(2) 交付金で「箱物」ラッシュ
1982年度から2003年度の平均金額で見ると、国庫支出金と県支出金の合計額は川内市49億円、旧・鹿屋市51億円とほぼ均衡している。電源三法による交付金も、他の自治体との比較で見ると交付金で自治体財政が潤ったというほどのことはない。
ただし、1982年度からの平均なので、着工から運転開始前後の電源立地等初期対策交付金と電源立地促進対策交付金の影響が分からない。なお、電源立地等初期対策交付金は、1999年度に重要電源等立地推進対策補助金(1982年度~1990年度)と要対策重要電源立地推進対策交付金(1994年度~1998年度)を統合した交付金。
そこで1975年度から1987年度までの川内市の国庫支出金の推移を見てみる(川内市については1975年度以降の決算カードが手元にある)。1977年度が19億円だったが、川内原発建設工事に着工した1978年度に28億円、その後36億円、40億円、42億円、1982年度にはピークの52億円、その後39億円、32億円1985年度以降は20数億円台となっている。50億円は当時の歳入総額の30%弱の金額である。この金額に飛びつくように、1978年から1982年に作られたいわゆる「箱物」に次のようなものがある。
川内河口大橋、市道山田山寺山線、港簡易水道、久見崎寄田簡易水道、土川簡易水道、寺山レクリェーションセンター、高江地区運動広場、葬祭場、中ノ原排水路、宮内排水路、中央公民館、川内市図書館、歴史資料館、向田部消防施設、平佐西部消防施設、永田地区消防施設、農民会館、農道倉浦2号線、長崎前上用水路、農道諏訪線、それに地域の集会所など。
川内市の場合、電源立地促進対策交付金は1990年度で終了したが、その期間に市内に公共用施設158件が整備されている。これらの「箱物」ラッシュが、原発立地交付金が地域振興をもたらすという幻想を地域に与えるとともに、地方財政にとってはその後のゆがみをもたらすことになる。
(3) 積立金崩して「箱物」維持費に
「箱物」には維持費の負担がついてくる。この財源をどこから持ってくるのか。川内市と旧・鹿屋市の積立金残高の推移を見ると、1982年度は川内市が13億円、旧・鹿屋市が17億円。両市ともその後ほぼ右肩上がりに増やしていく。しかし川内市は1991年度に96億円のピークに達した後、1993年度から急激に減り始める。この時期は、原発稼動前後に交付される電源立地促進対策交付金の支給が終わり、国庫支出金と県支出金の合計額も旧・鹿屋市と同様の額になる頃と一致している。2003年度にはピーク時の半減の47億円と、旧・鹿屋市に比べても50億円以上低い額になっている。いわゆる自治体の「貯金」が、毎年削られてきたのである。
積立金の取り崩しがすべて「箱物」の維持費に使われたものではないだろう。しかし財政的に同規模の旧・鹿屋市が1982年度から2003年度までほぼ右肩上がりに増えているのに比べ、川内市が1992年度を境に右下下がりになっているコントラストから見て、維持費の負担が川内市財政に大きな影響を与えたことは間違いないであろう。
(4) 使用済核燃料税でしのぐ
川内市は2004年度から、核燃料集合体1体当たり23万円(現在25万円)の法定外普通税として使用済核燃料税を導入した。このような綱渡り的な財政運営の結果、この年度を境に積立金残高は若干増加の傾向にある。2004年度に薩摩川内市に合併しているので、単純に金額では比較できないため、標準財政規模に対する比率で見ると、2003年度の34.0%が2004年度には40.9%になりその後42%前後で推移している。この税の導入にはもう一つの面がある。鹿児島県は1983年度から、核燃料価額の7%(現在12%)の核燃料税を導入していた。川内市は県に核燃料税の一部の配分を求めていたが、県が首を縦に振らなかったため使用済核燃料税を導入したとみられる。原発立地の13道県で使用済核燃料税が導入されているが、立地市町村などに配分していないのは、石川、佐賀、鹿児島の3県のみ。
(5) 年6,000円を住民に直接給付
