【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第2分科会 地方財政を考える

 新潟市が2007年に政令指定都市へ移行したが、移行後の財政分析を行う。日本海側初の政令指定都市として、田園型政令指定都市、分権型政令指定都市をめざすとして合併が行われた。旧新潟市民・旧新潟市以外の市民の移行後の世論調査も紹介し分析を行う。



政令指定都市移行後の新潟市における財政分析


新潟県本部/自治研推進委員会・第1小委員会

1. 政令指定都市制度について

 新潟市は、2007(平成19)年4月に中核市から政令指定都市への移行を果たした。それにより、政令指定都市として多くの事務が新潟県より委譲された。また行政組織上や財政上などの政令市としての特例により政令指定都市「新潟市」が新たにスタートすることとなった。

政令指定都市、中核市の制度比較(抜粋)
区   分
政令指定都市
中 核 市
要   件
人口50万人以上で政令で指定する市 人口30万人以上
事務配分の特例
別紙1参照
都道府県が処理する事務のうち
・民生行政に関する事務
・保健衛生行政に関する事務
・都市計画に関する事務などを処理する。
政令指定都市が処理する事務のうち、都道府県が一体的に処理することが効率的な事務を除き処理する。
・道路に関する事務
・児童相談所の設置などが除かれる。
関与の特例
知事の承認、認可、許可等の関与を要している事務について、その関与をなくし、又は知事の関与に代えて直接各大臣の関与を要することとする 福祉に関する事務に限って、政令指定都市と同様に関与の特例を設ける。
行政組織上の特例
・市の区域を分けて行政区の設置(区長などの設置)
・区選挙管理委員会の設置
・区地域協議会の設置など
なし
財政上の特例
別紙2参照
・地方譲与税(地方道路譲与税、石油ガス譲与税など)の割増
・地方交付税の算定上所要の措置(基準財政需要額の算定における補正)
・宝くじの発行など
・地方交付税の算定上所要の措置(基準財政需要額の算定における補正)


① 政令指定都市の特例に基づく財政需要経費について
 ア 2005(H17)年度における全国政令指定都市の総計で権限委譲にかかる経費のうち、法令に基づく国・道府県管理費が全体の半分を占め、地方自治法に基づく児童福祉や精神保健福祉、知的・身体障害者福祉等の合計を大きく上回っている。そのため、指定都市市長会において「特例事務に要する財政上の措置が不十分」との認識が示されている。
 イ 今回、新潟市においての分析は現段階では行っていないが、この維持管理費の財政上の措置がどの程度のものなのか、改めて検証を行う必要がある。


2. 新潟市は政令指定都市で何を目指していたのか

(1) 日本海側初の政令指定都市をめざして(パンフレットより抜粋)
① 田園型政令指定都市をめざす
  新潟の特性である広大な農地や農業生産力を生かしながら、住む人・訪れる人すべてが、都市の魅力と自然の魅力をともに味わえる「田園型政令指定都市」をめざす。
② 分権型政令指定都市をめざす
  合併する13市町村の地域がそれぞれの良さ、特性を踏まえた市民と協働の街づくりを推進し、「分権型政令指定都市」をめざす。

(2) 政令指定都市として力を入れてほしいものは「保健・医療体制の充実」
① 2007(平成19)年12月に新潟市がまとめた政令指定都市移行後初の世論調査において、『(政令指定都市移行後の)市としてよくなっているものは』という設問に対し、25%の住民が「特にない」と回答した。2007(平成19)年4月の政令指定都市移行から日が浅い中での調査であったことも要因だが、政令指定都市移行後の行政サービスについて、基本的に大きな影響があったとは受け止めていない住民が多くみられる。今後もっと力を入れてほしいものは「高齢者福祉」が15.6%と最も多く、「保健・医療体制の充実」の割合が高かった。そして『政令指定市効果を出すために力をいれるべきこと』の設問に関しては、「就業機会の増加」と回答した住民が32%、「芸術・文化イベントの開催」と回答した住民が28%、「民間投資・企業立地の促進」と回答した住民が26%、「国際イベントの誘致」と回答した住民が23%という結果となった。こうした住民ニーズに応え、一人でも多くの住民に政令指定市効果を実感してもらうよう取り組むことが現在の新潟市に求められているものと考えられる。
② また、広域合併における市民への効果・影響については政令指定都市前の2006(平成18)年9月に類似の調査が行われている。その中においても合併により行政サービスの評価については39.0%の人が「変わらない」と答えている。しかし、この調査においては、旧新潟市住民と旧新潟市以外の住民の取りまとめも行っていて、先ほどの「変わらない」との回答では、旧新潟市住民は52.9%と過半を超えているが、旧新潟市以外の住民は24.7%と回答している。そして行政サービスが「低下した」と「やや低下した」を合わせた回答では、旧新潟市住民は11.4%、旧新潟市以外の住民は52.0%との回答となっていることから、今後は改めて「分権型政令指定都市」が実感できる市政の運営が求められている。


