【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第1分科会 「新しい公共」と自治体職員の働き方

 安全で健康な職場生活を送ることは、すべての労働者の願いです。公務員についても、安全と健康を確保することは、事業者たる地方公共団体の基本的責務であり、職員にとっての重要な勤務条件の一つです。そうは言うものの、学校における労働安全衛生体制は確立しておらず、労働組合としての関与も希薄です。未来を担う子どもを育む学校の労働安全衛生体制を確立・推進していくことは学校づくりにおいても重要です。



学校における労働安全衛生体制の推進について
働きやすい職場環境をめざして

長崎県本部/自治労長崎県職員連合労働組合・西海市立亀岳小学校 生越 義幸

1. はじめに

 労働科学研究所は2006年10月に「教職員の健康調査」結果を公表しました。
 その中で特徴的なことは、①健康状態に不調を訴える教職員の比率が全職業平均の約3倍になること ②小・中学校の教職員の約2割が月80時間を超えて超過勤務していることです。また、文部科学省が2006年に実施した「教職員勤務実態調査」によると、7月における「勤務日1日あたりの平均残業時間」が小中学校平均で2時間8分となっています。
 二つの調査結果より、学校現場における多忙化・長時間労働の実態が浮き彫りになるとともに、健康状態が危機的な状況にあることは明白です。
 そのため、病気休職者は1995年の3,644人から2005年度年度には7,017人と急増し、そのうち精神疾患による休職者は4,178人と3倍になっています。(文部科学省調査)


2. 学校における労働安全衛生体制の現状と問題点

(1) 全国的な状況と経過
 文部科学省が1998年3月に公表した「公立学校などにおける労働安全衛生管理体制に関する調査」では、50人以上の職場での衛生管理者の選任率が62.7%、衛生委員会の設置率が56.5%であり、50人未満の職場での安全衛生推進者の選任率が30.4%でした。文部科学省は、「未だ十分に整備されていない状況にある」として、都道府県教育委員会へ労働安全衛生体制の推進に努めるよう通知しました。その後、取り組みが進められ数字上は改善されました。

状況
項目 
2006年度(全体) 
2010年度 
衛生管理者の選任状況
91.9%
小 79.4%、中 84.9%、高 99.1%
衛生推進者の選任状況 
76.4%
小 90.2%、中 88.7%、高 97.3%
衛生委員会の設置状況   
小 67.8% 中 75.2%、高 99.7%

 文部科学省は、2012年3月に発行したパンフレットの中で、2010年5月1日現在の整備状況について「特に小学校・中学校における整備率が低い水準、市町村教育委員会をはじめとして早急な対応が必要」としています。

(2) 長崎県における経過と現状
 文部科学省の1998年通知を受け、長崎県教育委員会は県立学校職員の安全及び健康の確保並びに快適な職場環境の形成を促進するため、長崎県立学校職員安全衛生管理要項を制定し、1999年4月1日から施行しました。市町立学校職員については県立学校の要項を参考にして整備することになりました。
 2010年度における義務制学校の整備状況は次のとおりです。

項       目
状       況
衛生推進者の選任状況 483人/483校   100%
衛生委員会の設置状況 4/4      100%
衛生管理規程の整備状況 10/21自治体 整備済み:長崎市、佐世保市、雲仙市、平戸市、
五島市、対馬市、長与町、新上五島町、佐々町、東彼杵町

(3) 問題点
 以上のことを踏まえて、学校における労働安全衛生体制に係る問題点を整理します。
① 長崎県の義務制学校における衛生推進者の選任状況及び衛生委員会の設置状況は、全国の状況に比べると高い状況であるが、数字と実態が一致していない。
② 衛生推進者は選任しているものの、活動が伴っていない。一因として、当局が「衛生推進者等について、既に資格を有している者(保健体育教諭、養護教諭等)を活用することにより、速やかな体制の整備が可能」としていることから、養護教諭等が衛生推進者等に選任されている。また、教頭を衛生推進者に選任するとしている自治体もある。
③ 県教育委員会は毎年1回、県立学校と市町教育委員会の担当者を対象とした研修会(説明会)を開催しているが、市町レベルでの研修会等は開催されていない。そのため、校長・教頭・衛生推進者等の労働安全衛生法に係る知識等が不十分であり、「快適な職場環境の形成」義務が校長に課せられているという意識が希薄である。
④ 学校の多忙化と相まって、定期的に委員会を開催していない。また、開催しても中身の十分な論議ができていない。
⑤ 労働安全衛生法では、衛生委員会は事業場ごとに設置するということになっているため、用務員は学校の衛生委員会に所管されることになる。学校の環境整備を行う用務員の業務は危険な業務が多いにもかかわらず、学校の中では教員が主となりがちであり、埋没してしまう。
⑥ 長崎県における市町立学校の衛生管理規程は半数程度の整備率であり、未整備の自治体においては労働安全衛生体制が確立されているとは言えない。
⑦ 衛生委員会が開催されても、その内容や結果等について職員に周知されず、広報活動が皆無に等しい。


