【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第4分科会 自治体がリードする公正な雇用と労働

 超高齢社会に向けて、勤労者の仕事と介護の両立問題がより一層顕在化することが推測される。そこで、ひょうご仕事と生活センターと東京大学社会科学研究所WLB推進・研究プロジェクトでは、兵庫県内における事業所調査、従業員調査を実施した結果、従業員の約9割は将来の介護に不安を感じており、将来介護に直面した時に就業継続できないと考える人は4割近くいる。今後の仕事と介護の両立に向けた問題提起を本レポートで行う。



仕事と介護の両立に関する調査研究


兵庫県本部/ひょうご仕事と生活センター・主任研究員 藤島 一篤

1. 調査研究の概要

(1) 背景・目的
 ひょうご仕事と生活センターは、2009年6月に連合兵庫、兵庫県経営者協会、兵庫県の政労使が三者一体となって、仕事と生活のバランスに関する支援拠点として設置されました。本センターでは、個別企業の実情に応じた相談・実践支援や、情報提供、企業顕彰・助成、調査研究活動を行っています。本レポートは、当センターの調査研究活動の一環として実施されました。
 少子高齢社会においては、今後、職場の中で介護を担う従業員が急速に増加することが想定されることから、「仕事と介護の両立」は多くの従業員にとっての課題となり、また、人材の確保・定着や職務満足度向上等といった点では経営にとっても大きな課題となっています。
 そのため、本年度「ひょうご仕事と生活センター」と「東京大学社会科学研究所ワーク・ライフ・バランス推進・研究プロジェクト」において「仕事と介護の両立に関する調査研究」を共同で実施し、兵庫県内の職場や従業員にとっての問題点や課題の把握を行ってまいりました。

(2) 調査概要
 2011年度に財団法人兵庫県勤労福祉協会が実施した「仕事と生活のバランス実態調査(事業所・従業員)」を基礎資料として研究・分析をしております。
① 調査期間 2011年7月~8月
② 調査方法 郵送配布・回収、自記式回答
③ 調査対象 「事業所調査」NTTタウンページからの無作為抽出 対象数16,000事業所
  「従業員調査」上記16,000事業所のうち、1,000事業所をさらに無作為抽出し、当事業所に勤務する従業員10人選抜 対象数10,000人
④ 回収状況 事業所調査 有効回答数2,186事業所(有効回答率 14.7%)
       従業員調査 有効回答率1,726人(有効回答率 17.4%)
※ 本調査研究結果の一部は、正社員のみ1,482人を抽出して分析しています。

(3) 調査研究の問題意識
 調査研究を実施するにあたり、仕事と介護の両立に関する問題意識として以下の4点を掲げ、これらをもとに、次頁以降で本県独自の分析を行っています。
※ 調査票(調査項目)に関しては「東京大学社会科学研究所ワーク・ライフ・バランス推進・研究プロジェクト」が作成したものを使用しております。
《調査研究における問題意識》
 ・ 将来の介護に対する不安を強く感じているのか
 ・ 介護は職場において相談しにくい内容と感じているのか
 ・ 介護支援制度に関する知識はあるか
 ・ 仕事と介護の両立をあきらめて辞めていく従業員はいるのか


2. 調査結果

(1) 基礎データ
① 事業所の介護休業制度導入率は約4割
  介護休業制度について「制度あり」と回答した企業は全体の40.7%であり、育児休業制度と比較すると、導入率・利用率ともにやや低い状況です。

図表 1 県内事業所における介護休業と育児休業の制度導入・利用状況
 
制度あり
(かなり利用)
制度あり
(少し利用)
制度あり
(利用者無)
制度あり
小計
制度なし
(検討中)
制度なし
(検討予定なし)
制度なし
小計
無回答
総計
介護休業制度
9
0.4%
105
4.8%
775
35.5%
889
40.7%
405
18.5%
734
33.6%
1,139
52.1%
158
7.2%
2,186
100.0%
育児休業制度
155
7.1%
341
15.6%
605
27.7%
1,101
50.4%
263
12.0%
704
32.2%
967
44.2%
118
5.4%
2,186
100.0%

② 事業所規模が大きいほど制度導入・利用者は増加
  規模別での制度導入状況、利用状況を見ると、規模が大きくなればなるほど、導入・利用ともに増加しています。
  なお、従業員数100人以下では制度の利用者数で「かなり利用者がいる」「少し利用者がいる」の企業は、約5%以下であったのが、従業員数101人以上では、その割合が2割を超えています。
③ 過去1年間の介護休業取得者数は、女性は男性の約4倍
  過去1年間の介護休業取得者数では女性60人、男性14人であり、男性に比べて女性の取得者数が多い状況です。
④ 介護休業中の賃金について、支給していない企業は8割弱
  介護休業中の賃金については、「全額支給」「一部支給」している企業は9.5%、「支給していない企業は78.7%と、大半が賃金支給はしていない状況です。

(2) 将来の介護への不安感
 将来直面することになる介護に対する不安を従業員の約9割(87.8%)が感じています。
 特に介護に対して「非常に不安を感じる」(27.6%)従業員については、介護に対する具体的な不安として、「公的介護保険制度の仕組みが分からない」(62.1%)、「介護がいつまで続くかわからず、将来の見通しを立てにくい」(56.1%)といった点が不安を増長させているとみられます(図表2)。

