【自主レポート】自治研活動部門奨励賞

第34回兵庫自治研集会
第1分科会 「新しい公共」と自治体職員の働き方

 福岡県八女市八幡地域は、静かな暮らしの裏側に、地域の後継者育成や過疎化の問題が隠れており、それらの現実からは逃げられない。すでに江戸後期の天保の頃から優良な農村だったと史料に記されており、このような資源を財産と捉え、村社会のメリット、デメリット、そして人々の価値観を包含し、市民との協働の取り組みを積み重ねることによって「まちづくりプラン」を検証する。



めだか塾の取り組み
~農村地域の特色を活かした助け合い文化再生と
男女がともに担う地域づくりに向けた取り組み~

福岡県本部/元八女市議会議員(組織内) 近藤 雅幸

1. 八幡の概観

 福岡県八女市は福岡県の南部に位置し、矢部川を中心とした自然、八女丘陵の古墳群、伝統的まち並み、多様な伝統産業、豊かな農産物、さらには天然温泉など、他に誇れる個性的な資源が豊富にある総面積98.66平方キロメートル、人口約4万3千人の都市であった(2006年10月1日旧上陽町との合併後)が、更に昨年(2010年2月1日)の2町2村(黒木町・立花町・星野村・矢部村)との合併によって、総面積482平方キロメートル、人口約7万人の森林面積が2/3の割合を占める中山間地域の広い都市となった。
 集約型農業を推進した市の農産物は生産性が高く、平坦地では施設園芸が盛んで、電照菊、イチゴ、トマトなどが代表的な作物として生産されている。また、市の丘陵地で生産されるお茶は、八女と言えば“お茶”と言われるくらい「福岡の八女茶」として全国ブランドになっており、味・質において日本一を自負する代表的な八女の特産物である。その南西部に位置する八幡地域(1954年合併後の旧八幡村)は、人口1,656人、786世帯で、高齢化率は27%(2007年10月現在)と高い。
 地元八幡小学校は1998年より全学年1クラスになり、現在では児童数110人強。人口減少と少子高齢化が進む状況を打開しようと、八幡地域内の13地区の自治区長や、各種団体の会談の中ではいつも話題にのぼっていた。

2. めだか塾による地域づくりの背景

 1998年八女市より「魅力ある地域づくり」のモデル事業の指定を受け、「八幡魅力ある地域づくり推進委員会」を立ち上げ、活発な活動を展開することとなる。初期段階は、住民参加型まちづくりワークショップを開催。数多くのワークショップ形式の話し合いを重ね、情報収集には歩くのが一番とみんなが笑って言った「むらさるき:村歩き」を行い、八幡再発見探訪を重ねた。これらの結果、この八幡地域でのワークショップから、地元民でも未確認の習わしや遺跡など、予想以上に多くの情報がもたらされた。
 こうした独自の魅力づくり活動により成果を重ね、市に対する提言書をまとめあげていく段階が近づいてきた。情報収集作業の最後の仕上げ、地域住民まちづくり意識のアンケート調査の企画が展開していく。これまでのやり方ならば、役所や専門の業者に委託したかもしれないが、委員会としては、自分たちの身近なことを、自ら手間をかけ分析しようという声があがった。2,700人の地域住民から、町内、年齢層、男女、職種などを考慮し、無作為に1,200人を抽出しアンケート調査を進めていく。戻ってきた膨大なアンケート量の分析には、実際かなりの手間と時間がかかったが、分析整理作業のたびに、一枚のアンケートに込められた人々の本音や将来への意欲が見てとれた。
 学生世代は、夜遅くまで開店し明るいコンビニエンスストアを欲しがっている。母親世代は病院がないことを不安に思っている。公共バスがないから自由に買い物や病院へ行けないことを恨めしく思う高齢者の意向が見える。早くこの地から出たい苦悩ぶりを記述した女性は、根強いコミュニケーションに縛られて、無責任な風評を言い合う村社会に疲れたと吐露していた。しかし一方で、「雇用の場さえあるのなら都会に出た子どもが戻りたがっている」という声や、「競争には弱いかもしれないが気持ちの優しいおおらかな子どもを育てるには絶好の教育環境です」と喜ぶ親の気持ちも見えてきた。アンケートの成果を丁寧に分析しまとめ上げることで、これからのあるべき八幡地域の暮らし方や生き方のイメージが浮上してくるようであった。
 以上の活動の最終到達地点として、私たちの委員会は、誰もがどこかで懐かしく思い、どこかで心強く思う、究極の理想で、分かりやすい目標「親子三世代が仲良く暮らせるまちづくり」を掲げることとした。そして、そこから20年後30年後に及ぶ八幡地域の将来イメージをシナリオとして描いていく。
 現役世代の者たちは、「父母との同居は子どもの教育にとってよくないと嘆く」、一方では、「働く人々にとっては昔ながらの子育ては昔ながらの知恵を習得させ、生きる力が身につく」という人達。老人・老々介護や認知症・若年認知症の問題に頭を抱える家族、学校から帰宅しても一人ぼっちの個食、欠食の子どもたち、高齢層、いわゆる祖父母から見た現代層の子や孫には、「子ども達への教育がなっていないと人権教育より愛の鞭」と叱咤される。さまざまな課題が山積するこのテーマ、しかし協働の成り立ちは家庭からしか始まらない。親子三世代が仲良く暮らせる家庭づくりが市民協働への道しるべになると確信し、このテーマを掲げることになった。
 八女市長への提言書に少し手を加えた概要版を地域全戸に配布しながら、さらに「まちづくりシンポジウム」を通し、地域の理解とその実現へ向けて私たちが具体的にどのような行動をしたらいいのかを、多くの人々と語ってきた。そしてなにより、こうした活動の牽引役として、まちづくり活動グループ新生「めだか塾」が誕生することになる。

