【論文】

第34回兵庫自治研集会
第2分科会 地方財政を考える

合併自治体における財政運営の現状と課題
-財政運営に関する調査分析から-

徳島県本部/公益社団法人徳島地方自治研究所・理事・美馬市職員 吉田 正孝

1. はじめに
図表1-1  市町村合併件数
年 度
合併件数
合併関係
市町村数
市町村数
前年度末
当年度末
1999
1
4
3,232
3,229
2000
2
4
3,229
3,227
2001
3
7
3,227
3,223
2002
6
17
3,223
3,212
2003
30
110
3,212
3,132
2004
215
826
3,132
2,521
2005
325
1,025
2,521
1,821
2006
12
29
1,821
1,804
2007
6
17
1,804
1,793
2008
12
28
1,793
1,777
2009
30
80
1,777
1,727
2010
0
0
1,727
1,727
642
2,147
 
 
(総務省ホームページ・合併資料を参考に作表)

 いわゆる「平成の大合併」と称される市町村合併を後押しした旧合併特例法(以下「旧法」という)が2005年3月末に失効して7年が経過する。合併特例債や普通交付税(臨時財政対策債を含む。以下同じ)算定における合併算定替えといった旧法における合併自治体への財政支援措置は、2005年3月末までに合併手続きを完了した場合に限られ、その期間(以下「合併特例期間」という)は「合併した年度とこれに続く10か年度(算定替えについてはさらに5年の激変緩和措置)」とされたことから、旧法失効前に合併手続きを完了した多くの自治体にとっては合併特例期間の折り返しを経たことになる(図表1-1)。合併特例期間中の財政運営は、期間終了後における当該合併自治体の財政運営を大きく左右すると考えられるが、合併自治体の財政運営の現状について全国ベースで明らかになっているとは言い難い。
 そこで、旧法の適用を受けて合併した自治体の財政運営に関する調査を行い、合併自治体における財政運営の現状を分析することとした(図表1-2)。具体的には、第1に旧法における財政支援措置の柱である合併特例債の活用状況についてその使途を含めて分析し、第2に普通交付税の合併算定替えの状況や合併算定替え終了にむけた取り組み状況等を分析するとともに、合併効果や合併後のまちづくりの課題を踏まえ、合併自治体の財政運営上の課題を明らかにするものである。

図表1-2 調査の概要
名  称
合併市町村における財政運営に関する調査
調査目的
合併支援措置が概ね10年間で終了することを踏まえて、合併市町村における財政運営の現状を分析するとともに、今後の課題を明らかにすることを目的とする。
調査対象
合併特例法(旧法)の適用を受け合併した市町村(全国488市町村)
(東日本大震災の影響がある、岩手県、宮城県、福島県の全ての合併市町村及び特定被災地方公共団体、特定被災区域に含まれる合併市町村を除く。)
調査方法
調査票を対象自治体の財政担当課あてに郵送し、郵送または電子メールにより回収。
(徳島地方自治研究所ホームページから調査票及び記入要領を入手可能とした。)
調査期間
2011年9月30日調査票発送 2011年10月31日回答期限
回答状況
352/488市町村 (回答率72.1%)

2. 合併特例債の状況
図表2-1 合併特例債の普通交付税算入率

(1) 合併特例債の概要
 合併特例債とは1999年に公布された地方分権一括法により合併特例法(旧法)が改正されて新設された地方債であり、その特徴は元利償還時の普通交付税算入率の高さにある。具体的には、対象事業費の95%について起債し、その元利償還金の70%が基準財政需要額に算入され、普通交付税に上乗せされるのであるが、(図表2-1)これは、比較可能な事業債のなかでも過疎対策事業債に匹敵するものである。(図表2-2)また、その対象事業は「市町村建設計画に基づく特に必要な事業」又は「市町村振興のための基金造成」とされ、補助事業の地方負担分にも地方単独事業にも充当できる、非常に「使い勝手」のよい地方債と言える。
 一方、発行限度額は、基金造成分以外については「標準全体事業費」という形で規定され、合併後人口、増加人口及び合併関係市町村数を基礎として諸係数を掛け合わせて算定される。したがって、「標準全体事業費」の95%が発行限度額となる。また、基金造成分についても合併後人口、増加人口及び合併関係市町村数をもとに算定された「標準基金規模」の1.5倍(上限40億円)が基金造成額の上限という形で規定されており、その95%が合併特例債の発行限度額となる。
 有利で「使い勝手」のよい地方債と言える合併特例債ではあるが、元利償還金の30%は基準財政需要額(=基準財政収入額(標準税収入額の75%+地方譲与税等)+普通交付税)外の財源、すなわち留保財源(標準税収入額の25%)で賄わなくてはならない。したがって、財政力指数(基準財政収入額/基準財政需要額の3か年平均)の低い合併自治体は、合併特例債が有利だからといって起債発行額を増やすと将来オーバーローン状態に陥る可能性があるのである。

