2. 調査の結果
(1) 地域防災計画の見直しについて
① 東日本大震災以後の地域防災計画の見直し状況
地域防災計画は、災害対策基本法に基づき、各自治体が災害予防、災害応急対策、災害復旧・復興に関する業務などを定める計画である。東日本大震災以降、15自治体が地域防災計画の見直しに着手している(見直し完了4自治体、見直し中11自治体)。他の29自治体は、県や国の防災基本計画や被害想定の修正結果が出てから対応すると回答した。ただし、この中には被害想定を行う地震をすでに見直した14自治体が含まれているほか、全44自治体が個別具体的な取り組みの見直しに着手しているか、見直しを予定している。このように、地域防災計画の見直しよりも個別具体的な取り組みの見直しを先行して実施していることが見てとれる。
② 地域防災計画の策定・見直しの参画・反映状況
地域防災計画の策定および見直しにどのような人が参画し、住民意見を反映する機会を設定しているかを聞いた。全44自治体で自治体職員が参画し、32自治体で外部有識者が参画していた。一方、公募・推薦の住民が参画しているのは3自治体、アンケート・ヒアリング・パブリックコメントなどを通じて住民の意見を反映させているのは3自治体にとどまった。
③ 地域防災計画上の被害想定地震に関する見直し
一般に、地域防災計画においては、想定地震を設定し、当該自治体の被害想定がなされている。東日本大震災が発生した時点で、最も多くの自治体で想定されていたのは東海・東南海地震(二連動)で、40自治体(90.9%)で想定されていた。そのほか、東海地震32自治体(72.7%)、東南海地震28自治体(63.6%)、養老-桑名-四日市断層帯18自治体(40.9%)が多く、過去に実際に起きた濃尾地震や三河地震の再来や直下型地震を想定している自治体もあった。被害想定にあたっては、44自治体中40自治体が県の被害想定を活用していた。
東日本大震災の発生以後、被害想定地震を見直すとしたのは22自治体で、検討中と回答した18自治体を合わせると、9割の自治体が見直しを検討している。東海・東南海・南海地震(三連動)を被害想定地震に追加したのは11自治体で、追加を予定している24自治体と合わせると、35自治体(79.5%)にのぼる。とくに、沿岸部の15回答自治体の内、「国と県の想定を活用する」とした1自治体を除く14自治体すべてが東海・東南海・南海地震を追加する方向で見直し・検討を進めている。
(2) 地震防災対策の見直しについて
① 避難所および福祉避難所の施設数・収容可能人数
大規模災害時には、短期間の一時避難にとどまらず、長期間の避難生活を余儀なくされる住民が多数出ることが想定される。そこで、自治体が指定する避難所の施設数および収容可能人数を聞いた。
44自治体の避難所の合計施設数は3,127施設であり、「不定数」と回答した1自治体を除く43自治体の合計収容可能人数は750,869人であった。上記1自治体を除く43自治体の合計施設数は3,098施設であり、43自治体の居住人口(6,489,588人)に対する避難所の収容可能人数の割合(住民収容率)は11.6%である。自治体ごとに住民収容率をみると、0.9%から118.1%とかなりのバラつきがみられる。自治体の人口規模別に住民収容率をみると、人口1万人未満の3自治体は平均85.6%、人口1万人以上5万人未満の12自治体は平均22.8%、5万人以上10万人未満の13自治体は平均26.2%、10万人以上20万人未満の9自治体は平均18.4%、20万人以上の5自治体は平均7.5%で、概ね自治体の人口規模が大きくなるにしたがって、住民収容率が低くなる傾向がみてとれる。なお、避難所の収容可能人数について、ある自治体は1人の避難者が必要とする面積を3m2で計算し、別の自治体は1.65m2(畳1畳相当)で計算していた。このように、自治体によって算出方法が異なることに留意されたい。
大規模災害時には、介助が必要な高齢者や障害者、妊産婦らの災害時要援護者に配慮した福祉避難所の開設が求められるが、福祉避難所の設置を予定しているのは29自治体にとどまった。収容可能人数の回答があったのは22自治体で、20,626人の収容が可能としている。ただし、1市で1施設に2,375人収容可能、1町で7施設に9,418人収容可能と、2自治体の収容可能人数が突出している。両自治体では、大型の公共施設などを要援護者の収容が可能な避難所として指定し、施設面積を1人当たりが必要とする面積(1市は5m2、1町は3m2)で割って収容可能人数を算出しているため、実際の収容人数とは異なると考えられる。福祉避難所の施設数および収容可能人数の各合計から上記2自治体分を差し引くと、20自治体で185施設、8,833人の収容が可能であり、1施設当たりの平均収容可能人数は47.7人である。
② 災害応急対策活動に必要な建築物の耐震化の状況
大規模災害時に災害対策の拠点や避難所となる施設の耐震化は急務である。施設の種類ごとの耐震化率を聞いたところ、「小中学校」97.1%、「福祉施設」90.3%は9割を超えていた一方、「救護建築物」88.4%、「災害応急対策の指揮、情報伝達等をする建築物」83.0%、「幼稚園、保育所」82.1%、「上記以外の避難所指定の建築物」86.1%は8割台にとどまった。
