【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第3分科会 自然災害に強いまちづくり~災害から見えた自治体の役割~

 2011年9月の台風12号災害に対し、五條市職としての取り組みをご報告させて頂き、今後自治体で取り組むべき防災体制、自治体労働のあり方、自治体財政における支出と後年度負担などの問題の課題を考えて頂ける具体的な事案として提言します。



災害時、自治体はどう動くべきか?


奈良県本部/五條市職員組合

1. 五條市の被災状況について

(1) 大塔地区について


(2) 災害状況
 鍛冶屋谷崩落、清水地区崩落、赤谷地区崩落。


赤谷緑地公園キャンプ場の崩落現場

(3) 人的被害の状況(2012年6月末現在)
 死亡 7人、安否未確認者 4人

(4) 住宅被害状況(2012年6月末現在)

(一般住宅の状況)
全壊    17件
半壊    2件
一部損壊  5件
床下浸水  5件
(公共施設の状況)
宇井集会所、公衆トイレ、グランド東屋、宇井消防コミュニティセンター、体育倉庫
デイサービス大塔、大塔保育所、みどり園大塔分所
赤谷オートキャンプ場、小水力の館


2. 災害発生、状況の把握等の対応について

(1) 台風12号での災害の状況把握
 土砂崩れによるライフライン寸断の影響で、災害状況の把握は容易ではなかった。唯一の手段として活躍したのが防災無線や通信会社より借り受けた衛星電話で、大塔支所との交信や状況把握に用いられた。また、大塔支所の「こまどりケーブルIPフォン」が使用可で、本庁や県等へ連絡できた。しかし、衛星電話で伝わりにくい伝達等についてはやはり人が出向かなければならなかった。

(2) 災害発生時における住民保護の初動状況(緊急車両通行、けが病人の搬送)
 警報等の発令により配備指令に基づき参集した職員は、職員災害初動マニュアルの通り、各担当課において分担された役割や避難所の開設・運営にあたっていた。

(3) 孤立集落への連絡、保護
 大塔地区で発生した孤立集落(中井傍示、惣谷、篠原、飛養曽、引土)へのアプローチは、地理に長けた大塔支所職員と消防職員、警察、自衛隊が徒歩で出向き対応した。

(4) 五條市災害対策本部の動員体制の推移
      9月1日15時48分 五條市南部大雨警報
          17時15分 1号警戒準備体制:大塔支所及び危機管理課による警戒体制
      9月2日12時33分 五條市北部大雨警報。風水害時配備基準に基づく災害警戒1号警戒体制
          15時15分 風水害時配備基準に基づく災害警戒2号警戒体制
          20時35分 災害対策本部設置 第1号動員体制
      9月3日3時55分 第2号動員体制
          4時00分 五條市新町1丁目及び本町2丁目 262世帯569人に避難勧告
          12時00分 第1号動員体制
          22時頃  ふれあい交流館へ宇井一部住民、赤谷地区・清水地区住民避難。辻堂集会所へ辻堂住民(6世帯11人)避難。
          23時頃  猿谷ダム管理所より過去にないダム貯水放流量増量との報告をうけ、河川流域居住者へ避難指示を行政防災無線で放送実施。辻堂集会所の避難住民を大塔支所へ移動。宇井、清水、赤谷の住民はふれあい交流間へ避難。
      9月4日1時   猿谷ダム放流量最大値1,343.62m/Sを記録
          3時頃  辻堂雨量観測1,053mm/hに到達
          7時07分 清水地区林地崩壊による宇井地区の災害発生
          7時10分 宇井崩落現場の土砂ダムにより大塔支所浸水危険のため辻堂自治会避難者を安全なところへ。猿谷ダム方面は土砂により車両通行不可、殿野地区へは住民の道路土砂撤去で通行可が判明。殿野西教寺へ、辻堂地区住民20世帯31人を避難。
          7時40分 第3号動員体制
          15時30分 西吉野町十日市~南宇智地区の丹生川沿い979世帯2,635人に避難勧告
          16時00分 第2号動員体制。天川村九尾の土砂ダム決壊の恐れのため、一郷方面(阪本、小代、中原)住民70世帯、135人に対し避難指示を行い、天辻集会所並びに、コスミックパークロッジ星のくにへ避難。
          未明   九尾土砂ダム決壊危険性無くなったため一郷方面避難指示解除。
      9月5日     川西地区(飛養曽、引土)道路崩壊の危険性により19世帯36人に避難指示発令。天辻集会所に避難所開設し、4世帯7人を残し他市各親族宅へ避難。
      9月8日18時30分 災害対策本部を大塔支所へ移転
          未明   赤谷土砂ダム決壊の危険性があり、ふれあい交流館に避難している宇井地区住民54世帯101人にロッジ星のくにへ再度避難指示。
      9月16日17時00分 災害対策基本法第63条により「警戒区域」の設定(宇井、清水、赤谷地区)・立ち入り制限・罰則付き
      9月20日18時30分 災害対策本部を本庁に再移転。現地災害対策本部を大塔支所に設置
      9月28日8時30分 第1号動員体制
     ・現地へ派遣された職員の労働実態は、24~27時間勤務(72時間連続勤務や3週間以上帰宅出来ない)となり、通常業務に加え災害対応という非常に過酷な勤務体制となった。災害対応の超過勤務については、全額条例通り支給された。
     ・非常事態の中、職員一人一人の英知を要し迅速な対処をしたが、日々交代の派遣職員への引継ぎが難しく、連続勤務を避けられなかった。
     ・市職員の大塔支所へ協力体制  延べ110日1,100人(内72時間連続対応職員有り)


