【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第3分科会 自然災害に強いまちづくり~災害から見えた自治体の役割~

 3・11東日本大震災は、埼玉県内でも本庁舎が損壊したり、多数の帰宅困難者が発生するなど、想定されていない事態に、多くの自治体は対応に追われました。また、首都圏直下型地震の襲来が予測され、地震災害への危機感が高まっています。本レポートは、公共施設等の耐震化や地域防災計画の見直し、被災者支援の体制確立が急務であることから、自治体調査によって実態を把握し、見えてきた課題を報告するものです。



災害に強いまちづくりへ 自治体調査から見えてきた課題


埼玉県本部/公益財団法人埼玉県地方自治研究センター 江野本啓子

1. はじめに

 3月11日の東日本大震災は、地震、津波、原発という未曽有の大災害をもたらしました。埼玉県内でも本庁舎が損壊(秩父市)したり、多数の帰宅困難者の発生や液状化によって住宅が損壊するなど、想定されていない事態に、多くの自治体は対応に終われました。また、直接的被害だけでなく、計画停電や物資の不足など、都市機能が麻痺する状況がしばらく続きました。
 被災から1年4カ月が経過し、被災地では生活の安定や暮らしの再生にむけた様々な取り組みが行われている一方、原発事故は収束の見通しもないまま、多くの課題に直面しています。今日もなお、余震とみられる大小の地震が頻発しているほか、首都圏直下型地震について、「4年以内の発生確率70%」「埼玉県内震度6弱」という調査結果が発表され、地震災害への危機感はかつてなく高まっています。
 こうしたなか、埼玉自治研センターと自治労埼玉県本部は、首都圏直下型地震に備え、公共施設等の耐震化や地域防災計画の見直し、被災者支援の体制確立にむけ、公開セミナーの開催や自治体調査、議員交流会などに取り組んできました。本レポートは、県内全市町村を対象に行った「本庁舎の耐震に関する自治体調査」及び「防災(震災)に関する自治体調査」の調査結果とそこから見えてきた課題を報告するものです。

2. 自治体調査の結果の概要(抜粋)と課題

(1) 本庁舎の耐震に関する自治体調査について(抜粋)
     実施期間   2011年6月1日~7月1日
     対  象   県内全市町村(64自治体)
     回  答   61自治体(95%) 
 東日本大震災は、南三陸町や双葉町など津波や原発事故によって、本庁舎を失う事態が発生しました。埼玉県内でも、秩父市は地震により本庁舎が損壊し、機能を他施設に移し、業務に当たらざるを得ませんでした。こうした事態から、災害時の本庁舎の役割の重要性に改めて気づかされました。また、組織内議員からは、各市町村の本庁舎の被害状況の把握や、遅れている本庁舎の耐震化の重要性が指摘され、埼玉自治研センターは、自治労埼玉県本部と協議を進めながら、「本庁舎の耐震に関する自治体調査」に取り組みました。


① 本庁舎の建設時期
1981年以前建設
40自治体
66%
1981年以降建設(新耐震基準)
20自治体
33%
回答なし
1自治体
2%

② 耐震改修が必要な40自治体の耐震診断の実施状況
耐震診断を実施〈実施中も含む〉
32自治体
80%
耐震診断を予定
7自治体
18%
その他
1自治体
3%

③ 耐震診断を行った31自治体のその後の対応
耐震化を行った(実施中含む)
7自治体
23%
耐震化を予定している
11自治体
35%
基準を満たしていないが改修予定なし
4自治体
13%
検討中
4自治体
13%
新庁舎建設を予定(検討中)
2自治体
6%
耐震基準を満たしていた
1自治体
3%
その他
2自治体
6%


④ 調査結果から見えてきたこと
  災害時の本庁舎は、災害対策本部が設置され、復旧・復興の拠点となる施設であり、復旧になくてはならない住民のデータが蓄積されている施設です。早急な耐震化が求められていることは言うまでもありません。県内市町村の本庁舎の耐震化は27自治体(実施中含む)44%、まだ道半ばです。耐震化を予定している自治体を含めると、38自治体、62%ですが、改修時期の決まっていない自治体も含まれています。とりわけ問題なのは、「耐震の結果、基準を満たしていないが改修の予定はない」との回答した4自治体です。その理由は、「予算がない」「他の施設の耐震化を優先するため」と回答しています。当センターが開催した地方議員交流会でも「予算に限りがある中で、本庁舎より学校が優先されるべき」との意見が出されました。耐震化が進まない背景に、財政事情があることが分かります。
  また、議員交流会では、耐震改修工事と建て替えについても意見が出されています。春日部市の場合、改修工事費が78億円(工事期間中の移転費用含む)かかるのに対し、工事後の長寿命化は15年です。費用対効果を考えると、移転・新築の方がいいのではないか、との意見があり、財政負担は額の多寡だけでなく、得られる効果を含めて判断する必要が指摘されました。

