【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第2分科会 地方財政を考える

 国家的な衰退期を迎えた時代の地方自治体の役割と限界を、中山間地の小自治体財政というフィルターを通して考察した。自民党政権末期、特に小泉内閣から現在の菅内閣に至るまでの、政策の変更が与えた自治体財政への影響から、平成の大合併以降の自治体行政のあり方を探ることとした。
  また、地方分権が進む状況下においては、地方自治体の果たすべき役割の広がりと、重くなる責任については一定の理解ができる。反面、その境界が不明瞭になりつつあり、そのしわ寄せは将来世代へと転化されつつある状況についても、論じることとした。



自治体財政の役割
決算数値等にみる竹田市の姿と考察

大分県本部/竹田市職員労働組合 佐田 圭司

1. はじめに

 戦後日本の困難期から高度成長時代の発展期、そして現在の衰退期と当然ながら時代に応じて行政の役割、方向性に変化が生じてきている。行政の側面からみると、特に中央集権・一極集中から地方分権への移行は大きな意味を持つ。これは、地域の独自性の発揮や個性の創出に繋がる一方で、行財政改革を進める自治体へは財政的人的な負担を強いるものともなる。財源の偏在を調整するための地方交付税制度はあるが、この制度自体も国の財政状況によりここ数年安定性を欠く状態である。
 また、見逃せないのが日本全体で進む人口の減少と産業の空洞化、公共事業からの脱却である。国が日本経済を考えるように、自治体も地域経済の浮揚と底支えすべく努力する。しかし、一般的に現下の状況は一自治体の自助努力で解消できるようなレベルではなく、また、自治事務として地方自治体が取り組むべきか否かの境界も不明瞭な場合もある。

2. 財政的な側面からみた竹田市

(1) 竹田市の財政状況等の変遷
 現行の竹田市の財政状況については、他団体と比較において残念ながら厳しいと言わざるを得ない状況である。経常収支比率に代表される財政指数については、他都市との比較で常に下位に位置し、予算編成においては、2005年の合併時から常に当初予算編成時点で財政調整用基金を組み込んだ予算編成を行い、決算後に剰余金を積み戻すことを繰り返す状態であった。ここ3年間については、国の景気対策による各種交付金と地方交付税の増額で、同基金残高は持ち直したが、今後については市の財政状況を大きく左右する地方交付税に国勢調査人口の減少や合併算定替(2010年:1,508,201千円)等のマイナス要素があるため、厳しい見方をせざるを得ないのが現状である。また、ルール以外でも国の債務残高(2011年度末見込約692兆円)は膨らむ一方で税収が伸び悩み、今後も普通交付税が現行水準で維持されるかは極めて悲観的に考えざるをえない。


【表1:合併後の5年間における決算額等の推移】
(単位千円)
 
2005年度
2006年度
2007年度
2008年度
2009年度
歳入決算額
23,078,689
19,594,713
17,125,792
18,358,064
21,908,433
歳出決算額
23,032,171
18,755,011
16,742,243
17,115,809
20,992,022
歳入歳出差引額
46,518
839,702
383,549
1,242,255
916,411
翌年度へ繰越すべき財源
46,447
114,157
12,825
248,445
160,505
実質収支
71
725,545
370,724
993,810
755,906
財政調整用基金繰入額
50,000
480,000
867,806
782,946
473,625
財政調整用基金残高
2,857,515
2,389,316
2,264,842
1,846,998
2,401,163
当初予算時財調繰入額
1,000,000
1,480,000
1,000,000
880,000
343,000


【表2:合併後5年間における決算に係る指数の推移】
 
2005年度
2006年度
2007年度
2008年度
2009年度
経常収支比率
101.3
99.9
100.9
97.7
94.3
財政力指数
0.245
0.263
0.276
0.276
0.268


【表3:合併後5年間における主な歳入の推移】
(単位千円)
 
2005年度
2006年度
2007年度
2008年度
2009年度
地方税
1,943,434
1,882,494
1,988,526
1,984,973
1,914,676
普通交付税
7,191,889
7,036,642
6,915,146
7,177,293
7,485,757
地方債
2,709,200
3,045,400
1,434,022
1,267,790
3,523,170


