【要請レポート】

第34回兵庫自治研集会
第2分科会 地方財政を考える

 阪神・淡路大震災は、我が国で初めての大都市における直下型大地震であり、未曾有の被害をもたらした。神戸市では震災からの早期の復旧・復興を図るため莫大な財政支出が必要となり、危機的な財政状況に陥った。
 しかし、震災から17年が経過した今、国内外からいただいた多くのご支援を礎に神戸のまちは復興を遂げ、財政状況も政令指定都市中位程度にまで回復することができた。このレポートはその過程について概略をまとめたものである。



阪神・淡路大震災後の神戸市財政について


神戸市・行財政局財政部財務課長 久戸瀬修次

1. はじめに

 平成7年1月17日、午前5時46分、神戸をはじめ兵庫県南部地域を襲った「阪神・淡路大震災」は、我が国で初めての近代的な大都市における直下型大地震であり、未曾有の被害をもたらした。震災は、神戸市内で4,571人もの尊い命を奪うとともに、都市基盤や建築物に甚大な被害を与え、産業、都市機能、生活などに様々な影響を及ぼした。
 震災時の本市の財政状況は、バブル経済の崩壊後長引く景気低迷など、すでに厳しい状況にあり、平成6年度当初予算における財源不足額は過去最高の568億円にのぼっていた。このような厳しい財政状況の中で、阪神・淡路大震災という非常事態に見舞われることになった。


2. 莫大な震災関連事業費

 阪神・淡路大震災は、市民生活を支える都市基盤などに壊滅的な被害を及ぼした。そこで一刻も早く市民生活を再建させる必要から、震災直後の2月15日には、平成6年度2月補正予算を編成し、食品・生活必需品の給付などの災害救助費、港湾施設などの災害復旧費、災害見舞金・弔慰金や災害援護資金貸付などを計上した。その後、3月補正をはじめ順次補正予算を編成し、平成7年度当初予算補正では、被災者の救済と自立支援を図るため、阪神・淡路大震災復興基金の設立に対する出資及び貸付金を計上した。
 このように、道路・学校・港湾などの災害復旧、災害廃棄物(ガレキ)の処理、災害援護資金の貸付、災害公営住宅の建設など復旧・復興事業に総力をあげて取り組んだ結果、震災関連事業費は、約2兆8,800億円にものぼった。


○震災関連事業費累計(会計別)           (単位:億円)

一般会計

特別会計

企業会計

合  計

21,581

2,573

4,672

28,826

○震災関連事業費の財源内訳(一般会計)

事業費

国庫支出金

県支出金

市  債

その他

一般財源

21,581

6,353

683

10,340

1,648

2,557

○主な震災関連事業費

生活支援

災害援護資金貸付777、災害救助510、災害見舞金・弔慰金198など

復興対策

復興基金3,000、復興区画整理2,887、災害公営住宅1,498、復興再開発2,826など

災害復旧

災害廃棄物処理1,554、道路933、市営住宅717、港湾施設2,314、下水道619など


3. 深刻な財源不足

 この莫大な事業費は、市税収入(平成6年度決算額2,741億円)の約10倍を越える規模であり、震災がなければ発生しなかった純増加経費であることから、本市は極めて厳しい財政状況に陥ることとなった。震災関連事業費は、性質上その多くを一般会計で予算化したが、その財源は、国庫支出金が29.5%、県支出金が3.2%、市債が48.1%、その他特定財源が7.6%、一般財源が11.6%となった。
 この一般財源の急激な負担増は深刻な財源不足を引き起こし、そのため、財政調整に使用可能な基金を取崩し、かろうじて実質収支の赤字拡大を抑制してきたが、その基金も平成12年度に底をつき、財源対策手段は枯渇してしまった。


○収支不足額の推移

4. 急増する市債残高

 震災関連事業費の約半分を市債により調達し、また、極めて短期間で大量の市債を発行したことから市債残高が急増した。震災前の平成5年度の市債残高8,056億円(一般会計)に対して、平成9年度には1兆7,994億円(一般会計)となっており、わずか数年で市債残高が2倍以上に膨れ上がったことになる。この市債残高の急増に伴い、起債制限比率も増加し、平成16年度にピークを迎え26%にまで増加した。


○一般会計市債残高の推移

5. 低迷する市税収入

 震災後の市税収入は、所得の激減に加え震災減免、雑損失の繰越控除等により大幅に減少した。その後は住宅の新増築等による増収で一時的に回復基調となったが、平成9年度の2,929億円を境に再び減少し、平成16年度には2,506億円にまで減少した。震災前の平成5年度と平成16年度を税目別に比較すると、個人市民税が1,029億円から716億円(△30.4%)となり、法人市民税が328億円から234億円(△28.7%)となり、それぞれ大幅な減少となった。震災による市民生活や経済基盤の崩壊に加え、全国的な景気の低迷により、個人・法人所得が回復せず、厳しい財政状況をさらに加速させることになった。


