(4) 「あっせん指導」の状況
当事者間で自主的な解決が困難な事例に対し、当事者の一方、あるいは双方からの要請を受けて労働相談担当職員が話し合いの仲介や和解の勧奨を行うことを「あっせん指導」と呼んでいます。2011年度の労働相談のうち、「あっせん指導」を行った事案は166件あり、そのうち100件(60.2%)が解決しています。
<ケース1> 雇止め
【相談】 短期の有期契約を5回更新したところで使用者から暴言を受け病状が悪化し、雇止めになった。会社に対し謝罪と契約更新がされない理由の明示を求めたい。
【結果】 相談担当職員が使用者に事情を聴いたところ、会社側に不適切な発言があったことを認め、労働者に謝罪文が渡された。契約の更新については、体調面から考えると難しい状況があったので、解決金の支払いで労使が合意した。
<ケース2> 賃金不払い
【相談】 未払い賃金について何度も会社に請求しているが、経営難を理由に支払ってもらえない。
【結果】 相談担当職員が使用者に事実を確認したところ、会社側は賃金の未払いがあることを認め、その後、未払い賃金全額が労働者に支払われた。
<ケース3> 職場のいやがらせ
【相談】 同じ部署の上司やスタッフからいじめられて体調が悪くなり、使用者から自宅待機を命じられた。その後何の連絡もなく、このまま辞めさせられるのではないかと不安に思っている。
【結果】 相談担当職員が使用者に事情を聴き調整したところ、労働者の配置転換が行われ、別の部署で働けることになった。自宅待機中の賃金も100%支給された。
(5) 人材育成の課題
労働相談の内容は複雑で多様化しており、特に「あっせん指導」に取り組んでいくためには、相談担当職員の積極性と相当の経験が必要です。経験を積んだ職員が年々退職していく中で、相談担当職員の人材育成が喫緊の課題となっています。
年間を通じて、相談の解決能力を向上させるための様々な研修が職場で行われていますが、労働組合としても労働相談に適する職員の配置を毎年要求しています。相談の場面では、法律の知識はもちろんのこと、相談者との円滑なコミュニケーション能力や問題解決に向けた実践力が重要なポイントになるからです。
2. 労働教育・啓発の取り組み
(1) 労働教育推進の体制
神奈川県では、安心して働くことができる労働環境の整備と就業支援の事業をかながわ労働センター(本所)及び3支所(川崎・県央・湘南)で行っています。労働教育の推進のために、外部講師を招いて行う労働大学講座(委託事業)、中期労働講座、短期労働講座、特定課題講座及び労働センターの職員が講師を務める出前労働講座を実施しています。
(2) 労働講座等の実施状況
① 労働大学講座(有料)
1952年度からスタートした歴史と伝統のある講座で、労働関係法の知識を中心に、労働者を取り巻く社会・経済問題等を多角的に取り扱い、体系的な知識の習得を図るために開催しています。2011年度からは民間委託方式で行うことになりました。平日夜間に2時間の講座を年間30回開催、2010年度は255人が応募し、そのうち講座修了者(全日程の6割以上受講)は78.8%となっています。
講座の科目としては、「労働法総論」に始まり、「労働組合法」、「労働基準法」、「労働契約法」、「労働安全衛生法」等の労働関係法のほか、「職場のメンタルヘルス」、「賃金・人事考課・退職金制度」、「仕事と家庭の調和」、「社会保障制度」といった幅広い内容となっています。
② 中期労働講座(有料)
労働大学講座のカリキュラムからテーマを絞り、労働基準法など労働法を中心に、労働問題や社会経済に関する知識を短期間でコンパクトに学ぶ全8回の講座で、2010年度はかながわ労働センターの3支所(川崎・県央・湘南)で開催しました。申込者177人のうち、講座修了者(全日程の6割以上受講)は83.1%となっています。
③ 短期労働講座(無料)
話題性のあるテーマや労働センターとして啓発を急ぐべき課題を扱う講座で、2010年度は県内3つの地域で延べ9日開催し、357人が受講しました。テーマの中には、「業務命令と労働条件の変更」や「パワーハラスメントの定義・具体例・対応策」といった内容も含まれています。
④ 特定課題講座(無料)
非正規雇用問題、仕事と家庭の両立支援、労使関係の安定など時宜に即した課題を設けて開催する講座で、2010年度は県内各地域で開催し、406人が受講しました。
非正規雇用対策としては、「非正規雇用社員の人材活用と関連法令」、「労働者派遣法と今後の動向について」、「非正規労働者の労働条件」等のテーマが取り上げられました。
また、仕事と家庭の両立支援としては、「ワークライフバランスマネジメント実践術」、「就業規則と次世代育成」、「産休・育休から職場復帰までに知っておくこと、やっておくこと」等のテーマで行われました。
さらに、労働組合セミナーとして、「魅力ある労働組合の可能性~労働組合の活性化に向けて~」を開催し、労働組合の存在意義や活性化に向けての課題を取り上げました。
⑤ 出前労働講座(無料)
労働組合、中小企業団体、大学、高校等からの要請に応じて、年間を通じ労働センター職員が講師となって出前労働講座を行っています。2010年度は県内各地域で延65日開催し、4,559人(労働者:214人、使用者562人、若者:3,783人)が受講しました。講座のテーマは、労働センターの担当者がその団体から希望を伺い、調整をしながら決めていきます(下表参照)。特に最近は、これから社会に出て働く若者に労働者の権利・義務や労働関係法の基礎知識を身につけてもらうことにも力を入れています。
毎日労働相談を受けていると、“労働関係法を知らないこと”や“労使での話し合いによる問題解決の意識が失われていること”が原因で、トラブルが発生してしまうことが多いという印象を受けます。相談の現場で実際に労使から生の声を聴き、問題解決の支援をしている労働センターの職員が積極的に外に出て、講師を務める意味は大きいと考えます。
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