【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第2分科会 地方財政を考える

 原発立地自治体の川内市(現・薩摩川内市)と、県内自治体で面積・人口・自治体財政規模がほぼ同様の旧・鹿屋市(現・鹿屋市)の22年間の決算カードによる比較で、原発立地が自治体財政にどのような影響・歪みを与えるかを検証してみた。



原発マネーの自治体財政への影響
川内市と鹿屋市の22年間の決算カードから分析

鹿児島県本部/臨時執行委員 高橋  誠

はじめに

 2011年3月11日の東日本大震災による福島第一原発事故は、自然災害や人的ミス、構造的欠陥によらず冷却水の止まった原発の暴走は簡単には制御できず、住民や環境に膨大な汚染をもたらす事を「実証」した。一方この事故は、「原発ムラ」の人々が、原発の「安全神話」を「原発マネー」を使い、原発立地の地域住民や国民をあざむいてきた結果であることも、同時に明らかにした。
 この「原発マネー」は、自治体向けには地域振興などの名目で交付・給付されてきたが、川内市の自治体財政にどのような影響を与えてきたのか、旧・鹿屋市との比較をとおして明らかにしていく。薩摩川内市(川内市と4町4村2004年10月合併)と新・鹿屋市(旧・鹿屋市と3町2006年1月合併)を含めなかったのは、市町村合併によるノイズを排除するためである。
 川内原発は1978年11月から建設を始め、1号機(出力89万kW)は1984年7月に2号機(出力89万kW)は翌1985年11月から営業運転を開始しており、自治体財政データとしては最低1978年度から調査すべきであった。しかし、新・鹿屋市に情報提供を求めたところ、市町村合併のためか古いデータがないとの返事だった。このため、県市町村課(旧・県地方課)にも求めたが、ここにも1982年度以降しかなく、結局1982年度から2003年度(薩摩川内市合併の前年度)までの比較となった。
 今回比較に使用したデータは「決算カード」である。これは、各年度に実施した地方財政状況調査の集計結果に基づき、各自治体ごとの普通会計歳入・歳出決算額、各種財政指標等の状況について、各団体でA4サイズ1枚のカードに取りまとめたもの。自治体財政が簡潔にまとめられており、自治体の「健康診断書」などと言われたりする。しかしあくまでも「健康診断」なので、「症状」から「病根」を見つける細かい分析はさらなる資料が必要となるが、住民が簡単に手に入れられる資料である。2001年度以降については、総務省の地方財政状況調査関係資料ページにも掲載されている。
 川内市の比較対象に旧・鹿屋市を選んだのは、下表にあるとおり、県内自治体において面積、人口や一般会計の規模がほぼ同程度あるからだ。


▲川内市
  1982年度 2003年度
面積 265.48平方キロ 
人口 67,895人 72,881人
歳入総額 18,279,661千円 30,688,738千円
歳出総額

17,795,329千円

29,112,737千円
▲旧・鹿屋市
  1982年度 2003年度
面積 234,43平方キロ
人口 74,237人 80,160人
歳入総額 15,191,815千円 28,175,393千円
歳出総額 15,002,768千円 27,467,232千円

 「原発マネー」のうち自治体財政に影響を及ぼすものは、①電源三法による交付金、②原発関連施設の固定資産税、③電力会社からの寄付金、の3種類が主なものである。「原発ムラ」の人たちは、これらの金が自治体財政を潤し、地域振興に役立っているという。


1. 固定資産税の甘い誘惑

(1) 地方税と地方交付税のバランス
 まず、②の固定資産税(地方税のひとつ)の面から見ていく。
 川内市への影響を見ていく前に、地方財政の仕組みのおさらいをしておく。「決算カード」は自治体の普通会計(一般会計と企業会計以外の特別会計を合算)を対象にしている。このうち歳入は、その使い道が特定されず地方自治体の裁量によって使える一般財源と、使途が特定されている特定財源に分類される。地方税や地方交付税は一般財源であり、国庫支出金や地方債などが特定財源である。
 地方交付税は、基準財政需要額と基準財政収入額との差額であり、基準財政収入額は地方税収入額から計算される。簡単に言えば、地方税が増えれば地方交付税は減り、地方税が減れば地方交付税が増える仕組みになっている。地方交付税が不交付の自治体は不交付団体と呼ばれている。

