【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第4分科会 自治体がリードする公正な雇用と労働

釧根で「公契約条例」を制定して地域経済を活性化しよう



釧根で「公契約条例」を制定して
地域経済を活性化しよう

北海道本部/全北海道庁労働組合連合会・釧路総支部 大津 雅弘

1. はじめに

 昨今の長引く不況の原因は、グローバル経済による国内経済の不安定化や小泉内閣による過度な自由化、高齢化に伴う生産人口の減少など様々な要因が複合して起きていると推測します。
 特に非正規雇用の増大は、大きな問題です。経営側から見ると雇用需給の調整弁的な形で導入され、労働者側からすると当初は正規に比べると賃金も比較的高めに推移し、雇用流動化として一定程度歓迎されていました。しかし、不況が長期化するにつれ、非正規雇用の常態化・非正規賃金の低下・正規から非正規への条件悪化・非正規雇用の雇い止めなど労働者の生活が成り立たなくなるような問題が多発しています。


(ハローワークで相談する人々)
(大阪府の非正規雇い止め抗議)
(年越派遣村の様子)

 この非正規雇用問題は、民間職場だけではなく官公庁でも多く発生しています。役所の中でも臨時・嘱託職員が増加し、職場の民間開放により委託業者・指定管理者の職場でも官公庁との契約期間内での期間雇用が多数を占めています。
 労働者が安心して働ける労働条件が職場や生産の活性化につながり、そして消費を促す形となり、その結果経済活動の増加に繋がるものと考えます。労働条件の改善は、まずは官が行わなければ民間事業者もやるわけがありません。官庁内の労働条件は、労働組合が解決に向けて尽力しているところですが、委託業者や指定管理者など受注者内の労働条件を改善することによって、純民間や官庁の労働者の生活改善にもつなげていけるのではないでしょうか?

2. 受注者内の労働条件改善と公契約条例

 官公庁は各種発注段階において、労務単価等を元に工事・委託などを設計積算します。労務単価は各種市場調査で決定されており、これに諸経費などを加算し、設計額として入札にかけます。入札業者は、その額より下回った上で1円でも他の業者より安く入札し、落札・契約します。官公庁と契約する受注業者・委託業者・指定管理者等は、設計額と入札額との差を色々な形で経費圧縮をかけます。経費圧縮方法は工期の短縮や設備の効率化などですが限界があり、ついに手をかけてしまうのが人件費の圧縮です。入札の結果、労務単価より低い人件費の中で事業を実施しなければならず、そのしわ寄せが労働者に寄せられ、非常に低い(最低賃金だと言う声も多数)賃金で働かなければなりません。


 公共民間労組 職場の人員構成推移

 公共工事の額が高いとか落札率が高すぎるとか言う声がありますが、一方で世の多数が求める適正な(低い?)落札率を求める結果、労働者の首を絞めている。そのような状況を官も作り出しているのが、今の日本です。
 「公契約条例」とは、官公庁が契約する全ての契約に基本的なルールを定めることにより、従事する労働者の適正な労働環境の確保を図り、それを通じて事業の品質確保をし、そして誰もが安心して働き、暮らすことができる社会をめざすものです。


(あくまで単純計算)
 例えば、ある役務的契約で普通作業員が1人工作業する契約であったとしましょう。労務単価は11,000円(2012年公共工事設計労務単価)で諸経費が30%、設計額は14,300円とします。

 既存の考えで行くと、業者は利益+人件費で入札しますから、最低賃金706円×8時間+利益=5,648+諸経費+利益が入札の最低限、よって14,300円から5,648+α円の額で入札します。

 公契約条例で「設計労務単価以上の額を必ず労働者に渡すこと」と設定されると、業者は11,000円から14,300円の間で入札しなければならなくなるでしょう。


 ぱっと考えると、官公庁は支出の増大に繋がるし、業者は利益が減る形になり、いいことは労働者にしかないように見えます。あくまで短期的に。
 しかし、長期的な視点に立つと労働者に適正な額が支払われることにより、安心して働き続けることができ消費が増え、新たな経済活動の進展に結びつき、それが雇用の増大・経済の活性化・税収の増加などにつながります。

3. 公契約条例の先例

 公契約条例は2009年に千葉県野田市において日本で初めて制定され、全国に徐々に広がりを見せています。条例制定している自治体は、一定額以上の契約について公契約条例の対象としているものが多数です。

(1) 条例制定済みの自治体
① 労働条件に関する条項がある自治体
  千葉県野田市、神奈川県川崎市、神奈川県相模原市、東京都多摩市、東京都国分寺市
② 労働条件に関する条項がない自治体
  山形県、高知県高知市、東京都江戸川区

(2) 条例案が審議されている自治体
 北海道札幌市

(3) 条例制定に向けた動きなどがある自治体
 長野県、鹿児島県、山形県山形市、東京都西東京市、東京都小金井市、東京都羽村市、東京都八王子市、千葉県我孫子市、神奈川県横浜市、兵庫県西宮市など
 海外では、イギリスの公正賃金決議(1891年)やパリ市などで制定され、アメリカ国内にも広まりました。国際労働機関(ILO)でも1949年に「公契約における労働条項に関する条約(ILO94号条約)」が成立し、これまで59カ国が批准しておりますが、日本はまだ批准していません。労働者に優しくない国ですね、日本は。

4. 釧根での実績と展望

 釧根の自治体では、あまり動きがありません。各種勉強会などは民間レベルであるものの、官庁サイドでは動きが見えていません。
 強いて言うならば、数年前に浜中町で実施された臨時職員の賃金引き上げがニュアンスとして近いものがあります。このときの浜中町長は、「臨時職員といえども、浜中町民。町内どこで働いても、安心して生活できるレベルを考えなくちゃいけない。」というニュアンスのコメントを見た覚えがあります。
  やるなっ! 浜中町
 釧根地方は、農業と水産業と公共事業の3本に依存している地域経済です。その一つである公共事業で公契約条例の制定による効果は、非常に大きなものになるはずです。少なくとも地域外の業者が落札し、利益を釧根地域の外に持ち出す額は小さくなり、地域経済で循環する額が今よりは大きくなると言えます。
 域内経済が活性化することにより、公共工事以外の民間発注工事も今より増加し、疲弊した地域経済が元気になる要素を持っています。釧根だから、やらなきゃいけないものであると言えます。

5. おわりに

 経営者はいつまで会社を維持できるかわからない不安に駆られ、内部留保や役員報酬の確保を続け、労働者には労働強化や賃下げを続けています。仮に、どこか1社が労働条件改善をしたところで、効果は限定的です。
 ここは、自治体が地域経済の主導者である自覚をもち、「公契約条例」を制定し、労働者つまりは住民が安心して暮らせる社会づくりの先導者となるべきです。
 公契約条例制定を考えるのは、自治体と自治体職員つまりは自治労組合員で、それは、あなたです
 この釧根で、1つでも公契約条例ができること、これを切に願っています。