【自主レポート】 |
第34回兵庫自治研集会 第2分科会 地方財政を考える |
「平成の大合併」により誕生した熊本県宇城市の財政状況の推移を見ることにより、市町村合併の財政運営上の「メリット」、「デメリット」を検証してみる。合併後のまちづくり・行財政改革に真剣に取り組めば、大きなメリットが発揮されることになり、逆であれば、デメリットとされる問題ばかりが生じて、合併しないほうが良かったということになりかねない。 |
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1. はじめに (1) 宇城市の概要 |
≪参考≫旧町毎の人口推移 (単位:人)
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④ 職員数 |
普通会計職員数 (単位:人)
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2. 宇城市の財政状況 (1) 過去10年間の歳入歳出比較
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(2) 財務諸表の比較
「総務省改訂モデル」による財務諸表を2005年度分より作成しており、2005年度と2010年度と比べて、普通会計が所有する道路や庁舎、預貯金などの「資産総額」は19億4千万円と大幅に増えた。要因は公共資産と預金(基金)の増加による。一方で、この資産を形成するための将来世代の負担である「負債総額」は2億8千万円の減である。これにより、この6年間で将来の負担が軽減されたことが分かる。 資産総額1,036億円に対し、負債総額は397億円となり、資産の約38%は将来世代の負担になる。2005年度は約41%であったため、約3%の負担が軽減された。資産のほとんどは市が保有する公共資産であり、この公共資産の多くは長期間に渡って行政サービスに利用されるものである。また流動資産では財政調整基金の積み立てなどにより現金預金が17億7千万円増加した。負債の部においては、固定負債のうち退職手当引当金が6億3千万円減少となったが、流動負債のうち翌年度償還予定地方債(市債償還金)が6億6千万円増加となり、負債全体は2億8千万円の減となった。財政の健全性の視点から考えると、一概には言えないが、現世代までの負担や国県からの補助金の割合が高く、将来世代への負担の割合は少ない方が望ましいと考えられる。 ② 貸借対照表の指標分析 ここでは、経年比較をするとともに人口が同規模である宮崎県日向市と市民一人当たりの貸借対照表を比較分析してみる。資産に対する負債の割合を見ると、宇城市の割合は2010年度が38.3%と割合的には減少したものの、日向市の2010年度の割合は32.7%であるため、宇城市の将来世代の負担割合(負債)は、他自治体と比べると高い。また、2010年度の資産合計を比べて見ると、宇城市の165万6千円に対し、日向市は199万3千円になり、日向市のほうが人口一人当たりの資産も多い。 |
※各年度末の人口で按分計算 |
③ 行政コスト計算書
2010年度の経常行政コストは約224億3千万円となっており、性質別にみると社会保障給付や他会計への支出金などの移転支出的なコストが約半分を占め、物に係るコストが約24%、人件費などの人に係るコストが約22%となっている。人に係るコストは職員数の削減などにより2005年度から減少しているが、物に係るコストや移転支出的なコストは年々増加している。2010年度は、特に社会保障給付が子ども手当事業費や児童福祉費の増加などによる増、他会計等への支出額が国民健康保険特別会計や介護保険特別会計への繰出金の増加となっている。これらのコストは今後ますます増加すると思われる。 |
3. まとめ (1) 今後の宇城市の展開 ② 財務書類から見えること 財務書類4表の分析を総括すると、宇城市は近年、負債の軽減やコスト削減などが図られてはいるものの、他自治体と比較すると依然として資産に対する将来世代の負担割合が高いということが分かる。資産の多くは道路や学校、庁舎などの公共資産であり、将来世代も利用するものであるため、住民負担の世代間公平という点からすると、一概に現世代までの負担割合が高い方がいいとは言えないが、財政の健全化から考えると、将来世代への負担割合は低い方が望ましい。将来世代の負担を減らすためには、一般家庭と同様に歳出削減に努めながら、借金(市債)を減らし、なおかつ預貯金(基金)を増やすことが肝要である。 ③ 合併して良かったか? 個人的な意見であるが、一般的に指摘されている市町村合併のメリットを宇城市の合併に当てはめると、次のようなメリットが考えられる。①公共施設の広域的な利用による住民の利便性の向上、②行政サービスの内容の充実、③効果的な行財政改革、④専門の職員や組織の設置、⑤困難化する財政運営への対応能力の向上、⑥国の新市町村合併支援プランの活用、いずれにも行政の「効率化」がキーワードとなっており職員削減は進んでいるが、行政サービス、財政運営の「メリット」があまり感じられない。 市町村の合併のデメリットとされているものについては、①市町村の規模が大きくなるとキメ細かな行政サービスができなくなるのではないか、②合併される町村の地域がさびれる・声が届きにくくなるのではないかなどがある。現在、国では地方分権を目的とした「三位一体の改革」によって、受益と負担の関係を明確化し、地方税を中心とする地方の自主財源を重視する政策が進められている。このことから、財政面においては、合併の有無にかかわらず、自主財源に乏しい市町村が従来のようなキメ細かな行政サービスを行うことは困難になってきている。また、宇城市の中で旧三角町の状況を見ると、中心となる市町村地域は一層繁栄するが、周辺の市町村地域は次第にさびれてしまい、住民の声が行政に届きにくくなるのではないかといった不安が現実となりつつある。「平成の大合併」の功罪が少しずつ現れてきている。 |