(2) 一般財源の平均額は旧・鹿屋市が上回る
 ここで、1982年度から2003年度までの両市の歳入額を、それぞれ地方税や国庫支出金などの区分ごとに合算し、22年で割った平均金額で、歳入構造を比較してみる。一般財源のうち地方税は、川内市が95億円、旧・鹿屋市が75億円。地方交付税額は、川内市が45億円、旧・鹿屋市が80億円。一般財源総額は、川内市が153億円、旧・鹿屋市が168億円となっている。
 「決算カード」によるため、地方税のうちの固定資産税の何割が川内原発関連施設分に当たるかは定かでないが、旧・鹿屋市に比べ地方税収額が大きいのは原発関連施設によるものと見られる。川内市の固定資産税は、1号機が運転開始した次年度の1985年度には前年度に比べ一挙に5倍の53億円となり、2号機も動き出した1986年度にはピークの85億円にもなっていることからも推測できる。この年度の歳入総額は201億円であり、固定資産税だけでその42%を占めており、その額の大きさがわかる。
 しかし、22年間の平均の数字で見る限り、川内市は地方税額が大きく、旧・鹿屋市は地方交付税額が川内市を上回っており、結果として旧・鹿屋市が一般財源額としては若干、川内市を上回っている。
 川内市と旧・鹿屋市の一般財源額を、1982年度から2003年度まで経年的に見ると、1985年度から1990年度までは川内市が旧・鹿屋市を上回っている。ただし、22年間のうち6年間だけである。実は、川内市は1985年度から1988年度まで普通交付税の不交付団体でもあった。しかし、原発関連施設の固定資産税が減価償却で減り続けていくにつれ、地方税額も減り1989年度からは交付団体に戻っている。

(3) 原発増設を誘導する固定資産税
 つまり、自治体ごとの財源の偏在を調整するための地方交付税制度のもとでは、原発設置による「原発マネー」の一部である固定資産税は、それによって瞬間風速的に地方財政に余裕を与えたとしても、経年的に見ていくと他の同規模自治体の財政規模と並んでくるといえる。川内原発1、2号機設置による固定資産税収は、川内市の地方税額の増額には影響を与えたが、他市との比較や川内市の一般財源や歳入全体から見るとほとんど寄与したとはいえないものになっている。
 このため、固定資産税額をキープ・増額していくための方策として、「原発銀座」と呼ばれるように、同じ地域内に次々と原発を増設していくことになるのである。鹿児島県や薩摩川内市が川内原発3号機(出力予定159万kW)増設に前のめりになった要因はここにあるといっても過言ではない。しかし、今回の福島第一原発の事故が大規模になった一つの要因は、原発4基が積み木の列車の様に横並びに設置されていたことである。「原発ムラ」の「安全神話」の流布と、それを鵜呑みにして固定資産税の増額にしがみついた自治体が招いた悲劇といえる。


2. 電源三法交付金が招く財政の歪み

(1) 現行の交付金制度の仕組み
 電源三法交付金制度は、1974年度の制度創設以来、各交付金・補助金の見直しや統廃合が毎年のように行われてきたため、大変複雑な制度になっていた。また、国は2003年度に電源三法交付金制度を全面的に見直している。このため、現行の交付金制度の仕組みをまずみていく。
 電源三法の三法とは、①電力会社から税金を徴収する「電源開発促進税法」、②これを歳入とする特別会計を設ける「特別会計に関する法律」、および③この特別会計から発電用施設周辺地域の地方公共団体等に交付金を交付する「発電用施設周辺地域整備法」からなっている。
 「発電用施設周辺地域整備法」に交付金等が網羅されているが、2003年10月から下記のように、それまでの6つの交付金等を一つの交付金制度に統合した「電源立地地域対策交付金」が創設された。


【旧】
・電源立地特別交付金
  原子力発電施設等周辺地域交付金枠
  電力移出県等交付金枠
・水力発電施設周辺地域交付金
・原子力発電施設等立地地域長期発展対策交付金
・電源立地等初期対策交付金
・電源立地促進対策交付金
・電源地域産業育成支援補助金
【新】
電源立地地域対策交付金

※ 電源地域産業育成支援補助金 は一部統合、一部継続し2009年度で廃止
 「電源立地地域対策交付金」に統合されたものの、交付期間や交付対象者は統合前の各交付金と同じになっている。統合前の各交付金等の交付期間と対象者を一覧(原発を対象としない水力発電施設周辺地域交付金、電源地域産業育成支援補助金は除いた)にすると次表のとおり。