3. めだか塾と八幡木鶏書院、その成立と展開

 委員会の実働部隊として八幡のまちづくりに汗をかこうと、40代、50代のメンバーが中心となり、「めだか塾」と銘打った勉強会を立ち上げていた。小川のメダカが群れをなしながら大きくなるように、ほ場整備事業やかんがい排水事業でコンクリート化された水路に、メダカが早く戻ってくるように、環境・農業・教育・福祉・文化等の充実を市民との協働でめざすという、さまざまな願いを込めたネーミングである。そのメンバーは、農業経営者、JA職員、公務員、商工業者、保健福祉職等々で地域の子どもたちをはじめ多くの地域住民の笑顔をイメージした活動を念頭に展開していく。
 今までの官より用意された施策や事業から、これより真の意味での自ら考えて自ら創る有志の非営利的な集まり「めだか塾」は「自立・連帯・自己解決型」のまちづくりをめざすこととなる。その後、地域の方の紹介により本拠地を空き屋敷に置き、メンバーの発案によりこの屋敷の通称を「八幡木鶏書院」と呼ぶことにした。中国の荘子の故事に示された木鶏、すなわち真の存在感を有した者を目指そうという思いから命名されたものである。
 2000年6月以降、めだか塾は新たな活動を展開しだした。基本財源は会員による会費であり、広く会員を募ってきたことがひとつの特徴となっている。また活動にあたって、基本的に公的資金に頼らずに自らが汗を流すことを前提に資金を調達し、活動を進めていこうと意気盛んであった。
 以降、具体的な活動テーマは次の14点に集約される。
① まちづくり交流拠点としての八幡木鶏書院の有効活用
② 八幡地域の魅力資源、まちづくり資源の情報化
③ 八幡地域の親子三世代が仲良く暮らせるまちづくりの啓発と実践
④ 町内会(自治会)を横断したまちづくりイベントやシンポジウムの企画と実施
⑤ ふれあい朝市(月2回開催/ばさらか朝市と命名)の実行委員会形式での運営
⑥ 資源循環型の農業確立と地産地消の実践
⑦ 田園農村の魅力を生かした地域主体の国際化活動
⑧ 小学生の登校道路の安全点検と改善提案
⑨ 花いっぱい運動の提唱と実践
⑩ 町内案内看板の設置運動の実践
⑪ まちづくり人材資源の情報化及びまちづくり後継者育成活動
⑫ 農村滞在型グリーンツーリズム事業の実践
⑬ 地域名産物・商品の研究と開発
⑭ 女性グループ・リーダーの育成と男女がともに担う活動の実践
 そしてさらに、こうしたひとつひとつの活動を大きく捉えながら結びつけるものが「善の循環によるまちづくり」の発想である。すなわち八幡地域の村人と相互の信頼関係、支援関係、友好関係、交流を基盤にしながら、一人だけではなく三人寄れば文殊の知恵といった段階的結集を構築し、そこから家族間交流、町内間交流を広く進め、さらには家族を越え、町内を越え、おおいに協働しあいながら、八女市全域の魅力を生かした循環系のまちづくりへ育てあっていこうというものである。

4. これまでの活動履歴

(1) 八幡の朝市
 八幡の朝市は、対面販売を特徴に、JA八幡支所の倉庫を借り、1999年より、地域の高齢者の生きがい対策と地域の基幹産業である農業を生かしたまちづくりの実践、そして地産地消の推進を図る意味からも、毎月第2、第4日曜日に開催してきた。この朝市は、開催を楽しみにしている人たちも多く、八幡地域はもちろんのこと、八幡以外の人たちとの交流の場(井戸端会議)となっており、たいへん好評であった。また、小中学生も参加し、品物をつくる、そして売るという大変さを通して、けっして学校教育では体験できない生きた学習をしており、出店者の児童・生徒に対する温かい指導、助言等により世代間交流の場ともなったが、JA支所の統廃合により、5年間継続してきた朝市は、開催を断念せざるを得なかった。現在、次なる展開を視野に入れ開店休業状態である。