図表 2 介護に対する具体的な不安
 
非常に不安を感じる
(n=269)
不安を感じる
(n=324)
少し不安を感じる
(n=273)
合計
(n=866)
介護保険制度の仕組みがわからない
62.1%
49.1%
38.8%
49.9%
勤務先に介護の支援制度がない(もしくはわからない)
48.0%
41.0%
35.5%
41.5%
仕事と介護の両立に上司の理解が得られない
26.8%
16.0%
10.6%
17.7%
介護に関する制度はあるが利用しにくい雰囲気がある
27.1%
20.4%
15.8%
21.0%
介護休業等を取得した人がいない
49.4%
42.0%
39.2%
43.4%
代替要員がいないため仕事を休めない
44.2%
34.6%
34.1%
37.4%
仕事と介護を両立させる仕組みが分からない
44.2%
32.1%
26.4%
34.1%
両立だと昇進・昇給に影響が出る可能性がある
17.1%
9.9%
7.3%
11.3%
そもそも労働時間が長い
19.3%
16.0%
11.7%
15.7%
介護休業を取得すると収入が減る
47.6%
37.0%
28.9%
37.8%
職場で介護の相談部署・担当がいない(もしくはわからない)
23.8%
14.2%
11.4%
16.3%
地域の介護に関する相談先がわからない
27.5%
18.5%
9.5%
18.5%
介護サービスが受けられるかどうかわからない
45.0%
38.0%
26.4%
36.5%
介護を分担してくれる家族がいない
29.0%
19.4%
13.9%
20.7%
介護がいつまで続くかわからず、将来の見通しを立てにくい
56.1%
42.6%
34.8%
44.3%
その他
2.6%
1.9%
2.9%
2.4%
100.0%
100.0%
100.0%
100.0%

(3) 介護に関する相談
 将来の介護に関して「勤務先で相談できる雰囲気がある」と回答する方は全体の約5割(47.9%)であり、「相談できる雰囲気でない」とする方は約1割(13.5%)となっています。しかしながら、実際に現時点で介護している方では約2割(21.5%)の方が「勤務先で話したり相談したりしている人はいない」と回答しています(図表3)。

図表 3 《現在介護をしている人》勤務先への相談(n = 107)

(4) 介護時における働き方・就業継続
 将来介護をすることとなった場合の就業継続意向については、「続けられると思う」と回答した人は24.4%と4分の1となり、「続けられないと思う」(37.4%)よりも低い割合となっています。
 将来介護に直面した場合、「就業継続できる」と思う人では勤務先において「相談できる雰囲気がある」と回答している人は74.4%と4分の3となっており、「相談できる雰囲気でない」はわずか6.4%となっています。しかし、「就業継続できない」と思う人では「相談できる雰囲気がある」は36.3%にまで低下し、逆に「相談できる雰囲気がない」は24.9%にまで増加しています(図表4)。

図表 4 職場での相談雰囲気と就業継続意向の関係


3. まとめ

 上掲以外の調査結果も踏まえて、本調査研究として、以下の10点が明らかになったと考えます。
 ・ 将来の介護に対して約9割が不安を感じている。
 ・ 不安の背景としては、公的介護保険制度、職場の支援制度についての認識不足や、介護休業取得の前例者がいない、介護がいつまで続くかわからないといった意識がある。
 ・ 年齢が若いほど制度認知は低く、年齢が高いほど介護の担い手がいないと感じている。
 ・ 将来の介護に不安を感じている人は、勤務先で相談できる雰囲気にないと感じている。
 ・ 現在介護している人は、普段の上司とのコミュニケーションの円滑度合によって、介護のことの相談相手として上司を選ぶかどうかを決めている。
 ・ 公的介護保険制度の具体的な内容の認識度合いについて、年齢による大きな違いはない。
 ・ 将来介護に直面した時に就業継続できないと考える人は4割近くいる。
 ・ 将来介護に直面した時に就業継続できるかどうかは、勤務先で相談できる雰囲気があるかないかに大きく左右される。
 ・ 将来介護に直面した時の就業継続意向に関しては、男性よりも女性のほうが「続けられないと思う」人が多い。
 ・ 将来介護に直面した時の就業継続意向で「続けられないと思う」人は、介護に関する様々な理解不足や職場の中での阻害要因を感じているが、特に上司の仕事と介護の両立への理解不足が大きな阻害要因として感じている。

 以上のことから、将来直面する介護への不安の解消と、さらには働き続けることができるという意識を醸成するために、職場の中における「仕事と介護の両立支援」への取り組みとして、以下のことが重要と考えます。
① 公的介護保険制度や企業独自の支援制度に関する情報不足があることから、制度情報などを定期的に発信する仕組みづくり
② 実際に介護をする可能性が高い中高齢層に対して、「介護の担い手」である介護施設などと連携した情報発信・教育研修等による、介護支援の仕組みや実例等の紹介
③ 勤務先で十分に相談できる体制づくりとして、普段からの上司とのコミュニケーション促進や、外部専門家等による相談窓口の設置
 このようなことを職場の中で推進するにあたっては、実際にどのような制度情報等を発信・紹介するか、どのような発信手段が効果的か、だれが主体的に発信したり相談窓口となるかといった、より具体的な支援のあり方について検討する必要があります。そのような検討を重ねるためにも、今後は、そのようなことを実践している企業等へのフィールド・リサーチやモデル調査等により実践例を調査研究し、上記考察の妥当性について検証していく必要があります。