組合結成から33年、当時は勤務日数185日、日給4,160円、休暇・保険・年金・交通費なしの無権利状態からのスタートでした。その上、3月中旬から自宅待機をさせられ、4月に辞令が来るまで待たされ、辞令が来なければ解雇という、ひどい状態でした。
明石市の学校給食は単独自校方式で、発足当時からPTA雇用等の身分不安定な調理員により運営されていました。
この間のたたかいは、「差別するな、人間らしく扱え」という、人として当然の要求と「正規職員に一歩でも近づこう」という要求の繰り返しでした。
雇用形態が違うというだけで、「同一労働・同一賃金」にはならず、労働条件・権利面等も大きな差が有ります。長い歴史の中には、賃金差別、権利の改善を始め、雇用止め阻止、そして3度の正規化などのたたかいがありました。
厳しい永いたたかいだったとは言え、労組として必要なたたかいでしたが、これを強いさせるのが自治体当局であるというのが残念でなりません。本来、自治体は法に基づき職務を遂行しなければならないはずです。ところが、33年間のたたかいで見せつけられたのは、市の、労働法を遵守しようとしない、市民の生活改善をしようとしない、労働者の意欲を高め経験を生かした効果的な職務遂行をしようとしない労務施策と、職務に責任を持ち向上をめざそうとしない姿勢でした。
1. 組合結成
調理員出身の正規職員が「非常勤調理員の正規職員化、賃金・労働条件の改善」の訴えを市職労に持ち込みました。まず、現業評議会の執行部と調理員分会の役員が集まり、「同じ職場で同じ仕事をしながら賃金・労働条件に格差をつけられている。臨時職員は不満を募らせて、正規職員は休暇が取りにくく責任が重くなる。安上がり行政では働く者の生命と権利は守られないし、安全でおいしい給食は作れない。」だから「健康で働き続けられる職場作りのため、正規職員化をめざし、非常勤の組織化を取り組む」ことを確認しました。
そして、正規調理員集会で「非常勤調理員の組織化、賃金・労働条件改善の意義」や「『本工主義』を乗り越えなければ権利や職場は守られない」ことが学習され、取り組みへの協力・支援することが確認されました。中央委員会や大会で発言をし、他の職場にもアピールしてくれました。
役員選考には難航しましたが、市職労からも特別執行委員を4人出してもらい、1979年12月8日に組合結成となりました。
1979年、12月25日早々に要求書を提出するとともに明給労の存在や給食職場の実態を知ってもらうことに力点を置いて、教育委員長や教組への要請、PTA役員や市議会議長への陳情、市議会議員との懇談も行いました。
労働条件改善の取り組みは現業闘争で集中して取り組み、後は市労連交渉としています。
2. 正規化闘争について
1982年、正規職員化の要求書を提出してから6ヵ月待たされた回答は、「15人の正規職員化と58歳(57歳、58歳は嘱託)までの雇用と、今後採用する非常勤職員は、当該の小学校の児童の母親から採用し、在学中のみの雇用とする」いうもので、正規化と58歳までの雇用は画期的でありましたが、年齢や経験に関係なく試験によって3分の1の者だけを選別することや今後採用する者を新たに身分差別するという問題をもっていました。組合内で真剣な議論を行い、「正規化・差別撤廃への一歩として受け止め、たたかい続ける中で前進しよう」と、受け入れることにしました。
このことは、在職者の中で正規になれる者となれない者、非常勤の中でも56歳までの者、嘱託の者、そして雇用期限付きの1982年以降採用の者等々、複雑な関係の中で「身分差別完全解消」を基本目標に据えながら、労働条件改善のたたかいを進めるということが求められました。したがって①雇用延長を勝ち取り絶対に解雇させない②身分の違いによって絶対に差別させない③退職金を制度化させる④あくまで正規化の要求を掲げてたたかうことを何度も何度も意思統一しました。
