【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第2分科会 地方財政を考える

 合併以降も旧市町村ごとの料金設定のままで、不均衡となっていた税外収入の見直しが、順次、進められています。本レポートでは、現在、見直しが進められている施設使用料の統一に着目し、公共サービス・施設利用と受益者負担の考え方を整理するとともに、行財政改革の一環として、その財政再建へ果たす効果について、検証していきます。



税外収入の見直しで財政再建につながるのか?


岩手県本部/自治労奥州市職員労働組合・自治研推進委員会

1. はじめに

 本市における使用料・手数料の取扱いについては、合併協議時の「使用料については、当分の間、現行どおりとするが、類似の施設使用料等については、可能な限り合併時に統一する。手数料については、負担の公平の原則から、適正な料金のあり方等について検討し、統一する。」との協議結果を受け、窓口証明手数料等については段階的に統一作業が行われてきた。
 しかし、公共施設の使用料については、これまで見直し作業が行われておらず、現在でも地域間や施設間での使用料や減免の取扱いに不均衡が生じたままとなっており、公共施設利用に係る受益と負担の公平性の確保のため、見直しの必要性が指摘されてきた。
 また、2011年3月に策定された「第2次奥州市行財政改革大綱」の実施計画において「使用料及び減免規定の統一に向けた関係例規の整備」の実施年度が2012年度に設定されたことにより、現在、市内各区にある類似の施設の使用料及び減免規定の統一作業が急ピッチで進められている。
 このレポートでは、現在、見直し作業が進められている施設使用料の統一に着目し、公共サービス・施設利用と受益者負担の考え方を整理するとともに、その財政再建へ果たす効果について、検証していきたい。


2. 合併前後における使用料、手数料の推移と見直しの状況

 合併以前の旧市町村における使用料、手数料の総額【資料1】について、歳入総額に占める割合は平均2.5%であり、合併後の割合は合併以前の平均を下回っている【資料2】
 これまで、段階的に統一が図られてきた住民票や税証明などの窓口証明手数料は、合併協議において住民に説明してきた「合併後の公共サービスは高水準に合わせ、料金は低水準に合わせる」との約束を守る形で、料金を低水準に合わせる形で統一を進めてきた経過があり、そこには、自主財源の確保という財政面での考慮は加えられてこなかった。
 しかしながら、前述の「第2次奥州市行財政改革大綱」において、「各種手数料の見直し」についても自主財源の確保のための実施項目として登載されており、行財政改革の観点からの見直しが改めて指示されている。
 また、水道料金、汚水処理料金などの使用料については、すでに料金の統一を実施しており、これらは、一般会計からの繰り入れを抑制することを原則に料金の改定が進められている。
 公営企業法が適用され独立採算制が求められる水道料金においては、今後、見込まれる使用量や設備の経費などから必要となる費用を算定したうえで料金を決定しており、全体的に値上げとなっている。
 汚水処理料金についても健全な財政運営との観点から料金を算定しており、一部に値下げとなった地域はあったものの、大きく値上げとなった地域もあったため、現行よりも値上げになる地区への激変緩和措置として、5年間の段階的な引き上げを行っている。


【資料1】使用料、手数料の総額(2004年度決算カードから)              単位:千円

区  分

水沢市

江刺市

前沢町

胆沢町

衣川村

合計

使 用 料

243,555

308,339

161,182

81,160

108,268

902,504

手 数 料

297,541

25,756

11,037

9,605

3,030

346,969

541,096

334,095

172,219

90,765

111,298

1,249,473

歳入総額に
占める割合

2.7%

2.0%

2.5%

1.1%

3.2%

2.5%


【資料2】合併後の使用料、手数料の総額                       単位:千円

区  分

2005年度

2006年度

2007年度

2008年度

2009年度

2010年度

使 用 料

990,704
746,293
732,115
670,324
644,297
492,770

手 数 料

355,951
356,110
336,129
99,274
92,359
87,915

1,346,655
1,102,403
1,068,244
769,598
736,656
580,685

歳入総額に
占める割合

2.0%
1.8%
1.9%
1.4%
1.3%
1.0%

3. 公共施設使用料の統一に向けた動き

 前述のとおり、現在、奥州市では公共施設使用料及び減免規定の統一に向けた作業が行われており、2011年度から使用料検討委員会の設置、議会全員協議会での意見聴取、住民説明会などが行われ、2012年9月定例会への条例提案に向け、準備が進められている。
 所管課である財産運用課からの現在の提案内容は次のとおりである。