(2) まちづくり事業
① 福祉バス停留所、及び各町内の神社等へのベンチの寄贈
  八幡地域は、八女市で唯一公共交通機関の無い地域で、この事を解決するために、主に高齢者を対象とした福祉バス「さちかぜ号」が1日に数回地域内を走る事になっている。しかし、このバス停にはベンチがなく、高齢者は長時間立ったままバスを待っていることが多い。この現状をどうかしたい、ということから、めだか塾の塾生の提案により、福祉バスの停留所及び高齢者のたまり場であるゲートボール場、町内の神社、公民館前等に手作りのベンチを作成し寄贈した。
② やはたマップの作成
  地域をくまなく散策することによって、地域の歴史、文化、遺跡、人材等を調査し、八幡マップを作成した。八幡の主要施設や遺跡などを掲載した畳1条ぐらいの大きさの看板である。校区の人々はもちろん、校区外からの来客にもたいへん好評である。各行政区長の協力の下、主要施設を始め町内のポイントごとに設置している。
③ コンサート等の開催
  八幡地域出身であるミュージシャンの野外コンサート、全国的に活躍しているミュージシャンを呼んでのコンサートを4回ほど開催した。人も八幡地域の財産であるとの認識により開催してきたが、めだか塾の活動資金づくりにも大いに貢献することとなった。また、八幡地域とゆかりのあるプロ野球選手に来ていただき、小学生を対象とした野球教室及び朝市会場でのサイン会等も取り組んだ。
④ 国際交流の取り組み
  九州大学藤原教授の教室で学ばれている海外の方を招いて、いつしか国際交流に取り組むようになった。「中国語、英語教室」の開催、市内の人を対象とした「中国風手作り餃子教室」、佐賀大学生による鼓弓の演奏会等を実施した。また、木鶏書院には、外国のミュージシャン、芸術家等の滞在も多く、めだか塾塾生や地域住民との交流も盛んである。
⑤ 小中学生との交流(中学校生徒会による地雷撤去カンパ活動)
  朝市やベンチの協働作業、やはたお宝マップの作成を通じ小中学生との交流も盛んになってきた。とくに中学生が八幡の朝市に参加し生徒とめだか塾塾生の協議により、国際貢献として環境にやさしい廃油石鹸づくりを実施してきた。市民から提供された廃油を使い、朝市会場で廃油石鹸を生徒と一緒につくり、熟成期間を経て会場で廃油石鹸を販売する。この石鹸の収益金は「地雷撤去資金」として運動団体に寄贈する事になる。
⑥ 会輔堂講座
  八幡の新庄地区にその昔あった私学「会輔堂」より命名し、幅広く呼びかけながら公開講座を行ってきた。現在までの主な内容は、「八幡村是にみる八幡の姿」「八女の電照菊の未来について」「八幡における住民が創るまちづくりについて」「市長と語ろう住民が創るまちづくり」「隈本繁吉の足跡と業績」「町は人が造った、村は神が創りたもうた、八幡地域の資源の視点から」「母なる矢部川の魅力発見」「コミュニティ・アートを生かしたアメリカのまちづくり」「江戸時代末期から伝わる国武絣について」「市町村合併について」「中国のエコミュージアム資源調査報告」「朝市のアンケート結果分析」「非営利活動法人育成に向けた研修会」「IT研修会」等々である。
⑦ まちづくり地域リーダー要請セミナー
  塾生がひらめいた2007年度の市への提案事業で、「八女まち育て地域リーダー養成塾」を開設し、「自らのまちは自ら育て創っていく」をモットーに、まちづくりに精通した講師・アドバイザーの助言をいただきながら講座を実施し、討議を行っていくというものである。まちづくりに関するテーマを設定し、半年約5回に分けてまちづくりに関する調査・研究・実践や企画立案を行い、完了時に報告書をまとめ発表をするものであり、めだか塾としてもこの会の中核部隊となった。
⑧ 学校給食の残菜など活用した親子でつくるお弁当給食
  塾生数名が小学校とPTAに呼びかけ、小学生と一緒に学校給食の残菜を堆肥化し、熟成された土づくり・野菜づくりの中から、「生きる力、生命の大切さ、農業者の苦労など」を学ぶものである。栽培された野菜は6種類、給食の食材としても利用し、また1月下旬の学校給食週間時に食育授業を実施し、その野菜で親子お弁当づくりを同時に行っていく計画である。
⑨ 農村滞在型グリーンツーリズム事業
  八幡地区には野菜、果樹、園芸、茶業、畜産などの農業が盛んであり、また提灯や染物などの伝統産業もある。そのような地域資源の産業を活かした地域ブランドづくりを創造するうえで、都市との交流をつうじ、相互のまちづくりを学ぶ交流拠点づくりに向けた活動も行っている。木鶏書院を滞在の拠点とし、福岡市高宮校区の公民館事業と連携し、どのようなメニューを設定するかのモニター事業を展開中で、これまでの活動は新茶手摘み体験、野菜根菜収穫体験、酪農飼養・搾乳見学、電照菊栽培見学、イチゴ狩り、川遊び、農産食材活用バイキング、提灯貼り、染物工場見学、木鶏書院滞在事業等々である。参加者の意見要望の中から様々な課題が浮上してきており、今後正式なメニューを検討し設定する予定である。
⑩ 八女ブランド(PB商品)開発の取り組みと八幡夕方市(仮称)及び八幡土曜夜市の開催
  八幡校区を中心に地域資源を活かした八女ブランドの開発と販路の検証及び地域を担う女性グループ・リーダーの育成に引き続き努め、昨年度からは昭和40年代の八女市土橋商店街で賑わいを見せていた昔懐かし土曜夜市を八幡校区で復活させ大好評であった。次年度以降は八幡夕方市(仮称)を定期に開催する計画を行っており、PB商品や食の名人による商品、季節にあった地域特産品やネットワーク化により関係を持つ地域の加工品販売などによって交流を深め、女性グループ・リーダーのやる気・やりがいの向上、多世代への広がりを視野に、地域住民の更なる賑わいと活力を生み出していくとともに男女がともに担う地域づくりの実践を行っていく。
⑪ 新八女市のまちづくりを創造する地域づくりの展開
 ・九州新幹線筑後船小屋駅開業に伴う八幡校区の未来を見据えたまちづくりの可能性を探り、また新八女市のまちづくりグループ及びまちづくりリーダーとの交流とそのネットワーク化による観光資源を掘り起こす。
 ・各地域の地域資源を生かしたまちづくりグループ活動に学び、交流し、ネットワーク化を図るための講演会を開催し、各地のまちづくりグループ及びまちづくりリーダーにも講演会への参加を呼びかけネットワーク化に努めていく。