図表2-2 合併特例債と比較可能な事業債(充当率・交付税算入率(2011年度・市町村分))
事 業 債 区 分
充当率(%)
算入率(%)
学校教育施設等整備事業 公立学校施設整備費負担金を受けて実施する事業
75~90
70
学校施設環境改善交付金事業その他の国庫補助金を受けて実施する事業
70
 〃  (うち補強事業の一部および水泳プール)
50
義務教育施設の大規模改造事業(単独事業)
75
30
その他の事業
0
一般廃棄物処理事業債 し尿・ごみ処理施設 補助事業
90
50
単独事業
75
30・50
〃  (うち重点化等事業)
90
50
清掃運搬施設等
75
0
用地関係
100
0
施設整備事業(一般財源化分)
補助金廃止前の補助率
70・100
一般事業(庁舎)
75
0
地域活性化事業
90
30
防災対策事業 防災基盤整備事業
75
30
〃  (うちデジタル化関連事業等)
90
50
公共施設等耐震化事業
90
50
〃  (うちIs値0.3未満で法に基づく5か年計画に定めた耐震改修事業)
2/3
自然災害防止事業
100
28.5~57
地方道路等整備事業  
90
0
うち地方特定道路、ふるさと農道・林道緊急整備事業
75
30
辺地対策事業
100
80
過疎対策事業
100
70
旧合併特例事業
95
70
(注) 事業別地方債実務ハンドブック(月刊「地方財務」平成23年8月号別冊付録)を参考に、「主な活用事業」に対応する事業債について作表。上記に加え財源対策債の充当が可能な事業がある。


図表2-3 合併特例債発行計画の有無
 
団体数
(%)
発行計画あり
発行計画なし

330
22

93.8
6.3

(2) 合併特例債発行計画と発行(予定)額
 合併特例債の発行計画の有無を調査したところ、「あり」が93.8%、「なし」が6.3%で、ほとんどの自治体で合併特例債の発行計画を有していた(図表2-3)。また、合併特例債の発行計画額に対する発行額(予定額を含む。以下同じ)の割合については全体でみると89.6%であったが、基金造成分が106.8%であったのに対し、基金造成分以外では88.1%となった(図表2-3-①~③)。合併特例債を財源として積み立てる基金の取り崩しについて、2006年12月に総務省から弾力運用に関する事務連絡が出されており、基金造成分が100%を超えたのは、後年度の財政的メリットが大きいと各自治体が判断したものと考えられる。一方、基金造成分以外の発行計画額に対する発行額の割合を自治体区分別にみると、指定都市、中核市及び特例市については100%を超えたが、その他の市では85.3%、町村では75.3%となった。人口規模と発行計画額に対する発行額の割合との間には明確な相関関係は見いだせなかったが、小規模自治体において将来の公債費負担を不安視していることが窺えた。
 また、発行計画額に対して発行額が下回った合併自治体は、174自治体(53.4%)であったが、下回っている理由については「起債発行残高や後年度の公債費抑制」と回答した自治体が最も多く、124自治体で全体の71.3%を占めた。(図表2-4-①・②)

図表2-3-① 団体区分別合併特例債発行計画額に対する発行状況
(合併特例債全体)
 
発行済額/発行計画額
(加重平均・%)
発行済額+発行予定額/発行計画額
(加重平均・%)
過 疎   ※1
過疎以外    
39.4
48.3
84.6
97.6
指定都市  
中核市 ※2
特例市  
その他の市    
町 村    
53.6
46.4
46.6
41.4
41.5
102.1
102.7
96.5
87.5
81.2
新 設
編 入
40.6
48.3
85.3
100.3
全 体
42.8
89.6
発行計画がある330団体中、「23年度以降の発行予定額」が未定等の4団体を除く。
※1 一部過疎、みなし過疎を含む。 以下の図表において同じ。
※2 人口要件は政令市50万人、中核市30万人、特例市20万人。
   以下の図表において同じ。

図表2-3-② 団体区分別合併特例債発行計画額に対する発行状況
(基金積立充当分)
 
発行済額/発行計画額
(加重平均・%)
発行済額+発行予定額/発行計画額
(加重平均・%)
過 疎
過疎以外
79.9
78.7
109.7
101.3
指定都市
中核市
特例市
その他の市
町 村

50.0
100.0
30.0
82.1
59.8

50.0
100.0
66.3
106.6
109.4
新 設
編 入
75.7
87.9
104.2
92.3
全 体
79.5
106.8

発行計画がある330団体中、「23年度以降の発行予定額・うち基金積立充当額」が
未定等の10団体を除く。

 
図表2-3-③ 団体区分別合併特例債発行計画額に対する発行状況
(基金積立充当分以外)
 