 
交 付 期 間
交 付 対 象
電源立地特別交付金    
 原子力発電施設等周辺地域交付金 着工から運転終了まで 原発周辺地域の住民・企業
 電力移出県等交付金 着工翌年から運転終了まで 原発立地の県
原子力発電施設等立地地域長期発展対策交付金 運転開始翌年から運転終了まで 原発立地の市町村
電源立地等初期対策交付金 立地可能性調査から運転開始まで 原発立地予定の県と市町村
電源立地促進対策交付金 着工から運転開始5年後まで 原発立地と周辺の市町村

 これらの交付金が、国から川内市に直接支出されたり、国から県を通じて川内市に支出された。歳入の中の国庫支出金、県支出金のなかに含まれている。

(2) 交付金で「箱物」ラッシュ
 1982年度から2003年度の平均金額で見ると、国庫支出金と県支出金の合計額は川内市49億円、旧・鹿屋市51億円とほぼ均衡している。電源三法による交付金も、他の自治体との比較で見ると交付金で自治体財政が潤ったというほどのことはない。
 ただし、1982年度からの平均なので、着工から運転開始前後の電源立地等初期対策交付金と電源立地促進対策交付金の影響が分からない。なお、電源立地等初期対策交付金は、1999年度に重要電源等立地推進対策補助金(1982年度~1990年度)と要対策重要電源立地推進対策交付金(1994年度~1998年度)を統合した交付金。
 そこで1975年度から1987年度までの川内市の国庫支出金の推移を見てみる(川内市については1975年度以降の決算カードが手元にある)。1977年度が19億円だったが、川内原発建設工事に着工した1978年度に28億円、その後36億円、40億円、42億円、1982年度にはピークの52億円、その後39億円、32億円1985年度以降は20数億円台となっている。50億円は当時の歳入総額の30%弱の金額である。この金額に飛びつくように、1978年から1982年に作られたいわゆる「箱物」に次のようなものがある。
 川内河口大橋、市道山田山寺山線、港簡易水道、久見崎寄田簡易水道、土川簡易水道、寺山レクリェーションセンター、高江地区運動広場、葬祭場、中ノ原排水路、宮内排水路、中央公民館、川内市図書館、歴史資料館、向田部消防施設、平佐西部消防施設、永田地区消防施設、農民会館、農道倉浦2号線、長崎前上用水路、農道諏訪線、それに地域の集会所など。
 川内市の場合、電源立地促進対策交付金は1990年度で終了したが、その期間に市内に公共用施設158件が整備されている。これらの「箱物」ラッシュが、原発立地交付金が地域振興をもたらすという幻想を地域に与えるとともに、地方財政にとってはその後のゆがみをもたらすことになる。

(3) 積立金崩して「箱物」維持費に
 「箱物」には維持費の負担がついてくる。この財源をどこから持ってくるのか。川内市と旧・鹿屋市の積立金残高の推移を見ると、1982年度は川内市が13億円、旧・鹿屋市が17億円。両市ともその後ほぼ右肩上がりに増やしていく。しかし川内市は1991年度に96億円のピークに達した後、1993年度から急激に減り始める。この時期は、原発稼動前後に交付される電源立地促進対策交付金の支給が終わり、国庫支出金と県支出金の合計額も旧・鹿屋市と同様の額になる頃と一致している。2003年度にはピーク時の半減の47億円と、旧・鹿屋市に比べても50億円以上低い額になっている。いわゆる自治体の「貯金」が、毎年削られてきたのである。
 積立金の取り崩しがすべて「箱物」の維持費に使われたものではないだろう。しかし財政的に同規模の旧・鹿屋市が1982年度から2003年度までほぼ右肩上がりに増えているのに比べ、川内市が1992年度を境に右下下がりになっているコントラストから見て、維持費の負担が川内市財政に大きな影響を与えたことは間違いないであろう。

(4) 使用済核燃料税でしのぐ
 川内市は2004年度から、核燃料集合体1体当たり23万円(現在25万円)の法定外普通税として使用済核燃料税を導入した。このような綱渡り的な財政運営の結果、この年度を境に積立金残高は若干増加の傾向にある。2004年度に薩摩川内市に合併しているので、単純に金額では比較できないため、標準財政規模に対する比率で見ると、2003年度の34.0%が2004年度には40.9%になりその後42%前後で推移している。この税の導入にはもう一つの面がある。鹿児島県は1983年度から、核燃料価額の7%(現在12%)の核燃料税を導入していた。川内市は県に核燃料税の一部の配分を求めていたが、県が首を縦に振らなかったため使用済核燃料税を導入したとみられる。原発立地の13道県で使用済核燃料税が導入されているが、立地市町村などに配分していないのは、石川、佐賀、鹿児島の3県のみ。

