【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第1分科会 「新しい公共」と自治体職員の働き方

 「公務労働拡大」=「真に市民が『必要とする・役に立つ・喜ばれる』サービスの実践」の取り組みからの教訓、①自治研活動は、「調査研究」のみの「理屈と理論を中心とする学習会・集会自治研」(参加する「自治研」)に陥りやすい弱さを内包している。②政策・制度は現場が「対案」を提案しない限り具体的な解決策は見出せない。③政策・制度の充実は地方自治研究センターの設置が不可欠。④「公拡」なければ「職」の確立もなし。



「福山地方自治研究センター」の取り組み


広島県本部/福山市職員労働組合・福山地方自治研究センター・事務局長 岡田  誠

1. 「調査研究」のみの「理屈と理論」を中心とするいわゆる旧来型の自治研活動からの脱皮について

(1) 福山市職労のこれまでの地方自治研究活動の総括について
① 市職労の自治研活動について
  市職労のこれまでの自治研活動を振り返ってみた時、十分とは言えないものの、「市民のための地方自治」の実現に向け、自らの課題として地道な取り組みがなされ、具体的な諸課題の抽出をしながら解決策を模索し、政策・制度につながる対案が提示されるなどの成果をあげるとともに、運動方針の補強に寄与するなどの側面がありました。
② 「調査・研究活動」のみに矮小化された自治研活動について
  本来の自治研活動のあるべき姿としては、「調査・研究に基づき、『具体的に実践』すること」が提起されていたと思っています。しかし、自治研集会の取り組みが年月を経る中でマンネリ化し、「自治研」と題する学習会や集会に参加することが「運動」であるかのような風潮が蔓延する中で、自治研活動が本来のあるべき姿の前段に掲げられている「調査・研究活動」のみに矮小化され、その後に続く「自治研」の生命線である『具体的に実践』することが、ややもすると「忘れ去られているのではないか?」と思えてなりません。結果として、「調査・研究」に主眼が置かれた理論・理屈だけの自治研=いわゆる「『学習会・集会型』自治研」に陥っているのではないかと思っています。

(2) 旧来型の自治研活動からの脱皮について
① 『実践』を前提にした本音の議論について
  旧来型の自治研活動=調査・研究だけで終わる取り組みから、調査・研究に基づき具体的に実践する取り組みへと繋げる必要があります。そのためには、「1つの調査・研究の中で、何か1つでも見えたら『即、実践』してみる」ことに尽きると思います。しかし、今日の自治体は財政状況が悪化し具体的な実践がしにくい、動きにくい状況にあることは間違いありません。そのような状況であるがゆえに、現場(職場・職域)において「市民が必要とし喜ぶサービスとは何か」「最小の経費で最大の効果を上げる=ただでもできる方法はないか」「現場職員(組合員)個々のものづくりの実力・工夫する能力はどこまであるか」「職場・職域を超えた横断的な連携が可能か」などについて、『実践』を前提に本音で議論しなければならないと考えています。
② 「公務労働拡大」を取り組んでいて「よ・か・っ・た」
  市職労では、この間、組合運動として「公務労働拡大」の取り組みを提起し、現業部門を中心に具体的実践を積み上げてきており、市民・議会・当局から一定程度の評価をいただいており、この間の積み上げにより職員個々の技術・力量の向上はもとより、考え方や意識の変革にも繋がってきています。そして、この取り組みの教訓として、「すべての職場・職種において、具体的な実践を普遍化する」ことを提起しています。