発行済額/発行計画額
(加重平均・%)
発行済額+発行予定額/発行計画額
(加重平均・%)
過 疎
過疎以外
34.9
45.9
81.8
98.2
指定都市
中核市
特例市
その他の市
町 村
53.1
41.5
48.7
37.5
35.9
103.4
102.1
108.1
85.3
75.3
新 設
編 入
36.5
45.1
82.8
100.2
全 体
39.1
88.1

発行計画がある330団体中、「23年度以降の発行予定額・うち基金積立充当額」が
未定等の10団体を除く。

 
図表2-4-① 合併特例債発行済額+発行予定額と発行計画額の比較
 
回答団体数
(%)
発行済額+発行予定額が計画額を上回る
発行済額+発行予定額が計画額と同額
発行済額+発行予定額が計画額を下回る
87
65
174
26.6
20.0
53.4
  発行計画がある330団体中、「23年度以降の発行予定額」が
  未定等の4団体を除く。
 
図表2-4-② 合併特例債発行済額+発行予定額が発行計画額を下回っている理由
 
回答団体数
(%)
起債発行残高や後年度の公債費抑制のため
予定していた事業の実施を取りやめたため
国の臨時交付金を活用した事業に振り替えたため
その他
124
30
25
22
71.3
17.2
14.4
12.6
複数回答可のため、回答団体数の合計は対象団体数と一致しない。

図表2-5 主な活用事業(全回答団体(352団体)中、事業区分毎の回答団体の割合)/円グラフ

(3) 合併特例債の活用状況
 合併特例債の主な活用事業について自由記入により尋ねた結果を施設区分ごとにグラフ化したものが図表2-5である。最も回答が多かった施設区分は「小・中学校、給食施設」で、57.1%の自治体が合併特例債の活用事業とした。小・中学校については耐震化のニーズが高いこと、文部科学省の国庫補助(負担)基準が厳しく、継ぎ足し単独事業については普通交付税算入がないため、従来は多額の費用がかかる学校耐震化や改築などの事業の着手に躊躇せざるをえなかったものが、有利な合併特例債により事業着手が可能となったのではないかと考えられる。以下、「道路橋梁(街路、県負担金を含む)」(40.6%)、「庁舎(消防庁舎除く)、支所、出張所」(16.5%)、「地域情報化、CATV」(10.8%)、「防災無線、消防無線デジタル化」(10.2%)と続くが、図表2-5以外の施設区分に関する回答はほとんどみられず、庁舎を除けば、住民の安心・安全に直結する事業や既存施設の更新が大半であった。現段階で合併特例債は、「使い勝手がいいから施設の新設に使う」のではなく、「普通交付税算入率の低い地方債から振り替えて、合併特例期間中にできることをしておく」ための地方債と言えよう。

 

(4) 合併特例期間終了後の事業展開
 さて、合併特例期間中普通交付税算入率の低い地方債から振り替えて合併特例債を活用している自治体は、期間終了後合併特例債以外の地方債を選択しなければならなくなる。そこで、合併特例期間終了後の事業展開を尋ねたところ、全体の84.0%の自治体が「事業量の縮小」を回答し、「事業量を維持し、他の事業債で対応」が7.4%、「その他」が8.6%で、「事業を拡充し、他の事業債で対応」を回答した自治体はなかった(図表2-6-①・②)。実際の事業展開がどうなるのかについては、地方財政制度の動向や各首長の考え方に大きく左右されるが、少なくとも現段階で財政担当者の多くは事業量の縮小を志向していると言える。
 一方、合併特例期間終了後の事業展開について議会における議論状況を尋ねたが、その結果は「議論あり」が47.9%、「議論なし」が52.1%で、自治体区分別にみると、「過疎地域」「新設合併」でやや高い割合となった(図表2-7)

図表2-6-① 団体区分別合併特例債活用可能期間終了後の事業展開(団体数・%)
 
事業量の縮小
事業量を維持し、他の事業債で対応
事業を拡充し、他の事業債で対応
その他
過 疎
過疎以外
165 ( 81.7% )
107 ( 87.7% )
20 ( 9.9% )
4 ( 3.3% )
0 ( 0.0% )
0 ( 0.0% )
17 ( 8.4% )
11 ( 9.0% )
指定都市
中核市
特例市
その他の市
町 村
2 ( 25.0% )
12 ( 70.6% )
6 ( 75.0% )
190 ( 90.5% )
62 ( 76.5% )
2 ( 25.0% )
2 ( 11.8% )
1 ( 12.5% )
6 ( 2.9% )
13 ( 16.0% )
0 ( 0.0% )
0 ( 0.0% )
0 ( 0.0% )
0 ( 0.0% )
0 ( 0.0% )
4 ( 50.0% )
3 ( 17.6% )
1 ( 12.5% )
14 ( 6.7% )
6 ( 7.4% )
新 設
編 入
222 ( 86.0% )
50 ( 75.8% )
19 ( 7.4% )
5 ( 7.6% )
0 ( 0.0% )
0 ( 0.0% )
17 ( 6.6% )
11 ( 16.7% )
全 体
272 ( 84.0% )
24 ( 7.4% )
0 ( 0.0% )
28 ( 8.6% )
発行計画がある330団体中、「期間終了後の事業展開」未回答および複数回答の6団体を除く。
 