【政権等の変遷】


 合併後の5年間で、2007年度が一番財政的には厳しく指数も悪かった事が窺える。2005年度については、2004年度が2005年4月1日で合併したことによる打切り決算となった影響で、2004年度分の決算額が含まれるため、単純に比較対象とはならない年度である。
 国政においては、太線の内閣が小泉首相時代の「聖域なき構造改革」というフレーズに象徴されるように、財政再建を重視した政策を実施または継承した内閣で、平成の大合併や交付税等に大きな影響を与えた。普通交付税を例にとると、新市ベースで2002年度が7,614,777 千円、2003年度が7,097,538 千円の交付額で2007年度まで着実に減少した事がみてとれる。
 一方歳出に焦点を当ててみると、これまでの行財政改革により2007年度までは着実に縮小してきたが、2008年度以降国の経済対策やケーブル事業により再び拡大傾向にある。ただし、人件費や事務費等の内部努力で削減可能な経費については、最大限の取り組みを行っているところであり、今後再び歳入が減少傾向をたどれば、事務事業のスクラップを行わざるを得ないところである。


【表4:合併後5年間における性質別歳出の推移】
(単位千円)
 
2005年度
2006年度
2007年度
2008年度
2009年度
人件費
4,860,776
4,709,058
4,619,171
4,451,986
4,520,717
  うち職員給
3,261,143
3,099,028
3,011,220
2,822,607
2,640,242
  職員数(普通会計上)
522
481
458
439
423
扶助費
1,400,988
1,326,775
1,365,222
1,502,957
1,523,789
公債費
2,897,523
2,842,448
2,924,096
2,768,490
2,819,517
義務的経費 小計
9,159,287
8,878,281
8,908,489
8,723,433
8,864,023
その他経費(物件費等)
10,278,740
6,418,487
4,745,959
5,405,916
6,281,227
投資的経費
3,594,144
3,458,243
3,087,795
2,986,460
5,846,772
  普通建設事業
2,305,120
1,882,293
2,219,746
1,943,260
5,601,396
  災害復旧事業
1,289,024
1,575,950
868,049
1,043,200
245,376

 他市との比較にみる歳出は、例年中期的な財政収支の試算の職員説明会で示すとおり、住民一人あたりの歳出額が目的・性質別でほとんどトップであり、高コスト体質であることを示している。これは、あくまで人口換算であるが、行財政改革上大きな比較検討材料となるものである。


【表5:平成21年度決算における大分県下他都市との比較にみる歳出額】
都 市 名
大 分 市
別 府 市
中 津 市
日 田 市
佐 伯 市
臼 杵 市
津久見市
歳出総額(千円)
156,838,223
43,137,079
40,762,907
40,305,319
43,974,813
20,512,356
9,439,888
年度末住基人口
470,293
120,623
85,324
72,491
80,234
43,158
20,958
住民一人当り(円)
333,490
357,619
477,743
556,004
548,082
475,285
450,419
ランキング
14
13
8
5
6
9
10
面積(km2
501.28
125.15 
491.15
666.19
903.51
291.07
79.54
面積1km2当り
312,875
344,683
82,995
60,501
48,671
70,472
118,681
               
都 市 名
竹 田 市
豊後高田市
杵 築 市
宇 佐 市
豊後大野市
由 布 市
国 東 市
歳出総額(千円)
20,992,022
14,120,427
17,978,151
26,102,160
26,729,735
16,263,249
21,076,373
年度末住基人口
25,526
24,341
32,811
61,061
40,862
36,382
33,113
住民一人当り(円)
822,378
580,109
547,931
427,477
654,147
447,014
636,498
ランキング
1
4
7
12
2
11
3
面積(km2
477,59
206,64
280.01
439.12
603.36
319.16
317.84
面積1km2当り
43,954
68,333
64,205
59,442
44,301
50,956
66,311


(2) 財務諸表にみる債務バランス
 公開された2008年度の貸借対照表にみる県内他市との比較では、竹田市は住民一人あたり2,470千円のインフラ(道路や学校等)を持つと同時に、828千円の負債を抱えている。平均値よりも高位にあり、いわゆる大きな政府型に分類される。一方、個人の貯蓄にあたる基金(定額運用基金等を除く)も、県内他都市に比べ住民一人あたりでみると現行では比較的多い都市に数えられる。これらの比較は、全国的にみても同様のランクであり、他都市に比べ公共事業の実施がいかに大きかったかを示している。
 これは、表5や他の分析データとも照らしてみた場合、あらゆる分野で市民生活への行政の関与が大きいかをあらわしており、いうなれば住民の行政依存度が高いともいえる。
 また、比較的老朽化率が高い資産を抱えており、今後の維持更新費用についても十分な備えをしておかなければならない。