2. 「公務労働拡大」の取り組みについて

(1) 「公務労働拡大」を取り組む意義について
① 「公務労働拡大」の取り組みについて
  「公務労働拡大」の取り組みは、「①市民サービスを充実するためには→②効率的で効果的な業務執行が不可欠であり→③業務の実態形成の積み上げが→④職員一人ひとりの意識改革につながる」という優れものです。具体的な取り組みとしては、1997年1月18日~21日の間で、土木職場職員による保育所進入路舗装業務の取り組みから始まり、今日まで真に市民の視点に立った業務確立にむけて取り組んでいます。この間、1999年度に行政施策に位置づけられ、本来業務として取り組まれています。
② 「公務労働拡大」とは、公共サービスの「質と領域」を「充実と拡大」すること
  「公務労働拡大」の取り組みは、日々自らが本来業務として実施しているサービスの受け手であり利用者である市民の立場に立って、「無駄はないか」「新たな価値を見出せないか」などの観点から見直すことにより、サービスの「質的と領域」を「充実と拡大」するものです。したがって、見直しが可能と判断したら即実践することが前提条件になります。この営みが真に市民から「必要とされる・役に立つ・喜ばれる」サービスへと変革する第一歩になります。
③ 「公」が担うべきサービスの「あるべき姿・役割・将来展望」と「公務サービス(仕事)」の確立について
  そして、業務の見直し→実践→実態の積み上げ→丁寧な総括(成果と課題)を繰り返し、さらなる充実・拡大へとつなげることになりますが、その最大の使命は、一連の取り組みを積み上げることにより、市民生活の安全・安心を保障する新たな公務サービスの領域の確立と社会的セーフティーネットを構築することです。そして、この延長線上にあるであろう「公」が担うべきサービスの「あるべき姿・役割・将来展望」を切り拓くとともに、「公務サービス(仕事)」の確立につなげることです。
④ 「地域のことは地域で」とする新たな体制が整備について
  また、2010年度には、年々増加する業務依頼や合併により市域が拡大したこと、地域により市民要望(業務内容)に違いがあることなどから、『地域のことは地域で』という「地域主権」の考え方に基づき、地域の拠点支所(部長職:東部・松永・北部・神辺支所)を核として、その他の支所等(課長職:新市・沼隈支所)に加え、福山市民病院、南部環境センターも地域支所と同様に位置づけ、「地域のことは地域で」とする新たな体制が整備されました。この体制整備は、全市的な生涯学習(社会教育)と協働のまちづくりの地域再編ともリンクさせながら、この間、現場で培い積み上げてきたノウハウや実績・経験を活かし、地域住民と一緒に取り組む「市民との協働」へと深化しつつあり、「地域でのまちづくり、人づくり」をも一体的に行えるようになりました。この新たな体制の中に、「公務労働拡大」の取り組みと「労働安全衛生活動」も位置づけられ、地域の主体的な取り組みが始まっています。
⑤ さらなる「公務労働拡大」の充実・拡大と「職」の確立にむけて
  引き続き、行政施策に位置づけられた「公務労働拡大」の取り組みを真に市民のためになる・役に立つものとするため、改めて、①市民ニーズの把握、②質の高い公共サービスの実現、③市民に役立つ行政組織・機構への見直し、④さらなる業務執行体制の充実などにつなげなければなりません。そして、将来にむけて市民ニーズに応え得る「職」を確立していくため、公と民の役割の確立や「公務労働拡大」で培った技術や技能を基にした公共サービスの将来を見据えた「職」と「業務」のあり方について見つめ直す必要があります。
⑥ 「公務労働拡大」の実践が「自治研活動」の活性化へ
  私たちは、市民の要求に合った高品質のサービスを迅速に低コストで提供する中から、「人に優しい公共サービスの福山基準」と、市民の参画と協働によるパートナーシップを創造し、市民から信頼され認められる業務(職場)=サービスの確立をめざし、さらなる『公務労働拡大』の取り組みの深化と拡大を図っていかなければなりません。また、「公務労働拡大」の取り組みを積み上げれば積み上げるほど、業務に責任を持てば持つほど、現場から業務内容、施行方法、施行期間、必要経費などを提案するだけでなく、業務を必要とする課題の本質的な解決につながる「政策や制度」の解決が不可欠であることを痛感することとなり、「仕事と政策・制度はセットである」と自覚するようになりました。こうした考え方が職場要求や政策・制度要求を考える際の一つの見方となり、市職労運動に生かされていると実感しています。
 このことを簡潔に言えば、「『公務労働拡大』の現場実践が『自治研活動』を活性化している」ということであり、決して言い過ぎではないと思っています。