(5) 小 括
 「基金の積立てをしっかり行いながら、小規模自治体で抑制的な傾向が見られるものの住民の安心・安全に直結する事業や既存施設の更新等に活用し、特例期間終了後は事業量の縮小を志向している。」
 これが、合併自治体における合併特例債を巡る概括的現状と言えよう。合併特例債の活用期間延長(東日本大震災被災市町村:現行15年→改正後20年、被災市町村以外:現行10年→改正後15年)については、その法律案が現在国会において審議中であるが、抑制基調がみられる小規模自治体への影響や活用事業にどのような変化がみられるのかについて注視する必要がある。とりわけ、後述する合併算定替えの影響が大きい合併自治体は、算定替えが逓減しはじめてもなお合併特例債の活用が可能となるため、将来オーバーローンに陥らないよう、より慎重で計画的な運用が求められる。また、合併特例期間終了後の事業展開などを、いつ、どのような形で議会や住民に知らせ、議論するのかも課題と言えよう。

図表2-6-② 合併特例債活用可能期間終了後の事業展開・「その他」欄の記載内容
・事業量、内容については随時精査していく。
・合併特例債を活用する事業は終了し、今後は基金積立のみ。
・財政状況を見極め事業展開する。
・単に事業量ではなく必要な事業について、他の事業債の活用で財源確保していく。
・活用可能期間内に事業完了。
・町にとって必要な事業については、他の財源を検討し実施していく。
・該当事業について活用可能期間内で終了させる予定。
・総合計画等に基づいた事業実施になるため、現時点では未定。
・必要性、緊急性などにより個別に判断。
・基幹的な事業は終了予定。
・過疎事業債の活用。(2団体)
・合併関連事業の縮小。
・実施を再検討し、実施するものは期間終了までに完了する。
・状況に応じて事業量を検討。  (このほか「検討中」「未定」と記載した団体10)

図表2-7 合併特例債活用可能期間終了についての議会の議論状況(団体数・%)
 
議会での議論
団体数
過 疎
過疎以外
104 ( 50.5% )
53 ( 43.4% )
102 ( 49.5% )
69 ( 56.6% )
206
122
指定都市
中核市
特例市
その他の市
町 村
0 ( 0.0% )
6 ( 35.3% )
2 ( 25.0% )
116 ( 55.0% )
33 ( 39.3% )
8 ( 100.0% )
11 ( 64.7% )
6 ( 75.0% )
95 ( 45.0% )
51 ( 60.7% )
8
17
8
211
84
新 設
編 入
134 ( 51.3% )
23 ( 34.3% )
127 ( 48.7% )
44 ( 65.7% )
261
67
全 体
157 ( 47.9% )
171 ( 52.1% )
328
(割合は各区分ごとの団体数に対する有無の割合)
発行計画がある330団体中、「議会の議論状況」未回答の2団体を除く。
 

3. 合併算定替えの状況

(1) 合併算定替えの概要
 普通交付税の合併算定替えとは、合併による経費の削減が合併後すぐにできるものばかりではないため、合併した年度及びこれに続く10か年度、合併関係市町村がなお合併前の区域をもって存続した場合に当該年度毎に算定される普通交付税額を保障し、さらに、その後5年間は激変緩和措置を講じることによって、合併による不利益を被ることのないようにする、普通交付税算定上の特例であり、旧合併特例法第11条第2項に規定されている(図表3-1)


図表3-1 合併算定替えのイメージ
(「合併特例法の概要」(徳島県県民環境部地域振興局市町村合併支援チーム)を参考に作表)

(2) 徳島県内合併団体における合併算定替えの影響
 徳島県内の合併自治体における合併算定替えの影響をまとめた図表3-2をみると、増加額で最も大きいのは三好市で27億1千万円、次に阿波市20億4千万円、吉野川市17億1千万円と続いており、一本算定に対する増加率では、阿南市が34.8%、那賀町が33.2%、阿波市が30.4%となっている。
 ところが、同じ10億円の合併算定替え増加額でも標準財政規模が100億円の自治体と300億円の自治体ではその重みが異なるため、合併算定替えの当該自治体財政に対する影響は、その自治体の標準的な一般財源の総額である標準財政規模に対する増加額の割合でみる必要がある。そこで、合併算定替え増加額の標準財政規模に対する割合をみてみると、那賀町が21.0%、阿波市が16.0%、三好市が15.8%、つるぎ町が15.5%と続いた。那賀町では標準財政規模の約2割が合併年度に続く11年度目から逓減し、16年度目以降はなくなることになる。合併自治体は、まず自らの合併算定替えの状況を的確に把握することが必要である。