3. 前回までの財政分析状況について

 2007・2009の2回にわたる新潟県自治研究集会において、新潟市の財政状況を継続的に調査・分析を行ってきた。
 この間の新潟市では、「平成の大合併」の流れの中で、周辺自治体との編入合併を重ね、2007(平成19)年4月1日に政令指定都市への移行を果たした。


新潟市の概要(過去三回の国勢調査結果)
 
 
00年時点(H12)
(中核市)
05年時点(H17)
(中核市・合併時)
10年時点(H22)
(政令市)
人   口
   527,324人
   813,847人
   811,901人
世 帯 数
   203,283世帯
   300,139世帯
   312,533世帯
総 面 積
  内、宅地
    農地
205.9km2
58.4km2
66.6km2
( 28.4% )
( 32.3% )
720.6km2
120.6km2
351.6km2
( 16.6% )
( 48.4% )
726.1km2
122.8km2
348.1km2
( 16.9% )
( 48.0% )
<産業構造>
就 業 人 口 
  第一次産業 
  第二次産業 
  第三次産業
247,374人
5,318人( 2.1% )
55,089人( 22.3% )
183,841人( 74.3% )
399,769人
18,695人( 4.7% )
92,421人( 23.1% )
283,044人( 70.8% )
387,416人
13,846人( 3.6% )
82,451人( 21.3% )
275,014人( 71.0% )

 2007年のレポートでは、合併前の10年間にわたる1994(平成6)年度から2003(平成15)年度の新潟市と編入合併前の旧自治体の特徴的な部分を、2009年のレポートでは、政令指定都市への移行を目指した編入合併と県からの事務委譲の中で、編入合併から政令指定都市移行までの新潟市財政の2004(平成16)年度から2007(平成19)年度の間の決算の特徴的な部分を分析した。
 分析の結果からは、自らより財政基盤が劣る周辺自治体との編入合併による合併直後の、各財政指標の数値悪化、また、住民一人当たりの地方債残高比率の数値改善(07年)から読み取れるように数値回復を目指す市当局の一定の努力を窺い知ることができる。しかし、2007年度の債務負担行為現在高は前年度比123%と激増しているなど、借金の状況は厳しさを増していることが読み取れた。
 前回分析時における最新データであった2007年度決算は、新潟市が政令市に移行してからの初の決算であった。政令市への移行で権限・事務といった「守備範囲」は拡大し、新潟市の財政構造にも影響を与えている。そのため「政令指定都市移行後の新潟市」を引き続き調査・分析をしていくこととした。
 また、新潟市の財政分析の中で、「新潟市と規模が比較的似通っている政令市があり、今後も出てくることが予想される」こと、および「自治体財政健全化法施行により、2008年度決算から早期是正・財政再生の義務付けが始まり、4つの指標に基づく数値公表が義務付けられた」ことから、今後の分析においては、それらも踏まえた新たな視点が必要となってくる。前回までの分析は、決算カードの資料から傾向を探し出すことが中心だったが、新たな視点・切り口にて、さらに踏み込んで原因等に言及することが、自治研活動として行う財政分析の目的に適うとしてとりまとめを行った。


○財政分析結果(合併直後[2003]~2007年まで及びその後の推移) 
年   度
2003
(H15)
2004
(H16)
2005
(H17)
2006
(H18)
2007
(H19)
財政力指数
0.744
0.67
0.67
0.69
0.70
実質収支比率
0.8
2.0
1.8
0.4
0.3
経常収支比率
79.8
86.9
87.4
86.1
88.6
地方債現在高
(住民一人当たり:円)
417,792
427,636
429,946
436,604
443,629
債務負担行為現在高
(住民一人当たり:円)
28,967
37,394
39,134
57,013
127,331
地方債残高比率
185
210
207
209
198
積立金現在高
(住民一人当たり:円)
54,534
53,165
50,534
48,232
42,428
人   口
515,192
773,911
804,873
803,791
803,470
職 員 数
3,810
6,128
6,390
6,332
6,144
備   考
  05年3月に4市9町村統合合併 05年10月に巻町を統合合併   07年4月に政令指定都市
2008
(H20)
2009
(H21)
0.71
0.70
0.4
1.0
88.0
89.5
461,145
482,717
143,013
141,187
201
208
39,549
38,740
803,273
803,421
6,000
5,881
 
 
※太枠は今回の分析対象内容の数値

4. 政令指定都市移行後の財政状況(財政分析)

