【自主レポート】

第34回兵庫自治研集会
第4分科会 自治体がリードする公正な雇用と労働

 企業誘致においては、いろいろな考えがありますが、本町は、高度経済成長に伴う都市部への人口流失を阻止するための雇用の場の確保と町の財源確保のため、多くの企業を誘致してきました。
 本レポートは、どのようにして企業の方々と接し、企業誘致を進めているのかを提言し、今後のまちづくりに生かせるならばと考えております。



企業誘致による雇用対策の課題


熊本県本部/大津町役場職員組合・経済部商業観光課 村山 龍一

1. 大津町の現状

(1) 大津町の概要とあゆみ
① 大津町の位置
  大津町は熊本市の東方(約19km)、阿蘇山との中間に位置しており、別府、阿蘇、雲仙などの国際観光ルートの路線上にあります。
② 大津町の人口
  大津町は1956年(昭和31年)の合併により23,000人を超える人口となりましたが、高度成長期の人口流出で1975年(昭和50年)には人口18,000人までに減少しました。
  しかし、本田技研工業(株)の誘致成功が大きなターニングポイントとなり、「農工商併進の活力あるまちづくり」を町政の基本とし、交通アクセスに恵まれた地理的好条件を背景に企業誘致が進みました。その結果、「人口と世帯の推移」の表とグラフで分かるように、現在では人口も32,000人を超える県内有数の工業都市となりました。


人 口

人口と世帯の推移

③ これまでの企業誘致の経緯
  大津町は戦前、大津町周辺地域で生産されていた甘藷の生産拡大振興のため、全国で5箇所の国営アルコール工場の誘致に成功しました。高度経済成長期に急激な労働力流出がありましたが、戦前の企業誘致の成功体験を生かした、本田技研工業(株)の誘致成功が大きなターニングポイントとなり、「農工商併進の活力あるまちづくり」を町政の基本とし、1970年(昭和45年)から積極的に企業誘致を実施しました。
  本田技研工業(株)の誘致の際には、職員が一丸となって168haの用地交渉を行いました。1976年(昭和51年)に同社が操業を開始すると工業出荷額は急増し、人口も増加に転じました。(事業所数・従業員数・製造品出荷額の推移・主要産業ベスト3)
  その後も、新たに造成した熊本中核工業団地を完売するなど企業誘致による産業振興を積み重ねてきました。
  その結果、大津町は元気な町として数多くの企業が立地し、2011(平成23)年度まで、製造品出荷額が県下で第一位という工業都市となり、2005~2010(平成17~平成22)年度にかけては、県下で唯一の普通交付税不交付団体となりました。
  しかし、リーマンショック以降は、企業の増設や新設が激減し、雇用関係では期間従業員の雇い止めや、町においては法人税の落ち込み等により厳しい財政運営を強いられています。


工 業
事業所数・従業者数・製造品出荷額(4人以上の事業所)の推移・主要産業ベスト3

  ところで、大津町は、熊本市の周辺地域でありますが、企業誘致が進んだことにより、常住(夜間)人口よりも昼間人口が多い地域です。その数も年々増加しております。また、産業別15歳以上の従業者数においても第1次産業の従事者は減少していますが、第2次産業と第3次産業の従業員は増加しています。


常住地・従業地による就業者数(15歳以上)

産業別15歳以上従業者数

2. 大津町の特徴的な施策や取り組み現状

(1) 企業誘致を町政の柱に
① まちづくりの基本目標
  大津町では、まちづくりの基本目標の一つに「『人と企業 共に元気の出るまち』企業と地域社会との連携による工業振興」を掲げています。大津町がかつての過疎から脱却し、今日まで、企業の新設・増設等による企業立地の重要性を全職員が認識している点が挙げられます。
② 企業誘致のポイント
  大津町の企業誘致のポイントは以下の3点に集約されています。
  「豊かな自然、恵まれた交通環境」
  大津町は面積の2/3が山林という豊かな自然に囲まれ、豊富な地下水に恵まれており、災害についても発生の確率が低い地域です。交通環境にも恵まれ、JR豊肥線があり、九州縦貫自動車道熊本インターも近く、国道57号と国道325号がとおり、熊本空港まで車で10分のところで、自然と交通環境に恵まれております。
  「企業の集積地」
  大津町には本田技研工業(株)熊本製作所をはじめ、室工業団地、熊本中核工業団地、大津南部工業団地があり多くの企業が立地している企業の集積地です。
  「優秀な人材確保」
  大津町内には、県立の高校が2校あり大津町周辺地域には熊本大学をはじめ大学が6校、短期大学が3校、高専が1校あり優秀な人材が確保できます。
③ 無料職業紹介所
  大津町にお住まいの方や居住を希望する求人者と町内にある企業における企業・事業所との雇用関係成立のあっせんを行うために2009年(平成21年)7月に無料職業紹介所を開設し無料で職業紹介を行っています。そして、雇用相談が年間811件(2011(平成23)年度)となり、多くの方の就職相談に対応をしています。


(2) 雇用対策の現状
① 雇用を確保するため、ふるさと雇用や緊急雇用を2008(平成20)年度から2011(平成23)年度にかけて行い200人程度の雇用を確保しました。そのうち、直接雇用として、臨時職員として、140人の雇用を確保しました。
  有効求人倍率は、2009(平成21)年度がもっとも低く、熊本労働局では、0.38、ハローワーク菊池では、0.33となっており、直近の2012年(平成24年)6月においては、本労働局では、0.67、ハローワーク菊池では、0.66と徐々に回復の兆しを見せています。有効求職者は、事務的職業が一番多く、次に生産工程の職業ですが、有効求人については、サービスと専門的・技術的職業が多く、求職と求人の職種の違いが出ている。管内の年齢別求人・求職状況は、25~34歳では、619人の求人に対して、1,398人の求職で、55歳以上では、757人の求人に対して、1,440人の求職となっており、いずれも2倍程度の求職者となっている状況です。

3. 大津町の今後の課題や抱負

(1) これからの大津町
 大津町は、元気な町として数多くの企業が立地し、なお成長を続けています。人口も年間650人以上増加しており、2013年(平成25年)4月には美咲野小学校が開校し、今後も人口の増加が見込まれています。しかし、大津町においては、企業の城下町の形成とはならず、道路事情の改善もあり、広域的な通勤形態による密度の低い、自然調和型のエリアが形成されています。雇用の面では、近年、製造業を中心に安い賃金を求め、海外へ工場流出が進んでおり、今後とも厳しい状況が続くと思われますが、引き続き、企業誘致を推進し、企業とまちづくりをどのように実施していくかが課題です。