庁舎、警察署、消防署、保健所などの「災害応急対策の指揮、情報伝達等をする建築物」の該当施設数もしくは耐震化率の回答があった35自治体の内、すべての該当施設の耐震化が完了していたのは21自治体にとどまった。残り14自治体の耐震化率は、80%以上100%未満が2自治体、60%以上80%未満が6自治体、40%以上60%未満が3自治体、0%以上20%未満が3自治体であり、耐震化の進捗にバラつきがみられた。
民間建築物の耐震化の状況について、「不明」と回答した自治体が多かった。災害時の拠点施設においては、公共・民間の区別を問わず、耐震化の状況を把握するとともに、耐震化を促進する取り組みが行政に求められよう。
③ 東日本大震災以後の地震防災対策の見直し状況
県内市町村における具体的な地震防災対策はいかなる実施状況にあるのであろうか。発災時における行政機能の維持対策、地震動・液状化対策、避難対策の取り組みについて、東日本大震災以前の取り組みの有無および震災以後の見直し状況を聞いた(表1)。
大規模災害が発生した際、行政機能が麻痺すれば、災害応急対策および復旧・復興に大きな支障が生ずることになる。東日本大震災以前、自治体の業務継続計画(BCP)を策定していたのは4自治体に限られていたが、震災以後、新たに28自治体が新規策定に着手もしくは着手を予定していると回答している。
東日本大震災では、首都圏を中心に多くの帰宅困難者が発生した。これに関し、震災以前から34自治体が帰宅困難者対策を講じていた。一方、本調査結果と2005年国勢調査を照らし合わせた結果、従業地・通学地として、他自治体から流入する人口が2万人を上回る4自治体で帰宅困難者対策が講じられていないことが明らかとなった。
災害時要援護者の避難対策の必要性についても、東日本大震災で改めて認識されることとなった。震災以前、40自治体が災害時要援護者の現状把握に取り組んでいた一方、要援護者の避難手順を策定していたのは18自治体、要援護者の避難訓練を実施していたのは24自治体にとどまっていた。震災以前に取り組みをしていなかった自治体の内、7自治体が要援護者の避難手順の策定、4自治体が要援護者の避難訓練を新たに実施すると回答している。
表1 愛知県内市町村における地震・津波防災対策の実施状況 |
取り組み項目
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震災前 実施率
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震災後 実施率
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震災前未実施
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震災後 未 定
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震災後 予定無
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発災時における行政機能の維持対策
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庁舎機能を喪失した際の代替施設の確保
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45.5%
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50.0% (54.5%)
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25.0%
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20.5%
|
自治体の業務継続計画(BCP)の策定
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9.1%
|
18.2% (72.7%)
|
27.3%
|
0.0%
|
他自治体等からの応援の受入体制の整備
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63.6%
|
79.5% (81.8%)
|
13.6%
|
4.5%
|
各種行政情報のバックアップの構築
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88.6%
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90.9% (95.3%)
|
2.3%
|
2.3%
|
自治体と指定管理者による共同防災訓練
|
29.5%
|
29.5% (31.8%)
|
50.0%
|
18.2%
|
発災時の自治体職員の参集・初動の策定
|
95.5%
|
97.7% (100.0%)
|
0.0%
|
0.0%
|
災害時の災害・避難状況等の情報収集
|
95.5%
|
95.5% (97.7%)
|
0.0%
|
2.3%
|
災害時の住民に対する情報提供
|
