2. 学校における労働安全衛生体制の現状と問題点
(1) 全国的な状況と経過
文部科学省が1998年3月に公表した「公立学校などにおける労働安全衛生管理体制に関する調査」では、50人以上の職場での衛生管理者の選任率が62.7%、衛生委員会の設置率が56.5%であり、50人未満の職場での安全衛生推進者の選任率が30.4%でした。文部科学省は、「未だ十分に整備されていない状況にある」として、都道府県教育委員会へ労働安全衛生体制の推進に努めるよう通知しました。その後、取り組みが進められ数字上は改善されました。
状況 項目 |
2006年度(全体) |
2010年度 |
衛生管理者の選任状況 |
91.9% |
小 79.4%、中 84.9%、高 99.1% |
衛生推進者の選任状況 |
76.4% |
小 90.2%、中 88.7%、高 97.3% |
衛生委員会の設置状況 |
|
小 67.8% 中 75.2%、高 99.7% |
文部科学省は、2012年3月に発行したパンフレットの中で、2010年5月1日現在の整備状況について「特に小学校・中学校における整備率が低い水準、市町村教育委員会をはじめとして早急な対応が必要!」としています。
(2) 長崎県における経過と現状
文部科学省の1998年通知を受け、長崎県教育委員会は県立学校職員の安全及び健康の確保並びに快適な職場環境の形成を促進するため、長崎県立学校職員安全衛生管理要項を制定し、1999年4月1日から施行しました。市町立学校職員については県立学校の要項を参考にして整備することになりました。
2010年度における義務制学校の整備状況は次のとおりです。
項 目 |
状 況 |
衛生推進者の選任状況 |
483人/483校 100% |
衛生委員会の設置状況 |
4/4 100% |
衛生管理規程の整備状況 |
10/21自治体 整備済み:長崎市、佐世保市、雲仙市、平戸市、
五島市、対馬市、長与町、新上五島町、佐々町、東彼杵町 |
(3) 問題点
以上のことを踏まえて、学校における労働安全衛生体制に係る問題点を整理します。
① 長崎県の義務制学校における衛生推進者の選任状況及び衛生委員会の設置状況は、全国の状況に比べると高い状況であるが、数字と実態が一致していない。
② 衛生推進者は選任しているものの、活動が伴っていない。一因として、当局が「衛生推進者等について、既に資格を有している者(保健体育教諭、養護教諭等)を活用することにより、速やかな体制の整備が可能」としていることから、養護教諭等が衛生推進者等に選任されている。また、教頭を衛生推進者に選任するとしている自治体もある。
③ 県教育委員会は毎年1回、県立学校と市町教育委員会の担当者を対象とした研修会(説明会)を開催しているが、市町レベルでの研修会等は開催されていない。そのため、校長・教頭・衛生推進者等の労働安全衛生法に係る知識等が不十分であり、「快適な職場環境の形成」義務が校長に課せられているという意識が希薄である。
④ 学校の多忙化と相まって、定期的に委員会を開催していない。また、開催しても中身の十分な論議ができていない。
⑤ 労働安全衛生法では、衛生委員会は事業場ごとに設置するということになっているため、用務員は学校の衛生委員会に所管されることになる。学校の環境整備を行う用務員の業務は危険な業務が多いにもかかわらず、学校の中では教員が主となりがちであり、埋没してしまう。
⑥ 長崎県における市町立学校の衛生管理規程は半数程度の整備率であり、未整備の自治体においては労働安全衛生体制が確立されているとは言えない。
⑦ 衛生委員会が開催されても、その内容や結果等について職員に周知されず、広報活動が皆無に等しい。 |