【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第2分科会 地方財政を考える

 私たちの職場環境や給与面に大きな影響を及ぼす可能性のある、2010年度末に策定された「臼杵市中期財政計画」について検証する。計画は2010年度~2014年度の5カ年間であり、「第2次臼杵市行財政活性化実行プラン」と密接な関係にあり、今後の臼杵市の財政運営を占う大きな指針である。歳入、歳出の試算について分析し今後の展望について検討を行いたい。



臼杵市の中期財政計画
(2010年度~2014年度)

大分県本部/臼杵市職員労働組合

1. はじめに

 新市発足後6年(2005年1月1日新設合併:旧臼杵市・旧野津町)が経過し、市民の交流や職員同士の交流も徐々に進んでおり、市全体の一体感の熟成も時がたつにつれ年々進んでいると感じられる。
 その間の臼杵市の財政状況を見てみると、三位一体の構造改革による交付税の削減、景気低迷による地方税収の伸び悩みや、団塊の世代の退職に伴う退職金の増加等により窮屈な財政運営を余儀なくされる中、2005年度~2009年度まで実施された集中改革プランの実施(効果額約18億円)及び2006年度~2010年度まで実施された給与カット(5%)や格付けの見直し等、行革や給与適正化の実施により、なんとか凌げてきたところである。これは、職員の協力によるところが大であり、実施により多くの職場で正規職員が減少し生活給が伸び悩んでいる現状である。
 このような中、今回ここでは、私たちの職場環境や給与面に大きな影響を及ぼす可能性のある、2010年度末に策定された「臼杵市中期財政計画」について検証する。計画は2010年度~2014年度の5カ年間であり、「第2次臼杵市行財政活性化実行プラン」と密接な関係にあり、今後の臼杵市の財政運営を占う大きな指針である。歳入、歳出の試算について分析し今後の展望について検討を行いたい。


2. 歳 入

(1) 地方税
 市民税については人口推計(コーホート要因法)を基に試算。毎年500人前後の減少が続くことが予想され、これに伴う生産人口の減少により2014年度推計と2009年度決算を比較すると約3.2億円の減少が試算されている。法人税については、景気に比較的左右され難い醸造業とシップサイクルと言われる好不況の波を持つ造船業が基幹産業である。2014年度までにおいては、造船業の落ち込みは比較的少ないことが予想され推計全体としては、ほぼ横ばいの試算となっている。固定資産税については、3年に一度の評価替えを考慮して推計している。
 結果、地方税全体として2014年度推計と2009年度決算を比較すると約3.8億円の減少が試算される。

(2) 地方交付税
 普通交付税のうち、基準財政収入額については、2010年度確定値をベースに上記で試算した地方税を加味して見込みを推計している。
 基準財政需要額については、2010年度確定値をベースに公債費、事業費補正については積み上げにより試算。他の経費については、内閣府試算値(11年度:△0.2%、12年度:△3.6%、13年度以降:0.0%)及び国勢調査による人口減(△3千人:影響額△2.5億円)を12年度より反映して試算。臨時財政対策債については、内閣府試算の伸び率を基に、推計している。合併算定替えについては、10年度確定値をベースに試算。(影響額:5億円)
 特別交付税については、2010年度決算ベースを基に内閣府試算値を加味して試算。
 地方交付税全体として2014年度推計と2010年度確定値を比較すると約3億円の減少が試算される。要因としては、国勢調査による人口減による基準財政需要額の減少が挙げられる。
 本市のように自主財源比率の低い市にとっては、地方交付税は財政運営上の根幹であるため、その増減については、神経を使うところであり、試算結果は収支全体に大きな影響を与える。

(3) 国県支出金
 投資的経費及び扶助費に係る分については、各経費の歳出見込の財源と連動とさせて試算。(10年度の補助率を基に試算)その他の支出金については、09年度決算ベースで試算。

(4) 地方債
 建設事業債については、投資的経費の財源と連動させて試算。投資的経費については、公共施設整備5カ年計画(翌年以降5年間の投資的経費の計画)を基にしている。計画期間中の額は、24億円~30億円で推移しており、プライマリーバランスの状況を見てみると毎年黒字が保たれている。
 地方債の発行については、後年度への財政指標への影響が大きいため、普通建設事業の厳選、交付税算入率の高い起債の活用が必要である。


3. 歳 出

(1) 人件費
 2010年度決算見込みをベースに、退職者数の推移を加味して試算。職員数については、10年度4月1日時点の383人(普通会計)ベースに試算。給与カットについては、11年度以降カット無しで試算している。
 人件費全体として2014年度推計と2009年度決算を比較すると約1.9億円の減少が試算される。要因としては、退職者数の減少が挙げられる。
 職員数については、383人をベースに減少しないようにしており、計画における人件費の抑制は避けられており、一定の評価が与えられる。

