【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第1分科会 「新しい公共」と自治体職員の働き方

 学校給食調理員の夏休み、冬休み、春休みの三期期間中(以下『三期期間』という)における業務について、年間の実稼働日数などの指摘を外部から受ける状況にあった。逆に、保育園給食調理員においては、調理員全体で研修等を受けることが困難であることから、全体的な水準の維持が課題であった。そこで、両調理員が参加する調理員協議会を中心に三期期間の有効活用と業務の拡充を課題として運動の展開を検討してきた。



給食調理員の三期期間の取り組み


山口県本部/山口市職員労働組合 岩本  諭

1. 背 景

(1) 少人数職場の弊害
 山口市では、採用した調理員は学校給食調理員と保育園給食調理員の間で人事異動を行っている。
 しかし、近年の民間化推進計画や定員適正化計画などの現状を無視した合理化の下、退職者不補充により、特に保育園では正規職員が少数配置となっており、ほとんどが一人職場となっている。
 このため、年度当初から新しい職場で正規職員1人という状況であり、十分な引継ぎができないまま業務に就かざるを得ない。

(2) 不安定な職場
 正規職員の少数配置により、休暇取得時や事故や病気などの緊急時には、代替職員(パート職員)を配置することになっているが、月に8日間という制約があるため、調理場に正規職員がいないという状況も発生している。
 また、全体的にまとまって研修を受けることが困難であるため、調理員全体のスキルに不均衡が生じており、アレルギー児の対応や食育活動などの水準にばらつきがある。

(3) 多様化への対応
 学校給食と保育園給食は同じ調理業務ではあるが、保育園では0歳児から未就学児童までが対象となるため、成長段階に合わせた別々の給食を調理する必要がある。
 また、近年重度のアレルギーを持つ子どもが増加傾向にあり、アナフィラキシーショックなど命の危険もあるため、細心の注意を払って限られた調理場のスペースで異なる食材を混在させずに調理することが必要となる。

2. 保育園給食調理員の業務

 保育園の調理現場では、通常の給食調理は勿論のこと、10時と3時のおやつや、アレルギーを持った子どもに対するアレルギー食、乳児に対する離乳食など、多岐にわたっての調理業務を行っている。
 また、食育活動については、保育園内だけでなく、地域に根ざした食育の取り組みを行っており、多方面に情報を発信し、食を通しての子育て支援も行っている。


給食調理員の業務
内  容
(1)普通食 ・献立作成時点から各保育園の地域性を考慮し地産地消を推進し、発注においては賄材料費を運用しながら地元業者を活用
・調理においては、使用する食材から旬のものや地元産など吟味し、子どもたち一人ひとりの成長・発達に応じた形態・内容を考え提供
(2)アレルギー食 ・各保育園におけるアレルギー児の割合、症状を起こすアレルゲンなど、担当課において、毎年調査・把握をしながら研修を積み重ね、場合によっては、生死に関わることもあるため医師を交えての学習会を実施
・卵・牛乳・油などのアレルゲンを普通食の食材から除去し、代替の食材を利用した給食・おやつを作るため4~5種類調理
・献立表もアレルギー用のものが必要となり、2~3種類作成
・重度のアレルギーを持つ園児の入所は、民間において断られる例が多く、公立保育園が受け皿となっている状況
(3)離乳食 ・生まれてはじめの食事となるが、離乳食に対する保護者の不安が多く聞かれ、家庭での食事指導も含め対応
(4)障害児保育 ・嚥下障害に対応した柔らかく煮る・刻む・すり潰すなどの加工や知的障害児の偏食に対応した支援
(5)食育活動 ・食育推進の指針・計画を保育士と共同で作成
・地域に向けた研修の実施、啓発活動
・地域内で業者や生産者との交流とネットワーク作り
・伝統的食文化の継承
・食品の安全性、栄養、食習慣などの情報の収集と提供
・公的機関・食関連の専門団体・幼・保・小などの地域と連携し食育ネットワークの構築
・食育推進・食を通しての保護者支援
・小学校の栄養教諭や栄養士、食生活改善推進員や母子保健推進員など関係機関との交流
・子育て支援センターや子育て支援交流広場など、子育て世代に向けた食育講座を実施
(6)栄養士業務 ・栄養士を配置していないため、献立の作成や材料の発注、食事摂取基準(2005年(平成17年)厚生労働省)による栄養管理や保健所への栄養報告、監査資料作成・提出などの栄養士業務
※ 「食育基本法」2005年(平成17年)制定
  子どもたちが健全な心と身体を培い、未来や国際社会に向かって羽ばたくことができるようにするとともに、すべての国民が心身の健康を確保し、生涯にわたって生き生きと暮らすことができるようにすることが目的であり、この法律の第5条には、「食育は、父母その他の保護者にあっては、家庭が食育において重要な役割を有していることを認識するとともに、子どもの教育、保育等を行う者にあっては、教育、保育等における食育の重要性を十分自覚し、積極的に子どもの食育の推進に関する活動に取り組むこととなるよう、行われなければならない」とされており、先生や保育士、給食調理員が一体となって取り組む課題であることは明白である。
※ 「山口市食育推進計画」2007年(平成19年)作成
  他の市町村と違う山口市独自の計画の特徴としては、山口市全体の食育を推進すると共に、特に次世代を担う子どもに焦点を向けて食育推進に取り組むことである。

