【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第4分科会 自治体がリードする公正な雇用と労働

 公の施設における指定管理者制度の運用は、初期の導入時期が過ぎた現在、第2ステージを迎えました。全国各地の指定管理者が、管理経費削減とサービス向上に悪戦苦闘する中で、共通の課題が見え隠れしているようです。そこで、私が担当している農山村観光施設における指定管理の現場から、課題を明らかにし、現在進行中の見直しの取り組みを紹介します。そして最後に、指定管理者制度に対する思いを提言します。



指定管理者制度への提言
~農山村観光施設の指定管理見直しの現場から~

愛知県本部/豊田市職員労働組合 打田 知充

1. 豊田市の概況

 豊田市は愛知県中央部に位置しています。1998年4月に中核市となりました。2005年4月には、周辺6町村と編入合併し、東西49.36km、南北33.37km、面積は918.47km2となりました。この合併で、人口が40万人の大台を突破しました。トヨタ自動車が本社を置く企業城下町として知られ、男性人口が非常に多い人口構成となっています。

 図1

2. 指定管理者制度の運用状況

(1) 指定管理者制度への移行
 地方自治法の改正によって、公の施設において、指定管理者に管理を委任(代行)する「指定管理者制度」の導入が全国の自治体で進みました。豊田市の公の施設においても同様に、管理事務・業務を委託する「管理委託」から、「指定管理者制度」に移行が、順次、進みました。2011年4月時点で、指定管理者制度を導入している公の施設は221施設です。

(2) 指定管理の期間
 指定管理協定書における指定管理の期間は原則5年以内としたため、ほとんどの公の施設が期間5年となっています。第一期の指定管理の期間が終了し、現在は第二期の指定管理の期間中という公の施設が多い状況です。

(3) 公募と単独指名
 指定管理者の選定は原則として公募とし、単独指名にするには要件に適合しなければならない旨を条例で規定しました。しかし従来、公の施設の管理委託の受託者が、公益財団法人、社団法人、社会福祉法人、市出資法人等の公共的団体であることが多く、また、指定管理制度は導入初期でした。このため、既存の管理委託の受託者が、そのまま指定管理者となるのが効率的との見方が多く、そのまま指定管理者に単独指名するケースがほとんどでした。2011年4月時点で、71施設(32.1%)が公募となっています。

(4) 指定管理の協定書
 指定管理の協定書は、豊田市共通フォーマットによる条文、仕様書及び指定管理料内訳書から構成されますが、仕様書は従前の管理委託の仕様書、指定管理料内訳書も従前の管理委託の積算書がベースとなっています。

(5) 管理運営評価と満足度調査
 指定管理者管理運営評価と利用者満足度調査は、指定管理協定の締結期間が終了する年に実施しています。評価は、日頃から指定管理者を監督指導している、公の施設の所管課職員が行います。また、満足度調査は、一施設当たり数件から100件程度のアンケートを、公の施設の所管課職員が施設利用者から回収し、そこから利用者満足度を分析し、次期サービスの向上へ繋げています。


3. 指定管理の現場から

 豊田市における指定管理者制度の運用状況は前述のとおりです。ここからは、私の担当業務である農山村観光施設「香恋の里」の現場を中心に、現行の指定管理に対して掘り下げます。

(1) 農山村観光施設の概要
 農山村観光施設「香恋の里」は、図1における下山地区④の基幹観光施設として、1996年にオープンしました。トヨタ会館を代表とする産業観光施設、豊田市美術館といった芸術文化施設に対して、農山村文化を生かした施設です。
 地域文化及び観光の振興並びに産業の発展を図るため、地域の農水産物を利用した新たな特産品や料理の研究開発、及びその製造販売、地域活性化イベントの開催、休憩屋内外施設を市民、観光旅行者への提供をしています。とりわけ力を入れているのは、ウインナー作り体験、ポプリクラフト教室、手作りジェラートアイス販売、そして、本物の味にこだわって製造するハム・ソーセージです。
 指定管理者制度は2006年にスタートしました。管理委託時代からの市出資法人(株)香恋の里が、単独指名で指定管理者となっています。年間約3千8百万円の指定管理料を支払う一方で、売上げは全て指定管理者の収益としています。ただし、売上げ2.5%を施設使用料として豊田市へ納付してもらう形態をとっています。