5. 今後の活動

 めだか塾定例会は原則第2、第4木曜日、木鶏書院で20時から行いその他は必要に応じて開催している。推進委員会で議論を始め10年以上を経過、あらためて活動指針「ふれあいと支えあいの結び目拠点八幡村構想」を総会で確認した。今後は「八幡地域への影響と今後のまちづくり」「市町村合併による今後の八幡地域の課題」「地産・地消による八幡地域の農業の未来について」「農業体現ゾーン八幡における都市との交流グリーンツーリズム展開」「八女ブランド(PB商品開発)の更なる開発と地域資源としての活用」「八幡夕方市の開催」「善の循環による3世代が仲良く暮らせる地域づくりの課題」等のテーマについて研究を行っていく。
 めだか塾は、そもそも共生のまちづくりを創るための自由な団体で、そこには強制は存在しない。まさに「自由・連帯・創造」のNPOである。
 しかし、一般的にはこのような地域活動に参画する塾生は多忙な方が多く、めだか塾のメンバーも各方面で活躍されている方々であり、時間をもてあましている人はあまり参加してくれないのが常事である。更に、このような活動の重要性は認識しているものの、年齢やモチベーションの関係から10年にもなると塾生の中にはドロップアウトしていく方がいるというのも現実で30人程度から入れ代わりが生じ、塾生は簡単には増えていかない。「マンネリ化を避け、会費は安く」、形式や結果よりも主体側の私たちが「楽しく・おもしろく」というのが基本であるが思うようには伝わらない。ソフト事業は難しい面もあるが、参加者の心に響いているのは確かであり、また女性グループの成長も著しく、今後はまちづくり協議会との連携も含めてより多くの方々の協力を得られるよう粘り強く取り組んで参りたい。
 幸運なことに2004年度第22回まちづくり月間の中央事業として「国土交通大臣表彰」を受賞した。私たちのねばり強い活動への評価だと受けとめておきたい。はずむ会話と生き活きとした笑顔、それはめだか塾が描いた理想のまち。「何もない」という言葉には、病院やスーパー・コンビニといった都会的要素が含まれているのかもしれない。しかし、八幡地域の「自然、歴史、産業、文化、人情」等地域の素材を生かし、「自ら考え、自ら行動する」ことにより、住みやすく、個性的で魅力あふれたまちづくりができ、災害などの緊急事態でも主体的に素早く行動ができ、地域の安全安心にもつながると確信している。
 今、忘れ去られようとしていた村文化の資源が採掘され、真の分権自治に基づく「新たなる胎動」が徐々に八幡の民の心に蘇っている。