(1) 使用料設定の考え方
① 共通的な使用料の設定
  合併前の旧市町村の料金設定のままであるため、同等の会議室を使用した場合でも施設又は地域が違うことで料金に格差が生じている現在の公共施設使用料について【資料3】、施設の利用目的や利用形態が同じ場合は同じ料金設定とし、合併前の5市町村間での料金の統一を図る。
  施設使用料は、利用者の立場においては安価であればあるほど好まれる一方、施設の維持管理経費に満たない分については税負担となっている。施設の老朽化に伴う維持管理経費の増加に対して、施設を維持管理して一定の水準を保ち続けるためには、利用者(受益者)に適正な負担を求めていく必要がある。
  よって、料金設定にあたっては、受益者負担の原則にのっとり、特定の利益を受ける相手から、その受ける利益に応じて負担を求めることとし、施設の使用料は施設利用の対価として設定する【資料4】。


【資料3】各地区における集会施設使用料金(現行平均1時間あたり)      単位:円

時間帯

水沢区

江刺区

前沢区

胆沢区

衣川区

8時30分から17時まで

163

200

148

118

173

17時以降

285

486

229

418

250


【資料4】公民館及び地区センターの使用料歳入と需要費(2010年度決算)         単位:円

施設区分

使用料歳入(円) A

需要費(円) B

受益者負担比率(%)A÷B

公 民 館

1,268,052

13,096,567

9.6

地区センター

1,355,910

25,118,216

5.4

※ 需要費とは、施設の維持管理経費のうち消耗品費、燃料費、光熱水費、軽微な修繕費を指す。

② 対象施設
  市有施設のうち、条例が制定されており、集会施設として市民や団体に利用されている施設(公民館、地区センター等)。
③ 施設使用料改正案
  今回の見直しでは、同程度の部屋を利用した場合はどの地区でも同じ料金となるよう、部屋面積ごとの料金区分を設定する。
  施設使用料は、施設使用料と付加使用料に区分し、1時間あたりの料金を設定する。施設使用料については、現行使用料及び他市の料金【資料5】とも比較したうえで、料金設定をする。
  付加使用料(冷暖房、ガス等)についても、部屋面積及び種類に応じた料金を設定する。


【資料5】近隣他市の施設使用料との比較(2009年度1時間あたり)      単位:円

利用区分
(8時30分から17時まで)

奥州市
改定案

奥州市
現行平均

一関市

北上市

100㎡未満

200

177

300

183~300

100~200㎡

400

289

600

600

200㎡以上

800

537

800


(2) 使用料の減免規定の見直し
① 減免規定の考え方
  合併前の各市町村、施設ごとに異なっている減免規定を統一し、その運用を徹底することで市民間の公平・平等化を図る。
  付加使用料については、従来は多くの施設で施設使用料に準じた減免の扱いをしていたが【資料6】今回の見直しでは受益者負担の原則に基づき、減免対象は最小限とし、対価を求めることとする。


【資料6】 公民館及び地区センターにおける現行の減免の割合(2010年度)

施設区分

使用料収入(円)

減免額(円)

減免率(%)

公 民 館

1,268,052

42,656,599

97

地区センター

1,355,910

10,029,200

88


② 減免の判断基準
 ・市の事務、事業、その他公益上特に必要であること。
 ・公共性・公益性の有無を検証し、施設の設置目的または市の政策に沿った利用であること。
 ・減免を受けようとする事由が、収益を伴うもの、特定の個人・団体の営利に繋がるものでないこと。