3. 実施に向けて

 このような状況を踏まえ労使協議を行い、学校の三期期間を利用し、学校給食調理員が保育園へ出向き、保育園給食調理員の応援業務(業務の把握や補助)を行うことを提案した。
 三期期間の応援業務を充実することで最終的には、学校給食調理員が保育園給食調理員の代替業務を行うことを目標としている。
 これまで、保育園独自の研修や外部講師を招いての講演会などについては、調理場を空けることになってしまうため、少数での参加しかできず、後に参加した調理員に報告を受けるに留まったり、保育園内での食育活動についても、子どもと接する時間も少なく保育士との連携も取りにくい状況であったが、目標を達成することにより、全体での取り組みを図ることができ、調理員一人ひとりのさらなるスキルアップへとつながる。
 また、複雑化するアレルギーをもつ子どもへの対応や食育活動についても、会議での情報だけでなく、現場で子どもの状態を身近に把握することができるため、保育園から小学校・中学校へと進んでも、サービス水準を下げることなく一環とした対応ができると考えている。
 労使協議の結果、2010年(平成22年)の夏期より、まずは研修というスタンスで取り組み、内容について学校・保育園給食調理員で設置した調理員協議会により、詳細について議論してきた。

(1) 年間計画~実施可能日数
① 夏期、冬期について実施する。当初は、1日程度から始め、最終的に夏期については1週間程度連続した実施を検討
② 春期については、園行事や人事異動など保育園の運営実態を考慮して、実施しない。

(2) 対 象
① 研修を受ける学校給食調理員 → 保育園での業務経験がない調理員を優先させる
② 研修先の保育園 → 調理スペースがある程度確保され、研修視察が可能である保育園(調理スペースが、過度に狭いため、調理員以外入室できない保育園がある)

(3) 調整課題
① 両調理員間の意識、目標の統一
② 教育委員会と市長部局健康福祉部間の部局間調整
③ さらに保育園全体の運営に関して、園長会に強い決定権があるため、間接的に調整を図ってもらう

(4) 内 容
① 最終的には、代替勤務を行うことを目標とするが、5年程度で全調理員が研修を受け、同一の業務にあたれるようにすることを当面の目標とし、当初は業務視察から始め、段階を追って調理補助、代替勤務へと展開する。
② 業務視察……一つの調理場で異なった発育段階に合わせた給食を作るため、調理場の使い方や職員の動き方
③ 調理補助……同一の年齢、または食材加工等調理場の一部を担う
④ 代替勤務……研修名目であるが、保育園給食調理員の代わりに調理場の運営にあたる

4. 研修実績・今後の取り組みの展開


日 時
対象保育園数
参加者数(学校給食調理員)
研 修 内 容
2010年8月
3園
6人
保育園給食調理業務の視察
2010年12月
2園
4人
保育園給食調理業務の実習
2011年7~8月
2園
4人
保育園給食調理業務の実習

 この間、3回の研修を実施してきたが、研修期間だけでは代替業務を行える業務把握は困難であることから、調理員協議会など業務時間外に調理員が集まり、それぞれの施設の特徴や子どもの状態など情報共有を頻繁に行ってきた。
 山口市には、保育園が17園あり調理員は71人(学校53人、保育園18人)おり、保育園の業務経験がない職員もまだ多いため、誰でもそれぞれの保育園調理場の状況を把握し、代替業務を行うという目標を果たすためには、現状の研修実施状況においては困難である。
 そこで、目標の達成に向けた研修の実施状況に大幅に見直す必要があるという意見から、2012年(平成24年)夏期の研修では、対象保育園・参加者・実施日数を大幅に増やす方向で検討しており、調理員協議会を通して両当局に調整を働きかけている。
 まだまだ反省すべき点や問題点は多々あるが、研修や調理員協議会での議論を重ね、アレルギー児対応をはじめとした多様化する住民ニーズに応え、安心安全な給食を一貫して提供し、質の高い公共サービスの維持向上をめざす。