【グラフ1:資産及び債務、基金残高に関するもの】


3. 脆弱な地域経済基盤と高まる行政需要

(1) 竹田市の産業構造と人口
 1995年と2005年の統計データで産業構造等を比較してみると、総数で2,944人率にして21%もの減少がみられ、特に建設・製造などの第2次産業が対前回調査比で△34.2%と大きくその数を減らしている。これは、とりもなおさずその業界自体が崩壊していることを示している。この傾向は、引続き現在も進行しており、地域経済の後退に拍車をかけている。
 このことは人口の減少や高齢化率の引き上げにも繋がり、さらには国民健康保険の財政状況悪化の一因ともなっている。また、水源涵養の役割も果たしている農地の荒廃等、負の連鎖を産み出しているため、なかなか行政がその対策に追われる状況を脱しえない。


【表6:産業別就業者数等の変化】
  
1990年
1995年
2005年
就業者数
割合
就業者数
構成割合
対前回比
人数伸率
就業者数
構成割合
対前回比
人数伸率
第1次産業
7,071
40.6
5,924
34.9
△16.2
4,661
33.2
△21.3
第2次産業
2,808
16.1
3,284
19.3
17.0
2,161
15.4
△34.2
第3次産業
7,534
43.3
7,781
45.8
3.3
7,212
51.4
△7.3
総  数
17,418
 
16,990
 
△2.5
14,046
 
△17.3


 表7は、2005年度と直近の2010年度末の住民基本台帳人口の詳細である。また、推計値とは合併時に将来人口を5年毎に推計したものである。推計値よりは上回っているものの、着実に減少しさらに高齢化している状況が窺える。


【表7:人口状況の変化】
 
2005年
2010年
2010年推計
2015年推計
 
 
2005年
2010年
2010年推計
2015年推計
0~4
791
722
584
516
  50~54
2,056
1,612
1,569
1,166
5~9
904
729
717
554
  55~59
2,188
1,949
1,976
1,582
10~14
1,138
864
856
695
  60~64
1,866
2,401
2,187
1,982
15~19
1,346
1,021
1,097
845
  65~69
2,200
1,638
1,762
2,137
20~24
1,215
887
820
683
  70~74
2,638
2,008
2,000
1,649
25~29
1,158
947
776
656
  75~79
2,335
2,267
2,261
1,798
30~34
1,081
1,015
706
706
  80~84
1,609
1,973
1,906
1,878
35~39
994
993
943
685
  85~89
893
1,262
1,169
1,392
40~44
1,287
974
942
913
  90~
545
724
700
942
45~49
1,667
1,127
1,181
927
 
合計
27,911
25,113
24,152
21,706


 これまでの行財政改革についての反動は、あらゆる面で行政需要の高まりとなって返ってきた。それは、合併後初の県内の首長選挙にも如実にあらわれてきた。また、国も同様で、2008年度からは緊急経済対策と称した、多額の交付金をまるで一昔前の自民党政権下のように地方へ交付することとなった。

(2) 地域経済回復への課題
 竹田という地域は、ある意味近未来の日本を推測できるモデル地域なのではないかと思われる。条件不利地で高齢化率が高く、産業構造の転換を図れないままもがきながら活路を探している点である。日本も世界的にみれば決して条件がよくて発展してきた訳ではない。あくなき技術革新への努力で、ものづくりに徹してきたことは言わずもがなである。そして、今、その日本から中小の企業までもが海外へ移転していき、産業の空洞化を招いている。それは、比較的コストの安い本市でも同様であり、抜本的な対策を講じられないままである。
 因みにいうなら、本市のような自治体の行財政改革そのものが、地域経済回復への足枷ともなっている。いわゆる人員削減は雇用調整に寄与し、相対的に経済活動を減退させている。また、その他の歳出削減の地域経済への影響は、競争力のない地場産業を廃業へと追い込んでいる。さらに、賃金の削減は購買意欲を減退させ、日常生活物資の小売店でさえ維持できなくさせていく。規模の小さな自治体では、公務員の日常生活でさえ経済サイクルを構成する大きなファクターとなっている。
 地域経済を浮揚させるために、これまでも各種の対策を講じてきた。2008年度からは、国も別枠で予算措置し自治体の取り組みを支援しているが、緊急避難的な対策に終始している感は否めない。根本的には、産業構造の転換を図り足腰の強い重層的な産業を産み出すことが理想だが、一自治体の取り組みでは限界がある。特に、本市のように九州の真ん中に位置した中山間地では、地理的・地形的に決定的なハンディを抱えており、奇跡のような一発逆転の確立は非常に低いと言える。揺らがない方針の下、粘り強い取り組みしかないと考えている。