(2) 「防災(震災)に関する自治体調査」について
     実施期間   2012年2月1日~2月28日
     対  象   県内全市町村(63自治体)
     回  答   63自治体(100%)
 東日本大震災によって、これまで想定していなかった多くの課題が明らかとなる一方、首都直下型地震の襲来が複数の調査機関によって報告され、地域防災計画の見直しが急務となっています。埼玉県は、3・11直後から地域防災計画の見直しに着手しましたが、市町村の動きはなかなか見えてきませんでした。そこで、各市町村において東日本大震災の教訓がどう生かされているのか、生かそうとしているのか?その課題を探るため、「防災(震災)に関する自治体調査」に取り組みました。調査項目は、自治労埼玉県本部と協議しながら決定してきましたが、被災者支援体制に関する職員配置などについては、自治労埼玉県本部の今後の取り組みに繋げる基礎資料とするため取り入れたものです。


① 地域防災計画について
 ア.防災(震災)計画の見直し時期について
改訂中
2012年(度)
2013年(度)
2014年(度)
その他
3自治体
29自治体
25自治体
1自治体
5自治体
  ・見直し時期について、未定、2013年以降と回答した自治体はその他としました。また、回答が「見直しが完了する」時期なのか、「見直しに着手する」時期なのか不明の自治体が多く、記載されている時期をそのまま当該年(度)に当てはめて集計しました。
  ・5自治体が時期未定であること、2013年(度)と回答した25自治体のなかには、見直しに着手はしても完了は2014年以降になることも考えられ、大規模地震が切迫していることを考えれば、早期の見直しが望まれます。
 イ.東日本大震災を踏まえた防災計画見直しの重点について(複数回答)
情報伝達
帰宅困難
放射能
被害想定
液状化
女性の参加
その他
39自治体
49自治体
42自治体
17自治体
5自治体
38自治体
18自治体
  ・その他の具体的記述は、避難所・備蓄、災害対策本部、孤立集落・大規模停電、遠隔地の被災地支援、石油燃料の調達と確保、職員体制の見直し、自主防との連携強化、初動体制の強化、要援護者対策、県の防災計画をもとに見直す等となっています。
  ・液状化被害が多数起きるなど独自の課題が表面化した久喜市は、「県の防災計画をもとに見直し」と回答していますが、他の項目は選択していません。しかし、県の防災計画をベースに見直すだけではなく市として防災のまちをどうつくるのかが求められていると思われます。
  ・「帰宅困難者対策」(77%)、「放射能対策」(67%)、「女性の参加・配慮」(60%)は、東日本大震災によって明らかになった課題です。全体の中では高い率を占めていますが、必ずしも十分とは言えず、的確に受け止められているのか疑問が残ります。
   また、的確な被害想定を挙げた自治体は17団体(27%)でした。計画は被害想定によって策定されるものですから、何より的確な想定が求められるはずです。東日本大震災で言われた「想定外」を繰り返さないためにも、綿密な被害想定が望まれます。
 ウ.被災時における自治体間の協力協定の有無について
ある
検討中
ない
60自治体
2自治体
1自治体
  ・あると回答した60自治体のうち、「県内市町村間の相互援助に関する基本協定」のみだったのが8自治体、他に県内近隣市町村で協定しているのが12自治体、隣接する都県の自治体と協定しているのが8自治体、その他の自治体と協定しているのが28自治体でした(具体的な自治体名が記入されていなかった6自治体は除く)。また、「県内市町村間基本協定」は、県内市町村すべてで締結されているものですが、3自治体が「ない」「検討中」と回答していることを見ると、実際に機能するのか、不安が残ります。
  ・首都圏直下型地震は、マグニチュード7級以上の地震が想定され、東京湾沿岸の広い範囲で震度7の揺れに見舞われる恐れが指摘されています。被害もまた広範囲に及ぶことになり、広域的応援体制は地震対策の必須条件です。県内全市町村間で結ばれている「埼玉県内市町村間の相互援助に関する基本協定」や県内市町村間(近隣自治体)協定だけでは、被災自治体同士(被害状況は一様でないにしても)であることが想定され、即応を期待することは困難と思われます。

