2. 稲沢市地域防災計画について
このように、ボランティアによる復興支援に絶大な力を発揮する災害ボランティアセンターですが、稲沢市における災害ボランティアセンターの位置づけはどのようになっているのでしょうか。
(1) 災害ボランティアセンターの位置づけ
稲沢市が策定している防災計画である「稲沢市地域防災計画(2009年度策定)」では、災害ボランティアセンター(計画では地域ボランティア支援本部の名称)の開設主体が市災害対策本部となっており、東日本大震災において大多数の自治体でみられたような社会福祉協議会主体による設置計画となっていません。
また、計画上の災害ボランティアセンターの活動項目も、「ボランティアの派遣要望場所や必要人員数、種別や内容等の被災者ニーズの把握」、「ボランティアの受け入れ、登録」、「ボランティアコーディネーターの派遣要請」、「ボランティアに関する情報提供」など、災害ボランティアセンターが担うべき役割が網羅されていますが、その運営方法については、活動項目全般を市職員が直営で行う計画となっており、東日本大震災における各被災市町村の対応とは大きく異なっています。
この地域防災計画は東日本大震災前に策定されたものであり、「大規模災害」の想定が東日本大震災前後で大きく異なります。現在、稲沢市では「地域防災・減災基本計画」として新しい計画を策定している最中です。行政機能停止等の最悪の事態を想定すると、自治体独力でボランティアセンター運営をすべて行うことは困難であり、運営方法の見直しが必要であると感じます。
(2) 社会福祉協議会との連携
稲沢市と社会福祉協議会との連携についても、防災計画上には「その他関係団体との連携」とあるのみで、社会福祉協議会との個別の連携について特段の記載はありません。
市と社会福祉協議会との間には、災害時に必要な資機材の確保や職員の派遣についてすでに協定を結んではいますが、災害が実際に発生した際に協定にある物資を市がどこから調達して、社会福祉協議会までどのように届けるのかといった具体的な内容までは定められていません。
さらに、社会福祉協議会の建物自体が1981年以前の建築であり、耐震強度が不十分であるため、三連動地震のような大規模災害が発生した場合、社会福祉協議会の建物が活動拠点として活用が困難なだけでなく、最悪の場合、建物の倒壊により社会福祉協議会の職員の大半が死傷し、機能不全に陥る可能性もあります。
3. 今後の災害ボランティアセンターのあり方について
(1) 提 言
東日本大震災では首長を始め多数の自治体職員が亡くなるなど、行政機能が壊滅的な状況に陥った自治体もありました。また、そこまでの被害ではなかったとしても、通常提供している行政サービスに加えて、義援金関連の事務や罹災証明書の発行等、想定外の膨大な業務に追われることとなり、災害ボランティアセンターの運営までは手が回らないことは明らかです。
復興支援に大きな役割を果たす災害ボランティアセンターの運営、設置については、稲沢市社会福祉協議会を主体にして、市との連携を強化する計画に改める時期にあると考えます。
災害ボランティアセンターを設置する場所についても、社会福祉協議会の事務所が入っている稲沢市社会福祉会館は、敷地面積が狭く建物自体が耐震基準を満たしていないため、大規模災害発生時の活動拠点としては活用できないため、再考を要します。地域防災計画では市災害対策本部内となっていますが、実際に私たちが活動した東松島市災害ボランティアセンターをみても、ボランティアの出入りも多く、テントの設置スペースも含めて相当広いスペースが必要となります。稲沢市では現在、福祉とボランティアの拠点施設を新たに将来整備することも検討されていますが、そのような適切な場所を決め、あらかじめテントや支援物資の一部を同所に保管し、災害時優先電話やFAX、パソコン等の通信機器や、コピー機等の事務機器を確保するよう提言します。
また、市が実施している防災訓練についても、避難訓練だけでなく避難所の運営訓練も行うこととし、準備段階から社会福祉協議会職員も参加した上で実施することで、市と社会福祉協議会との連携体制の構築をはかるよう提言します。
(2) おわりに
東日本大震災を経験した今日では、私たちは防災対策において「想定外」という言葉を安易に使うことは許されなくなっています。防災と復興支援という住民生活に直結する課題については、最も基本的な自治体の役割と言えますが、すべてが自治体単独で完結できるものではありません。例えば避難所の運営ひとつとってみても、従来想定されていたような避難期間がせいぜい2、3か月の場合は市職員による運営も可能ですが、東日本大震災のように長期間の避難所運営が必要となった際に、行政だけの運営では到底維持できません。こうした際に力を発揮するのがボランティアです。行政や民間企業の手の届かない、隙間の部分を単純な人力でケアしていくボランティアの力は、本来組織だったものではありません。しかし、災害ボランティアセンターが十分に活動できる仕組みを整えることで、こうしたボランティアを組織的な力に変えていくことができます。今後は、社会福祉協議会だけでなく、災害ボランティアセンターの運営支援の経験を持つボランティア団体やNPO団体とのつながりを模索することも必要になってくると考えます。
東日本大震災の経験を生かして、行政と災害ボランティアセンターが日ごろから連携していく体制を強化していくことで、いざ大規模災害が発生した際に、私たちの地域、自治体が全国各地からの支援を受ける力、「受援力」を高めていくことができると考えます。 |