に設立された。財政不足などの理由から実質的には図書館協会としての機能は果たしていないため、エファジャパンが2011年10月より、ワークショップの開催や各地の図書館・図書室のモニタリング、海外の図書館協会とのネットワーク構築などLLAの様々な活動をサポートとしている。
② ラオス国立図書館
  1956年に設立され、職員数32人、蔵書数約40万冊で、本の支援はタイ皇室、フィリピン大使館、ドイツ、日本などからされている。
③ ノンセンチャン村コミュニティ図書室
  ヴィエンチャン都の中心部から約20km離れたサイタニー郡ノンセンチャン村小学校の敷地内に、自治労静岡県本部の支援により2010年2月に設立された。図書館には1,100冊(タイトル数554)の本が所蔵されている。
   
子どもたちがお出迎え
先生による読み聞かせ
図書室の本棚

絵本を贈呈
④ ヴィエンチャン市立図書館
  自治労愛知、北海道、東京の3都道県本部および中央本部、エファジャパン、SVAが共同して2006年12月に開設した。蔵書数は1万冊程度であり、近隣の学校から多くの生徒が来館している。
⑤ ラオス中央子ども文化センター
  自治労が結成40周年記念とする国際協力事業として開始した「アジア子どもの家」プロジェクトとして1996年7月に設立された。中央子ども文化センターはヴィエンチャン都の中心部にある。中央子ども文化センターは、ラオス経済と社会の現在と将来のため、子どもの権利を守るための人材育成の一環として文化・教育活動を実践している。子どもたちは放課後や休日に中央子ども文化センターを訪れ、読書やラオスの伝統楽器や舞踊、絵画、スポーツなどの活動を通して、情操教育を受け文化・生活習慣の大切さを学んでいる。
  中央子ども文化センターをモデルとして子ども文化センターがラオス政府によって各県に広まり、現在ではラオス17県全ての県に子ども文化センターが設置されている。
   

中央子ども文化センター施設内

織物製作中 
⑥ ドンコイ村子ども発達センター
  ヴィエンチャン都の郊外、ドンコイ村の小学校敷地内(生徒数230人ほど)にアメリカのNGOの支援を受け2000年3月に設立された。放課後や週末に地域の子どもが集まって、読書推進活動、ラオスの伝統楽器、舞踊、演劇、織物、大工仕事、廃品物を集めてリサイクル、農産物の有機栽培などを行っている。
⑦ ラオスのこども(ALC)コミュニティ図書館
  今回絵本の翻訳出版を依頼したALCが運営している図書館。ALCはラオスでの絵本・児童書の出版・学校への図書の配付・学校図書室の設立運営支援・教員の研修を通した読書習慣の普及、本や紙芝居の活用による学校教育の充実・作家や画家、編集者など本の作り手の育成、子どもが集い遊び学べる場である「子ども文化センター」の運営支援など、子ども自らが学ぶ力を伸ばす環境を生み出す活動に取り組んでいる。


職員による読み聞かせ
(3) 絵本の読み聞かせ
 ドンコイ村子ども発達センターにおいて、ヴィエンチャン市立図書館の女性職員に「ウータンのまほう」の読み聞かせをしてもらった。読み聞かせ終了後に、この職員に感想を聞いたところ、「使っている文章は容易で、動物と自然を題材にした話だったのでラオスの生活状況ともマッチしており、子どもたちも話の内容をよく理解していました。子どもたちは、この絵本を面白いと感じ興味を持っていたので、反応もよく、こちらからの質問の投げかけに元気に答えてくれました。そのため読んでいるこちら側としても、読みやすかったですし、読んでいて嬉しかったです。物語の最後にウータンが父親のようになったということで、子どもたちはウータンの父親がどのような父親だったのかを質問してきて知りたがっていました。」とコメントをいただいた。

4. 最後に

 多くの方の協力で「ウータンのまほう」をラオスの子どもたちへ届けることができた。たった一冊の絵本ではあるが、我々にとっては、国際交流の大きな第一歩になったと感じている。ラオスを訪問したことで、自治体職員として公共サービスの意義を再認識することができた。今後も自分たちが職場で培ってきた技術を国際社会の中で役立てていきたい。