3. 「福山地方自治研究センター」設立に向けた一歩から

(1) 新春特別講演会「旭山動物園 奇跡の再生への道」
① 市職労初となる「地方自治研究集会」の開催について
  2010年1月20日(水)19:00からふくやま芸術文化ホール(リーデンローズ)大ホールにおいて、新春特別講演会「旭山動物園 軌跡の再生への道」と題し、市職労初となる「地方自治研究集会」として開催し、市職労と県内の自治労組合員を中心に約2,000人の参加のもと小菅名誉園長から講演を聴きました。
② 旭山動物園が廃園の危機に陥った際の職員の思いや願いについて
  この中で、入園者の減少等により旭山動物園が廃園の危機に陥り、
 ・自分の仕事がどうなるのか
 ・市民・住民から必要とされているのか
 ・賃金も税金から賄われている
 ・旭山動物園を残したい
 ・お客さんに来てもらいたい
 ・職場を守りたい
 という全職員の思いや取り組みが、冬の動物園観察会や夜の動物園、そして、動物の生態やそれに伴う能力を自然に誘発させてお客さんに見てもらう行動展示というものにつながり、動物園の復活に成功しました。そして、2004年には過去最高の145万人が来園し、月間の入園者数で上野動物園を上回り日本一の動物園としてマスコミで話題となるまでの苦難の話を聴くことができました。
③ 現場職員の情熱と努力の積み上げから『職の確立』へ
  この取り組みは、現場職員が情熱と努力を持って入園者や市民の視点に重点を置き、必要とされる仕事の確立のためさまざまな取り組みの積み上げにより、政策が実現し市民や住民から必要とされるサービスが提供される施設となり、やりがいのある職場から最終的には『職の確立』につながった価値ある実践事例であり、市職労の「公務労働拡大」の取り組みに共通するするものでした。

(2) 自治研集会「子どもたちに旬な農作物を」
① 「食の三部会」による自治研集会
  2010年10月25日(月)18:30から福山市人権交流センター大ホールにおいて、市職労保育所調理員部会と給食士部会、栄養士部会(食の三部会)の仲間約70人が連携し、横断的な取り組みを進めている「食育・地産地消の推進」にむけて、現場で実践し発想する市職労運動の一環として学習会(自治研集会)を開催しました。
② 食の大切さを伝えていく立場にある大人として「何をすべきなのか」「何ができるのか」
  学習会では、「子どもたちに旬な農作物を」という演題で、福山市農業協同組合の友滝和之さんを講師に招き、学校給食で地元食材を取り入れる工夫や、子どもたちに食の保障をしていくために、食の大切さを伝えていく立場である大人としての私たちがしっかり学ぶことと、時代の流れの中で食生活が乱れていることに対し私たちが何をすべきなのか何ができるのかなどを学ぶ機会となり、この学習会をきっかけとして、「食の三部会」の取り組みへと運動的につなげていくことができました。

(3) 市職労年末特別講演会
① 市職労の運動の基盤である「人権・平和・民主主義の確立」にむけて
  2010年12月27日(月)18:45からふくやま芸術文化ホール(リーデンローズ)大ホール&小ホールにおいて、市職労の運動の基盤である「人権・平和・民主主義の確立」にむけて、戦場カメラマンでありフォトジャーナリストである、渡部陽一さんを迎えての年末特別講演会を開催しました。渡部陽一さんは大学一年生の時から戦場に取材にいき、これまでルワンダ紛争、コソボ紛争、チェチェン紛争、ソマリア内戦、イラク戦争など130もの国と地域の紛争を取材してきた従軍記者であり、これまでも「人権・平和・民主主義の確立」にむけて地道な活動を続けてきていました。
② 人と人が憎しみ合う中では何も生まれない、まずは「相手を知ること」「互いを認め合うこと」から
  この特別講演会には、市職労組合員や家族、地域で共に運動を進めている民間労組の仲間を中心に2,200人の参加があり、自身が経験した戦場での体験や、戦争になれば子どもやお年寄りの方など、いわゆる社会的弱者と言われる方々が一番に犠牲になり、人と人が憎しみ合う中では何も生まれてこないことや、相手を知ること互いを認め合うことの大切さなどを改めて学習する機会となりました。