97.7%
|
100.0% (100.0%)
|
0.0%
|
0.0%
|
地震動・液状化対策
|
公共施設・インフラ等の耐震化
|
90.9%
|
93.2% (95.5%)
|
4.5%
|
0.0%
|
公共施設・インフラ等の液状化現象対策
|
36.4%
|
36.4% (38.6%)
|
43.2%
|
18.2%
|
民間木造建造物の耐震診断・改修補助
|
93.2%
|
95.5% (97.7%)
|
2.3%
|
0.0%
|
発災時における避難対策
|
災害時要援護者の現状把握
|
90.9%
|
95.5% (97.7%)
|
2.3%
|
0.0%
|
災害時要援護者の避難手順の策定
|
40.9%
|
45.5% (56.8%)
|
31.8%
|
9.1%
|
災害時要援護者の避難訓練の実施
|
54.5%
|
61.4% (63.6%)
|
29.5%
|
6.8%
|
非常用食料・飲料水、資機材の備蓄
|
100.0%
|
100.0% (100.0%)
|
0.0%
|
0.0%
|
帰宅困難者対策
|
77.3%
|
77.3% (79.5%)
|
11.4%
|
9.1%
|
地区別の避難計画の策定
|
20.5%
|
20.5% (31.8%)
|
47.7%
|
18.2%
|
孤立地域(集落等)対策
|
20.9%
|
20.9% (23.3%)
|
14.0%
|
60.5%
|
津波防災対策(注2)
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津波ハザードマップの策定
|
57.9%
|
68.4% (73.7%)
|
21.1%
|
5.3%
|
住民の津波避難マニュアルの策定
|
36.8%
|
42.1% (52.6%)
|
42.1%
|
5.3%
|
住民が参加する津波避難訓練の実施
|
47.4%
|
68.4% (78.9%)
|
21.1%
|
0.0%
|
小・中学校での津波避難訓練の実施
|
36.8%
|
68.4% (73.7%)
|
21.1%
|
5.3%
|
津波避難路の整備
|
15.8%
|
21.1% (36.8%)
|
57.9%
|
5.3%
|
津波避難場所・避難所の指定
|
31.6%
|
68.4% (78.9%)
|
15.8%
|
5.3%
|
消防団による津波対応
|
66.7%
|
66.7% (72.2%)
|
16.7%
|
11.1%
|
水門の自動化・遠隔操作化
|
27.8%
|
27.8% (27.8%)
|
55.6%
|
16.7%
|
海岸堤防改修・補強
|
11.8%
|
17.6% (17.6%)
|
58.8%
|
23.5%
|
低地・地下街等の浸水防止対策
|
15.8%
|
15.8% (15.8%)
|
52.6%
|
26.3%
|
注1 震災後実施率の欄のかっこ内の数字は、震災前は取り組みがなかったが、今後取り組みを予定しているとの回答を含めたもの。
注2 津波防災対策は同対策に取り組む19自治体に実施状況を聞いた。
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④ 重点的に取り組んでいる地震防災対策
上記に挙げた地震防災対策のほか、福祉避難所の指定、公園や防災倉庫、耐震性貯水槽などの防災施設、同報系無線の整備、衛星携帯電話、エリアメールなどの情報伝達方法の追加、防災教育、市民参加型の減災プロジェクトの実施、避難所生活者への心身のケア対策などが挙げられた。
⑤ 災害時相互応援協定の締結先別協定数
東日本大震災では、甚大な被害を受けた被災自治体に対して、他の自治体からさまざまな支援がなされ、自治体間連携の重要性が再認識された。
今年3月1日現在、44自治体で延べ1,333件の災害時応援協定等が締結されている。締結数別にみると、1~9件が8自治体、10~19件が14自治体、20~29件が7自治体、30~39件が5自治体、40~49件が3自治体、50件以上が7自治体で、最も多い自治体の締結数は238件であった。このように、自治体によって協定締結数にはバラつきがみられる。なお、国の省庁および出先機関、県との協定が該当する選択肢を設けていないため、これらは含まれていないこと、回答自治体の件数を単純合計しているため、県内の複数市町村間による協定など、1本の協定を重複してカウントしている可能性があることに留意されたい。
締結先別にみると、民間事業者等との協定が876件と最も多く、全体の65.7%を占める。以下、県内の複数市町村との協定174件(13.1%)、他市町村・民間等が混合した協定123件(9.2%)、県外の複数市町村との協定79件(5.9%)、県内の単一自治体との協定46件(3.5%)、県外の単一市町村との協定34件(2.6%)と続く。
東日本大震災以後、新たに締結された協定は165件で、全体の12.4%を占める。この内、民間事業者等との協定が135件、81.8%を占める。他市町村との協定では、県内の複数市町村および県外の単一市町村との協定が多い。
⑥ 防災対策の見直しを進める上での課題