 2007(平成19)年度から2009(平成21)年度までの財政分析状況は次のとおり。以下、特に年度表記がない場合は最新年度である2009(平成21)年度を指す。


(1) 歳入について
 総額は3,609億円、前年度比約296億円の増額
項  目
'07-08年度
'08-09年度
'07-09年度
総   額
238.2億円
294.8億円
533.0億円
市税(地方税)
15.4億円
△ 31.2億円
△ 15.8億円
地方交付税
5.8億円
22.8億円
28.6億円
国庫支出金
67.6億円
185.8億円
253.4億円
県 支 出 金
5.6億円
10.5億円
16.2億円
繰 入 金
△ 25.2億円
22.0億円
△ 3.1億円
諸 収 入
11.0億円
46.8億円
57.7億円
地 方 債
96.9億円
45.7億円
142.6億円
 増減の主要なものとしては、次に示す費目と理由があげられる。
 ① 国庫支出金の増……定額給付金事業など国の経済政策
 ② 地方債の増…………合併建設計画の推進など
 ③ 諸収入の増…………中小企業融資制度の充実
 ④ 地方交付税の増……国の地方財政対策によるもの
 ⑤ 地方税の減…………景気の低迷による税収減
 ※ これらの増減により歳入総額が伸びている実態が明らかになった。


(2) 歳出について
 総額は3,578億円、前年度比298億円の増額
項  目
'07-08年度
'08-09年度
'07-09年度
総   額
166.5億円
298.1億円
464.6億円
人 件 費
△ 9.6億円
△ 22.5億円
△ 32.2億円
扶 助 費
23.4億円
28.1億円
51.5億円
公 債 費
1.5億円
11.0億円
12.5億円
物 件 費
△ 5.1億円
24.6億円
19.5億円
補 助 費
8.3億円
135.9億円
144.2億円
繰 出 金
△ 1.5億円
9.8億円
8.3億円
建設事業費
137.3億円
24.8億円
162.1億円
 増減の主要なものとしては、次に示す費目と理由があげられる。
 ① 建設事業費の増……国の緊急経済政策や合併建設計画の推進による増加)
 ② 補助費の増…………定額給付金支給など
 ③ 扶助費の増…………医療費助成、生活保護費等の増加
 ④ 人件費の減…………職員数削減
 ⑤ 物件費の増…………国の緊急経済対策による増


(3) 財政的な自立度
財政力指数
  財政力指数 = 基準財政収入額 / 基準財政需要額 (過去3カ年の平均値)
※ 財政力指数は、1を超えれば財政にゆとりがあり、地方交付税の不要団体となる。
※ 政令市となってからの3ヵ年は0.70で推移し、比較的安定している状態である。
07年度
08年度
09年度
類似団体
07年度
08年度
09年度
0.70
0.71
0.70
 
0.86
0.87
0.87


(4) 財政の健全性
実質収支比率
  実質収支比率 = 実質収支額 / 標準財政規模(経常的一般財源の規模)
                   [標準税収入額等+普通交付税]
※ 実質収支比率における財政の健全性としては、黒字で幅は3~5%が望ましい。
※ 実質収支比率は、都道府県で5%、市町村で20%以上の赤字になると地方財政再建特別措置法を準用した財政再建を行わないと起債が認められなくなる。
※ 政令市となってからの3ヵ年は、1%以内の状態で推移している。
07年度
08年度
09年度
類似団体
07年度
08年度
09年度
0.30
0.40
1.00
 
     


(5) 財政の弾力性
経常収支比率
  経常収支比率 = 経常経費充当一般財源等 / 経常一般財源
※ 都市においては70~80%程度が適正。
         80~90%程度はやや弾力性を欠く
         90~100%程度は弾力性を欠く
         100%以上は財政が硬直化し、新たな投資的経費がない。
※ 政令市となってからの3ヵ年は、従来より少し財政が硬直化してきている状態である。
07年度
08年度
09年度
類似団体
07年度
08年度
09年度
88.6
88.0
89.5
 
95.4
95.6
96.5


公債費負担比率
  公債費負担比率 = 公債費に充てられた一般財源 / 一般財源総額
※ 公債費に充てる一般財源の額をできる限り増加させないための指標。
※ 財政硬直化を招かないため、警戒ライン15%以内の範囲にあることが望ましい。
  20%を超えると危険ラインと言われている。
※ 政令市となってからは、合併時の水準よりやや改善し、3ヵ年は横ばいの状態である。
07年度
08年度
09年度
類似団体
07年度
08年度
09年度
16.4
16.5
16.5
 
     