3. 今までの取り組み

 学校における労働安全衛生体制を確立しようと、私が学校現場に「労働安全衛生委員会」を設置してから10数年が経過しました。なお、衛生委員会でも、安全委員会でもなく、労働安全衛生委員会にしています。また、義務制学校ではほとんどの職場で設置義務がありませんが、設置することにしています。
 この間、三和町立為石小学校(現:長崎市立)、時津町立時津東小学校、若松町立若松中央小学校(途中から新上五島町立)、長崎市立出津小学校と勤務先が替わりましたが、どの職場においても労働安全衛生委員会を設置し、衛生推進者として労働安全衛生体制の推進にかかわってきました。
 特に印象に残っているのは、若松中央小学校での取り組みです。新上五島町は2004年8月、有川町・新魚目町・上五島町・若松町・奈良尾町の5町が合併して誕生しました。なお、金子県政において長崎県は79市町村が21市町へと全国に類を見ない合併が推進され、その功罪が問われています。
 合併による新上五島町誕生の際、合併協議会において多くのことが話し合われ決まっていきましたが、労働安全衛生管理規程については、奈良尾町と若松町の2町にしか規程がありませんでした。組合は、新上五島町においても労働安全衛生管理規程を整備するよう、教育委員会職員(自治労組合員)と力を合わせて取り組み、結果、新上五島町立学校職員安全衛生管理要綱を制定することができました。その中で求めていた「総括委員会」は盛り込むことができましたが、一方で総括委員会の開催を含めた町全体としての実効ある措置ができませんでした。


4. 今後の取り組み

 4月に異動した現勤校においても、職員会議での提案・審議を経て、労働安全衛生委員会を設置しました。今年度は以下のとおり取り組みを進めます。
① 職員会等で「労働安全衛生法」等の学習を深め、全教職員の意思統一をはかります。
② 安全衛生推進委員会を次のとおり設置します。   
   委員長:校長    委員:教頭、大石、橋本、末岡、生越
③ 労働安全衛生委員会は、原則として、月1回「安全の日」に開催し、次の事項について協議します。また、会議については、民主的に開かれたものとし、プライバシー保護の観点から、個人的な課題については扱わないこととします。
 ア 職場の施設・設備の点検及びこれらの結果に基づく必要な措置に関すること
 イ 快適な職場環境の形成のための問題点及び必要な措置に関すること
 ウ 健康の保持増進のための措置に関すること
 エ 安全衛生教育に関すること
 オ 労働災害の実態把握及び再発防止に関すること
 カ その他、職員の安全及び衛生に関すること
④ セクシャル・ハラスメント対策については、別途協議します。(相談・苦情窓口:教頭・橋本)
⑤ 教育委員会に対し、「西海市立学校労働安全衛生要綱」の制定を求めます。
  西海市における労働安全衛生体制は、衛生推進者は選任されているものの、活動がないと言わざるを得ない状況です。そこで、市教育委員会に対して5月11日に以下の申し入れを行いました。(抜粋)

4. 職場環境の改善等について
(1) 執務環境の改善を図るため、すべての小・中学校に事務室を設置すること。
(2) 1800時間労働実現のため、さらに勤務時間の短縮を行うよう、関係機関に働きかけること。また、休憩時間の確保についての具体策をはかること。
(3) 教職員の健康と働きやすい職場環境の確立にむけて労働安全衛生管理体制の充実、強化をはかること。そのために、「西海市立学校労働安全衛生要綱」(仮称)を早急に制定すること。
(4) メンタルヘルス対策を充実するとともに、「VDT作業衛生管理要綱」を策定すること。
(5) 働きやすい職場環境を実現するために、「教職員の業務の効率化と縮減に向けた管理職用マニュアル(モデル)」の周知・徹底をはかること。
(6) 過重労働防止のため、厚生労働省通知に基づく労使協議会を設置すること。

 申し入れに対して、教育委員会の回答は「しばらく検討させてほしい」というものでした。
 その後、他職員団体や西海市役所職員組合現業分会の役員等と問題意識を共有するとともに、市職員組合委員長や市労協推薦議員とも協議しました。まずは、衛生管理規程を整備し、それを取りかかりに労働安全衛生体制を推進していきたいと思います。
 なお、5月22日に開催した第1回委員会において年間計画を策定しました。

日    時
議        題
備   考
6月19日(火)
熱中症対策について  
7月19日(木)
過重労働防止対策について  
8月21日(火)
セクハラ・パワハラ対策について  
8月31日(金)
全体学習会 ビデオ視聴など
9月20日(木)
公務災害について 安全パトロール
10月23日(火)
メンタルヘルス対策について  
11月20日(火)
VDT労働対策について  
12月20日(木)
生活習慣病対策について  
1月22日(火)
職場環境について  
2月19日(火)
健康づくり・健康管理について  
3月19日(火)
年間活動の総括について