図表3-2 徳島県内市町村の合併算定替えの状況
市町村名 (区分) 合併算定替増加額
(普通交付税+臨時
財政対策債)・千円
一本算定に対
する増加率・%
標準財政規模
に対する増加
額の割合・%
阿南市 (編入)
1,325,536
34.8
6.6
吉野川市 (新設)
1,713,319
26.6
13.3
阿波市 (新設)
2,040,757
30.4
16.0
美馬市 (新設)
1,707,296
23.3
13.6
三好市 (新設)
2,714,341
24.6
15.8
那賀町 (新設)
1,530,533
33.2
21.0
美波町 (新設)
486,400
17.9
12.5
海陽町 (新設)
946,258
23.9
16.1
つるぎ町 (新設)
886,203
23.3
15.5
東みよし町(新設)
581,535
16.3
10.2
 

(3) 合併算定替え対標準財政規模増加率の分析
 標準財政規模に対する合併算定替え増加額の割合について、団体区分、人口、財政力指数、基金残高、地方債残高、実質公債費比率及び将来負担比率との関係を分析する。(回答352自治体中、指定都市移行の影響があると考えられる相模原市、堺市、岡山市の3自治体と普通交付税について回答がなかった1自治体を除く348自治体について分析。)
① 団体区分との関係
  合併算定替え対標準財政規模増加率を各団体区分別にみると、「過疎」「新設」が「過疎以外」「編入」を大きく上回っている。また、指定都市、中核市、特例市、その他の市、町村と規模が小さくなるほど増加率が大きくなっている(図表3-3-①)
② 人口規模との関係
  次に、人口規模と合併算定替え対標準財政規模増加率との関係を散布図にしたものが図表3-3-②である。これによると、人口規模が大きい自治体においては合併算定替え対標準財政規模増加率が小さく、人口規模が小さい自治体では増加率の大小に幅の開きが生じた。すなわち、人口規模の大きい自治体では合併算定替えの終了をあまり意識する必要はないが、人口規模の小さい自治体では合併算定替え対標準財政規模増加率の大きさを見極め、終了にむけた取り組みを現段階から行う必要があることを意味している。
③ 財政力指数との関係
  財政力指数と合併算定替え対標準財政規模増加率との関係については、図表3-3-③のとおり概略的な傾向として財政力指数が高いほど合併算定替えの影響が小さいと言える。また、財政力指数が低いと財源不足額(基準財政需要額-基準財政収入額)をもとに算定される普通交付税に対する依存も大きくなるため、国の地方財政政策の影響を受けやすい。このため、合併算定替え対標準財政規模増加率が大きく財政力指数の低い合併自治体についても、合併算定替え終了にむけた取り組みを現段階から行う必要があると言えよう。
④ 財政調整基金・減債基金、地方債現在高対標準財政規模増加率との関係
  財政調整基金と減債基金残高および地方債現在高の対標準財政規模増減率との関係を散布図にしたものが図表3-3-④・⑤である。これらによると、財政調整基金と減債基金の増減や地方債現在高の増減には合併算定替えの影響がほとんどみられない。すなわち、合併算定替え対標準財政規模増加率の大きい自治体は、合併特例期間中に算定替え増加額を活用して基金を増やしたり、繰上償還等によって地方債残高を減らすべきなのに、そうはなっていない現状を表しているとも言える。
⑤ 実質公債費比率、将来負担比率増減との関係
  実質公債費比率とは普通交付税に算入されない公債費・準公債費の標準財政規模(普通交付税算入額を除く)に対する割合の3か年平均であり、将来負担比率は当該年度末の普通交付税に算入されない実質的な債務残高の標準財政規模(普通交付税算入額を除く)に対する割合である。実質公債費比率、将来負担比率の2007年度から2010年度にかけての増減をみると、多くの合併自治体で改善しているが、合併算定替え対標準財政規模増加率との関係はほとんどみられなかった(図表3-3-⑥・⑦)


図表3-3-① 団体区分別増加率・対標財規模増加率平均値(加重平均)
 
