【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第2分科会 地方財政を考える

 自治体財政が一段と厳しくなるなか、2011年3月の東日本大震災の発生により、日本の景気低迷に更なる拍車が掛かることとなった。この中で、地震・津波による被災からの復興の目標と道筋を示す「復興計画」は、国・県・基礎自治体において策定作業が進められるが、相互の関係性を踏まえ、合意形成を経た方針の提示には、いまだ至っていない。
  その先行き不透明な状況で、市民に信頼される行財政運営の確立と組織活性化は喫緊の課題となっている。
 こうしたことを踏まえて、豊後大野市の財政分析を行った。



豊後大野市の財政分析


大分県本部/豊後大野市職員連合労働組合・自治研部行財政研究部会

1. はじめに

 自治体財政は、景気低迷による低成長経済への転換と少子高齢化の進展によって、以前のような右肩上がりの財政拡大を望むことはできず、他方で、高齢化社会の到来などにより社会保障関係経費は増加し、自治体財政は一段と厳しくなることを前提としなければならない。
 また、2011年3月の東日本大震災の発生により、日本の景気低迷に更なる拍車が掛かることとなった。この中で、地震・津波による被災からの復興の目標と道筋を示す「復興計画」は、国・県・基礎自治体において策定作業が進められるが、相互の関係性を踏まえ、合意形成を経た方針の提示には、いまだ至っていない。
 その先行き不透明な状況で、市民に信頼される行財政運営の確立と組織活性化は喫緊の課題となっている。
 こうしたことを踏まえて、豊後大野市の財政分析を行った。


2. 豊後大野市の財政状況

(1) 歳入の状況
 地方税については、2006年度は2,953,877千円、2007年度は3,303,116千円と349,239千円の増額となっている。これは、国からの税源移譲があったためである。そのため、一時的な増加があったもののその後は、人口減少や景気の低迷に伴い減少している。
 地方交付税については、若干ではあるが、年々増加している。これは、交付税が地方税の減収を支えている状況であることが分かる。また、2009年度で交付税は2,056千円で歳入決算額28,557,695千円に占める割合は、44.5%となっており、県内他市と比較してもその割合が高くなっている。これは、合併後10年間、合併前の旧市町村ごとに算定した普通交付税の合算額を保障する「合併算定替」の影響であり、多くの団体が合併した自治体ほどこの傾向が大きくなっている。
 国庫支出金については、2008年度は2,342,816千円、2009年度は5,316,272千円と2,973,456千円の増額となっている。これは、臨時経済対策として国からの臨時交付金が配られたためである。
 地方債については、2005年度は4,029,900千円、2009年度は2,039,036千円と1,990,864千円の減額となっている。これは、集中改革プランによる取り組み等によって発行高のシーリングをかけて抑制したためである【資料1】
 2009年度決算における自主財源比率について、20.5%と県内他市と比較しても2番目に低い状況となっており地方税等の自主財源が乏しく、財政の自主性が非常に低いことが分かる【資料2】


資料1 主な歳入の推移

資料2 歳入の構成比率(2009年度)   (単位:千円、%)
 
歳入決算額
地方税
地方交付税
国庫支出金
地方債
その他
自主財源比率
大 分 市
162,207,707
47.8
5.0
18.9
10.0
18.3
57.1
別 府 市
43,877,699
32.3
16.5
24.8
7.1
19.3
40.7
中 津 市
42,355,043
23.2
27.9
16.4
14.4
18.1
31.6
日 田 市
41,998,169
18.8
32.0
15.9
10.0
23.3
31.0
佐 伯 市
44,970,156
16.6
41.5
14.5
11.9
15.5
22.3
臼 杵 市
20,970,352
19.8
31.3
16.0
12.6
20.3
30.3
津久見市
9,788,758
23.8
33.0
14.6
8.9
19.7
33.8
竹 田 市
21,908,433
8.7
38.5
13.4
16.1
23.3
17.9
豊後高田市
14,821,331
13.7
44.9
11.3
10.4
19.7
22.5
杵 築 市
18,931,004
16.7
36.1
15.9
9.9
21.4
28.0
宇 佐 市
27,732,726
21.0
33.8
18.1
6.8
20.3
28.9
豊後大野市
28,557,695
11.1
44.5
18.6
7.1
18.7
20.5
由 布 市
16,864,204
23.2
29.1
17.0
9.3
21.4
32.9
国 東 市
21,817,711
15.0
42.8
12.9
10.5
18.8
23.4

(2) 歳出の状況
 人件費については、2005年度は6,473,959千円、2009年度は5,909,947千円と564,012千円の減額となっている。これは、当市の合併が、7つもの町村が集まって行われた結果、類似団体に比べ職員数が圧倒的に多かった。このことから、退職勧奨の強化、新規採用枠の制限等、正規職員数の純減を図る取り組みを行ってきたこと、また、特別職及び一般職員の給与・諸手当のカットあるいは見直し等に取り組んだことにより、結果として正規職員数は、1市1消防本部への移行に伴う消防職員の移管替による増員があったものの、毎年、平均で30人程度減少し減額となっている。
 公債費については、2005年度は5,227,487千円、2009年度は4,843,817千円と383,670千円の減額となっている。これは、各年度における地方債発行額の上限3,000,000千円と設定するとともに、後年度の負担を軽減するため繰上償還等を積極的に実施し起債残高の削減を重点的に行ってきたためである。
 補助費については、2007年度は1,526,809千円、2009年度は2,434,485千円と907,676千円の増額となっている。これは、大分国体や国の緊急経済対策による定額給付金があったため一時的に増加している。
 普通建設事業費については、2007年度は2,472,092千円、2009年度は4,076,114千円と1,604,022千円の増額となっている。これは、神楽会館建設事業や高速情報通信網整備事業のため増加している。
 扶助費・繰出金については、年々増加している。扶助費は、財政難を理由に安易にカットすることができない。今後とも高齢化、少子社会化の進展、不況による生活保護費の増大等が原因となって扶助費は増大傾向にある【資料3】