(2) 扶助費
 2009年度決算をベースに、人口推計を加味して試算している。扶助費全体として2014年度推計と2009年度決算を比較すると約2億円の増加が試算される。要因としては、景気低迷等による保護費の増加が挙げられる。

(3) 公債費
 2009年度までの発行分については、借入れ実績に基づき毎年度償還分を計上。2010年度以降発行分については、公共施設整備5カ年計画に基づき各起債における現行の償還期限及び借入利率(1.5%~2.2%)の条件にて試算。計画期間中の額は、29.6億円~31.6億円で推移しており、プライマリーバランスの状況を見てみると毎年黒字が保たれている。
 今回の計画において、公債費の額は一つのポイントであり、2009年度の公債費の額(3,163,523千円)を超えない財政運営を大きな柱に掲げている。

(4) 投資的経費
 公共施設整備5カ年計画に基づき試算。この計画については、毎年10月末までに市長査定を経て決定されており、翌年度の当初予算においては、基本的にこの計画額の範囲以内での予算編成となる。事業規模、財源により投資的経費は年によって増減しているが、計画において、一般財源の額を毎年5億円以内と定めている。ここが、もう一つのポイントであり、事業の取捨選択と年度間調整に反映され、投資的経費の増大と後年度の財政負担の縛りとなっている。

(5) その他の歳出
 物件費、補助費については2009年度決算をベースに新規事業等を加味して試算。
 繰出金については、各特別会計の事業計画、償還計画に基づき試算。
 その他については、2009年度決算をベースに試算。


4. 設定目標及び収支見通し

(1) 設定目標
① 計画期間内の各年度の公債費を2009年度の公債費(3,163,523千円)以下とする。
② 2014年度末における財政調整基金、減債基金の2基金合計保有額を30億以上とする。

(2) 収支見通し
 公債費抑制の目標については、「公共施設整備5カ年計画」において、普通建設事業の事業規模、実施時期、財源措置、元利償還等を加味し事業費の平準化を図ることにより、公債費(市債元利償還金)を2009年度の公債費(3,163,523千円)以下にする見込である。しかしながら、人口減少及び少子高齢社会の進展による税収の落ち込み、扶助費の増加、国保会計等への繰出金の増加等により、計画最終年である2014年度においては、単年度収支で赤字に陥ることが見込まれている。
 これを回避するため、「第2次臼杵市行財政活性化実行プラン」の取り組み項目に基づく財政効果見込額(約15億円)の着実な達成により、単年度収支の赤字を回避することを計画としている。
 今回の実行プランは、市独自の取り組みであり、前回の集中改革プランとは様相が異なる。今回の目的は進めてきた行革を止めず、見直しを加えることにより2015年度以降の合併算定替えの縮小による、交付税削減の影響を最小限に食い止めることを取り組みの大きな柱としている。また、その効果額を活用し、計画期間中及びその後の経済状況や地方財政の変化に対応するための基金として、2014年度末における財政調整基金、減債基金の2基金合計で30億円以上の保有額を確保することを計画している。


5. 今後の展望

 今回の中期財政計画は、一定の推計条件を前提とした中期的な財政見通しに基づき財政運営上の目標を設定し、その実現に向けた本市経営戦略の基本的な考え方を示すものである。したがって、計画策定時に想定し得なかった社会経済状況及び地方財政制度の変化等については、各年度の予算編成の過程を通じて、的確に対応することにより、設定目標達成に向けた取り組みが必要である。すでに、3月11日発生の東日本大震災に係る地方財政への影響は避けられず、2011年度以降の収支状況の悪化が懸念され、見直しも必要となるであろう。また、計画の収支の試算には、「第2次臼杵市行財政活性化実行プラン」の取り組み項目に基づく、財政効果見込額は反映されていないため、各年度の収支状況に注視し、実行プランの進捗状況と共に、毎年検証する必要がある。

 計画に掲げる「安定的・持続的な財政構造の弾力性の確保を可能とする財政運営」を目指すためには、公債費対策、安定運営を目指した基金残高の確保は当然必要であり、達成に向けた取り組みを着実なものとすることは大事であるが、達成第一主義になり、実行プラン等の過度な達成に走らせない取り組みも必要である。そのためには、組合として継続した取り組みによる分析力の向上が今後益々必要である。


「臼杵市中期財政計画」の概要