4. 地方自治体財政の果たす役割と限界

 現在、竹田市の抱える課題の一つに、国民健康保険特別会計の収支の均衡がある。これは、自治体の大小を問わず全国で問題となっている事案である。国民健康保険は、比較的経済的な弱者を加入者として多く抱えている。その為、負担と給付とのギャップを生じている。2007年度には、国保会計が決算で実質的に赤字となり、2008年度から税率を引き上げた。結果、大分県内では一番の税率で全国でも上位に位置し、滞納率が2~3ポイント上昇した。それにも係らず、2010年度決算では再び赤字となっている。人口に占める保健士の配置数は県下でトップクラス、保健指導の回数等も多くきめ細やかに、健診受診率もトップクラス。自治体で考えられる手は尽くした感があるが、高齢化等も影響しなかなか好転しない。そもそも、この制度自体を一律自治体単位で持つには無理があり、国民皆保険制度を維持する日本では国の事業とすべきであると考える。また、制度的な福祉の事業や義務教育に関する事業も、国民の権利として自治体財政に左右されることなく、一律の基準で実施されるべき性格でないかと思う。その上で、各自治体の独自政策を上乗せできるようなシステムが望ましいのではないか。全国で、学校の耐震化が進まないのも自治体財政が大きく影響しており、さらにこういった事業では補助制度にいわゆる単価差や数量差が大きく、そのことが必要な事業でありながら遅々として進まない原因である。因みに、竹田市では起債制度等も活用し、小中学校の耐震化はいち早く完了した。
 しかし、これら高い保険料率や借金の増大は、将来世代への負のつけ回しではないかとも危惧されています。
 地方分権自体の発想を否定するものではないが、その美名のもとに全てを地方のすべきものとするのはどうか。特に、国地方を問わず人員削減の方向にある昨今、決して地方分権という理念に基づかない権限移譲や事務移管が多いのではないかという感がしている。
 地方自治体は、当然ながらその地域の自治事務のために持てる行政力を十分発揮し、永続可能な地域運営を行う義務がある。そして、国であろうと県であろうとその地域での政策や事業には、協力し関わりよりよいものとすべきである。しかしながら、地方自治体には自ずとサイズに応じた能力の限界があり、これまで国が資本投下を行ってきた地域とそれ以外では大きな格差がある。国や県が果たすべき役割も、このような背景を考えれば地域によって異なるのではないか。今後、個別の事案においてこのような議論が積みあがることが、地方分権を行う上での前提条件となるものと考えている。

5. おわりに

 地方分権一括法が、地方分権改革の柱として2000年4月1日から施行された。主な目的は、住民にとって身近な行政は、できる限り地方が行うこととし、国が地方公共団体の自主性と自立性を十分に確保することとされた。確かに機関委任事務は廃止され、名目上は国と地方自治体は対等な関係になったという。しかし、その実感はあるか。手数を要する許認可権が移譲され、事務量は増え、自治体及び住民に本当のメリットはあったのか。今後さらに、地方分権から地域主権へと行財政改革は進みつつある。国は、「小さな政府」に向かい、地方主権を掲げ、着々と事を進めている。他方、地方自治体は今後、権限移譲と国の地方出先機関移管に伴う事務事業量の増大や国公職員の身分移管による肥大化が懸念される。また、同時に基礎自治体は、地方主権に耐え得る行政知識を養い、政策提案ができる能力を培うことが必要となる。我々自治体に在るものは、その流れが一つ一つの地方自治体の存在意義を示す真の改革であるよう、自治体運営にさらなる責任と誇りを持って取り組まなければならない。