【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第1分科会 「新しい公共」と自治体職員の働き方

 地域の課題を解決していくためには「町民と行政の協働」、「地域の自治機能の向上と自立」が求められてきたが、地域に目をむけてみると、少子高齢化、過疎化、限界集落の存在など多くの問題が生じている。このようななか、邑南町では町民と行政との協働の町づくりを推進するために、自治会行政連絡担当職員を各地域に設置することになった。この取り組みについて考え、私たち町の職員ができることについて考えたい。



町民参加のまちづくりにむけて
~自治会行政連絡担当職員の設置~

島根県本部/邑南町職員組合・組織対策部

1. はじめに

 地方分権一括法により国と地方の役割が明確化されるなか、自治体は国と対等な「地方の政府」と位置づけられ、住民に身近な事務は基礎自治体(市町村)が処理するよう進めていく方向付けが行われました。この分権社会においては、地域において自己決定と自己責任の原則が実現されるという観点から地方自治の本質的要素である住民自治の考え方が重視されてきました。
 これまでのまちづくりは町民の要望に行政が応えるかたちで進められてきましたが、国の三位一体改革のもと、地方も厳しい行財政運営を強いられており、今までのような財政運営は難しく、地域の課題を解決していくために、「町民と行政の協働」と「地域の自治機能の向上や自立」が求められてきました。
  しかし地域(町民)の自治の要である集落に目をむけてみると、少子高齢化、過疎化、限界集落の存在など多くの問題があります。 
 邑南町では「夢響きあう元気の郷づくり」の実現にむけ、積極的に行政情報を町民と共有し、町民自ら積極的に町政に参加し、町民の意向をまちづくりに反映することで町民と行政の対話を基礎とした協働のまちづくりを推進しています。


邑南町まちづくり基本条例より
まちづくりへの課程
第5条 町民と町は、第1条の目的を達成するため次の各号に掲げる基本原則に基づきまちづくりを進めていくものとする。
 (1) 町民と町は、互いの役割と責任のもと、協働でまちづくりを進めていくものとする。
 (2) まちづくりは、町民と町が必要な情報を共有しながら進めていくものとする。
 (3) 町民と町は、コミュニティがまちづくりにおいて重要な役割を果たすことを認識し、これの育成、発展に努めるものとする。
 (4) 町民と町は、培われてきた自然・伝統・文化・暮らしを大切にし、邑南町の特性を活かしたまちづくりを進めていくものとする。

 このレポートでは、邑南町がめざす協働のまちづくりにむけた取り組みや新たに始まった自治会行政連絡担当職員の設置について考え、組合、行政、地域として3つの立場をもつ私たち町職員ができることについて探りたい。


2. 邑南町の概要

 邑南町は2004年10月に羽須美村、瑞穂町、石見町が合併し誕生した町で、島根県中南部、広島県との県境に位置し、面積419.2㎞2、中山間地域で盆地の多い地形となっています。  
 1975年からの人口及び世帯数は、下表のとおりであり、2011年6月1日現在の人口は12,000人、世帯数は5,077世帯となっています。1975年と比較すると人口が28.2%減少したのに対し、世帯数は10.8%の減少にとどまっており、核家族化が進行していることがわかります。


人口・世帯数の推移(1975~2010)
区  分
1975年
1980年
1985年
1990年
1995年
2000年
2005年
2010年
増減率
(2010-1975)
邑南町
人口 
16,659
15,734
15,795
15,117
14,456
13,866
12,944
11,966
-28.2
世帯数
4,965
4,866
5,010
4,980
4,849
4,756
4,636
4,430
-10.8
1世帯
当たり人員
3.4
3.2
3.2
3.0
3.0
2.9
2.8
2.7
-20.6
島根県
人口
768,886
784,795
794,629
781,021
771,441
761,503
742,223
716,354
-6.8
世帯数
212,418
225,720
233,161
236,110
246,476
257,530
260,864
262,108
23.4
1世帯
当たり人員
3.6
3.5
3.4
3.3
3.1
3.0
2.8
2.7
-24.1
資料:国勢調査

3. 町 民

(1) 集落について
 地域において町民の活動の場となる集落についてみてみると、邑南町には現在、221の集落があり、いずれの集落も若年層の町外流出、世帯数の減少、高齢者世帯の増加、核家族化、少子化などが進行しており、自治機能を維持することが困難となっている集落もあります。また、住民意識の変化により、かつての住民相互の互助的機能が失われつつある集落もあります。
 地域の要である集落の維持は最重点課題であり、地域住民の主体的な検討を基本としながら、集落の再編成を視野にいれた維持管理体制について検討していく必要があります。


集落のかかえる主な問題点(参考資料:夢づくりプランより)
集落内組織の存続 高齢者の移動手段 地区内の社の管理 管理されていない土地の増加
耕作放棄地の増加 各種役員の固定化 金融の廃止 伝統芸能がすたれる
独居老人の増加 若者が帰ってこない 働く場所がない 空き屋が増加

(2) 地域コミュニティの再編成(自治会の設立)
 「外へ外へ仕事などで人々が流れていくとき、石見町は寂しくなる集落を元気づける方法を考えました。自治会の結成と連帯です。みんなが力を合わせると強い力になる。この新鮮な発想が、町と人々の毎日を生き生きとさせました。」
(資料:ふるさと石見町「町制施行50周年記念誌」より)
集落と自治会のイメージ