(3) 見直し後の歳入見込み
 改定案の施設使用料を運用した場合の各地区における使用料の増減見込額は【資料7】のとおりとなっており、微減となる地区がある一方で大きく増額となる地区も見受けられる。
 また、改定案の施設使用料及び付加使用料を運用した場合の歳入額の増減見込額については【資料8】のとおり微増であり、前述した使用料の歳入総額へ占める割合を引き上げるにはいたらない金額であった。


【資料7】改定後の各地区における使用料増減(1時間あたりの平均)      単位:円

時間帯

水沢区

江刺区

前沢区

胆沢区

衣川区

8時30分から17時まで

118

△33

107

140

299

17時以降

128

△20

133

△20

515


【資料8】改正後の歳入額の増減見込み                     単位:円

区  分

2010年度実績

2012年度見込額

増減額

施設使用料

4,831,508

5,441,728

+610,220

付加使用料

1,206,463

1,895,870

+689,407

総   額

6,026,571

7,337,598

+1,311,027


(4) 統一作業でみえてきた課題
 行財政改革の一環として始められた今回の見直しであるが、改正後の歳入見込額をみると、この改正が奥州市全体の財政運営に与えるインパクトは小さく、「財政再建のため」との視点は、住民への説得材料としては弱いものとなっている。
 また、これまで順次進められてきた税外収入の見直しにおいて、負担増を余儀なくされた地区(特に旧町村部)の住民からは、「合併してから負担が増えた。合併しなければ良かった」などの不満の声が上がってきており、住民に対し「市の財政が逼迫している」ということを前面に押し出して説明することが、政治的配慮により難しい状況が生じてきていた。 
 そのようなことから、今回の使用料の見直しについても、当初の行財政改革の一環としての見直しとの観点からは、徐々に後退し、あくまで料金統一のための見直しであり、財政的な効果を期待する内容ではなくなってしまった。
 今回の見直し案について、住民からは、「施設の規模や築年数により、施設間で設備及びサービスに差があるのに、料金を統一するのは不公平感がある」「使用料の減免基準を厳しくすることに対しても、地域の活性化や住民の健康で文化的な生活に寄与するなど施設の当初の設置目的に反する。住民サービスの低下だ」との声も上がっており、住民にとって分かりやすく納得できる料金設定と十分な説明が求められている。
 また、施設使用料については、水道料金のように生活に不可欠なものとは違い、現行より値上げされることによって、単に施設利用者や利用回数が減少することも見込まれ、財政面から考えると逆効果となる可能性も指摘されている。


4. まとめ

 現在、各自治体の財政状況は非常に厳しい状況にあり、すべての自治体において財政再建や行財政改革を積極的に進め、自主財源を確保することによって自治体の体質強化を図ろうとしている。
 税外収入については、もともと歳入総額に占める割合が少ないということもあり、その見直しが財政再建へどの程度寄与するかは、今回、着目した施設使用料の改正後の歳入額からみても、その財政効果には疑問を感じる結果となった。
 しかしながら、税収も税外収入も自治体運営にとって貴重な自主財源であることは間違いない。住民サイドからすれば、いくらでも負担が低い方がよいが、自治体サイドからすれば財源が潤沢にあった方がよいわけで、その考え方は相反するものである。
 公共施設の維持管理に言及すれば、使用料で賄えない経費は、施設を利用しない人も含めた多くの住民の税負担で補っているのであり、受益者である利用者に適正な負担を求めていかなければならないとの「受益者負担の原則」の意識をもってもらえるよう住民に説明していくべきである。
 ただし、本レポートで明らかになったように、使用料収入の見直しだけでは、到底その維持管理に要する経費のすべてを賄えるわけではなく、今後も市の財政を圧迫していくことに変わりはない。
 自治研推進委員会としては、今後、公共施設の適正な配置や現存する施設の維持管理の必要性までを視野に入れた検証作業を行う必要があると考える。