合併算定替/一本算定
(増加率・%)
合併算定替増加額
/標財規模(%)
団体数
過 疎
過疎以外
21.7
16.7
9.3
4.9
227
121
指定都市
中核市
特例市
その他の市
町 村
1.6
11.0
22.9
24.6
21.6
0.4
3.1
5.8
10.4
12.7
5
18
11
220
94
新 設
編 入
24.4
12.9
10.9
3.6
278
70
全 体
20.0
7.4
348

図表3-3-② 人口と合併算定替え対標財規模増加率の関係/散布図
図表3-3-③ 財政力指数と合併算定替え対標財規模増加率の関係/散布図

図表3-3-④ 合併算定替え対標財規模増加率と財政調整基金・減債基金残高増減額増減率の関係/散布図

図表3-3-⑤ 合併算定替え対標財規模増加率と地方債残高増減率(臨財債除く)の関係/散布図

図表3-3-⑥ 合併算定替え対標財規模増加率と実質公債費比率増減の関係/散布図

図表3-3-⑦ 合併算定替え対標財規模増加率と将来負担比率増減の関係/散布図
 

(4) 合併算定替え終了にむけた取り組み状況
 次に、合併算定替え終了にむけた合併自治体の取り組み状況について分析する(3の分析対象348自治体中、議会議論有無について未回答、重複回答の15自治体を除く333自治体を分析)。
 合併算定替え終了にむけた取り組みを行っている自治体は全体の82.0%であり、今後行う予定を含めると95.8%であった。(図表3-4)
 一方、具体的な取り組み方策があるかについては、「取り組みあり(または予定あり)」とした合併自治体の84.0%が「行財政改革の取り組み強化」を回答し、「繰上償還・起債発行抑制」は71.2%、「基金への積み立て(積み増し)」は66.8%であり、「その他」を回答したのは5.0%であった(図表3-5-①・②)
 また、議会における合併算定替え終了にむけた議論状況を尋ねたところ、「議会における議論あり」としたのは163自治体で全体の48.9%であった。また、取り組みを行っている合併自治体のうち56.4%の自治体で議会の議論があったのに対して、取り組みを行っていない合併自治体においては13.6%と低水準であった(図表3-6)。合併算定替え対標準財政規模増加率の大きい合併自治体は、算定替え終了にむけた取り組みを行うだけでなく、議会や住民にも情報開示して、「合併算定替えが終了するとどうなるのか」についてしっかりとした議論をすべきである。


図表3-4 合併算定替終了にむけた取り組み有無/円グラフ
 

図表3-5-① 取り組み方策選択団体の割合/円グラフ
図表3-5-② 取り組み方策(その他欄記載内容)
・本町はもともと裕福な町村同士の合併ではなく、財政状況が著しく悪化している状況の中で合併しており、合併算定替終了にむけた取り組みではなく、合併当初より健全な財政運営を行っていくために行革や人件費、将来にわたる債務負担行為などを整理し、将来の町の発展に取り組んでいるところ。
・財政健全化計画に基づく事業費の抑制、収入の確保に加え、合併算定替終了に伴う減収を見込んだ推計を行っている。
・中期財政計画を策定(H22年度)し、歳出総額をスローダウンするように、現時点から段階的に抑制。
・新たな財源の確保。
・中・長期財政推進の作成。
・合理化計画を策定し、算定替終了後の一般財源総額にソフトランディング出きるよう全庁上げて事業の見直し等を行っている。
・選択と集中による歳出削減。
・合併特例債ガイドラインを作成し、地方債残高抑制に取り組んでいる。
・「合併特例措置逓減対策準備室」の設置(H22年)。合併特例措置の逓減・廃止に対応するため独自留保分の基金積立を実施。
・財政見通しの中で算定替え終了を見込んだ事業費抑制などを検討している。
・経常経費削減について職員へ周知。
・施設の再編、統廃合、民営化。・特別会計、企業会計への歳出金の抑制。
・中期財政計画をふまえ、交付税措置の有利な市債を活用、計画的な発行に努める。
・施設の統廃合。
・今後、方策を検討する予定。
・取り組むか否かも含め検討中。
 
図表3-6 合併算定替終了にむけた取り組みと議会での議論状況
 
議会議論有
団体数
b
a/b
取り組みを行っていない
今後取り組む予定なし
今後取り組む予定あり
(今後の予定不明)
取り組みを行っている
8
1
7

154
59
10
46
3
273
( 13.6% )
( 10.0% )
( 15.2% )
( - )
( 56.4% )
未回答
1
1
( 100.0% )
合  計
163
333
( 48.9% )
 

