【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第1分科会 「新しい公共」と自治体職員の働き方

 道幅が狭く、急傾斜地が多い呉市では「ごみ出し困難な高齢者・障害者宅への個別訪問収集 すこやかサポート事業」を行っている。そして、そのサービスに付加価値を加えるため、住民ニーズと行政の在り方について職場のなかで議論を重ね「安否確認」と「住民への声かけ・コミュニケーション」等も併せて行うこととした経過や取り組み内容について報告を行う。



すこやかサポート事業
~ごみ出し困難な高齢者・障害者宅への個別訪問収集~

広島県本部/呉市職員労働組合・現業評議会・清掃部会 延岡 直則

1. はじめに

 呉市は、瀬戸内海のほぼ中央部、広島県の南西部に位置し、瀬戸内海に面する陸地部と倉橋島や安芸灘諸島などの島嶼部で構成される市域面積353.76km2の都市です。
 市域全体を通じて平たん地が少なく、集落が分断された形となっています。
 市域は、東から野呂山(839m)、白岳山(358m)、灰ヶ峰(737m)、休山(500m)、茶臼山(283m)、天狗山(292m)などの山々によって安浦、川尻、仁方、広、阿賀、中央、吉浦、天応、昭和など各地区に細分され、これら山麓の小規模な扇状地が市街地を形成しています。
 ことに中央地区は、三方が山に囲まれたすり鉢状となっており、平坦地が極めて狭小であるため、山麓の傾斜地に住宅が密集して山腹まで至っています。
 このような急傾斜地の住宅地では、道幅も狭く、階段となっている道もあり、車で軒先まで行くのが不可能な住宅が大半を占めています。
 現在、こうした地域で暮らす住民の高齢化が進み、医療・福祉、防災等、様々な行政上の課題が顕著になってきています。

(1) 取り組みの趣旨
 「すこやかサポート」(ごみ出し困難な高齢者・障害者宅への個別訪問収集)を本格的に計画しはじめたのは、2002年のことでした。
 当時は、活性化の取り組みといっても、専ら自分たちの労働条件を守るためだけの運動になりがちでした。
 こうした状況を打開しようと、部会に「あり方検討委員会」を立ち上げ、「公務員にしかできない業務とは何か」・「住民から必要とされる職場とは」等を議論していく中で、他単組の取り組み事例を参考に、新たな業務として、ごみ出し困難な住民への個別収集に取り組むこととしました。
 また、地域の住民福祉に携わることで、全組合員への自治体労働者としての意識向上につながればという思いで取り組みを始めました。
 現在では、単にごみを回収するだけではなく、「安否確認」に重点を置き、しっかりと声掛けをすることとしており、今後も、安心・安全な地域コミュニティーの構築に積極的にかかわっていきたいと考えています。
① 経 過
  2003年10月 警固屋・広南部地区において試行実施
  2004年4月 業務として実施
  2005年   専属コースの設置
  2008年   合併町での事業開始
  2011年4月 現場職員による申込者への面接を実施

年度別新規登録数
2012年3月末時点
新規登録数
旧市内
音戸・倉橋
安浦
蒲刈
総 計
累 計
2003年
 
 
 
2004年
15
 
 
 
15
18
2005年
45
 
 
 
45
63
2006年
38
 
 
 
38
101
2007年
78
 
 
 
78
179
2008年
69
16
 
86
265
2009年
53
 
64
329
2010年
67
17
 
 
84
413
2011年
73
82
495
総  計
441
48
495
 

現在実施件数
2012年3月末時点
登録年度
旧市内
音戸・倉橋
安 浦
蒲 刈
現在実施合計
2003年
 
 
 
2004年
 
 
 
2005年
21
 
 
 
21
2006年
13
 
 
 
13
2007年
34
 
 
 
34
2008年
30
12
 
43
2009年
28
 
38
2010年
46
17
 
 
63
2011年
67
 
75
総 計
242
42
実施総計 290

② 現 状
  2011年度にコース収集を廃止し、グループ収集に移行しました。それに伴い、統括グループとA・B・Cの3グループの合計4グループ体制をとっています。各グループに収集地域と収集車両を振り分け、グループごとに、現場の職員で収集計画をたて、車両の整備(簡易な補修も含む)・管理、各種報告書・台帳の作成・管理を行い、各グループがまったく同じことをするのではなく、各グループのリーダーのもと、それぞれ特徴を出した取り組みができるようにしています。各グループの主な業務は、下記のとおりですが、すこやかサポートでは、現場の職員が申請者への面接に同行し、ステーションの新設の際には、団地・マンションの開発段階から、その地域を担当するグループのリーダーが、業者との打ち合わせに立ちあったりしています。
 また、グループ体制に変更したことで、年間を通して同じ担当者が収集に行くことが可能となり、これまで以上にすこやかサポートを受けられている方や地域住民の方とのコミュニケーションがとれるようになりました。
 現段階では、組織全体として十分機能していないところも多々ありますが、こうした業務の経験をすることで、地域に密着し、地域に適した政策の企画立案を現場から挙げられるようにしていきたいと思っています。
▲すこやかサポート専用小型軽車両

統括グループの主な業務(現在18人)
◎ 一般家庭ごみの収集(軽ダンプ)
◎ すこやかサポート全般
◎ 環境啓発活動
◎ 新規事業に関する企画・立案等

A・B・Cグループ(現在各グループ19人)
◎ 一般家庭ごみの収集(2tプレス、4tパッカー・プレス)
◎ ステーション管理及び台帳の作成
◎ ステーションの新設、移設及び廃止に係る調査及び関係者への指導・調整。

すこやかサポート収集体制
◎ 2人1組で軽ダンプ(専用車両2台)
◎ 可燃(毎週、月・火・木・金に各1回の収集)
◎ 不燃・粗大・資源有害(毎週、水) ※粗大ごみは電話連絡で収集

可燃ごみ曜日別収集件数(旧市内)
 
月曜日
火曜日
木曜日
金曜日
合計
収集件数
59
51
75
57
242

③ 今後の展開
  今後は、「すこやかサポート」をメイン事業として位置づけ、よりきめ細やかで丁寧なサービスができるように、職員の住民対応能力向上のための研修の実施や、専用車両の増設と人員配置などの体制の整備を行い、現在週1回の可燃ごみの収集を、一般のステーション方式と同じ週2回の収集を実施していきたいと考えています。
 また、呉市は地形的には急傾斜地が多く、地質的には花崗岩で生成されているため、集中豪雨の際には山崩れなどを多発させやすいといった自然災害に対して、きわめて弱いという特徴を持っています。
 すこやかサポートのサービスを受けられている住民の多くが、こうした急傾斜地をはじめとする、災害に対して脆弱な地域に住んでおられます。
 避難勧告が出たからといって、大雨の中、安全かつ速やかに避難所に行けるとは考えにくく、災害に対して弱い立場にあることは明らかです。
 まだ具体的な計画には至っていませんが、「すこやかサポート」を通じて得た情報と経験を活かし、こうした災害弱者となる可能性のある住民が、今より少しでも、安心して暮らすことができるシステムを構築していきたいと考えています。

(2)すこやかサポート取り組みの様子(作業風景)