資料3 主な歳出の推移

 歳出の全体的な特徴としては、2009年度の歳出決算額26,729,735千円のうち人件費が22.1%、公債費が18.1%、扶助費が10.9%と義務的経費の占める割合が全体の約51%となっており、特に人件費と公債費の占める割合が40.2%と県内他市と比較しても高くなっている【資料4】
 このことから、当市の財政の硬直化の主な要因は、人件費及び公債費の比率が高いことによるものということが確認できる。


資料4 主な歳出の構成比率(2009年度)(単位:千円、%)
  
歳出決算額
義務的経費
普通建設事業費
人件費
公債費
人件費+公債費
扶助費
大 分 市
156,838,223
20.9
14.2
35.1
20.3
55.5
13.8
別 府 市
43,137,079
21.9
6.7
28.6
29.4
58.1
9.7
中 津 市
40,762,907
20.4
12.0
32.4
15.9
48.3
14.9
日 田 市
40,305,319
15.7
14.9
30.6
13.8
44.4
21.0
佐 伯 市
43,974,813
20.6
19.1
39.7
12.1
51.8
19.8
臼 杵 市
20,512,356
17.0
15.4
32.4
13.2
45.6
18.3
津久見市
9,439,888
22.8
14.3
37.1
15.4
52.5
10.9
竹 田 市
20,992,022
21.5
13.4
34.9
7.3
42.2
26.7
豊後高田市
14,120,427
20.5
16.4
36.9
10.6
47.6
14.3
杵 築 市
17,978,151
16.2
13.9
30.1
12.1
42.2
14.2
宇 佐 市
26,102,160
23.0
13.5
36.5
18.2
54.7
10.6
豊後大野市
26,729,735
22.1
18.1
40.2
10.9
51.1
15.2
由 布 市
16,263,249
21.1
11.1
32.2
14.7
46.9
16.5
国 東 市
21,076,373
19.5
17.4
36.9
9.5
46.5
15.4

(3) 財政収支の状況
 歳入歳出規模については、2009年度で約270億円である。住基人口については、毎年500人ずつ減少し、2009年度では、40,862人となっている。歳入決算額も人口減少に伴い2005年度から2007年度にかけては、減少している。しかし、2007年度から2009年度にかけては、人口減少とは反比例して増加している。これは、税源移譲、交付税の増加、国からの臨時交付金があったためである【資料5】
 実質収支については、毎年度、約10億円となっている。基金積立額については、毎年度、増加している。財政調整基金については、2009年度で積立残高が2,722,839千円となっている。2009年度では、財政に余力があったため、将来の収入減等に備えて積み立てた。【資料6】


資料5 歳入歳出決算額及び住基人口

資料6 積立金現在高と実質収支

3. 今後予想される状況

 当市の歳入については、地方交付税に依存するところが大きく、交付税の「合併算定替」によって旧7町村分の普通交付税合算額の10割が保障される2014年度までは、比較的安定しているものの、その後5年間で本来の交付税額まで減少していく「階段落ち」が始まる2015年度からは極めて厳しくなることが予想される。
 また、歳出については、人件費、公債費は集中改革プランにより着実に削減が図られてきているものの、その歳出総額に占める割合は県内他市に比べて依然として高い状況にあり、さらに、今後、庁舎建設事業、消防庁舎建設事業、学校施設の耐震化に伴う建替事業などの大きな事業が控えており、これら事業の財源として発行される地方債の償還金が、財政状況を圧迫していく可能性がある。このほか、少子・高齢化が著しく進む当市は、子育て支援、老人福祉に関連する扶助費、介護保険をはじめとする医療費関連特別会計への繰出金が年々増加しており、この傾向は、将来的にも変わることがないと予想される。
 これらのことより、合併から10年が経過する2014年度までが、当市における将来の基盤を築く極めて重要な期間であり、継続可能な財政基盤確立の鍵を握っているため、行政改革(行政経費の削減)に向けた具体的な取り組みを2014年度までには完了させておかなければならない。
 また、自主財源の増加は、景気回復や抜本的な税制改革がない限り見込めないため、より一層の歳出削減を図るべく、従来の経費削減手法だけではなく、『選択と集中』、『スクラップ・アンド・ビルド』等の考え方を反映し、効果的かつ計画的に取り組むことが必要であると考えられる。


4. おわりに

 今後も厳しい財政状況が予測されるため、行政改革を完全に実行するとともに、限られた財源の効率的な配分を念頭に置き、従来にも増して歳出削減や事務・事業の効率化に向けた取り組みを行っていかなければならない。また、行革を成し遂げ、行財政基盤を確立するためには、何よりも、職員間の理念の共有と、職員一人ひとりの意識改革をすることが必要である。