※上記写真はホームページから抜粋

(2) 農山村観光施設の課題
 指定管理者制度に関する全国共通の課題については、各種文献で提言されています。したがいまして、ここでは農山村観光施設「香恋の里」を取り巻く課題についてフォーカスし、言及していきます。
① 公の施設における食品製造・販売、飲食
  公の施設における販売、飲食は、その用途又は目的を妨げない限度において、行政財産目的外使用として許可され、行っていることが一般的です。しかしながら、農山村観光施設においては、前述の3.(1)農山村観光施設の概要で紹介したように、販売、飲食だけでなく食品の製造までを含めて、施設条例でこれを設置目的に位置づけており、施設使用料として、売上げの2.5%を収納しています。このやり方が、公の施設として適切なのかどうか、課題となっています。全国の例を見ても、道の駅では、豊田市のやり方ではなく、目的外使用許可や、普通財産の賃貸借の形態をとる自治体もあるようです。
② 官製ワーキングプア
  指定管理制度の導入時、指定管理料などの管理運営経費や、職員数の削減のように、行政改革の面が過剰に取り上げられた感があります。管理運営経費は安くなって、サービスは向上するというバラ色の制度だと位置づけられました。確かに、指定管理者の赤字覚悟の努力によって、市民の満足度がアンケート結果のデータに表れているようです。しかし、指定管理者は相当に無理をしています。指定管理料は増えることはありませんが、指定管理者の正規社員の給与ベースアップ分や、施設の魅力を高めるために実施する自主事業の財源は、指定管理者が捻出しなければなりません。これらは全て、官製ワーキングプアに繋がります。
③ 入り込み客数と売上げの低下
  豊田市全体の観光入り込み客数は、全般的に増加傾向にあり、2005年には約1,092万人となっています。ところが、地区別に見てみると、年々減少している地区もあり、下山地区でも年々減少しています。
  下山地区で最も集客力の高い観光地は、香恋の里周辺です。1996年(平成8年)に香恋の里がオープンしましたが、これをピークにして、観光入り込み客数は減少に転じています。2000年(平成12年)に香恋の里関連施設がオープンしたことにより、その時だけは回復しましたが、その後は減少が続いています。これは、売上げ低下に繋がっていきました。


図2 豊田市全体の観光客入り込み客数

図3 観光入り込み客数の経年変化

④ 経営改善と地域振興
  観光客入り込み客数と売上げの低下は、2006年(平成18年)以降も続きました。これは、リーマンショックに端を発した景気低迷など外部環境の変化が、さらに追い討ちをかけた結果でもあります。官製ワーキングプアの問題も避けて通れません。このような環境においては、指定管理者である市出資法人の経営を強化するための、経営改善が課題です。
  また、豊田市は合併により都市地域から中山間地域までの多様な地域資源を有することとなりました。農山村観光施設に関しては、下山地区の「香恋の里」と同類施設が、各地区に点在することとなりました。図1において、足助地区③には紅葉の香嵐渓で有名な「三州足助」、旭地区⑤にはアウトドア施設「旭高原」、稲武地区⑥には温泉「どんぐりの里」があります。しかし現在、各地の農山村観光施設の取り組みがそれぞれに行われていて、十分連携されていません。連携によって、それぞれの魅力や資源を更に活かすことができる可能性を秘めています。すなわち、連携による地域振興が課題となっています。