(4) 「公務労働拡大」の実践を契機として、一連の「自治研集会」の積み上げから生まれた「福山地方自治研究センター」について
① 福山地方自治研究センターの設立について
  この間、市民サービスの最前線で働く私たちが、「公務労働拡大」を基軸とした自治研の取り組みから、組織的に議論し具体的な対案(政策)を提案できる力量を構築しながら、さらなる地方自治の確立と発展にむけて、2011年4月1日に福山地方自治研究センター設立という新たなステージを切り開くことができました。


4. ほんの小さな一歩だけれど……

(1) 「第1回福山地方自治研究集会」の開催について
① 「第1回福山地方自治研究集会」の開催
  2012年2月25日(土)14:00から西部市民センター多目的室において、まちづくりについて楽しく考えることを目的として、「第1回福山地方自治研究集会」を開催しました。各級機関から51人の組合員の参加のもと、ワークショップ形式により、テーマを【子育て支援】【里山保全】【地産地消】【耕作放棄地】の4本に設定し、幅広い議論を行いました。
② もう一段階のステップアップを
  このように市職労独自の自治研集会が開催できたことにより、市職労のさらなる政策立案能力の向上や組織強化・発展につなげることができるのではないかと思っています。今回の成果と課題を踏まえ、次年度の自治研集会はもう一段階ステップアップしていきたいと考えています。


5. まとめ

(1) 公務労働者の主体と責任において「自治研集会」を活性化しよう!!!
 公務労働者が主体と責任をもって、現在の行政(自治体)を真に「市民に喜ばれる行政(自治体)」「市民に身近な行政(自治体)」へと変革するために、大げさかもしれませんが「溺れかけ死にかけている『自治研集会』」を活性化しよう!

(2) 自治研も労働運動も原点は「集う」ことはじめよう!!!
 何も哲学の辞書とにらめっこしながら学ぶような格調高い「自治研集会や学習会」を求めているものではありません。気楽に集まり、気楽に話せる「誰もが参加し具体的に実践できる『生きた自治研集会や学習会』」にしていきたいと考えているだけなのです。マンネリ化し行き詰っているところから這い上がることのできる『自治研集会』を構築しよう!

(3) 「共に競い合う」自治研をめざそう!!!
 そのためには、すべての県本部や単組が自前の現場発の「政策・制度の立案」「市民が喜び必要とする公務労働の実践」「市民から信頼され、参加できる自治体への改革」などにむけて、いい意味で、「共に競い合う」ことができたらいいし、それぞれの調査・研究に基づく実践が「真に共有化」できる学習会・交流会とするため、自治研のさらなる深化につなげよう

(4) 当局主導による行政運営(自治体運営)から脱皮し、「 行政 民の に立つ 」に変革しよう!!!
① 私たち公務労働者の「甘さや弱さ」を厳しく見つめよう
  私たち職員=組合員に共通していると思いますが、政策・制度は市長を筆頭にした副市長・局長・部長・課長などの行政の幹部が作るものであり、われわれ組合の側は、できあがった政策・制度をチェックしていればいいという「甘さや弱さ」を克服しよう!
② 市民からの信頼を勝ち取ろう
  このような、当局任せや当局からの提案待ちという消極的な姿勢に甘んじている限り、現在の当局主導による行政運営(自治体運営)から脱皮できませんし、真に市民ニーズに応えられる 行政 民の に立つ としての地位や信頼を取り戻すことはできないと思っています。まだまだ、歩き始めたばかりの福山地方自治研究センターですが、自治研のさらなる「充実と拡大」にむけ、『まじめに』『したたかに』そして『愚直』に取り組んでいくことを誓い報告とします。「共に頑張ろう!!!