【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第2分科会 地方財政を考える

 京都市では、近年の節水意識の高まりにより水需要の減少。浄水場における施設能力に余力が生じたため、京都市では2012年度末に山ノ内浄水場を廃止し、浄水場の施設規模を水需要に応じたものに適正化することとした。これに対し、京水労は、職場が廃止になることによって人員減に繋がる懸念があったが、浄水場の跡地利用による市財政の負担軽減や、料金値上げをせずに上下水道事業を公営原則で守ることを最優先にして、取り組んできた。その内容を紹介する。



浄水場廃止に伴う切り替え作業

京都府本部/京都市水道労働組合・執行委員 牧野  誠

1. 浄水場の施設規模の適正化に伴う山ノ内浄水場の廃止について

 京都市では、1912年(M45)3月に蹴上浄水場が完成したのを初めに、京都市の発展と人口の増加にともない、次々と浄水場が建設され、現在、4つの浄水場がある。(蹴上浄水場・松ヶ崎浄水場・新山科浄水場・山ノ内浄水場)
 しかしながら、近年の節水型社会のあおりを受け水需要の減少にともない、浄水場における施設能力に余力が生じ、適正な余裕率を大幅に上回った状況となっている。
 そこで、市民への安定給水確保を前提として、水道事業のよりいっそうの効率的な事業運営を図るため、2012年度末に山ノ内浄水場を廃止し、浄水場の施設規模を水需要に応じたものに適正化することとした。
 この山ノ内浄水場の廃止については、2007年12月策定の「京(みやこ)の水ビジョン」、「京都市上下水道事業中期経営プラン(2008~2012)」に位置付けており、これらと整合を図りつつ、建設改良事業として、着実に取り組んでいる。廃止後の2012年度末の施設能力は、3浄水場で77万1千立方メートルとなり、将来とも安定給水が可能な施設能力を確保できる。
 山ノ内浄水場の廃止に当たっては、蹴上浄水場の1・2号ちんでん池の復元、山之内ポンプ場の整備、給水区域の再編成などが必要であり、今後はそれらの事業の着実な推進が課題である。

○各施設の施設能力
(単位:m3/日)
 
2010年度現在
2012年度末予定
2012年度1日最大給水量
蹴上浄水場
99,000
198,000
139,000
松ヶ崎浄水場
250,000
211,000
195,000
山ノ内浄水場
240,000
廃止
廃止
新山科浄水場
362,000
362,000
285,000
合  計
951,000
771,000
 
1日最大給水量
611,200
619,000
619,000
余 裕 率
1.56
1.25
 
水道施設設計指針では、計画浄水量の25%程度の予備力を持つこととされている。

(1) 山ノ内浄水場を廃止し、3浄水場体制にした場合について
 ・ 施設更新に必要な建設費の縮減(約130億円)
 ・ 施設運用面で、現在ポンプ直送方式である山ノ内低区配水区域系の自然流下での給水が可能となり、安定給水の向上が図れる。
 ・ 前文の結果、年間で約880万kWhの使用電力及び2,600tのCO削減が可能。
 ・ 山ノ内浄水場廃止により人件費、物件費等で年間約6億円の経費削減。
 ・ 山ノ内浄水場の導水管については、老朽化及びその継ぎ手形状(A型)から破損事故等の懸念があるが、布設替えによる代替ルートが無いため、地震等災害時のリスクが高くなっていることから、リスクの解消となる。

○施設更新に必要な建設費の内訳
(単位:億円)
現行4浄水場体制 山ノ内浄水場廃止
山ノ内浄水施設更新        70 山ノ内ポンプ場の整備       22
導水管の整備(2系統化)    110 蹴上1・2号ちんでん池築造    29
低区配水塔の整備等        20 葛野連絡幹線の整備        9
  給水区域の再編成         10
           計 200億円             計 70億円
※再投資抑制額 約130億円

