【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第3分科会 自然災害に強いまちづくり~災害から見えた自治体の役割~

 災害時に避難等の行動をとるのに支援を要する要援護者への取り組みが、国や各自治体で盛んになってきております。本市における災害時要援護者支援制度と、被災時に地域での声の掛け合いや救助などの地域福祉・防災の重要性を述べるとともに、岡崎市が平成24年から取り組む、あんしん見守りキーホルダー事業について報告します。



地域と行政による要援護者見守り活動
災害時要援護者支援制度とあんしん見守りキーホルダー事業

愛知県本部/岡崎市職員組合・岡崎市福祉部福祉総務課 西元  梓

1. 災害時要援護者支援制度

(1) 災害時要援護者
 災害時要援護者とは、必要な情報を迅速かつ的確に把握し、災害から自らを守るために安全な場所に避難するなどの災害時に一連の行動をとるのに支援を要する人々をいい、一般的に高齢者、障がい者、外国人、乳幼児、妊婦等があげられます。近年の地震等災害において亡くなられた方のうち要援護者にあたる方の割合が高く、要援護者の支援体制の必要性が全国で叫ばれています。

(2) 地域住民の力
 2011年3月11日に東日本大震災が発生しました。この東日本大震災では、地震とともに津波を伴い、1万6,000人近くの方が亡くなられ、未だ3,000人以上も行方不明となっております。本市の地域の防災団体でも、地域における防災活動の必要性を改めて感じる、と声があがっているとともに、本市としても災害体制・被災者支援体制の強化を行っています。
 要援護者は、災害発生時に適切な判断や避難行動をすることが困難な場合が多く、そういった時に、近隣地域の方々の力は要援護者の避難に不可欠なものです。

 1995年1月17日に発生した阪神淡路大震災は、内陸で発生した直下型地震で、神戸市を中心とした阪神・淡路島の地域で甚大な被害をもたらしました。この震災では、救助を求めていた約3万5,000人のうち、23%(7,900人)は自衛隊・消防隊が救助しましたが、半数は亡くなられていました。これに対し、77%の2万7,000人もの人たちを地域住民が救出し、その8割は生存者の救助でした。
※ 河田恵昭「大規模地震災害による人的被害の予測」より
 本市においては、2008年8月29日未明に豪雨水害が発生しました(8月末豪雨)。この8月末豪雨では14万世帯37万人に避難勧告が出され、床上・床下浸水3,300棟という大きな被害を受け、2人の尊い命が失われました。この2人はいずれも災害時要援護者にあたる、65歳以上のひとり暮らし、又は高齢者の世帯の方でした。しかし一方で、被災直後より近隣住民らの手による救助活動がいち早く行われ、一命を取り留めたという方もいらっしゃいました。


 
8月末豪雨の被災状況
 これらの災害から得た貴重な教訓とは「いざという時に一番頼りになり、助けとなったのは、近くの住民であった。」ということです。災害時には地域の人たちが声を掛け合って避難することが必要です。この教訓を糧に、本市では災害時要援護者支援制度の推進に取り組んでいます。


(3) 岡崎市の災害時要援護者支援制度
 
 岡崎市では2007年度から要援護者の同意を得て、地域支援者リーダー(防災防犯協会長(町毎で組織される防災組織)、民生委員児童委員、学区福祉委員会)に名簿を配布しています。地域の支援体制整備を図るとともに、平常時はこの制度を用いて見守り活動等を推進しています。

 岡崎市では災害時要援護者として、次のような方を登録の対象者としています。
  ・65歳以上のひとり暮らし高齢者
  ・65歳以上の高齢者のみの世帯の方
  ・介護保険要介護3以上の認定者で在宅の方
  ・在宅で第1種身体障がい者、第1種知的障がい者、戦傷病者手帳をお持ちの方
  ・精神障がい者、難病患者の方で一定の支援が必要な方
  ・上記に準ずる方

 要援護者の氏名、住所、年齢、登録の区分情報、身体障がいの情報、特記事項(人工呼吸器・酸素ボンベの有無など)、緊急連絡先2人までの氏名、住所、電話番号等を登録していただき、その情報を地域支援者リーダーに名簿としてお渡しします。この名簿配布によって、町内会等では今まで把握できていなかった方を新しく把握する事ができたり、地域支援者毎で同じ情報を共有できるなどの利点があります。2012年4月1日現在では、市で把握している災害時要援護者が13,263人で、そのうち制度に同意されて登録されている方が7,437人となっています。

(4) 災害時要援護者個別支援計画の策定
  災害時要援護者名簿を活用し、災害時に要援護者が車椅子・担架が必要など、どのような支援が必要か、誰が支援を行うか、また平常時の見守りをどのようにしていくのかなどについて地域で計画する、個別支援計画の策定を推進しています。
 地域支援者リーダーの防災防犯協会長に行った2011年度のアンケートでは、個別支援計画を作成している町の割合(作成中含む)が35.3%であり、2016年度までに60%を目標に推進していきたいと思います。


2. あんしん見守りキーホルダー

(1) あんしん見守りキーホルダーの概要
 岡崎市は2012年度、災害時要援護者が安心して地域で暮らす事ができるように、地域住民の見守りの向上と緊急時の支援を強化することを目的として、あんしん見守りキーホルダー事業を行っております。

 あんしん見守りキーホルダーを配布する対象者は、本市の災害時要援護者支援制度に登録されている方々です。見守りキーホルダーには、登録番号(見守りナンバー)と、岡崎警察署および岡崎市消防本部の電話番号が記載されています。



 このキーホルダーを、普段外出時に身につけられている、かばんや杖などに付けていただきます。緊急時(外出先で倒れた、認知症の方の徘徊等)には、その方を見かけられた地域のかたから警察や消防へ連絡していただき見守りナンバーを伝えていただく事で、要援護者が市に登録している情報を確認し、身元確認や保護、身内の方への緊急連絡等を迅速に行うことができます。警察署と消防本部が連携することにより24時間365日対応できる体制を作っています。



(2) あんしん見守りキーホルダーの実施
 高齢者や認知症の方に同様のキーホルダーを配布している市町村等はありますが、災害時要援護者全員に配布するのは本市が初めてとなります。

 この見守りキーホルダーは地域支援者を通じて要援護者に配布します。この配布活動において訪問する際に、要援護者と地域支援者が初めて顔を合わせる場合も多く、地域での繋がりを持つことができます。また配布の訪問の際に災害時要援護者個別台帳の作成も推進しており、地域での見守り活動が更に活発となるよう取り組んでいきます。

 既に実際にお配りした要援護者やそのご家族の方からは、「大変ありがたい、安心して外出ができます。」「外出する際には本人に住所氏名などを書いた紙を渡していたが、キーホルダーがあれば安心です。」と好評を得ています。

3. 最後に

 地域のつながり、地域の力と言うものは非常に大切で、災害時には声を掛け合って避難をする事が出来るとともに、地域支援者とつながりができることで要援護者も安心して地域生活を送ることができます。
 地域の防災訓練での要援護者避難訓練の推進、福祉避難所の充実、地域支援者へ福祉について学ぶ場を作る出前講座(車椅子講習等)の実施など、本市社会福祉協議会とも協力して、災害時要援護者の支援体制作りや、地域福祉の強化に取り組んでいます。
 2012年3月に本市では第2次岡崎市地域福祉計画を策定し、『みんなで築く ホッとなまち 生き生きと暮らせる 支えあいのまち』と言う基本理念を掲げています。災害時要援護者支援制度やあんしん見守りキーホルダー事業を通しても、地域で支え合い安心して過ごすことの出来る街づくりに取り組んでまいります。