すこし横道にそれるが、電源立地地域対策交付金のうち原子力発電施設等周辺地域交付金は、他の交付金と比べ特異な制度である。現金が地域住民や企業に直接支払われるということと、その給付ルートである。給付ルートは、制度としては国から県に交付され、県が住民・企業に給付するとなっている。
しかし実際の給付ルートは、国から原発立地の道県に交付された交付金は、全額が電源地域振興センターに補助金として交付され、次に同センターから各電力会社に業務委託され、最後に電力会社から原発周辺住民・企業に給付されている。
この電源地域振興センターのトップは経済産業省OB、非常勤役員は各電力会社社長、原子炉メーカーの幹部が名を連ねている「原発法人」である。国からの交付金のうち約4千万円がこのセンターで人件費等の名目で消え、電力会社が業務委託費として約5億円を受け取るという交付金だ。
しかも、川内市を例に取ると、最終的には九州電力から各家庭・企業に「原子力立地給付金についてのお知らせ」で、電気料金支払口座に川内市内の家庭には6千円、周辺自治体の家庭には3千円振り込んだ旨の通知が送られてくる。このため、市民の多くが給付金を九電が支払ってくれている、あるいは九電が電気料金を割り引いていると勘違いしているという。電力会社にとって「おいしい」交付金制度なのである。
3. 寄付金でもたれ合う
(1) 諸収入で処理された寄付金
最後に寄付金について。2003年9月2日付の毎日新聞などに、川内市が九州電力から「地域振興協力金」として15億円の寄付を受けると9月1日に発表したことが掲載されていた。「来春の九州新幹線開業に伴う駅前整備などで負担が増すため、協力を求めた」と川内市は説明し、2003年6月に覚書を交わし2004年3月に一括で寄付されるとしている。あわせて1978~1990年に11回計約11億円の寄付を受けていることも記載されていた。
川内市の歳入の「寄付金」を見てみると、1982年度から2003年度までを合計しても18億円しかなく、九州電力から15億円の寄付があった2003年度は1,900万円しか計上されていない。どこに消えたのかと見ていくと、それまで数億円で推移していた「諸収入」が2003年度に19億円に跳ね上がっており、寄付金が「諸収入」で処理されていることが分かる。
例年、数千万から数百万円台で推移している「寄付金」よりも、数億円で推移していた「諸収入」ならば、九州電力からの数億円単位の寄付があっても、決算上分かりにくいとの判断が働いているとしか思えない。そのためか、九州電力からの寄付金を、あえて「協力金」と名づけさせている。他の原発立地自治体が、電力会社からの寄付金を「寄付金」、「諸収入」のいずれで処理しているかは、網羅的に調べたことはない。しかし、各方面の原発立地自治体財政を調査した研究書やレポートを私が見た限りでは、「寄付金」として処理している。
(2) 増設アセス開始前月に15億円
企業からの寄付金は自治体財政の問題以上に、自治体と企業との関係をゆがめてしまう。川内市が15億円の寄付を受けると発表した翌月から、九州電力は川内原発3号機増設に向けての環境アセスメントを開始している。これでは、川内市は3号機増設について、住民の安全性から考える客観的な判断ができなくなってしまうと、誰もが思うだろう。
むすび
原発立地と自治体財政の関係を見てきた。決算カードの数字をもとにした分析のため、詳細については踏み込んだものにはなっていない。しかし大枠で「原発マネー」と自治体財政の関係がつかめたと思う。「原発マネー」にたよる自治体財政では、原発の増設につぐ増設を繰り返さなければならなくなることも見えてきた。
福島第一原発の事故を受け、川内原発の廃炉と自然エネルギーによる街づくりがこれからの薩摩川内市の課題になるだろう。その場合、薩摩川内市の財政についても脱原発の財政にソフトランディングさせなければならない。旧・鹿屋市との比較で、そのことはそれほど困難ではないだろうと思われる。原発立地自治体とはいえ、原発が2基しかないことは不幸中の幸いともいえる。 |