(5) 小括-地方交付税制度との関係において-
 ここまで、合併算定替えの影響を標準財政規模に対する大きさで考えてきた。ほとんどの合併自治体では合併算定替え終了にむけた取り組みを既に行っているか、行う予定であることは将来財政破綻を招かないために必要なことと考えられるが、合併自治体毎の合併算定替えの増加額については一部の県を除いて公表されておらず、合併自治体全体の中で自らの自治体がどの位置にいるのか分析するのが困難な状況にある。国や都道府県は合併自治体における合併算定替えの状況について、合併自治体の財政分析に資するよう情報の公表を積極的に行うべきである。
 さて、合併算定替えの終了を地方財政全体で考えると別の見方ができよう。そもそも、地方交付税総額は、入口ベースでは国税5税の一定割合(25.0~35.8%)とされるが、出口ベースでは、まず地方財政全体の歳出を積み上げ、そこから歳入の地方税や国庫支出金、地方債などを控除したものを基礎にする仕組みとなっている。そうであるならば、合併自治体において合併算定替え増加額に見合う歳出削減が進まない場合、個別自治体では算定替え終了がやむを得ないこととしても、地方財政全体でみれば歳出総額を確保されなければならないことになる。その上で、地方交付税の配分段階において合併自治体特有の行政需要のうち真に削減が困難なものについては配慮することが必要ではなかろうか。そのためにも、合併自治体特有の財政需要の実態について合併自治体自らが明らかにする必要があると考える。

 

4. 合併効果と合併後のまちづくりの課題を含め

 合併が効率的な行財政運営につながっているかどうか尋ねたところ、全体の59.5%の自治体が「つながっている」と回答し、「つながっていない」と回答したのは6.6%で、合併自治体の財政担当者にとって合併は概ね行財政運営の効率化につながっていると受け止めているようである。(図表4-1)また、効率的な行財政運営に「つながっていない」と回答した自治体にその理由を尋ねたところ、図表4-2-①・②のとおりであった(選択回答)。一方、合併後のまちづくりの課題として、「A住民サービスの低下」「B周辺部の過疎化の進行」「C住民意見の反映不足」「D地域の歴史・伝統の消失」「E旧自治体間の対立」の各課題について合併前後の認識を尋ねた結果をまとめたものが図表5である。団体区分別にみると「過疎」「町村」において「B周辺部の過疎化」に対する懸念が合併前後ともやや高いことがみてとれる。逆に、「D地域の歴史・伝統の消失」に対する懸念は全体的に低く、合併前に懸念していたほど大きな課題となっていないことも窺えた。

 
図表4-1 団体区分別合併効果認識状況
 
合併が効率的な行財政運営に
団体数
つながっている
どちらとも言えない
つながっていない
過 疎
過疎以外
131 ( 58.2% )
76 ( 61.8% )
76 ( 33.8% )
42 ( 34.1% )
18 ( 8.0% )
5 ( 4.1% )
225
123
指定都市
中核市
特例市
その他の市
町 村
8( 100.0% )
15 ( 83.3% )
6 ( 54.5% )
136 ( 61.8% )
42 ( 46.2% )
0  (0.0% )
3 ( 16.7% )
4 ( 36.4% )
71 ( 32.3% )
40 ( 44.0% )
0 ( 0.0% )
0 ( 0.0% )
1 ( 9.1% )
13 ( 5.9% )
9 ( 9.9% )
8
18
11
220
91
新 設
編 入
154 ( 56.0% )
53 ( 72.6% )
99 ( 36.0% )
19 ( 26.0% )
22 ( 8.0% )
1 ( 1.4% )
275
73
全 体
207 ( 59.5% )
118 ( 33.9% )
23 ( 6.6% )
348

(352団体中、合併効果欄未回答の4団体を除く348団体を分析。以下同じ)

 
図表4-2-① 効率的な行財政運営につながっていない理由区分別回答団体数
理由区分
団体数
分庁舎の配置等により職員数削減が計画どおり進まないため
旧団体間の均衡ある投資を求められるため
その他
11
17
9
 
図表4-2-② 効率的な行財政運営につながっていない理由・「その他」欄の記載内容
・分庁舎方式のため庁舎の維持管理経費が老朽化等により年々増加傾向となっている。
・中山間で小集落が点在している当地域で合併を行っても、従来からある町と同等の行政の効率化は10年程度では困難と思われる。
・市の中央に山を抱えているため、市内移動に時間を要したり、事業効果が高い事業を行うことが難しい部分があるため。
・ただ全てがつながっていないという訳ではなく、合併によって効率的になった事業もある。
・職員の削減による臨時職員の増など。
・過疎化、高齢化、行政エリアの拡大が効率化に影響を与えている。
・旧町村の所有していた公民館や体育館などの施設も統合していないため、維持経費を削減できない状況にある。
・当市は、飛地・離島による合併のため旧市町が地続きでないため、人員の集中配置、支所の廃止、公共施設の統合が進まない。
・分庁方式で非効率的である。
 

