3. 今後の地方税制の行方
三位一体改革については、地方の財源の困窮化を招いたとして地方の側の不満が大きい。第一次分権改革では、役割分担論が中心的であった結果、財源の問題は先送りされている。いわゆる「未完の分権改革」をどのように実現していくかという大きなテーマが残っている。
(1) 地方税の充実
今後地方分権を財政的に担保するためには、税源の偏在性が少なく、税収が安定的な地方税体系を確立する必要がある。「平成24年度税制改正大綱」では、「第1章 基本的な考え方」において、次のように整理している。
(4) 地方税の充実と住民自治の確立に向けた地方税制度改革
地域主権改革を推進する中で、地方がその役割を十分に果たすため、地方税を充実し、税源の偏在性が少なく、税収が安定的な地方税体系を構築していきます。平成24 年度税制改正では、地域決定型地方税制特例措置(通称:わがまち特例)の導入や税負担軽減措置等の見直しを行います。個人住民税の諸控除や税負担軽減措置等の見直しを行います。引き続き、地方税制度を「自主的な判断」と「執行の責任」を拡大する方向で抜本的に改革していくこととし、成案を得たものから速やかに実施します。
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税制を通じて住民自治を確立し、地域主権改革を推進するため、現行の地方税制度を「自主的な判断」と「執行の責任」を拡大する方向で抜本的に改革していく方向性を打ち出している。「自主的な判断」の拡大については、地方税法等で定められている過剰な制約を取り除くことにより、自治体が自主的に判断し、条例で決定できる部分を増やすことを目指している。また、「執行の責任」の拡大については、税率や課税対象物件などを自治体自ら決定し、その説明責任は自治体が負うことを想定している。
(2) 底辺への競争
2011年の統一地方選挙では、税が争点になった。名古屋市の河村市長が訴えた住民税の減税問題である。市長の方針である住民税を減税しようとする条例案を市議会が否決したが、それに対して議会のリコール運動が始まり、結局市議会は解散した。その後の選挙で、河村市長の主張を支持する議員が議会で多数派を形成した。
詳細なコメントは省略するが、ここで「底辺への競争」という概念を紹介する。近接する2つの自治体があり、当初は同じ10%の法人税の税率であった。企業誘致を図るため、一方の自治体が税率を8%にすると、もう一方の自治体がそれに対抗するため、6%にした。それがエスカレートし、結局は税収を失っていく。ここまで極端な例は起こりえないであろうが、住民の流入を促す「減税合戦」にならないことを期待したい。
(3) 小 括
地方分権の流れから自治体の課税自主権は尊重べきものであることは論を俟たないものである。しかし、一方課税自主権をどのように行使するかという点では、様々な意見が示されている。
例えば2010年7月13日の地方財政審議会では、地方債同意にからみ「標準税率未満の団体に対する地方債許可制度は、標準税率未満の団体が発行する地方債については、高世代に負担の転嫁がなされていないか、その中身をよくチェックする必要がある」という意見や、「総務大臣の許可は、意思決定に参加できない、当該団体の未来の世代の発言権を代理するとともに、国民の立場から他の団体との関係も調整するという義務を負っている」という意見があった。
「総務大臣が未来の世代の発言を代理する」という意見をどの委員が示したかは、議事要旨のため判然とはしない。ただ、このような高邁な思想が地方財政法の目的にあったことは、法律を制定した担当者の意識の中にはなかったと筆者は考える。
このようなパターナリズム的な規定を変えることについては、知事会や市長会から第30次地方制度調査会へ提出された意見書に記載の「引き続き慎重に検討すべき」という文言に表れているように及び腰の印象が強い。また、現在国会で議論されている「社会保障と税の一体改革」における議論も社会保障のあり方が中心になっているため、「社会保障制度の安定財源の確保の観点から、地方消費税のあり方をみなおすことなどにより、税源の偏在性が小さく、税収が安定的な地方税体系を構築する」という記述に留まり、地方へどのような税源を国から移譲するのかという具体的なビジョンが盛り込まれていない。
このような状況下では、「地域の自主性・自立性を高める地方制度研究会」が開かれて議論を進めている。研究会では地域決定型地方税制特例措置(通称:わがまち特例)の創設などが議論の中心である。今後の議論の方向性を見極めなければならないが、第一次分権改革がいう「未完の分権改革」の状態が今後も続く懸念が強い。
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