3. 指定管理の現場から
豊田市における指定管理者制度の運用状況は前述のとおりです。ここからは、私の担当業務である農山村観光施設「香恋の里」の現場を中心に、現行の指定管理に対して掘り下げます。
(1) 農山村観光施設の概要
農山村観光施設「香恋の里」は、図1における下山地区④の基幹観光施設として、1996年にオープンしました。トヨタ会館を代表とする産業観光施設、豊田市美術館といった芸術文化施設に対して、農山村文化を生かした施設です。
地域文化及び観光の振興並びに産業の発展を図るため、地域の農水産物を利用した新たな特産品や料理の研究開発、及びその製造販売、地域活性化イベントの開催、休憩屋内外施設を市民、観光旅行者への提供をしています。とりわけ力を入れているのは、ウインナー作り体験、ポプリクラフト教室、手作りジェラートアイス販売、そして、本物の味にこだわって製造するハム・ソーセージです。
指定管理者制度は2006年にスタートしました。管理委託時代からの市出資法人(株)香恋の里が、単独指名で指定管理者となっています。年間約3千8百万円の指定管理料を支払う一方で、売上げは全て指定管理者の収益としています。ただし、売上げ2.5%を施設使用料として豊田市へ納付してもらう形態をとっています。
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※上記写真はホームページから抜粋
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(2) 農山村観光施設の課題
指定管理者制度に関する全国共通の課題については、各種文献で提言されています。したがいまして、ここでは農山村観光施設「香恋の里」を取り巻く課題についてフォーカスし、言及していきます。
① 公の施設における食品製造・販売、飲食
公の施設における販売、飲食は、その用途又は目的を妨げない限度において、行政財産目的外使用として許可され、行っていることが一般的です。しかしながら、農山村観光施設においては、前述の3.(1)農山村観光施設の概要で紹介したように、販売、飲食だけでなく食品の製造までを含めて、施設条例でこれを設置目的に位置づけており、施設使用料として、売上げの2.5%を収納しています。このやり方が、公の施設として適切なのかどうか、課題となっています。全国の例を見ても、道の駅では、豊田市のやり方ではなく、目的外使用許可や、普通財産の賃貸借の形態をとる自治体もあるようです。
② 官製ワーキングプア
指定管理制度の導入時、指定管理料などの管理運営経費や、職員数の削減のように、行政改革の面が過剰に取り上げられた感があります。管理運営経費は安くなって、サービスは向上するというバラ色の制度だと位置づけられました。確かに、指定管理者の赤字覚悟の努力によって、市民の満足度がアンケート結果のデータに表れているようです。しかし、指定管理者は相当に無理をしています。指定管理料は増えることはありませんが、指定管理者の正規社員の給与ベースアップ分や、施設の魅力を高めるために実施する自主事業の財源は、指定管理者が捻出しなければなりません。これらは全て、官製ワーキングプアに繋がります。
③ 入り込み客数と売上げの低下
豊田市全体の観光入り込み客数は、全般的に増加傾向にあり、2005年には約1,092万人となっています。ところが、地区別に見てみると、年々減少している地区もあり、下山地区でも年々減少しています。
下山地区で最も集客力の高い観光地は、香恋の里周辺です。1996年(平成8年)に香恋の里がオープンしましたが、これをピークにして、観光入り込み客数は減少に転じています。2000年(平成12年)に香恋の里関連施設がオープンしたことにより、その時だけは回復しましたが、その後は減少が続いています。これは、売上げ低下に繋がっていきました。
図2 豊田市全体の観光客入り込み客数
図3 観光入り込み客数の経年変化
④ 経営改善と地域振興
観光客入り込み客数と売上げの低下は、2006年(平成18年)以降も続きました。これは、リーマンショックに端を発した景気低迷など外部環境の変化が、さらに追い討ちをかけた結果でもあります。官製ワーキングプアの問題も避けて通れません。このような環境においては、指定管理者である市出資法人の経営を強化するための、経営改善が課題です。
また、豊田市は合併により都市地域から中山間地域までの多様な地域資源を有することとなりました。農山村観光施設に関しては、下山地区の「香恋の里」と同類施設が、各地区に点在することとなりました。図1において、足助地区③には紅葉の香嵐渓で有名な「三州足助」、旭地区⑤にはアウトドア施設「旭高原」、稲武地区⑥には温泉「どんぐりの里」があります。しかし現在、各地の農山村観光施設の取り組みがそれぞれに行われていて、十分連携されていません。連携によって、それぞれの魅力や資源を更に活かすことができる可能性を秘めています。すなわち、連携による地域振興が課題となっています。
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