5. まとめ

 本稿では、合併自治体における財政運営の状況を分析してきたが、あくまで「折り返し地点」の分析に過ぎない。合併後のまちづくりの課題としてやや高い懸念が示された周辺部の過疎化の進行など、行政の広域化に伴う課題は合併特例期間の終了に伴って収束するものではなく、合併自治体は合併算定替え終了に対する備えと同時に削減困難な行政需要の財源を確保するよう国に強く働きかける必要があるのではないか。一方、都道府県の役割について尋ねた質問に、回答した57自治体中24自治体が「国への要望・働きかけ」を求め、「都道府県による財政支援」(17自治体)や「市町村への情報提供・助言等」(16自治体)を上回った。また、8自治体が「都道府県事務の見直し」を回答しており、市町村数の減少に応じた都道府県組織のスリム化や市町村への人的支援などの提案があった(図表6)
 市町村合併を地方交付税の削減を通じた国の歳出削減策に終わらせないためには、合併自治体自身の取り組みに加え、合併自治体の現状を踏まえた都道府県の国に対する提案力が問われることになるだろう。


図表5 まちづくりの課題に関する認識(合併前後)
  A 住民サービスの低下 B 周辺部の過疎化の進行 C 住民意見の反映不足 D 地域の歴史・伝統の消失 E 旧自治体間の対立 各質問項目の平均
過 疎
合併前
3.1
3.4
3.0
2.5
2.7
2.9
合併後
3.0
3.3
2.8
2.2
2.4
2.7
△ 0.1
△ 0.1
△ 0.2
△ 0.3
△ 0.3
△ 0.2
過疎以外
合併前
2.7
2.5
2.7
2.2
2.6
2.5
合併後
2.6
2.4
2.6
2.0
2.3
2.4
△ 0.1
△ 0.1
△ 0.1
△ 0.2
△ 0.3
△ 0.1
指定都市
合併前
2.5
2.5
2.6
2.0
1.9
2.3
合併後
2.6
2.4
2.9
1.8
1.8
2.3
0.1
△ 0.1
0.3
△ 0.2
△ 0.1
0.0
中核市
合併前
3.0
2.8
2.8
2.3
2.2
2.6
合併後
2.4
2.4
2.4
1.9
1.8
2.2
△ 0.6
△ 0.4
△ 0.4
△ 0.4
△ 0.4
△ 0.4
特例市
合併前
2.5
2.1
2.5
2.1
1.9
2.2
合併後
2.5
2.0
2.2
1.8
1.6
2.0
0.0
△ 0.1
△ 0.3
△ 0.3
△ 0.3
△ 0.2
その他の市
合併前
2.9
3.0
2.9
2.4
2.6
2.8
合併後
2.8
2.9
2.8
2.1
2.3
2.6
△ 0.1
△ 0.1
△ 0.1
△ 0.3
△ 0.3
△ 0.2
町 村
合併前
3.2
3.4
2.9
2.4
2.9
3.0
合併後
3.1
3.3
2.7
2.3
2.7
2.8
△ 0.1
△ 0.1
△ 0.2
△ 0.1
△ 0.2
△ 0.2
新 設
合併前
3.0
3.1
2.9
2.8
2.4
2.8
合併後
2.9
3.0
2.7
2.1
2.5
2.7
△ 0.1
△ 0.1
△ 0.2
△ 0.3
△ 0.3
△ 0.1
編 入
合併前
2.8
2.8
2.8
2.4
2.2
2.6
合併後
2.6
2.6
2.6
2.1
1.8
2.4
△ 0.2
△ 0.2
△ 0.2
△ 0.3
△ 0.4
△ 0.2
全 体
合併前
3.0
3.1
2.9
2.4
2.6
2.8
合併後
2.9
3.0
2.7
2.1
2.4
2.6
△ 0.1
△ 0.1
△ 0.2
△ 0.3
△ 0.2
△ 0.2
A~Eの各質問について、大いにある:5ポイント、少しある:4ポイント、どちらとも言えない:3ポイント、 ほとんどない:2ポイント、全くない:1ポイントとして分析。
(352団体中、合併後のまちづくりの課題欄未回答の10団体を除く342団体を分析。)

図表6 合併特例債・合併算定替え終了にむけた都道府県の役割についての回答状況/円グラフ

合併市町村における財政運営に関する調査票




~参考文献・データ~
・徳島県市町村合併支援チーム[2003]『合併特例法の概要VOL.3』
・小西砂千夫[2009]『基本から学ぶ地方財政』,学陽書房
・地方債制度研究会編[2011]『平成23年度版事業別地方債実務ハンドブック』,ぎょうせい
・総務省ホームページ・市町村合併資料集より「合併件数」のデータ
・地方財政状況調査・公共施設状況調査・地方公営企業決算状況調査 調査表データ閲覧・ダウンロードページより「地方財政状況調査(市町村)」の調査表データ