1992年、数年で正規職員の退職者が多数となるため、この期を逃しては正規化の道は閉ざされると判断し、ストライキを背景に労働省の「パート指針」の趣旨にそって非常勤の中から正規採用することを強く求めました。
最終的には93年~95年の3年間で6人の正規化、退職金の制度化の回答を引き出しました。
1996年以降も正規職員の退職者が多数のため正規化を取り組みましたが、当局はあくまで『退職者の3分の1にあたる6人をペーパーテストによる選考試験』にこだわり経験年数を考慮したものでなかったため回答を拒否しました。正規化闘争では進展は無理と判断し、正規化に見合う賃金・退職金・労働条件の交渉に切り替えました。
以上のように、今までに正規職員になれる機会は3回ありましたが、当局が組合員の中での競争試験を譲らなかったため、組合の命である「助け合い・団結」が保てなくなり、組合存続の危機となりました。一番理想の経験順での正規職員化の獲得はとても難しく、全員にあたる条件UPの道を選択しました。しかし、現在の状況は「行政改革での正規職員の退職者不補充」で、正規職員がどんどん減らされ、占める割合は今では35%となっています。この状態で、通常の調理業務、アレルギー対応、子どもたちへの食育などをこなし、臨時職員の果たす役割はますます重要になっています。
まだまだ、正規職員化は獲得目標の第1番目として旗はおろさずに追及していきたいと思います。
3. 雇用止め阻止について
1982年に15人を正規職員化した時から、新たに作られた学校採用の調理員が1992年から順次、雇用期限を迎えることになり、雇用をいかに守るかが大きな焦点になりました。正規職員からも、「調理業務に慣れたころに人が変わるのは困る」と大きな応援を貰い、当局から「1981年の確認から10年を経過しており、改めて全面的な見直しをする」という回答を引き出し、「労使検討委員会」を設置させ約10カ月の激しいやり取りを重ねた結果、50歳までの雇用(50歳以上は3年延長)を約束させました。
1995年には、前回の50歳までの雇用期間に対して、期間撤廃を目標に組合員全員でのプラカード、ゼッケンで退庁時ビラ、ハンドマイク、市長と教育長へ一人ひとりの声としてはがき作戦を行い、最終回答で午前3時過ぎに50歳から順次延長して60歳までの雇用を約束させました。
その後、厚生年金支給が段階的に繰り延べされることになり、今までの貢献を訴え、正規職員と同じ64歳までの再雇用を約束させました。
2003年には「行政改革の推進」として直営単独方式で行っている小学校給食調理業務の民間委託が打ち出されました。これは、今いる正規職員と私たち明給労の退職者を補充しないで順次民間委託を推進していくというものでした。その中でも、委託を推進していく為に10年近く働いている臨時調理補助員を人数合わせとして利用し、雇用止にしようとすることは許せない問題でした。自分たちのこととして雇用止め阻止に向けて取り組んでいます。この雇用の問題は委託が続く限り続くと思います。
私たちにとっての雇用は臨時職員であっても、生活がかかっており、一番に譲ることができない問題です。雇用安定が有ってこそ、安全で美味しい給食作りに専念できると思います。
4. 賃金・労働条件改善について
賃金・労動条件の改善は、職場の実態を訴えながら改善していきました。
調理職場では、半分以上を臨時職員が占め、正規職員と全く同じ仕事をしていて、臨時職員無しでは給食が出来ないという実態は労働条件改善に強い力となりました。そして、「労働条件・仕事内容の変更は労使合意で」という労働基準法を活かして、「給食回数増、メニュー増、アレルギー対応、ドライ運用、食育への関わり」等、業務内容が変わるたびに交渉を行い、賃金UP 、休暇制度、勤務日数増と改善していきました。
又、勤務時間を6H→8Hへ伸ばし、非常勤から嘱託職員へ移行して正規職員のカウントにも入っていきました。