2. 給水区域切替作業について

 山ノ内浄水場の廃止にともなって、これまで山ノ内浄水場から各家庭に給水していた区域へ、他の浄水場から給水を行うため、本市給水戸数の約4割を対象とした区域の切替作業が必要となっている。このため、蹴上浄水場の能力増強(1・2号ちんでん池の運用開始(9万9千m3/日)を行うとともに、山ノ内浄水場の敷地内で山ノ内ポンプ場を建設中である。
 給水区域切替作業に当たっては、仕切弁操作等により水道管内に流れる水の方向や速さが変化することで、一時的に濁水が発生する可能性がある。そのため、これら水道管内に発生した濁りを取り除くために、消火栓等から放水して、清浄な水を確認しながら作業を進めていく必要がある。

○作業実施に伴って濁水発生が予想される給水戸数
※各行政区・年度ごとの予想濁水影響戸数
行政区
2011年度
2012年度
2013年度
北 区
7,300
7,300
上京区
19,200
19,200
中京区
20,700
18,000
38,700
下京区
14,400 
400 
14,800
右京区
13,500
15,800
29,300
南 区
39,990
39,990 
東山区
17,100
17,100
西京区
8,250
8,250
60,700
95,540
18,400
174,640

(1) これまでの取り組み
① 給水区域再編プロジェクト会議
給水区域切替えについては、プロジェクトチームを立ち上げ、これまでに管路、浄水場、広報、市民対応の3つワーキンググループにおいて、給水区域切替作業の開始に向けた準備を進めてきた。
② 事前広報
 市民新聞やラジオを利用した事前広報のほか、濁水の発生が予想される範囲に住む市民には、事前に、作業日時などのお知らせを各戸配布し、2012年1月には第1回のお知らせ配布に併せてフリーダイヤル回線による給水区域切替え、お問い合わせ窓口を設置して対応してきた。

(2) 今後の取り組み
 切替作業は、市民への影響が最小限となるよう、午後11時ごろから翌朝の午前7時ごろまでの夜間作業を予定しており、仕切弁の操作、濁水処理、応急給水、現地広報等の作業を行う。
 実際の切替作業については、2012年2月末から2013年6月上旬にかけて、市内をおよそ20程度のブロックに分けて順次実施していく予定である。

3. 組合の対応

 京水労としては、自分達の職場が廃止になることは職域縮小になり、人員減に繋がることである。しかしながら京都市の財政難はさることながら、浄水場を廃止することで、浄水場の跡地利用による市財政の負担軽減や、市民負担につながる料金値上げをせず、包括外部委託や民営化の流れがあるなかで、上下水道事業を公営原則で守ることを最優先に、身を切る覚悟で苦渋の選択として新中期経営プランの大筋について合意をしてきたところである。
 苦渋の選択を職員に理解してもらい、組合として、この事業に関して職員のために何ができるのか、市民に「安心・安全・安定」した水を供給するための取り組みを、労使協力しながら取り組んできた。
 職員に関しては、労働条件の整備や労働環境問題に力を入れ、現業職場が少ないなかでの廃止、職場職員の異動先の問題整理に加え、施設能力が多くなった浄水場の機械にかかる負荷での点検やメンテナンス作業での増員の交渉を、今後、進めていく。
 また、今年の2月末から、給水区域切替作業が行われているが、先ほど説明したとおり約1年間を通して最低、月に1回はあり、多い時は2回行う事業である。通常業務があるなかで昼夜問わず2日連続勤務の過酷労働に加え、冬の寒い時期には長時間、外での作業があり、防寒ズボン、仮眠できる毛布の支給等、労使交渉でできる限りの充実を図ってきた。
 今後もさらなる政策課題が予想されるが、上下水道事業の公営原則を死守するべく、あらゆる場を通じて政策要求に「公営原則」を掲げ、自治労・全水道がさらに連帯・連携を深め、地域における公共サービスの要としての水道・下水道政策や事業のあり方について論議を深め、運動を進めていくことが重要だと考える。