2. 新温泉町の課題
(1) 行政改革の問題点
2006(H18)年度から始まった第1次行財政改革では2009(H21)年度までに人件費の抑制をはじめ事務事業、補助金の見直しなどを行って11億3,000万円の効果を出した。その後、第2次行財政改革では、2010(H22)年度から2014(H26)年度まで3億9,000万円という経済効果額を見込んでいる。2013(H25)年度に組織の機構改革を予定しているが、果たしてどれだけの結果が出るものか疑問が残る。行財政改革の確実な実行と質の高い行政サービスの提供を最優先課題とし、将来にわたり持続可能な財政基盤を確立することができるよう歳出を削減することが必要としている。しかし、事務事業評価で行っている行財政改革として数字上で上がってくるものは職員給の削減によるものくらいしかないのが現実である。このように、職員数の削減を行政改革の主目標に置いているが、それは対人サービス部門を減らすことを意味し、それが惹起する「街おこし」への「負の影響」にはならないのだろうか。
① 定員管理の適正化
新温泉町は、合併前の旧町において、それぞれ定員適正化計画に基づき職員を必要最小限にとどめ、臨時職員等で対応して増員抑制に努めてきた。2005(H17)年10月1日の合併により、旧町の職員がそのまま引き継がれたため、国の指導する類似の自治体と比較し、数字上では多くの職員を抱えることになった。職員数としては合併時の2005(H17)10月1日現在で正規職員は375人(出向、派遣を含む)であったものが、2012(H24)年4月1日現在で306人(同)であり、69人削減したことになる。
定員適正化計画では2015(H27)年4月1日に職員を278人にすることになっており、2012(H24)年4月1日現在から28人を削減するということになる。2015(H27)年4月1日までの60歳の定年退職予定者は一般行政職が27人、技能労務職が5人、医療職(医療技術・看護師)が4人で合計36人となる。計算では3年間で差の8人を採用できることになる。
一般行政職は合併時に246人だったものが2012(H24)年4月1日現在で212人、技能労務職は40人が31人、医療職(Ⅱ)は17人が12人、医療職(Ⅲ)は63人が44人という減り方になっており、技能労務職については今後皆無になる可能性が出ている。
② 職員の年齢バランス
職員を年齢別に見ていくと、2012(H24)年4月1日現在の50歳以上の行政職(役場内の事務職・保育園保母・歯科技工士・診療所看護師など)を見ると99人となっており、全体306人の32.35%となっている。また、20歳代については1人しかいない年もあり、同じ年の同僚がいないことになる。特に役場内の事務職については、職員がいない年もある。これから10年間に一度に職員が退職するため、一人あたりの業務量が急激に増大することが予測される。行政事務が停滞することがないよう、計画的な採用や、事務事業を削減など、何らかの対策が必要である。今までの採用計画は、職員数の削減目的だけが先行し、将来計画が見込めていない。今後、採用を増やすにしても年齢バランスのとれた職員構成を取り戻すことはできない。
③ 臨時、嘱託職員の増加
正規職員の減少に伴い、臨時・嘱託職員は明らかに増加してきている。合併時には正規職員374人、嘱託職員47人、臨時職員132人の計553人だったものが、2012(H24)年4月1日には正規職員308人、嘱託職員25人、臨時職員184人の計517人となり、嘱託・臨時職員が30人も増えた。今後もこの傾向は続くであろう。ジオパーク館等の新しい施設が出来たが、嘱託職員・臨時職員で対応した。その他の施設は、指定管理に出して安上がりの行政運営を進めている。まさしく、低賃金の非正規公務員である官製ワーキングプアの増大である。また、正規職員ではなく安上がりの臨時職員で対応するあまり、保育士、看護師は不足し、保育士は資格がないものが採用されるという悪循環を生んでいる。それが果たして安心して子育てができ、安心して医療が受けられる行政運営であろうか。公契約条例に取り組んでいる千葉県野田市の根本崇市長は「無駄を省くことは必要だが、強く求めるあまり無機質な人間味のないものであってはならないというのが私の基本的な考え方である。ある程度経費がかかっても市民の必要とするサービスの質を落とさないよう工夫することが行政運営の一番のポイントと私は考える。」と言っている。考えさせられる言葉である。
(2) 財政上の問題点
新温泉町の財政のこれからの特徴として、2016(H28)年から2町合併10年経過により普通交付税が段階的に縮減されることが上げられる。段階的縮減措置に備え基金造成及び予算規模の縮減を行う必要があるように思われるが、基金造成に力を傾注するばかりに、町づくりの方向性を誤ってはいけない。
また、今後、町債償還の公債費は数年間高い水準で推移するため、町財政を圧迫する要因となり、加えて各種施設の老朽化に伴う維持管理経費の増加など、経常的経費の増加が本町財政にとって大きな負担となることが確実となっている。
財政状況は一部の指標において改善の傾向が見られるものの、財政健全化判断比率の一つである実質公債費比率が、2010(H22)年度から3年連続18%以上となったため、公債費負担適正化計画の作成が義務付けられ、起債発行については県の許可が必要となっている。依然硬直化の度合いが高く、財源の多くは地方交付税をはじめとする依存財源に頼っていることから、国及び県の歳出削減による影響が極めて大きく歳入の安定的確保は困難である。また財源を町債の発行により確保することも、その残高及び後年度償還負担さらに実質公債費比率等財政指標の悪化に伴う制限の強化を考慮すると財源確保が困難となっている。
また、経常収支比率で示されているとおり、町税、地方交付税、地方譲与税を中心とする経常的一般財源は、そのほとんどが人件費、扶助費、公債費等の義務的経費に充当され、政策的経費に充当できる財源に余裕のない状況となっている。
3. まとめ
このように、本町の財政は虚弱な状況にあるが、限られた財源の中で町づくりをすすめていかなくてはならない。自主財源の確保、町債発行抑制、基金確保を図り、課題や住民ニーズに的確に対応できるよう、新たな姿勢で改革努力に取り組み、健全財政でスリムな財政を確立することが極めて重要ではあるが、事務事業自体をスリム化していかないことには、どうすることもできない。新たな姿勢とは具体的には何なのか、またスリムな財政を確立することとは何をめざすことなのか、さらに行財政改革の方向性やその効果を職員給の削減だけに頼るものであってはならないなど、今後の議論が必要であり、模索していかなくてはならない。そして、投資的経費については、事業の優先度という尺度を十分に協議しなくてはならない。また、過疎債の有効利用を否定はしないが、その償還が将来にかってくることを念頭に、事業に優先順位をつけられなければならない。
どちらにしても、このように財政状況は厳しいものの、数字で見る限り財政破綻することはない。しかし、人口減、少子高齢化、地域産業の低迷等の課題は多く、何らかの手を打っていかなくてはならないことに間違いない。そのためにも、今まで以上に新温泉町にしかない資源・財産を見直し、そこに住むものが新温泉町の素晴らしさを再発見し、内外にPRして新しい町づくりを進めることが大切である。また、高齢化が進む中、それを逆手に取る発想も大切ではないだろうか。介護福祉のサービスを充実させることによって雇用の場を創出し、人口減を鈍化させる方策を考えることも一つの方法だと考える。その時には行政として何かやるべき方策はないか考える必要がある。
以上のように、今回、財政分析をすることで明らかになった新温泉町の諸課題について、今後、職員労働組合としてできることから取り組んで行きたい。 |