○市税収入の推移

6. 財政再建に向けた取り組み

 このように、本市では、震災からの早期の復旧・復興を図るため莫大な財政支出が必要となり、危機的な財政状況に陥ったため、震災直後から具体的な計画をたて、徹底した行財政改革を行った。
① 「行財政改善緊急3ヵ年計画」(平成8~10年度)
  震災による市税の大幅な減収と膨大な復興財源の捻出という状況に対して、「復興余力を捻出するために、何としても行財政改善を進める必要がある」との危機感から、組織再編、職員総定数の削減、事務事業の全面的見直し、震災前に計画された事業の再検討、外郭団体の統廃合などに取り組んだ。
② 新たな行財政改善の取り組み(平成11~15年度)
  深刻な財政状況に加えて、一層複雑多様化する市民ニーズに対応するため、限られた資源(人材・財源)を有効かつ効率的に活用し、トータルとして市民サービスの維持向上を図る「新たな行財政改善の取り組み=新行政システムの確立に向けて=」を策定した。「行政の構造改革を進めながら、早期に単年度の財政収支の均衡を確保する」ことを目標に、行財政改善の対象100項目を掲げて取り組んだ。
③ 行政経営方針(平成15~22年度)
  長引く構造的不況は厳しい財政状況にさらに深刻な打撃を与え、財政再生緊急宣言を出さざるを得ない状況となり、全事務事業の総点検、職員の給与削減をはじめ、幾多の厳しい取り組みを行った。また、「市民のくらしと安全・安心を守る」という行政の使命を果たすため、実質市債残高の約5,000億円削減、事務事業の再構築、民間活力の導入、職員総定数の概ね3,000人削減を目標とする行政経営方針に取り組んだ。
  行政経営方針を完遂したことで、震災以降(平成8~22年度)、約2,900億円(平成6年度一般会計歳出規模9,362億円の約31%に相当)の財政効果を生み出すことができた。特に、プライマリーバランスは平成9年度以降、黒字を維持しており、平成22年度の一般会計市債残高は、市民1人あたりでみると662千円であり、これは他都市平均を下回る水準となっている。また、職員総定数では、平成7年度の約29%に相当する削減を行い、他都市との比較においても2番目に高い削減率となった。


○プライマリーバランスの推移

○市民1人あたりの市債残高(一般会計)の推移  ※指定市平均は平成7年度時点の12政令市で算出

○職員総定数の推移

 このように、震災以降、一貫して取り組んできた行財政改革により、財政状況を改善したことで、平成19年1月には、R&I社の発行体格付で「AA」を取得し、財政健全化指標においても、実質公債費比率・将来負担比率ともに概ね政令指定都市の平均にまで改善することができた。ようやく他の自治体と同じスタートラインに立てたのではないかと考えられる。
 しかし、時代の変化はこれまでの改革の努力をのみ込んでしまうほど急激であり、全国の自治体を取り巻く環境は、より一層厳しさを増すことが予想されるため、現在、本市では平成23年2月に策定した「神戸市行財政改革2015」に基づき、断固たる行財政の改革を断行しているところである。


7. まとめ

 震災による危機的な財政状況からの脱出にかなりの時間を要した原因は、復旧・復興のための莫大な財政支出の約半分を市債により調達せざるを得ず、そのため市債残高が急増し、その償還の負担が大きかったことや、震災による直接的な経済活動への打撃に加え、世界的な景気の低迷により、個人・法人市民税を中心に市税収入の減少が続いたことがあげられる。また、行革により人件費・公債費・物件費等を抑制し、財政的な復興余力を生み出しても、少子・超高齢化に伴い急増する社会保障費や医療費の負担が行革の成果を消し去る状況が続いたことも大きな要因である。
 本市の経験からも、通常事業を超える復旧・復興事業に対しては原則、国の直轄事業あるいは全額国庫支出金により実施できるようにすべきではないか。復旧・復興事業に対する市債の償還には一定の地方財政措置がなされるとはいえ、多額の市債残高を抱えた被災自治体は長期間にわたり硬直的な財政運営を強いられる。また時間が経つとともに震災への関心が薄れる一方で、被災自治体は義務的な経費の捻出に追われ、新たな財政需要に対する独自の取り組みは困難なものとなる。その結果、公共投資の抑制などにより経済活動が停滞するとともに、人口が減少し、税を中心にした自主財源がますます減少していくという負のスパイラルに陥る可能性がある。
 現在の日本経済は阪神・淡路大震災の当時よりも一層厳しい状況にある。そのため、東日本大震災による被災自治体においては、本市が経験した以上の困難な状況が想定されるが、被災自治体が他の自治体と同じスタートラインに立てるようになるまでは、まず国においてしっかりとサポートしていただく必要があるのではないか。
 本市としても、東日本大震災による被災地の一日も早い復興のため、震災を経験した神戸だからこそできる支援を引き続き行ってまいりたい。