そして、労働基準法は必ず守らせる、法律・人事院規則が変われば注意をしてチェックし交渉しました。
賃金においては、組合を結成してから着実に改善させていきました。1987年から正規職員の給料表(正規35歳初任給基準から)に準じていたので、正規が上がれば上げさせる。下がる時は一緒に下げさせないで、維持か下げ幅を最小限に食い止めることに努めました。
主なたたかいとしては、組合結成してすぐの交渉で最低限の年次有給休暇、年金、健康保険を確認し、翌年、忌引き休暇の制度化と健康保険の空白を無くさせました。
又、1996年の3度目の正規化を断念して正規化に見合う労働条件の整備を要求して2年間粘り強く交渉を行いました。その結果、「①賃金は在職期間の長い人を救済するために3年に1号級昇級する、②私療休暇については30日で80%の有給、③退職金については、在職25年を限度として25年で7.5カ月支給する」と、18年ぶりに制度を新設することが出きました。
1999年以降、情勢が悪化し基本賃金が引き下げられていきましたが、賃金が下がるなら、その代りの働く励みになるものを要求し、夏季休暇制度、生理休暇(有給)、勤務日数増、再雇用64歳までの雇用など確認しました。
2005年の人事院勧告での給与制度改革では賃金表が改悪させる中、「①技能労務職と行政職の給料表を同一にする、②その2級の賃金表(2級47号スタート)を適用し落ち込み額は-0.19%にとどめる、③新しい賃金表に移行し現給補償」を約束させました。
5. 自治体労務の問題点と今後の明給労の課題
(1) 自治体労務の問題点
これまでのたたかいを改めて振り返ってみると、市の労務にはいろいろな問題点が有ります。
① 自治体非正規職員の多くが脱法任用になっていることは言うまでもありません。学校給食調理業務は臨時的な仕事ではなく恒常的な仕事です。地方公務員法では「恒常的な職務については雇用期間を限定して職員を任用することは適当でない」となっていて、すなわち正規職員を任用しなければなりませんが、調理員の半数以上が臨時職員で占め、雇用期間を限定しての細切れ任用の繰り返しです。非常勤を任用している場合は学期雇用となっていて、夏休み等の休業中は賃金保証(休業補償)もなく雇用保険も貰えず生活が不安定となっています。
② 恒常業務に従事する臨時職員に雇用期間を設定して雇用止めにして、又新たな欠員補充として人を入れ替えていくことは、雇用期間はなんら法的な根拠もないとともに新たな失業者を生み出し続けています。経験を積んで豊富な知識を持った臨時職員を経験のない人に変えることは住民サービスの低下を招くとともに、雇用不安を抱きながらでは持てる力を十分発揮できないことも住民にとってはマイナスになります。
③ 賃金については、雇用名目を変えるだけで、より安い賃金へのダンピングとなっています。現在の職場には、正規職員・臨時調理嘱託・学校給食従事員・再任用職員・再雇用職員・臨時調理補助員が配置されています。仕事内容は全く同じで全てのポジションをローテーション組んで回しています。「職務給の原則」「同一価値労働・同一賃金」で賃金は同じはずですが、名目だけを変えて任用が違うということで段階的に根拠のない大きな差を付けられています。又、このような状態で雇用される臨時職員は賃金がとても低く、ワーキングプアーとなっています。
④ 臨時調理員の募集については、給食開始当初は「小学校のPTA雇用」、1982年から1995年までは「当該小学校の児童の母親から児童の在学中のみの雇用」と限定されていました。これは、「応募資格については全ての人に平等の条件で公開されなくてはならない」とする地公法に違反するずさんなものでした。