② 震災対策について
 ア.避難所における一時的帰宅困難者への対応
十分対応できる
十分とは言えないが
対応できる
対応できない
その他
無回答
2自治体
47自治体
9自治体
4自治体
1自治体
  ・首都圏直下型地震では、多くの一時的帰宅困難者の発生が予想されます。当然、埼玉県内の各自治体においても、避難所の指定と体制整備が強く求められています。「十分対応できる」としたのが春日部市と毛呂山町です。「対応できない」と回答した市は和光市と吉川市です。指定避難場所以外の施設で対応、被害の程度による、町内で避難者が大量発生しなければ対応可、一時的帰宅困難者の規模によるなどの意見もありました。
   ・小中学校等避難所に備蓄している物資について、帰宅困難者に対して「十分とは言えないが対応できる」との回答が多数を占めました。一方、「対応できない」は、町村に多く、毛呂山町では「避難所には備蓄なし」とのことでした。
 イ.避難所となる小中学校に勤務する市町村職員の防災計画上の役割について
明確にされている
検討している
明確にされていない
職員がいない
その他
12自治体
17自治体
26自治体
6自治体
2自治体
  ・東日本大震災で避難場所の拠点になった小中学校は、予想される首都圏直下型地震でも、重要な防災上の施設に位置づけられています。その機能強化と学校に勤務する教師、とくに学校用務員等職員の存在と役割が見直されていますが、6自治体では「市町村職員がいない」と回答しています。
  ・役割が明確にされている場合、そのための防災訓練の実施についても調査しました。役割が明確にされている12自治体のうち、そのための防災訓練を「実施している」のが6自治体、「実施を検討中」が2自治体、「実施されていない」が2自治体、「無回答」が2自治体でした。
  ・市町村立にもかかわらず、小中学校に市町村の職員が配置されていないことに不安を覚えます。まずは、職員を配置し、防災計画上の役割を明確にして、防災訓練をきちんと実施していくのが基本ではないでしょうか。
 ウ.消防体制の状況
  ・東日本大震災では、自衛隊や警察と並んで自治体職員の献身的な救助・救援活動がありました。とくに消防職員は防災活動の中心的な役割を担うことになります。その消防職員の体制についての調査をしました。
  ・単独で消防本部を持っている自治体は職員数や充足率を把握しています。しかし、「国の基準を満たしている」と回答した市は、川越市と蓮田市、坂戸市のみで、市段階の回答は、おしなべて「不足」(充足率は60%~70%台に集中)と答えています。
  ・また、組合消防で対応している自治体では、実態把握が十分でないことが浮き彫りになっています。
 エ.災害時の医療体制
  ・医療体制に関して、「十分確保できている」と回答したのは、春日部市と入間市、毛呂山町だけです。多くの自治体は「充実にむけ検討している」「十分ではない」と答えています。
  ・平常時でも「医療過疎・埼玉」といわれていますが、首都圏直下型地震が関東を襲った場合、埼玉県には医療を必要とする被災者が大量に避難されると考えられ、医療体制の充実は、県の重要課題といえます。
 オ.園児・児童への対応
  ・保護者の勤務中に首都圏直下型地震が発生した場合、保護者が帰宅できないケースが考えられます。このような場合、園児や児童にどのような対応を考えているのか調査しました。自治体の多くは、「園児・児童を預かっている施設で、職員が、保護者が迎えに来るまで預かる」と答えています。ただし、保護者が当日に帰宅できないケースの対応については言及されていません。町村の多くは、「想定していない」と回答しており、防災体制での地域性が出ていました。
  ・また、和光市から「各保育園、小中学校に児童、生徒1日程度の食糧を備蓄している」との注目される回答がありました。小中学校に市町村の職員が配置されていることの重要性は前述のとおりですが、園児・児童の食糧についても備蓄が必要です。

③ 本調査で見えてきたこと
 東日本大震災は、災害時における市町村職員の役割の重要性を改めて浮き彫りにしました。ひとたび大規模災害が起きれば、被災地は広域化し、誰もが被災者という状況の中で、被災状況の把握から対応、復旧に向けた様々な業務は市町村職員が担わなければなりません。とりわけ、保育所や学校、清掃などの現場は、住民と直接向き合い、被災者支援の最前線を担うことになります。しかし、こうした現場の多くは、この間の集中改革プランのなかで、人員削減や民間委託などが進められ、十分な職員配置がなされているわけではありません。本調査でも、「学校に市職員はいない」などの回答がありました。
 また、消防体制にも懸念を感じます。国が示す「消防力整備指針」に満たない自治体が大半であり、組合消防の場合は市町村としてその状況すら把握されていませんでした。埼玉県は消防の広域化を進めていますが、市町村との連携に課題があることや、広域化された場合の「消防力整備指針」の基準値が下がることにも不安を感じます。


3. 調査を終えて

 調査結果は機関誌「埼玉自治研」やホームページで公開してきました。調査に協力いただいた各市町村の担当課(者)には、機関紙の送付をもって結果の報告とし、同時に今後の防災計画の見直し等に参考にしていただくよう、要請してきました。その後、いくつかの市から、調査結果に対する問い合わせがありました。
 本調査は、議員との連携にもつながりました。調査によって明らかになった課題をどう改善していくのか、議員交流会を開催し、意見交換してきました。一般質問に、調査結果を活用する議員も出てきています。今回の調査がきっかけになり、今後、自治体調査のテーマの設定や調査項目の整理など、議員と連携しながら進めていくことになりました。
 また、「防災に関する自治体調査」は、自治労埼玉県本部のニュースでも取り上げられ、今後の取り組み(人員要求)の基礎資料として活用するよう呼びかけています。

 以上見てきた調査結果は、本調査の一部ですが、質問の仕方が不十分なところがあるなど、自治体調査の難しさを感じています。同時に、自治体調査ならではの面白さや意義なども見えてきました。当センターは、今後も、自治体調査を活動の柱の一つに据え、議員や自治労埼玉県本部との連携はもちろん、課題ごとに問題意識を持つ市民とも連携しながら、時宜にかなうテーマで、具体的な課題やその解決策を明らかにできるよう、調査に取り組んでいくこととしています。