4. 指定管理見直しの取り組み紹介

(1) 他地区の指定管理者と経営統合
 下山地区における農山村観光施設の課題は、足助地区、旭地区、稲武地区の農山村観光施設においても同様でした。そこで、指定管理者そのものを再生するため、4つの既存の市出資法人の経営統合を検討しました。しかし、市町村合併で旧町村を編入したとき、都市内分権が推進された反面、オール豊田市方式に一本化されたことに対する旧町村地区との軋轢を生んでしまったことは否定できません。
 このため、経営統合の手法の検討は慎重に進めました。市出資法人の地域や、従業員への理解、設立の目的・経緯が違う中では、ゆるやかな改革が望ましいと考え、既存の市出資法人の機能を残したまま、持株会社方式のホールディング会社として経営体を1つとする方法である「株式移転」が課題解決には最良の方法と考えました。

経営統合の手法の検討

現状継続
合併
(平等を原則に3社を1社)
株式移転
(新ホールディングに株移転)
株式交換
(1社が他の株式を取得)
経営/財務/人事/営業面で、個々では解決出来ない課題多く、現状継続の選択肢はないと思われる。 1社にすることのメリットは1番大きいが、地域の思いがある会社の名前を消すことへの地域理解が困難。 経営体制は1本化するが、現会社も存続することから、地域や従業員からの理解は得られやすい。各会社は営業に専念できる。 1社に株式を集める手法であり、吸収側とされる側に別れる恐れがあり、大きなシコリ残す可能性がある。
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(2) ホールディング化による新体制
 ホールディング体制のメリットである、経営と営業の分離を効果的に推進するため、経営の推進母体の分離により企業グループ全体の経営効率の向上を図ることを目的に、ホールディング会社を新たに設立しました。一方、既存の市出資法人は、子会社として引き続き、農山村観光施設のお客様及び地域住民に対して、各種観光事業や、地域に密着した地域支援事業を展開することとし、従業員のモチベーション確保、営業責任を明確化しました。そして、ホールディング会社は各子会社を下支えする体制を整えました。

図4 新体制の業務イメージ

(3) 指定管理の協定書、施設条例
 指定管理者制度の導入以来、指定管理の協定書は、とりわけ仕様書と指定管理料の積算に関しては、管理委託時代の内容を、そのまま使用している状態です。また、施設条例で設置目的化している食品製造・販売、飲食についても、指定管理の第三期を迎えるにあたって、セットで見直すための作業を、今年度予定しています。


5. 指定管理者制度への提言

 庁内の指定管理者制度の全体総括事務局は、管理運営経費の削減とサービス向上による行政改革を推進する立場にあります。しかし、忘れてはならないのが、それは、誰のための、何のための公の施設なのか、ということです。
 私が担当している農山村観光施設だけでなく、多くの公の施設は、長い年月をかけて公共的団体に委ねてきました。そういう施設で行う事業の担い手として、せっかく地域で育成してきたのに、市場原理で指定管理者を公募した結果、他所で本拠地を構える民間事業者に仕事を取られてしまっては意味がありません。また、逆に考えると、仕事を民間事業者に取られてしまうようでは、公共的団体としての十分な力が、まだ備わっていないと言えます。
 市場化の中でも、民間事業者と対等、又は、それ以上の力で、太刀打ちできるような実力を養成する必要があり、そうすることができるような指定管理の制度でなければ、公共的団体は衰退していくでしょう。
 現実には、公共的団体がなかなか育たなくて、明るい展望が見えないのですが、他自治体では、NPO法人が指定管理者となって、管理運営経費の削減とサービス向上の両立に成功している例もあるようです。指定管理者制度は、地方自治法でアウトラインは定められていますが、運用は、地域特性に合わせて工夫の余地があると思います。このレポートで紹介した農山村観光施設の指定管理は、指定管理者の経営統合をベースにして、経営改善と地域振興の足場を固めました。これをモデルケースとして、公の施設は、持続可能なだけではなく、キラリと光る魅力を発信できるような指定管理のあり方に変えていきたいと思います。