(5) 年6,000円を住民に直接給付
 すこし横道にそれるが、電源立地地域対策交付金のうち原子力発電施設等周辺地域交付金は、他の交付金と比べ特異な制度である。現金が地域住民や企業に直接支払われるということと、その給付ルートである。給付ルートは、制度としては国から県に交付され、県が住民・企業に給付するとなっている。
 しかし実際の給付ルートは、国から原発立地の道県に交付された交付金は、全額が電源地域振興センターに補助金として交付され、次に同センターから各電力会社に業務委託され、最後に電力会社から原発周辺住民・企業に給付されている。
 この電源地域振興センターのトップは経済産業省OB、非常勤役員は各電力会社社長、原子炉メーカーの幹部が名を連ねている「原発法人」である。国からの交付金のうち約4千万円がこのセンターで人件費等の名目で消え、電力会社が業務委託費として約5億円を受け取るという交付金だ。
 しかも、川内市を例に取ると、最終的には九州電力から各家庭・企業に「原子力立地給付金についてのお知らせ」で、電気料金支払口座に川内市内の家庭には6千円、周辺自治体の家庭には3千円振り込んだ旨の通知が送られてくる。このため、市民の多くが給付金を九電が支払ってくれている、あるいは九電が電気料金を割り引いていると勘違いしているという。電力会社にとって「おいしい」交付金制度なのである。

3. 寄付金でもたれ合う

(1) 諸収入で処理された寄付金
 最後に寄付金について。2003年9月2日付の毎日新聞などに、川内市が九州電力から「地域振興協力金」として15億円の寄付を受けると9月1日に発表したことが掲載されていた。「来春の九州新幹線開業に伴う駅前整備などで負担が増すため、協力を求めた」と川内市は説明し、2003年6月に覚書を交わし2004年3月に一括で寄付されるとしている。あわせて1978~1990年に11回計約11億円の寄付を受けていることも記載されていた。
 川内市の歳入の「寄付金」を見てみると、1982年度から2003年度までを合計しても18億円しかなく、九州電力から15億円の寄付があった2003年度は1,900万円しか計上されていない。どこに消えたのかと見ていくと、それまで数億円で推移していた「諸収入」が2003年度に19億円に跳ね上がっており、寄付金が「諸収入」で処理されていることが分かる。
 例年、数千万から数百万円台で推移している「寄付金」よりも、数億円で推移していた「諸収入」ならば、九州電力からの数億円単位の寄付があっても、決算上分かりにくいとの判断が働いているとしか思えない。そのためか、九州電力からの寄付金を、あえて「協力金」と名づけさせている。他の原発立地自治体が、電力会社からの寄付金を「寄付金」、「諸収入」のいずれで処理しているかは、網羅的に調べたことはない。しかし、各方面の原発立地自治体財政を調査した研究書やレポートを私が見た限りでは、「寄付金」として処理している。

(2) 増設アセス開始前月に15億円
 企業からの寄付金は自治体財政の問題以上に、自治体と企業との関係をゆがめてしまう。川内市が15億円の寄付を受けると発表した翌月から、九州電力は川内原発3号機増設に向けての環境アセスメントを開始している。これでは、川内市は3号機増設について、住民の安全性から考える客観的な判断ができなくなってしまうと、誰もが思うだろう。

むすび

 原発立地と自治体財政の関係を見てきた。決算カードの数字をもとにした分析のため、詳細については踏み込んだものにはなっていない。しかし大枠で「原発マネー」と自治体財政の関係がつかめたと思う。「原発マネー」にたよる自治体財政では、原発の増設につぐ増設を繰り返さなければならなくなることも見えてきた。
 福島第一原発の事故を受け、川内原発の廃炉と自然エネルギーによる街づくりがこれからの薩摩川内市の課題になるだろう。その場合、薩摩川内市の財政についても脱原発の財政にソフトランディングさせなければならない。旧・鹿屋市との比較で、そのことはそれほど困難ではないだろうと思われる。原発立地自治体とはいえ、原発が2基しかないことは不幸中の幸いともいえる。