実質公債費比率
  実質公債費比率 = {(地方債の元利償還金+準元利償還金)-(特定財源+元利償還金等に係る基準財政需要額参入額)} /(標準財政規模-元利償還金等に係る基準財政需要額参入額)
※ 実質公債費比率が25%以上になると早期健全化基準の対象となり、財政健全化計画の策定が義務付けられる……イエローカード団体。
  実質公債費比率が35%以上になると財政再建団体となり、財政再建計画の策定が義務付けられ、計画について国の同意手続、地方債が制限される……レッドカード団体。
※ 政令市となってからは、合併時の水準よりやや改善し、3ヵ年はほぼ横ばいで、若干減少傾向の状態である。
07年度
08年度
09年度
類似団体
07年度
08年度
09年度
11.5
11.2
11.1
 
14.1
13.7
13.4

将来負担比率
  将来負担比率 = {地方債残高公共事業の債務負担行為額+第三セクター等の地方債償還金の一般会計負担分+退職手当+連結実質赤字額等将来負担となる借金額) / 標準財政規模
※ 将来負担比率が政令市においては、400%以上になると早期健全化基準の対象となり、財政健全化計画の策定が義務付けられる……イエローカード団体。
※ 政令市となってからは、減少傾向の状態である。
07年度
08年度
09年度
類似団体
07年度
08年度
09年度
137.0
136.2
130.9
 
208.7
199.5
194.1

(6) 借金の状況
 地方債現在高(住民一人当たり)    約48.3万円
  (前年度より約2万円上昇、07年度と比較しても約4万円上昇→数値悪化)
※ 政令市となってからは、増加傾向の状態である。
07年度
08年度
09年度
類似団体
07年度
08年度
09年度
443,629
461,146
482,717
 
     


地方債残高比率
  地方債残高比率 = 地方債現在高 / 標準財政規模
※ 地方債残高比率は、当該自治体の財政規模で借金額に無理がないのかを見る指標。
※ 地方債残高比率が200%を超えると財政運営が厳しくなると言われていて「身の丈を越えた借金で首が回らなくなりつつある」姿を示している。
※ 政令市となってからは、増加傾向の状態であり、08年度からは200%を超え悪化傾向にある。
07年度
08年度
09年度
類似団体
07年度
08年度
09年度
198
201
208
 
     

債務負担行為現在高(住民一人当たり)約14.1万円
※ 政令市となってからは 08年度に約1.5万円増加し、その後はほぼ横ばい傾向の状態である。
07年度
08年度
09年度
類似団体
07年度
08年度
09年度
127,331
143,014
141,187
 
     


借金残高比率
  借金残高比率 =(地方債現在高+債務負担行為現在高) / 標準財政規模
※ 政令市となってからは 若干上昇傾向の状態である。
  目に見えない部分も含めた借金の状況は、前回の分析同様、厳しい。
07年度
08年度
09年度
類似団体
07年度
08年度
09年度
255
263
269
 
     

(7) 貯金の状況
 積立金残高(住民一人当たり)   約3.9万円(前年度比微減)
  (合併直後[2005]との水準比較では、20%以上マイナス)
※ 政令市となってからは 減少傾向の状態である。
  ⇒積立金を取り崩した実質収支の黒字基調の維持を行っている
07年度
08年度
09年度
類似団体
07年度
08年度
09年度
42,428
39,549
38,740
 
     


積立金残高比率
  積立金残高比率 = 積立金現在高 / 標準財政規模
※ 政令市となってからは、減少傾向の状態である。
07年度
08年度
09年度
類似団体
07年度
08年度
09年度
18.9
17.2
16.7
 
     

〇財政健全化法に基づく指標の状況等
項目
07年度
08年度
09年度
早期健全化基準
財政再生基準
実質赤字比率
0.26
0.41
0.96
▲11.25%以上
▲20.0%以上
連結実質赤字比率
8.00
7.90
8.35
▲16.25%以上
▲40.0%以上(経過基準)
実質公債費比率
11.5
11.2
11.1
25.0%以上
35.0%以上
将来負担比率
137.0
136.2
130.9
400%以上
資金不足比率
すべての項目において基準値以内であり、現段階において問題ない


① 企業会計状況
  水道事業会計、病院事業会計、下水道事業会計、国民健康保険事業会計・介護保険事業会計など
② 関係する一部事務組合の状況
  新潟県後期高齢者医療広域連合、新潟県市町村総合事務組合、さくら福祉保険事務組合など
③ 地方公社・第三セクター等の状況
  (財)新潟市国際交流協会、(財)新潟市開発公社、(株)新潟市環境事業公社など


 自治体財政健全化法の施行により、2008年度決算から実質赤字比率をはじめとした4つの指標に基づく数値の公表が義務づけられた。また、それにより公営企業会計状況や関係する一部事務組合の状況等も踏まえた上での財政分析を行うことが必要となっている。
 このたびの分析では、これらの指標まで詳細な分析には至らず、前回の分析同様に決算カードの資料による分析が中心となった。しかしながら、上記の指標および関係団体の財政状況等を踏み込んで分析、言及することによって、自治研活動として行う財政分析の適う目的としていくことが今後も課題として残された。