3. 災害支援について(2012年6月末現在)

・奈良県南部の主要道路国道168号線は土石流で一時通行不能だったが、所管官庁や自衛隊、建設業者等の協力で、通行規制はあるが半日で通行できる状況となった。
・避難所運営で重要な支援物資等の調達は、現場から直接必要なものを聴取し対応した。
・活動人員は、五條市消防本部が1,154人、五條市消防団が1,424人、県下11消防本部423人、警察部隊(他府県応援含)が3,430人、自衛隊(全ての活動)が11,212人、合計延べ人数 17,643人。
・衛生面では、保健師が延べ84人出動し避難所訪問・臨戸訪問を実施、相談者は810人にのぼった。
・炊き出しは、五條市赤十字奉仕団40人、五條市婦人会連絡協議会10人、五條市更正保護女性会20人が参加し、大塔支所・須恵公民館にて12日間実施された。食材については市から支給。

◎今後の課題
・本部各部・班の事務分掌(職員災害初動マニュアル)の再編成
  → 今回は、五條市山間地域の局所的災害で、当該所管の大塔支所では固定職員約10人を確保し、現状把握や情報維持共有ができたが、①これが大地震による広域災害の場合に各部署を越えた連携が取れるか?②今回の災害対応がどう参考になるか?③避難所へのアクセスや住民へのケアが十分行えるか?④衛生面等の管理、避難者の状況確認、情報伝達を現在の400人の職員が本所、支所、避難所に分かれてどう行動できるか?が課題になる。
・災害情報を職員間で共有するため、職員は必ずカメラを持参し撮影共有ファイルへ投稿する。ただし、データ保護のため複製の搭載が必要。ホームページへの状況掲載=情報発信方法及びプレス対応は、広報担当職員を複数専門化し絶えず情報発信業務を位置づける必要がある。


4. 災害からの復旧・復興について

・大塔保育所が被災し、大塔小中学校(グラウンド、プール、体育倉庫等被災)も避難指示区域となり、旧西吉野小学校を仮校舎とし、他の学校等から教材や備品等を集め、地元の父兄や消防職員等の搬入手伝いにより、早期に保育・授業を再開することができた。
・仮設住宅は大塔地区に17戸、五條高校跡地に40戸建設した。東日本大震災の経験から防音対策のため2戸1棟住宅とし、厳重な寒冷地仕様(ペアガラス・水道配管への電熱線設置、電熱便座等)工事は9月30日に着工し、大塔地区は10月27日、五條は11月5日に完成し、それぞれ10月30日、11月6日から入居を開始し、全員の仮設住宅入居により11月12日に避難所を閉鎖した。
・民間委託の介護福祉関係(デイサービスセンター)も被災し、業者撤退でデイサービス等の老人介護が途絶えた。現在、財団法人ふる里センターが業務を引き継ぎ2012年6月から実に10ヶ月ぶりに復旧された。弱小地域の指定管理による行政サービス代行の問題が表面化した事例と考える。
◎今後の課題
・仮設住宅の提供期間は2年間で、2年後に自宅に戻れない方及び自立できない方の住宅の確保。
・被災地域または、市全体がいかに地元の活力を引き出せるか。「住民が率先して復旧復興する。」そんな環境を提供しなくてはいけない。


5. その他

・マスコミについては、立入禁止区域へ平気で入ってくる等、対応に手間取った。
 → マスコミは横柄で遠慮が無く、そのインタビューに職員が単独でコメントすると混乱を招くが、状況の広報には欠かせない存在である。情報の一元化のため、記者会見を開いて情報提供を行ってきた。情報の収集整理が難しいが、あらゆる方面へ情報提供を早くできるようすべき。
・今回の災害派遣で普段一緒に仕事をしない職員と共に作業をしたことで、職員同士のつながりができた。
・現場の主任、係長クラスが、臨時的人事協力の管理職への指示や、多項目の業務管理を課せられた。
・避難住民への情報連絡、意思統一に際し各自治会に負担を強いたため、住民サービスに差があった。
 特に、避難所開設情報案内や仮設住宅申請内容は、かなり優劣が生じた。一部の方に災害時対応に不満や不信感を与えた。平等な情報や避難場所等の提供、安否確認等を今後どう行うかを検証すべき。
・ボランティアについては、募集を行ってなかったために、実際これらた方の手助けをお断りした事があった。


6. 最後に

 災害発生時の初動で一番重要なのが「情報収集」です。通信網や道路が寸断される中、どう迅速に状況把握するか、その確認・対処が課題となります。防災計画の段階から災害時の通信計画を通信事業者や電力事業者からの情報提供を元にエリア毎に作成し、迅速な対応が出来るようにしなければならない。
 停電時の電気の確保も重要で、非常用発電機を始め、避難所への発電機の確保等がうまく機能し最低限の電力確保が出来た。我々職員は、災害時対応について、業務の役割分担、情報伝達方法等を事前に把握し、災害に備えなければならない。
 最後になりましたが、全国からたくさんのお見舞い、支援物資が届き大変ありがとうございました。特に、自治労奈良県本部をはじめ自治労加盟の労働組合からも義援金や人的支援の声をたくさんいただき、職員にとって大変励みとなりました。皆様からいただきました、暖かいご支援、ご協力に感謝申し上げ、大塔地区の復旧・復興に向け職員一丸となり邁進してまいりますので、今後ともご支援をお願い申し上げます。