 石見地域(旧石見町)では1965年代頃から、人口の過疎化が進行しました。この対策として、自治会の結成が行われました。複数の集落を自治会という新しいコミュニティに集約したのです。
 自治会設立の基本は「過疎化のなかで、いかにして人々が活気ある暮らしや仕事をとりもどせるか。」そのために、それぞれの集落での話し合いを大切にし、より明日につながる体制づくりが行われ、1972年から1980年にかけて21自治会が組織化されました。
 また、瑞穂地域(旧瑞穂町)と羽須美地域(旧羽須美村)については、町村合併を契機に「地域の自立を目指して」自治会を組織化しています。
 2011年3月31日までに邑南町で39自治会が組織化しています。
 石見地域のように1972年から1980年にかけて21自治会が組織化され、自治会を中心に活動に取り組んできた地域と、瑞穂地域や羽須美地域のように町村合併時を契機に新たに自治会組織を立ち上げた地域があり、それぞれに自治の生い立ちや活動基盤が異なり、温度差があります。その温度差をなくすためには、地域活動に対する適切な指導、助言、支援に努め、自治会の健全な育成を図っていくことが必要となります。 
 また、地域の活動組織の要となる自治会が行政と協働し積極的にまちづくりに参加できる体制づくりが重要となります。


4. 情報の共有

(1) 町民参加のための情報共有化
 邑南町が個性的で自立したまちづくりを進めていくためには、町民自らが積極的に町政へ参加し、町民と行政が協働によりまちづくりに取り組んでいくことが必要です。そのためには、町が積極的に情報提供し、まちづくりへの町民参加の機会と場を拡充していくことが求められます。町民と行政が同じ情報を共有し、徹底的に話し合うことで、課題解決への共通認識が生まれ、同じ方向でまちづくりに取り組むことができるからです。
 計画の策定段階から実施、点検、見直し段階まで一人でも多くの町民の参画が得られるような仕組みづくりをはじめとして、町民と行政の情報共有、町民・行政・議会など、それぞれの役割と責任を明確にすることにより、誰もが参加しやすい基本ルールの策定と実践しやすい体勢づくりに取り組む必要があります。
 住民と行政を結ぶ積極的な情報提供や情報公開を進めるためには、広報体制の充実と高度情報ネットワーク等を活用した情報伝達が重要となります。また、行政への参画と協働に対する広報や啓発活動の推進が大切です。
 邑南町では町内12地区にある公民館に正規職員と臨時職員を配置し地域活動を支えています。公民館では地域活動計画(夢づくりプラン)の策定支援並びに計画にもとづく学習や研修、行政出前講座を実施し支援しています。他にもおおなんケーブルテレビや広報誌、無線放送やホームページ等による情報提供のほか、座談会も行い行政情報の提供を行っています。ただ住民が聞きたい時と、行政が伝えるタイミングと場の乖離はなかなか埋まらないのが現状です。そこで、2011年度より新たに自治会行政連絡担当職員の設置も行われています。この内容は次のとおりです。


邑南町自治会行政連絡担当職員設置要項より
 邑南町は各自治会との間で「自治会と行政の協働に関する業務協定書を締結し、邑南町自治会活動補助金などの助成を行いながら、地域とともに安全安心で活力のある豊かな町づくりを進めている。
 
また、その協定書により、自治会自らが自主的、自立的な活動団体となり、コミュニティづくりに努めることとしており、町からの行政連絡の周知や地域住民の意見を収集する環境づくりが重要となっている。
 このような状況を踏まえ、自治会ごとに行政連絡を担当する職員を配置し、定期的に自治会に出向き、町からの行政連絡事項の説明を行い地域住民への周知を図るとともに、様々な意見を聞き取り、町へ報告し、今後の施策立案や行政運営改善の糧とする。

 この取り組みは始まったばかりですが、自治会と町行政をつなぐ重要な役割を持つことに違いはありません。
 町内には歴史のある自治会から誕生したばかりの自治会、あるいは積極的な自治会、消極的な自治会などもあるかもしれません。この自治会行政連絡担当職員の設置により行政と地域との情報共有が進み、町民の意見や要望を収集し町に報告することが町民参加・協働のまちづくりにつながっていくことが期待されています。組合員にすればどこまでが仕事で、どこからが地域住民としてのつとめかの判断について不安があるのも事実です。組合としても労働強化にならないよう注意を払いながら地域活動を支援していきたいと思います。


5. おわりに

 自治会役員のなかに、町職員がどの程度いるのかを調べてみました。(小さな組織やグループについて考えると割合は高くなると思います。)この数字が「地域の自立」をめざす邑南町にとって多いのか少ないのかはわかりません。


自治会役員中の町職員数(39自治会のうち30自治会を調査)
調査自治会数
調査自治会の
役員総数
うち町職員数
ひとり以上の町職員が
役員である自治会数
30自治会
787人
49人
6.2%
21自治会
70%

 行政(町)の立場でもあり、地域(町民)の立場でもある私たち職員は一番行政情報を持っている存在なのかもしれません。その私たちが積極的に自治会や地域活動に参加することが情報提供や共有化、強いては住民参加のまちづくりへ近づく推進力となるのは明らかです。2010年10月より協議を行い3月に要綱の内容を確認し、2011年4月に説明会を行い実施しています。組合としても趣旨を十分に理解しつつ組合員の生活を守る砦として、組合員の置かれた状況について把握し、改善すべき点については交渉できるよう確認しています。