防災対策の見直しを進める上でとくに課題となっていることを聞いたところ、「人員の制約」が最も多く、26自治体が挙げた。「住民の防災意識の向上と持続」と「国・県の対策が見直しの途上にあること」がそれぞれ24自治体、従前、想定外だった事態にどこまで対策を講じるかという「対策の範囲」が20自治体、「予算の制約」が18自治体、「知識・ノウハウの不足」が14自治体であった。自由意見では、地域によって防災意識の温度差があることや役所内の機構改革や人事異動の影響でノウハウが蓄積されないことなどの課題が挙げられていた。
(3) 津波防災対策について
① 津波防災対策の取り組みの有無
回答があった44自治体の内、現在、津波防災対策に取り組んでいるのは19自治体である。この中には、沿岸部の自治体だけでなく、津波の河川遡上の可能性を考慮して津波防災対策に取り組んでいる内陸部の自治体も含まれる。
② 地域防災計画上における津波・津波被害の想定
現在、津波防災対策に取り組んでいる19自治体の内、東日本大震災が発生した時点の地域防災計画で、津波の到達の有無および高さ、被害の有無を検討していたのは13自治体であった(内、沿岸部の自治体は10自治体)。この内、津波により何らかの具体的被害が生じることを想定していたのは7自治体であった。
震災以降に津波による具体的な被害想定を見直した、もしくは、今後見直す予定があると回答したのは9自治体で、いずれも沿岸部の自治体である。残りの10自治体は「検討中」と回答した。
③ 東日本大震災以後の津波防災対策の見直し状況
自治体独自に見直しをはかると回答した自治体は7自治体で、いずれも沿岸部の自治体である。残りの12自治体は国や県の計画および想定が見直されたのちに対応すると回答している。ただし、これらの中には、個別具体的な津波防災対策の見直しに着手している自治体も散見される。
④ 津波一時避難場所の種類、津波避難ビルの状況
回答した16自治体の内、「津波避難ビル」を挙げる自治体が8自治体と最も多く、6自治体が「高台にある公園・広場」、1自治体が「高架道路」を挙げた。津波に限定した避難場所を指定していない自治体も複数あった。津波避難ビルを指定している8自治体の内、想定される避難者数に対して必要な施設が確保できているのは1自治体にとどまり、4自治体は確保できていないと回答している。津波避難ビルを指定している1市からは、高台避難を原則とし、津波避難ビルは時間が限られた場合の緊急避難先と位置付けている旨の回答が寄せられた。
津波避難ビルについて、公共建築物と民間建築物ごとに棟数と収容可能人数を聞いた。
公共建築物を津波避難ビルに指定しているのは6自治体、計64棟である。収容可能人数を不明と回答した1自治体を除く、5自治体の合計収容可能人数は60,470人であり、1棟当たりの平均収容可能人数は945人である。
民間建築物を津波避難ビルに指定しているのは8自治体、計68棟である。収容可能人数を不明と回答した2自治体を除く、6自治体の合計収容可能人数は26,687人であり、1棟当たりの平均収容可能人数は392人である。
⑤ 津波防災対策に関する取り組み
東日本大震災を踏まえ、新たな津波防災対策の取り組みに着手した、もしくは、着手を予定している自治体が多い(表1)。震災以前と比較して、震災以後、津波避難場所・避難所の指定、住民が参加する津波避難訓練の実施、津波ハザードマップの策定、小・中学校での津波避難訓練の実施、津波避難路の整備の実施自治体(予定を含む)が増加している。このように、ソフト事業を中心として、着手可能な取り組みから順次実施されていることが見てとれる。一方、想定される津波高が明示されていなかった調査時点においては、多額の予算を要するハード面の対策を実施すべきか否かの判断が留保されていた可能性がある。
⑥ 重点的に取り組んでいる津波防災対策
上記に挙げた津波防災対策のほか、沿岸部の町内会、自主防災会、行政機関などで構成する津波対策推進協議会の設立、津波対策計画の策定、標高表示板の設置、消防団へのライフジャケットの導入などが挙げられた。
3. 考 察
東日本大震災から約1年が経過した今年3月現在、県内自治体において広く地震・津波防災対策の見直しが進められていることが本調査によって確認された。ただし、従来、想定外であった巨大地震と大津波の発生を踏まえた防災対策の見直しに明確な答えはなく、各自治体が手探りで進めていることがみてとれる。現状における課題として、居住人口に対する避難所の収容可能人数の割合は自治体によって開きがあることが明らかとなった。福祉避難所を開設する予定がある自治体は約3分の2にとどまっており、その収容可能人数も十分とはいえない。庁舎などの拠点施設の耐震化や代替施設の確保、BCPの策定などによる発災時の行政機能の維持も課題である。
南海トラフにおいて巨大地震が発生すれば、関東から九州の広範囲にわたり甚大な被害が想定される。そうなれば、物資や燃料、ライフラインの供給は長期間滞り、他地域からの救援・支援への過大な期待はできないであろう。地震・津波に対する人々の意識は次第に薄れていくかもしれないが、大地震はいつか必ず来る。そのときの減災のために必要なもの――それは、行政による防災対策の一層の強化と住民一人ひとりの意識と想像力、備えである。
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