⑤ 調理業務の民間委託は子どもに対して自治体の責任放棄につながることになります。明石市では、退職者不補充で民間委託が進められて10年になり市内28校中13校が委託されました。本来なら「自治体当局は、子ども、父母に対し、安全な給食を提供する法律上の義務」を負っています。その調理業務を指揮命令出来ない民間営利企業に委託し続けています。その民間の業者は「契約相手の自治体に対して契約上の義務を負うだけで、直接、児童、父母に責任を負うことはない」となっています。「安全でおいしい給食・アレルギー対応食・食育へのかかわり」等、給食は教育の一環だからこそ直接責任が持てる直営式がまさるのです。
以上のことは、明石市だけでなく、今や多くの自治体で見られることだと想います。本来なら率先して法令を順守しなければならない自治体が、いかに違法でずさんな労務管理をしてきたかということです。
(2) 今後の明給労の課題
学校給食に民間委託が導入されたころから当局の交渉の中に「他の臨時職員とのバランス」との言葉が頻繁につかわれ、明給労の労働条件改善が思うようにいかなくなりました。今までの給食調理業務は正規職員と私たち明給労が一緒になって行っていましたが、欠員補充に明給労を採用せずに労働条件のより低い臨時調理補助員が多数配置されてしまい、配置構図が変わってしまいました。同じ臨時職員でも運動をして改善してきた既存単組の臨時職員との差が大きくなっていたのです。自分たちの労働条件を改善させるためには、一緒に働く臨時調理補助員の条件の底上げの必要性が身を持ってわかりました。
そんな時、市職労から明石市で働く「未組織の臨時職員の改善の取り組みをしよう」との声かけをしてもらい、調査をしてみると1,000人以上の臨時職員が低い労働条件で雇用期限を付けられて働いていることがわかりました。
そこで、既存の明石市非常勤給食調理員労働組合、明石市福祉施設調理員労働組合、明石市消費生活相談員労働組合の3単組が中心になって、市職労の応援を受けながら、明石市で働く臨時職員の労働条件の底上げのために、職種を超えて入れる「明石臨時・非常勤職員ユニオン」を2008年に立ち上げました。
加入の呼びかけをするとともに当局と交渉を行い、「①忌引き休暇の新設②夏季休暇の新設③産前産後休暇等の母性保護に関わる全ての休暇を全ての臨時職員に付与する」との確認をすることができました。又、組合員も小学校給食職場で働く臨時調理補助員と保育所で働く臨時調理員、臨時保育士が加入してきました。
その中でも、臨時調理補助員は同じ職場で働く仲間です。正規職員や明給労と同じ仕事をしながら、低い賃金で毎年毎年雇用の確認をしなければなりません。交渉相手は同じ教育委員会なので、明給労の交渉の中に入れて取り組んでいます。
私たちの労働条件改善の取り組みは、一緒に働く正規職員に一歩でも近づくことを基本に組織率100%の団結と同じ職場の正規職員、市職労の特別執行委員の支援・協力で取り組んで、ここまで改善してきました。今度は私たちが手を貸す番だと思います。気持ちのわかる私たちが自分のこととして「絶対に雇用止はさせない! 労働条件の底上げをしていく!」ことを目標に取り組みます。
自治体には、さまざまな雇用形態で働く職員が力を合わせながら住民サービスに努めています。そのサービスは受ける住民にとって差が有ってはいけません。同じようにサービスを提供するには職員の技量に差が有っては出来ません。そのために、臨時職員であっても業務に差が出ないように一生懸命努めています。しかし、その臨時職員の待遇が、「同一価値労働・同一賃金」「職務給の原則」とは程遠い低い賃金で、休暇制度も整備されていない。一番大切な雇用に関しては、雇用期限をつけられて雇用不安を抱きながらサービスを提供しています。
自治体に法令を順守させ、住民により良いサービスを提供するための雇用安定と労働条件改善は、早急に解決しなければならない喫緊の問題です。まだまだ明石市には未組織の多数の臨時職員が自分の声を上げる決心が出来ずにいます。市職労の応援を貰いながら、既存の臨職4単組が力を合わせて頑張って取り組んでいきたいと思います。 |